室内汚染・シロアリ防除剤にもどる
t14104#有機リン剤等による室内空気汚染 A難燃剤〜壁紙、テレビは要注意#03-06
 前号では、有機リン系殺虫剤を中心に東京都健康安全研究センターの室内空気汚染調査結果を紹介しました。その中で、特に汚染程度の高かったDDVP(ジクロルボス)について、早速、厚生労働省と東京都に対してアクションをとるとともに、化学物質過敏症関連の運動体・個人と共同で、DDVP剤の使用状況に関するアンケート調査をはじめています。
 ところで、健康安全研究センターは有機リン系難燃剤について、そのホームページで、下のように述べています。
『難燃剤はプラスチックや合成ゴム、繊維、紙などの素材を燃えにくくするための添加剤です。難燃剤を化学物質の組成により分類すると、臭素系、リン系、塩素系、無機系に分かれます。このうち、最も需要が多いのは無機系(約7万t)、次いで臭素系(約6万t)、リン系(約3万t)の順です。リン系の難燃剤については、化学物質過敏症との関連が疑われており、TPHP:リン酸トリフェニルのように接触性アレルギーの原因となる物質や、TCEP:リン酸トリス(2-クロロエチル)のように発ガン性を有するものも含まれています。そこで、健康安全研究センターでは、2000年7月〜2001年3月に、東京都内の住宅(44軒、88室)、オフィスビル(22棟、44室)および外気(34ヵ所)で、空気中のリン系難燃剤濃度を調査しました。』
 調査結果をみて行きましょう。

★10種の有機リン系難燃剤が室内空気を汚染
 分析対象となった11種類の有機リン系難燃剤のうち、表に示すように、室内空気中からは10種類、外気からは7種類の物質が検出されました。
 夏・冬、住宅・オフィスビルを問わず室内の検出率が高いのは、TEP:リン酸トリエチル、TBP:リン酸トリブチル、TCIPP:リン酸トリス(2-クロロイソプロピル)、TCEPでした。空気濃度が高いのは、住宅ではTBPが中央値12.0ng/m3、TCIPPが最高値14200ng/m3、オフィスビルではTCIPPが中央値19.3ng/m3、TCEPが最高値553ng/m3でした。調査結果は以下のようです。
 @室内濃度と外気濃度とを比較すると、夏・冬とも住宅、オフィスビル室内が室外
  より高濃度(中央値で2.1〜32.8倍)である。
 A住宅とオフィスビルの室内濃度を比較すると、住宅よりもオフィスビルの方が濃
  度が高い傾向にある。特に、冬は、TBP、TCIPP、TCEPでオフィスビ
  ルが住宅より高濃度(中央値で1.6〜5.7倍)である。
 B室内濃度は室温と相関があり、室温が高くなるに従って、濃度も高くなる傾向が
  みられる。 
 C夏と冬を比較すると、夏期の方が、冬期よりも高濃度のものがおおい。
 D建築年数との関連については、TEPとTBEPについて有意に負の相関あり。
表 有機リン系難燃剤の空気汚染調査結果−省略−

★汚染源をなくすことが重要
 このような有機リン剤の空気汚染の発生源はどこにあるのでしょう。私たちの身近にある壁紙、カーペット・カーテンなどインテリア類やパソコン・テレビなどの家電製品には、様々な難燃剤が添加されています。当グループが、保谷市の公民館の空気を植村さんに分析してもらい、塩ビ壁紙に添加されたTCEPの室内空気汚染を明かにしたのは、1993年のことでした(記事t02703)。この時の最高検出値は2054ng/m3で、その後、TCEPの使用は減少したと聞いていましたが、今回の調査で、住宅で夏100%、冬81.7%。オフィスビルで夏・冬100%の検出率で見出だされ、検出値も最高553ng/m3であったことで、いまだ発生源が断たれていないことを改めて思い知らされました。
 14μg/m3と最高の検出値を示したTCIPPは、築後4年の木造戸建住宅内で、発生源は天井・壁のビニルクロスと考えられていますが、新築直後の濃度はいかほどであったかと空恐ろしくなります。日常生活をしながらのリフォームに際しては、壁紙などの難燃剤には一層注意を払う必要があるでしょう。また、パソコンやテレビのディスプレーなどでも、購入直後の場合、使用時の発熱による難燃剤の蒸散量は多いと考えられますから、要注意です。特に学校などの情報室で、一度に複数台数のパソコンを導入する場合は、換気を十分行なう必要があります。
 都衛生研究所の論文には、有機リン剤とともに、本稿では取り上げませんでしたが、フタル酸エステル系の可塑剤の室内空気汚染のデータもでています。ホルムアルデヒドやトルエンなどのVOC類の空気汚染の削減策は実行に移されはじめましたが、環境ホルモン作用や発癌性の疑いのある物質や神経毒性があり、化学物質過敏症との関連が疑われる物質が、殺虫剤、可塑剤、難燃剤として、身の回りで使用し続けられていることに対する歯止めは、まだ、端緒についたばかりです。私たちは、換気という対症療法だけでなく、汚染源をなくす運動を広めていく必要があります。

 【参考】東京都衛生研究所研究年報53号


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作成:2003-11-25