室内汚染・シロアリ防除剤にもどる
t14006#有機リン剤等による室内空気汚染 @殺虫剤:汚染率NO1はDDVP#03-05
東京都衛生研究所(本年4月から東京都健康安全研究センターと改称)の斎藤さんらのグループは、室内空気中の化学物質汚染状況を調べていますが、このほど2000年度に実施したフタル酸エステル12種と有機リン系難燃剤11種及び有機リン系殺虫剤9種とピレスロイド系殺虫剤ペルメトリンの室内空気汚染濃度の測定結果を報告しました(都衛研研究年報53号p-191〜198、2002年)。
本号で、まず、殺虫剤の、次号で、難燃剤の調査結果を紹介します。
【参考】東京都衛生研究所研究年報53号
★調査方法
2000年7月〜9月(夏期)と同年12月から翌年3月(冬期)の2回にわけ、東京都内の住宅とオフィスビルを対象に空気採取が行なわれました。
住宅は、木造戸建28軒と鉄骨戸建3軒、鉄筋コンクリート集合12軒の合計43軒。オフィスビルは、延べ面積3000m2以上の特定建築物23軒と老人保健施設4軒の合計27軒。建築物の築年数は住宅0.1〜30年、オフィスビルで0.2〜39年でした。
空気の採取は、石英フィルター等を用い、流速10L/分で、24時間ポンピングすることにより実施されました。採取個所は、住宅では居間及び寝室の2個所、オフィスビルでは事務室と会議室の2個所を中心とし、対照としての室外空気採取は、採取対象となった建物周辺で行なわれ、住宅ではベランダ又は軒下等、オフィスビルでは屋上又は非常階段で実施されました。
表−省略−に殺虫剤の調査結果を示しました。表中の*印をつけた、検体数、検出数、検出率は、住宅とオフィスビルについては、1軒あたりそれぞれ、2検体の空気を採取していますので、分析軒数、検出軒数、検出軒率と置き換えてください(検出率が100%でも、最小値がNDとなっているのはこのためです)。室外空気はは建築物毎に1検体の採取ですので、そのままの意味です。検出濃度については、検体すべての最小値と最大値と中央値をng/m3単位で示しており、ND(検出限界)値は最右欄に示しました。
★DDVPの検出率が高い
9種の分析対象となった有機リン剤のうち、ジクロフェンチオン、クロルピリホスメチル、メチルパラチオン、マラチオン、ピリダフェンチオンはいずれの検体からも検出されず、表に示す4種とペルメトリンが検出されました。
【DDVP】
住宅、オフィスビルともに、もっとも検出率が高いのはDDVPで、住宅の冬が28.6%であったほかは、すべて100%でした。検出濃度の最大値は、冬期のオフィスビルで130ng/m3でした。研究者は、オフィスビルで高かったのは、12月の大掃除の時に使用されたせいではないかと考察しています。いずれにせよ、家庭やビル内で、殺虫剤としてDDVPの使用頻度が高いのは確実ですが、住宅で、DDVPの使用時期でもない冬期に検出されるのは、家具や畳などに付着残存していて、室内暖房により、気化しているのではないでしょうか。また、オフィスビルの食堂などでは、てんとう虫情報129で紹介したような、ゴキブリ対策用のDDVP殺虫ロボットが年中稼動しているせいかもしれません。
室外空気では、DDVPの検出率は夏100%、冬82.4%と高く、夏の検出中央値が6.3ng/m3とすべての検体の中で最高値を示しいます。室内使用のもののほか、街路樹などに散布されたDEP(分解するとDDVPになる)に由来するものがあるとも考えられます。
【MEPほか】
MEP(フェニトロチオン、商品名スミチオン)は、住宅の冬の検出率が19.0%であったほかは、すべて、50%台で、検出濃度で高いのは、オフィスビルの冬で1480ng/m3、同夏で99.7ng/m3でした。この薬剤が、殺虫剤として使用されなくとも、畳の防虫処理剤として目に見えないところに存在し、冬の住宅汚染の原因となっているのかも知れません。
ダイアジノンは、オフィスビルの夏が最高で検出率15.4%、濃度52.3ng/m3でした。
クロルピリホスは、住宅でしか検出されず、恐らく、シロアリ防除剤として使用されているためでしょう。
ペルメトリンは、オフィスビルの冬が最高で検出率28.6%、濃度37.9ng/m3でした。
DDVPを含めダイアジノン、MEP、ペルメトリンが住宅にくらべ、オフィスビルの方が高い濃度で検出される例が多いのは、ビル管理法による殺虫剤散布が、密閉度の高い室内で行なわれているためでしょうか。個々の採取地点における検体の複合汚染の程度や、地点別の室内−室外濃度の関係が示されておれば、殺虫剤汚染の実体をもう少し明かになった思いますが、残念ながら、論文データからは、考察できませんでした。
表 殺虫剤の空気汚染調査結果−略−
★有機リン剤の日常的被曝による人体汚染
都衛生研究所の研究は、都会地区での調査ですが、農村地区の有機リン剤汚染の実態を、富山県衛生研究所の中崎さんらのグループが調査しています。「非散布作業者における有機リン系農薬の尿中代謝物追跡調査」という論文(日本農村医学誌49巻p-142〜145 2000年、富山県衛生研究所参照)では、農村地帯とその近郊に居住する女性4人(農薬散布に携わらない)の尿検査を5から7日毎の頻度で8ヶ月以上実施、有機リン系農薬に共通の代謝物ジメチルリン酸(DMP)とジメチルチオリン酸(DMTP)が分析されました。
いずれの人からも年間を通じて、尿中に両代謝物が検出され、特に、農薬散布時期の夏期に高い濃度が見出だされました。その例を図−省略−に示します。
自宅の周囲の水田では、農薬を使用しないが、周辺では散布されているという状況にある有機農家の主婦の場合(図(a))、8月中旬に、水田病害虫防除のため、地域ぐるみで一斉散布が実施されたということで、この時期に尿中のDMPがピークとなっていました。
また、非農家の女性の場合(図(b))、農村近郊で自宅の近くに水田がり、自動車で通勤する途中に、車に粉剤や液剤の飛沫が付着することもあったそうですが、9月中旬にピークがみられ、その後は、大きな変動はなく、低値のまま、翌年7月まで推移していました。
直接、有機リン剤を体に被曝したというよりも、居住地周辺や通勤途上で、有機リン系殺虫剤で汚染された空気を吸うことが、取り込みの主因と考えられます。
検出された数値は、農薬散布作業者に比べ、最も高い値でも、その約1/3のレベルであったということです。研究者は「農村地域では直接農薬散布に携わらなくても周辺の農作業による影響として農薬暴露を受けると考えられた。また、農作業に関わりなく日常生活の中でも有機リン化合物に接する機会があるものと思われ、それらが長期間体内にとどまっている可能性も考えられた。」と考察しています。
★有機リン系殺虫剤の追放に向けて
私たちの生活する、いたるところに有機リン剤が使用され、食品からだけでなく、室内外の空気汚染を通じて、これらを取り込んでいる現況が、二つの研究からあきらかになりましたが、欧米では、これら有機リン剤の追放の動きが活発です。アメリカでは、クロルピリホス、ダイアジノン、アセフェート、PMP(ホスメット)などが、使用規制されていますし、イギリスでは、昨年4月、DDVPに販売・使用停止命令が出されています記事t12910参照)。
尿中に検出されたDMPやDMTPは、ジメトキシ系有機リン剤(BRP/CVMP/CYAP/DMTP/DDVP/DEP/ESP/MEP/MPP/PAP/PMP/アセフェート/クロルピホスメチル/ジメチルビンホス/ジメトエート/チオメトン/バミドチオン/ピリミホスメチル/ホルモチオン/マラソン/メスルフェンホス/モノクロトホスなど)に由来する代謝物です。
有機リン剤の毒性の中で、特に神経毒性が、子ども達への影響を与えるのではないかと懸念されていますし、その被曝が化学物質過敏症の発症の契機になる場合もあるといわれてもいます。
日本では、しろあり防除剤としてのクロルピリホスは使用規制されましたが、DDVPやMEPをはじめとする有機リン系殺虫剤は、身の回りでまだまだ使用されています。これらをターゲットに、追放運動の強化が望まれます。
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作成:2003-10-28