改定農薬取締法関係にもどる
t14504#どこをどう反省したのか−農薬取締法改定後の違反とそれを覆い隠す農水省 その1#03-11
 3月に農薬取締法改定がなされてから、はじめての農薬多用シーズンを迎えましたが、法違反の実態が、次々と露呈しはじめました。
 相変わらずの無登録農薬の販売・使用、適正使用のお手本である防除基準の記載間違い、さらには、農薬容器への違法な表示まで発覚し、農水省は、いままでになく、農薬メーカーに違法農薬の販売停止と回収を命ずるなど取締を強化しました。
 このことを農水省の英断だ! 7月からの農水省の組織変更で、農薬対策室が、それまでの生産局から消費安全局に移り、やっと消費者に軸足を置いた施策を行なってくれるようになったと喜んでいいのでしょうか?

【1】無登録農薬「らん一番」が17府県で−省略
  【参考】農水省:無登録農薬の取締実施の状況 立入検査状況

【2】都道府県の防除基準の誤記載が31都府県で1587件
 これも、6月半ばのことですが、福島県の作成した防除基準に誤記載がみつかりました(記事t14206a)。防除基準は、農薬の適正使用の基本ですから、その記載に誤りがあれば、一大事というわけで、7月7日、農水省は各都道府県に対し、防除基準等に農薬取締法違反となる誤記載があった場合には、正誤表を配布する等、防除基準の適正化の措置が徹底されるよう文書で指導するとともに、誤記載と適正化措置の実施状況等についての調査を実施しました。
 その結果、表1に示したように、防除基準の誤記載は、31都道府県が有、11県が無でした(5府県は、調査中)。誤記載の内容延べ623作物について、 1587個所の誤記載がみつかりましたが、100件以上の県は群馬(192件)、熊本(149件)、長野(114件)、静岡と神奈川(各108件)、埼玉(107件)でした。群馬県は「農薬の適正な販売、使用及び管理に関する条例」まで作って安全な農作物を供給すると言ってましたのに、みずから条例違反第1号となってしまうとは・・・。  誤記載の内容別では、使用回数に関するものがもっとも多く558件(35.2%)、ついで、使用濃度が297件(18.7%)、使用時期が280件(17.6%)、適用作物が211件(13.3%)となっています。
 表1 都道府県の防除基準の誤記載数(03年8月13日発表)−省略−

138号で紹介したように総務省行政評価局の調査(02年の14道府県における防除基準対象)で、不適切な記載が3.5%みられ、是正が求められていましたので、このようなことが判明しても、やっぱりという気がなきにしもあらずですが、誤った基準をもとに、農協らが防除暦を作成し、農家がその通り実施すると、適用外使用で処罰を科せられるのですから、現場にとっては大変です。すでに、出荷停止や回収で、損害を受けた農家もあり、福島県では、風評被害を含め、県が補償する話がでています。
 農水省は、『今後の誤記載防止に向けた改善方法として、各都道府県が実施を決定又は検討している主な事項は、@クロスチェックの実施等によるチェック体制の強化、A防除基準等に記載する内容の見直し、B農林水産省ホームページ等の最新の登録情報の活用などであり、今後、誤記載の防止に向けた取り組みを強化することとしています。』と述べています。
 以上は、都道府県レベルの話しですが、防除基準をもとに農協等がつくる防除暦の誤記載は、どうなっているのでしょうか。先の総務庁の調査では、防除暦では、8.3%に不適切な個所があったとしていますが。

  【参考】農水省:31都道府県で防除基準の誤記載 詳細リスト

【3】農薬メーカーのラベル表示違反が23社105農薬
 さらに、とんでもないことが、発覚しました。それは、農薬容器の表示ラベルの違反です。
 H14改定法では、農薬使用基準(適用作物や農薬使用時期、回数、濃度等)の遵守を求めており、適用外の違反使用した者は、処罰されることになっています。しかし、これは、個々の農薬の使用方法等が、農薬容器のラベルに正しく表示されているとしての話です。この前提が崩れれば、どのようにして適正使用すればよいかわからなくなります。従って、農薬取締法第七条には、『容器に、次の事項の真実な表示をしなければならない』とあり、登録に係る適用病害虫の範囲及び使用方法の「真実」をラベル表示することが義務づけられています。
 真実とは、メーカーが登録時に提出した申請書に記載してあり、かつ農水大臣により交付された登録票にある内容を意味しますから、当然、メーカーは、ラベル表示内容が登録票と相違ないかをチェックして出荷することを義務づけられており、これに違反すれば、罰則が科せられることになります。この条文は、従来法でも明記されていましたが、いままで、七条違反で、大々的な取締りがなされたことはありませんでした。ところが、農水省は、突然、この伝家の宝刀を抜き、違反農薬の回収を命じたのです。
 その背景には、「真実」でないラベル表示通り使用した使用者が、H14改定農薬取締法違反で罰せられれば、当のメーカーも罰することになる、そんなことを避けるために、早いうちに、メーカーの責任で、回収措置をとらせた方が無難だ、との企業思いの農水省の思惑が働いたのかも知れません。

★違法表示農薬に回収命令
 農水省は、7月23日、『1、この度、我が国で製造・販売されている一部農薬の容器又は包装の表示内容について誤表示があることが判明したので、農薬の容器又は包装の表示について農薬製造者に一斉点検を求めたところである』とする記者発表しました。業界に配慮したのでしょう。「違法表示」の語句はなく、「誤表示」となっています。「誤表示」といえば、単純な印刷ミスのような印象ですが、「真実」と異なる「違法表示」であることは間違いなく、それが、どの程度の過失であるか又は故意であるかは、今後の調査でわかることであり、はじめから「誤表示」というのは、メーカーに恩をうっているとしか考えられません。恐らく、事前に業界と充分話し合った後に、対処方法を決めて通知をだしたのでしょう。
 文書はつづきます。
『2、農林水産省では、誤表示がある農薬を製造した企業に対し、 @製造者の責任で流通段階にある該当農薬の回収を行うこと、 A販売先の農家に対して誤表示があった旨の連絡を行い、誤表示に基づいて農薬が使用されることのないように万全を期すとともに、B 農家に対する相談窓口を設置するよう、 指導しているところである。
3 また、農林水産省では、このような製造者に対する指導とは別に、@農薬販売者に対し、誤表示があった農薬の販売を停止すること、 A各都道府県に対し、農家が誤表示に基づく使用を行わないように指導するとともに、万が一、食用農作物について誤表示に基づく農薬使用が行われたことが判明した場合には、衛生部局と連携して農産物の安全確保を図ること、を指導しているところである。』
として、当該農薬の流通段階の回収、販売停止を命じていますが、農家手持ちのものについては、回収を行なわず、間違った使用を行なわないよう指導することにとどめています。
 さらに、4として『誤表示を行った製造者に対しては、農薬取締法に基づく報告を命じ、これを受け、必要な措置を別途検討することとしている。』といっていますから、メーカーには、おっつけ処分がでるのでしょう。

★三共アグロ、住友化学ら大手農薬メーカーが軒並違反
 農水省が、7月23日、8月5日、8月13日、9月4日の4回にわたって公表した「違法表示」農薬のメーカー別件数を表2にまとめました。23社で、105農薬延べ151件の違反個所が報告されています。三共アグロが最も多く23件で、住友化学と石原産業が各17件、シンジェンタジャパンが15件、北海三共と日本農薬が各13件が、ワースト5社でした。明かになっている違反は、殆どが日本農薬工業会の会員会社のものであり、その他のメーカーの製品を含め、今後、件数は増える可能性があります。
 提示された違反内容では、使用回数に関するものが最も多く約四分の三の113件で、適正使用より多い回数が記載されているものが大多数した。
 適用がない作物を適用ありとしたのは、13件でしたが、中には、ナスやキュウリ、レンコン、バレイショ、リンゴ、ナシ、カキなど食用作物に対するものもありました。
 違法表示の内容通りの使用方法をとると、そのほとんどは、農作物の農薬残留値が増す方向にいくのですが、多くのメーカーは、データを示すこともなく、備考欄に作物への残留については心配ない旨の記載があるだけでした。

表2 メーカー別農薬ラベル表示違反件数−省略−

  【参考】
      農水省:7月23日 8月5日 8月13日 9月4日 11月21日

      日本農薬工業会からの第1報 第2報 誤表示一覧

      日産化学:1,2 日本農薬 石原産業 
      三共アグロ1,2 日本化薬 日本曹達
      八洲化学 三井化学 ダウケミカルジャパン アグロカネショウ
      クミアイ化学 住友化学:1,2,3からのお詫び

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作成:2004-2-28