改定農薬取締法関係にもどる
t13904#農薬使用基準省令に関するパブリックコメントから#03-04
【参考】農水省、環境省によるパブコメ意見のまとめ
改正農薬取締法第12条関連の「農薬使用基準」省令についてのパブコメは募集期間の2週間後、2月25日に締め切られましたが、その結果が3月18日に農水省のHPで公表されました。提出された意見を内容別に分類し、それぞれについて、農水・環境省が考え方を述べています。
省令そのものは原案通り施行され、多くの批判的意見は受け入れられませんでしたが、両省の見解を知るにはよい資料となります。ここでは、そのいくつかを紹介したいと思います(本文中、『』で囲んだ個所は、農水・環境省記述の引用部分です)。わかりやすくするため、住宅地での農薬散布はひとつにまとめました。
★パブコメ意見総数211件の内容別内訳
HPで挙げられたパブコメまとめでは、211件の意見について、考え方が示されています。その内容別内訳は以下の通りでした。
・経過措置、適用拡大:43件 ・有効期限切れ農薬、回収:6件
・使用方法等:22件 ・ラベル表示:5件
・農薬使用者への指導、啓発:17件 ・記帳:4件
・住宅地等での農薬散布規制:14件 ・農薬の必要性、安全性:4
・防除業者:11件 ・健康被害に対する罰則:3件
・農薬情報、告知:11件 ・希釈液での販売:2件
・遵守の努力要請基準:10件 ・誤使用:2件
・航空機を利用した農薬使用:9件 ・その他:34件
・有機農業への配慮:8件
・食用農作物及び飼料作物以外の
作物の遵守義務:6件
★非食用作物に適用遵守義務を課せなかった理由は
私たちは、食用作物だけでなく、樹木や芝などの非食用農作物についても適用遵守
を義務づけるよう求めてきました。しかし、農水・環境省は、ラベル表示の使用方法を
守るよう指導を徹底するから、適用遵守義務の必要はないとしました。
『今般の使用基準の義務化では、今回の法改正の契機が、無登録農薬の販売、使用等
により国民の「食」に対する信頼を大きく損ねたことであることから、残留農薬によ
る人畜被害防止のため、食用作物及び飼料作物について、登録時に定められた適用作
物、使用時期、総使用回数等の遵守義務違反に罰則を適用することとしたものです。』
と、食用作物に限ったことの言い訳をしています。
松枯れ対策や街路樹・公園・団地、学校、一般家庭などで散布される農薬の生活環境汚染については、農水・環境省は、問題がないとでもいうのでしょうか。とんでもないことです。
★遵守の努力要請基準で十分だと−省略−
★有機圃場への飛散防止は「指導」−省略−
★住宅地等での農薬散布は「適切にするよう指導する」−省略−
★一般家庭での農薬使用まで、告知義務を負わせられない−省略−
★健康被害に対する罰則
農薬被害の加害者への罰則については、『農薬使用者の故意又は過失により、農薬の散布が原因となって人の身体を傷害したことが明らかであれば、傷害罪になると考えられるので、改めて農薬取締法に罰則を規定する必要はないと考えます。』
化学物質過敏症対策については、『因果関係を明確にすることは困難な状況にあり知見の集積に努める必要がありますが、農薬使用者と住民の間で農薬使用に関する話し合いが必要な場合も考えられ、農薬危害防止運動等啓発活動を通じて農薬使用者に働きかけていきたいと考えております。』
私たちが、「化学物質過敏症患者がいるのを知り、やめてくれと頼んでいるのに農薬散布をするのは傷害罪だ」と言ってきたのをうまく利用していますが、農水・環境省がこのようにはっきり「傷害罪だ」と言ったのは初めてです。農水・環境省は自己の責任を放棄し、散布者を傷害罪で訴えてほしいのでしょうか。それに、裁判になって、被害者自らが、苦しい体に鞭打って、証拠集めをし、因果関係を立証せねばならいない現状を農水・環境省はどう考えているのでしょう。
★経過措置・適用拡大の意見は43件−省略−
★ラベル記載の使用方法遵守を指導する−省略−
★有効期限切れ農薬・回収は所有者の責任で−省略−
★農薬使用履歴の記帳は義務化しない
記帳を義務化すべきとの意見に対しては『ご指摘のとおり農薬が適正に使用されているか確認する上で記帳の記載は有効な手段であると考えており、的確に帳簿記載がなされるよう推進していきたいと考えております。農薬使用者が大規模農家から家庭菜園まで、多岐にわたっていることから、直ちに帳簿への記載義務付けを導入することは困難と考えます。』との答えです。農水省との交渉では、農家の高齢化がすすんでいるので、(とても出来ない)といていましたが。家庭菜園についての見解も前述の通りです。記帳はきちんとやる気さえあれば出来ると思うのですが。
農薬使用者の免許制度について、『農薬使用者について、その規模や目的が様々であり、一律に免許制度を課すのは適切ではないと考えています。今回の法改正で、農薬使用基準が規定され、農薬の適正使用がこれまで以上に重要となりますので、農薬の使用者に対して農薬に関する様々なアドバイスをする指導者として、農協の営農指導員などを「農薬適正使用アドバイザー」として育成し、農薬使用者への指導を徹底してまいります。』ということでは、いままでの営農指導となんらかわりありません。私たちは使用者一律の免許制度などといっていません。自動車免許のように普通とか大型とかいくつかの段階にわけ、免許をとる過程で、使用者はきちんとした研修・教育をすることを望んでいるのです。
★現場での農薬混合禁止について
農薬の自家混合使用の禁止を求める意見に対しては『農薬を混合した場合の効果・薬害・作業者の安全性が把握されていないことから、製剤となっている混合剤を使用するよう指導してまいります。』としています。農水・環境省が農薬使用者の安全性に触れたのは、無登録農薬事件が発覚してから、この文書がはじめてではないでしょうか。
この見解をふまえ、私たちは「農薬混用適否表」を独自に作成・配布しているJA全農に、同表を撤回・回収し、農家に対して混用を止めるよう指導の強化を求める要望書を送りました。
★防除業者規制は都道府県に丸投げ
改正農薬取締法で、防除業者の届出制度を廃止したことに対して、批判的な意見がいくつもありましたが、印を押したように『すべての農薬使用者に農薬使用基準の遵守が課せられ規制が強化された』としています。農水省が3月13日に出した施行通知で『新法において業概念が廃止されたことに伴い、防除業者の届出義務の規定を廃止したところである。なお、立入検査や指導等を効率的に行う観点から、都道府県の条例等により、防除業を営む者に氏名、住所等の届出を求めることを妨げるものではない。』として、自らの責任を放棄し、地方自治体に丸投げしているのにも驚きです。
防除業者の対応窓口については、『防除業者の届出が廃止されても防除業者は農薬使用者として規制されるので、都道府県での防除業者の対応窓口は農薬取締法担当部局になりますまた街路樹、学校、公園などの公共的な場で農薬散布する防除業者に業務を委託する行政機関、教育機関を通じて指導を徹底してまいります。』と答えていますが、縦割り行政ゆえに、担当部局はさまざまで、農水・環境省がここに示しいるような考え方は、周知されるのしょうか。
防除業者を免許許可制度にすべきとの意見に対しては『改正農薬取締法では「使用」、「製造」、「販売」のすべてについて個人単位の行為も規制の対象に取り込み「業」の概念を廃止したことから、防除業者の届出制度を廃止したところです。しかし、防除業者も他の農薬使用者と同様に無登録農薬の使用禁止、農薬使用基準の遵守義務が課せられ、従来以上に規制が強化されています。なお農薬使用者への研修や情報提供を行ってまいります。また、農薬の成分には、毒物、劇物に相当する成分が入っているため、毒物劇物取扱者の資格を取得することは望ましいと考えます。』と答えているだけです。せめて、最後の項は取得することを指導するとでもいってもらいたいと思います。
★農薬空散は努力規定で十分か
農薬の空中散布についての飛散防止措置や周辺住民への告知の義務付けの求めに対しては、『農林水産省事務次官依命通知(「農林水産航空事業の実施について」)及び農林水産省生産局長通知(「農林水産航空事業実施ガイドライン」)により指導してきたところであり、飛散防止に向けて引き続き適切な指導に努めて参ります。』とし、
ラジコンヘリによる散布については、『無人ヘリは航空機に該当しないことから、航空機を利用して農薬を使用する者にかかる義務規定の対象に含まれておりません。また、無人ヘリは飛行高度が低く、飛散が小さいといった点で有人ヘリとは異なります。なお、無人ヘリについても、農林水産省生産局長通知(「無人ヘリコプター利用技術指導指針」)により指導を行ってきたところであり、引き続き適切な指導に努めてまいります。』とし、
有機圃場への配慮については『有機ほ場との間には適切な間隔をとる等必要な措置を講じるよう指導してきたところであり、飛散防止に向けて引き続き適切な指導に努めてまいります。』とする等いずれも、遵守義務化を否定する通り一編の答えです。
空中散布を委託した実施団体については『実際に農薬を使用する者を規制の対象としていることから防除を委託した者の規制については明記されておりません。しかし、防除を受委託する際の契約書等に各々の役割を明記されることから責任を共有するとともに分担を明確化できるものと考えております。』と述べていますが、遵守義務は使用者を対象にしており、散布委託者や実施団体は違反があった場合の処罰対象にならないのは問題です。
★農薬被曝、農薬の自然・生活環境汚染防止に新たな規制強化を求めよう
農水・環境省は、パブコメに対する考え方の中で、今回の法改正の目的が農作物への残留農薬による人畜被害防止であったことを挙げています。農薬使用者の被曝や農薬の自然・生活環境汚染防止は、改正目的には入っていなかったというわけです。
改正法案提出の理由の説明に『農薬の品質の適正化とその安全かつ適正な使用を図るため』とあったこと、さらには改正法の農薬使用等について、農水省と環境省による共省令の立案が条文化されていたことから、てっきり、農薬被曝や自然・生活環境汚染についても農薬規制が強化されると思った私たちの誤解だったのでしょうか。
施行された改正法及び省令をみると、無登録農薬販売・使用と食用作物への適用外使用の罰則強化と引き替えに、農作物のグループ化や違反使用を公認する経過措置により、残留農薬についてもいままでの基準が守られない恐れがでてくるだけでなく、農薬使用量が増え、非食用作物に関する遵守義務もなく、一般防除業者のへの監督が緩くなり、特に、農薬環境汚染防止については、後退したとの感が否めません。
そう言えば、環境省との交渉の際に、私たちは、同省が農薬取締法を管轄すべきであり、また、環境保全型農業の促進も環境省の立場で推進するよう求めもしました。担当官は、空中散布やゴルフ場農薬、住宅地周辺汚染問題などについては努力規程を含め省令におりこませたことを評価してほしいといっていました。それでも農水省の抵抗が強く大変だったことを言外に匂わせていましたね。
私たちは、いままでの反農薬運動で力点をおいてきたのは、どちらかと言えば、農作物への残留農薬問題よりも、農薬及びその関連物質の環境汚染と人体被害についてでした。
この視点からみると、本誌で何度も批判してきたように、今回の法改定は、「改悪」にほかなりません。
農水省や環境省は、「農薬使用基準」省令にはいままで明文化していなかったことも折り込まれているから、きちんと指導できるし、問題があったら、さらに省令を強化するみたいなことをいっていますが、とても、信じられません。
今後、改めて、農薬被曝、農薬の自然及び生活環境汚染防止の強化を目的とした農薬取締法及びその省令の改正をめざす運動を強化する必要があります。その第一段として、要望書を出し、行政交渉を行ないましたので、巻頭記事を参照ください。
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作成:2003-09-26