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t14304#国土交通省が国の工事でクレオソート油の使用中止、厚生労働省は家庭用品規制法で対応#03-08
 5月12日、国土交通省は、そのホームページに、本年3月に改訂された「公共建築工事標準仕様書 建築工事編」の内容を公表しました。この仕様書は「官公庁施設の建設等に関する法律」に基づくもので、国が実施する建築物やその附帯施設に関する様々な技術基準を制定したものです。その中の第12章(木工事)の1項目に、下記のようなさりげない、ただし書きが追加されました。

 参照:国土交通省の公共建築工事標準仕様書改訂
公共建築工事標準仕様書(建築工事編) H19年版

『保存処理木材は、次の(i)又は(ii)により、適用個所は特記による。(i)省略。 (ii)JIS-A9108(土台用加圧式防腐処理木材)によるもの又はJIS-K1570(木材防腐剤)に定める加圧注入用木材防腐剤を用いて、JIS-A9002(木材の加圧式防腐処理方法)による加圧防腐処理を行なった木材。ただし、木材防腐剤はクレオソート油を除く。』
 この意味するところは、保存処理木材としてクレオソート油で加圧処理したものを使用しないということです。

 私たちのグループは、80年代半ばから、発癌性のベンツペレンらPAHを含むクレオソートを木材防腐剤として使用しないよう求めてきました。00年以降、てんとう虫情報103号では、古枕木のガーデニング転用の危険性を指摘し(t10303)、01年6月には、ヨーロッパでの使用規制を契機に、東京都に「都消費生活条例8条」に基づき、クレオソート油に関するPAH調査を求めました(t11304)。この申し出は採用され、調査結果は翌02年春に通知されました(t12702)。その後、私たちは、東京都や厚生労働省に、クレオソート剤の使用規制を要望しました(t12903)、この粘り強い運動が、今回の国土交通省の仕様書改訂につながったと思われます。

 建築基準法に関していえば、7月1日から、シロアリ防除剤クロルピリホスの使用中止や合板のホルムアルデヒドの使用規制が実施されましたが、クレオソートもCCA(銅−クロム−砒素)系の木材防腐剤についても、規制はありません。日本工業規格JISの改定を含め、法規制を求めていかねばなりません。

★家庭用品規制法で規制
 国が率先して、クレオソート油使用禁止に踏み切ったのですが、民間では、まだまだです。相変わらず、ホームセンターなどでクレオソート系塗料が売られていますし、ガーデニング材には同剤で処理した古枕木が人気のようです。公園の中には、木製遊具、樹木の添え木、木製階段などからのクレオソート臭に、鼻を歪めねばならないところがあります。
 厚生労働省は、02年度に500万円の予算をつけ、「厚生労働特別研究」として、国立医薬品食品衛生研究所が「木材防腐剤クレオソート及びクレオソート処理品の安全性に関する調査研究」を実施しています。この報告内容が、公表されないまま、7月16日に開催された薬事・食品衛生審議会薬事分科会化学物質安全対策部会家庭用品安全対策調査会で、「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」によるクレオソート油及びクレオソート油で処理された製品の規制案が提示されました。
 この法律は人が直接触れたり、吸入して有害な17物質を規制対象としていますが、83年10月に家庭用エアゾール製品・洗浄剤中のテトラクロロエチレン、トリクロロエチレンの含有量規制を決めて以来、20年間眠っていたものです。私たちはこんな法律は廃止して、新しい生活環境での殺虫剤等の規制に関する法律を作れと主張してきましたが、どうやら、また、この法律が動き出しそうです。

 調査会はベンゾ(a)ピレンの発癌性評価において、遺伝毒性があり、染色体異常を引き起こす可能性があることから、閾値のない発癌性物質として取り扱うことが妥当であるとしました。
 国内販売のクレオソート油らの分析では、検出されたPAHのうちIARC(国際がん研究機関)分類2A以上(2A: 人に対して恐らく発がん性が有る )のものが次のようでした。
  物質名         IARC分類  検出濃度(μg/g)
                   クレオソート油  処理製品
  ベンズ(a)アントラセン     2A     ND〜6328   ND〜1282
  ベンゾ(a)ピレン           2A     ND〜2514   ND〜 749
  ジベンズ(a,h)アントラセン 2A     ND〜 122      ND〜  35
 このため、調査会は、
 @いわゆるガーデニングにおける廃枕木の再利用等、従前にはみられなかったクレオソ
  ート油等の用途が増加していると考えられること、
 A現に50ppmを超えるベンゾ(a)ピレンを含むクレオソート油が販売されていること、
 B今後、諸外国から輸入された、ベンゾ(a)ピレン等を含むクレオソート油等が増える
  可能性を否定できないこと
 Cベンゾ(a)ピレン5〜10ppmを含むクレオソート油等に、体重15kg〜30kgの子供が皮膚
  開放部10%に一生涯(70年間)のうち5年間暴露を受けた場合の過剰生涯発癌リスク
  は10万分の1のオーダーと計算される
などを踏まえ、家庭用品規制法に基づく、以下の措置を講じる必要があるとしました。
 @クレオソート油及びその混合物に含まれるベンゾ(a)ピレンを10ppm以下とすること。
 Aまた、クレオソート油及びその混合物に含まれるベンズ(a)アントラセン及びジベンズ
  (a,h)アントラセンを、それぞれ10ppm以下とすること、及び
 Bクレオソート油及びその混合物により処理された製品については、処理に用いたクレオ
  ソート油及びその混合物中のベンゾ(a)ピレン、ベンズ(a)アントラセン及びジベンズ
  (a,h)アントラセンの濃度を、いずれも10ppm以下とすること。
 今後、法改定し、施行されるのは、来年になると思われますが、クレオソート油そのものの使用規制はなく、いままでに処理されたPAH含有の木材製品が回収されない点も気懸かりです。

★住団連の自主規制では不十分
 建築基準法によるシロアリ防除剤クロルピリホス使用禁止とホルムアルデヒド使用規制は、7月1日から施行されましたが、これ以外の室内空気汚染化学物質の規制は、厚生労働省のいくつかの指針値があるだけで、具体的な規制は進んでいません。特に、塗料や接着剤由来のトルエンなどによる有機溶剤中毒がシックハウス・シックスクールなどとして全国各地で、報告されるようになっています。
 そんな中で、社団法人・住宅生産団体連合会は、「住宅内の化学物質による室内空気質に関する指針」という自主規制案を公表しており、同連合会とその構成団体会員の企画・設計・建設・分譲する住宅において、本年7月着工分から、実施するとしています。しかし、これらは、業界の努力目標にすぎず、法律できちんと使用規制すべきだと思います。

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作成:2003-08-26