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t14301#千葉県夷隅町での空散事故−小中学生20人が農薬を浴びせられた#03-08
7月16日、千葉県夷隅町で、水田へ空中散布していたヘリコプターの農薬が登校中の小中学生にかかるという事故がありました。被害にあった児童が通っている小学校によると、自転車通学の児童のうち10名が農薬をかけられ、そのうち9人が目・喉の痛み、気持ちが悪い、腕の痒みを訴えたため、病院に送り、手当を受けさせたとのことです。また、小学生の他に8人の中学生も農薬を浴び、病院へ行ったと報告されています。
全国的に農薬空中散布が減少している中で、千葉県は今年も40市町村で計画され、千葉県農薬空中散布反対ネットワークや、有機ネットちばは何度も県と交渉を続け空散中止を求めてきました。そうした中で、夷隅町での事故が起こったわけです。
夷隅町の空散計画は、以下のようになっていました。
実施主体 夷隅町農薬空中散布事業協議会(会長夷隅町長)
作物名 水稲
対象病害虫 いもち病、カメムシ類
実施予定日 7月16〜18
実施日数 1
実施面積 520ヘクタール
散布資材名 アミスターエイト、MRジョーカーDF
散布形態 液剤
ha当たり散布量 30L
事業に必要な機体数 3
★事故の状況
事故の状況について、国土交通省東京航空局は以下のような報告をしています。空散は朝4時56分から8時35分の間、アカギヘリコプター所属の3機で夷隅町内の3ヶ所の区域で実施。事故のあった萩原地区では1機が5時4分から8時35分の間計20回実施された。19回目の飛行時、機長が区域内の別の散布場所へ向けて飛行中、学童5〜6名を発見したので、散布装置のスイッチをオフにしていること、薬剤が吐出していないことを確認し学童を回避しながら飛行したとのことです。
一方、町の報告書によると、8時25分に第一回補正散布開始。その時、萩原の児童宅に4名の児童が集合していました。この児童たちと手前まで自転車で来ていた児童6名に農薬がかかったと思われるとしています。散布はそのまま続けられ、8時35分に全てが終了したとのことです。9時30分頃、夷隅町役場に病院から児童何名かが農薬を浴びたので受け入れたとの連絡が入ったとのことです。ここで初めて町は事故が起こったことを知ったわけです。
児童たちが通っている小学校では、9時に児童が保健室にきて「腕に農薬の散布した霧を浴びた」と報告したため、養護の教員がとりあえず、石けんや水で顔や目、喉を洗うよう指示しました。他にも農薬を浴びた子がいるとの訴えで校内放送を流し調査したところ、10名の該当児童がいたことを把握しました。そのうち9名の児童が目や喉の痛みを訴えたため、校医の指示で病院に送りました。9時40分頃、校医は役場に連絡し、農薬の確認、資料の請求をしたとのことです。幸い、児童の症状は軽く、入院した者はいませんでした。
町の報告書には書かれていませんが、県の文書によると、この時、中学生も周辺にいたとの情報で、中学が調査したところ、8名の生徒が農薬を浴びたと名乗り出たとのことです。県、町、小学校の報告がまちまちで被害を受けた生徒の数がはっきりしません。県は小学生11名が病院で受診し、そのうち、9名の児童が症状を訴えたとあります
。
★民家に集まっていて被害
県は事故の原因として、(1)監視員は家屋や丘があり児童が集合している模様が目視できなかった。(2)危害防止広報係と交通整備係は基地に集合しており、児童に気がつかなかった。(3)児童は散布終了後の広報無線放送後に通学することとなっていたが、終了したものと勘違いして通学路に出たものと思われる、の3点を上げています。
監視員や危害防止係などいくらいても、役に立たなかったわけです。児童が勘違いして通学路に出たというのも、20人もの児童となると信憑性が疑われます。しかも、子ども達は田んぼの真ん中で被害にあったのではなく、同級生の家に集まっているところで農薬を浴びたわけですから、その家も散布区域になっていたのでしょうか。また、小学校は登校時間を遅らせたとの情報もありますが、それが事実だとしても、現実に子ども達が通学を始めたわけですから、周知されていなかったと言えます。
いずれにしても、農薬の危険性に対する認識が甘かったのが一番の原因だと思われます。
★頑なな千葉県農林部
千葉県農薬空中散布反対ネットワーク、有機ネットちば、反農薬東京グループなどは夷隅町空散事故に関して、7月24日に千葉県農林部と交渉しました。
農林部長は事故の経過について説明しましたが、農薬を浴びせられた子ども達(「農薬が飛散した」と表現)の数を小学生9人として被害を少なく見せようとしていました。事故の原因は上述した3点で、子ども達が勘違いして通学路に出たことを強調し、批判を浴びました。
また、千葉県での空散の中止要望に関しては、「県がやめろとは言えない。あくまでも実施主体の問題だ」と主張して譲りませんでした。埼玉県が県の主導で来年から有人ヘリコプターによる空散をやめるという情報(参照:県内における航空防除の他の防除方法への全面的な切替えについて)については知らないという回答でした。空散は重要な技術だといいながら、その効果に関する調査はないと認め、それでも、必要だと強弁し続けました。
しかし、今回の事故に関しては農林部長名で通知を出し、各実施団体に(1)航空防除実施区域周辺の住民、学校、病院等への広報の徹底、(2)通学路周辺の散布除外、(3)全体終了時までの監視員の配置と実施区域内への立入禁止の徹底を指導し、17日正午までに報告するよう求めたとのことです。通知には「安全対策が徹底できない場合は、農林水産航空事業を中止していただくようお願い致します。」と従来より踏み込んだ内容になっています。通学路での空散の除外に関しては、厳密に適用すればずいぶんと空散は減少するでしょう。
★現場混合禁止は知らなかったと
空散農薬ですが、上述したように夷隅町ではアミスターエイト(アゾキシストロピン8%=劇物(80%以下指定なし。魚毒性:B類)とMRジョーカー(シラフルオフェン20%=劇毒指定なし。魚毒性:A類)を混合して散布しました。アミスターエイトは目に影響が出ると使用上の注意にあり、農薬をかけられた子ども達が目が痛いと訴えたのも頷けます。このような農薬を空散農薬として登録すること自体に問題があります。しかも、現場混合です。
農水省は農薬取締法改訂時のパブリックコメントで『農薬を混合した場合の効果・薬害・作業者の安全性が把握されていないことから、製剤となっている混合剤を使用するよう指導してまいります。』としています。
反農薬東京グループが農薬対策室に確認したところ、空散であっても現場混合はやめてもらいたいとのことでした。しかし、千葉県ではほとんどが現場混合であり、安全性が確認されてない農薬で散布を行っていることになります。
この点について質問すると、県は「知らなかった。確認する」とのんきなことを言っていましたが、農薬の安全使用について指導する立場にある県としては怠慢と言わざるを得ません。さらに、農水省農薬対策室、空散担当の植物防疫課も十分に情報を周知しなかったという点で同罪です。
★過去の経験が生かされていない
千葉県では1977年5月29日、夷隅町の隣りの大多喜町三又地区で空中散布死亡事故が起こっています。散布直後、水田の見まわりに出た農民が、急性有機リン中毒で当日死亡しました。散布された農薬はスミバッサ乳剤75(MEP45%、BPMC-43%)の8倍水溶液で、空中散布の適用がありませんでした。この死亡事件を契機に、それまで必要なかった、混合剤の急性毒性試験の実施が義務づけらることになりました。
しかし、隣町でのこの事件も何のその、混合剤を使用しないで現場混合していたわけですから、やはり安全性無視の散布といえるでしょう。
これ以外の千葉県での主な農薬空中散布に関する事故等は
*1986/08/01 茂原市 ヘリ墜落 パイロット死亡
*1991/07/09 市原市 ヘリ墜落 パイロット死亡
*1993/01/28 印旛村 農薬散布ヘリ訓練中に横転事故
*1993/08/01 松尾町 ヘリ墜落 パイロット負傷
*1993/08/01 三芳村 ヘリ墜落 パイロット負傷
*1999/07/05 市原市 ヘリ墜落 パイロット負傷
があります。
今後、千葉県の空散反対派は、知事との交渉などを通じて県内の空散中止に努力し続けることになりました。
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作成:2003-08-26