改定農薬取締法にもどる
t15103#違法農薬使用を容認する農薬取締法の経過措置は9001件に〜販売中止の農薬ケルセンの承認も31件#04-03
 てんとう虫情報146号に、農薬取締法の使用者が守るべき省令に関する「経過措置」について、03年9月12日までに公表された7605の承認内容を解説しました。その後、12月22日に残りの1396件が追加承認され、最終的に「経過措置」の総承認件数は、9001件になりました。
 「経過措置」というのは、登録農薬を適用のない農作物に使用した場合に科せられる罰則を回避するためにとられた期限付き(2005年3月まで)の措置です。下記に示す安全確保条件をクリアーした上で、個人や団体の使用者が都道府県知事に申請し、農水大臣が承認するというものです。
 「経過措置」は、農薬登録に必要な薬効・薬害・残留性試験が実施されていない、法に違反する農薬使用ですから、残留基準や登録保留基準を超える恐れがあります。そこで、いくつかの安全確保条件が求められています。
 たとえば、@申請作物は、同種の作物で既に使用が認められている農薬であること(たとえば、登録保留基準などがある)。A使用が認められている作物の使用時期、使用量、使用濃度、総使用回数の範囲内で最も安全な内容の使用方法であること、B必要に応じて、残留農薬分析を実施すること、C出荷先を知事に報告することなどが要件になっています。
 県によって、安全確保に関する対応の仕方はまちまちで、愛知県のように、「経過措置農薬使用に伴う安全確保措置要領」を公表し、経過措置農薬使用計画書・誓約書、経過措置農薬使用状況報告書、安全確認報告書及び流通規制措置状況報告書の提出が生産者に求めらている県もあります。

★県別の承認件数は福岡県がトップ
 全国47都道府県のすべてで、違法農薬使用が承認されていますが、その件数は大きなばらつきがあります。県別の承認件数では、福岡県がダントツの 1137件で第一位、愛媛県601件、愛知県587件、沖縄県483件、和歌山県468件、北海道464件とつづきます。少ないのは、富山県の2件、奈良県6件などです。
  【参考資料】農薬コーナーにあるマイナー作物対策コーナー(承認情報あり)
       適用外使用承認件数の県別分布県別情報

 福岡県についていえば、114種の農作物に111種の農薬が承認され、作物別では、パセリが最も承認件数が多く35、以下、コリアンダー27、ディル 27、トレビツ27、フェンネル27、食用タンポポ26、エンダイブ26、チャービル26など聞き慣れない作物名がいっぱいでてきます。ハーブ類が結構多いですね。

★作物別では、ミニトマトへの適用が558件も
 389種の作物で、違法農薬の適用が承認されました。80以上の承認件数がある農作物を表1に挙げました。作物によっては、既に登録農薬があるものもあり、その数を記載してあります。
 もっとも多いのはミニトマトで558件あり、41県で86種の農薬が承認されています。これは、いままで、トマトに登録されている農薬を使用していたのを、農水省がトマトとミニトマトは成長の度合が違うため、作物グループを区別するよう求めた結果でしょう。同様に、ピーマンと区別することになったシシトウの承認件数も多いですね。しかし、ミニトマトに適用できる登録農薬はすでに、79種もあるのに、何故に、こんなに多く承認せねばならないのか理解に苦しみます。
 また、挙げられた農作物の中には、マイナーとはいえない農作物や既に登録農薬のある作物もみられます。
  表1 作物別の違法農薬適用承認件数−省略

★農薬成分別では、アセタミプリドがトップ〜残留等の基準がなくても承認
 316種の農薬(活性成分としては215種)で、違法な適用が承認されました。剤型別では水和剤が全体の49.1%で4422件、単剤が92.1%の 8290件を占めています。活性成分別の承認件数が100以上の農薬を表2に挙げました。

  表2 農薬成分別の承認件数−省略

 このうち、「経過措置」承認の必須要件である、何らかの農作物で残留基準か、登録保留基準のある農薬が178種、基準のないまま承認された農薬が37種ありました。
 後者について、内容を吟味するために、表3に活性成分の分類を示しました。

   表3 基準のないまま承認された農薬活性成分の数−省略

 表中で*印をつけた無機化合物や生物農薬(天敵昆虫、菌及び菌の生産物、線虫など)、性フェロモン、マシン油は、有機農産物のJAS規格で使用が認められている農薬の成分であるということで、経過措置を認められたのでしょう。しかし、ストレプトマイシンなど5種の抗生物質は、国際規格のコーデックスで生物農薬として有機農産物での使用は認められていませんし、残留基準もありません。食品衛生法で「抗生物質は食品に検出されてはならない」とされているのを残留基準と解釈したとすれば、問題です。
 その他の項に分類した除草剤ビアラホスは放線菌が産出した有機リン系の劇物ですし、土壌処理剤のD−Dとクロルピクリンは、水や空気汚染が懸念される有機塩素系殺虫剤です。また、ミニトマトの着花増進に適用されるクロキシホナックは塩素含有フェノキシ系でMCPの類似物質です。これら農薬が、安全性についての担保もなく、経過措置として承認されたことは首を傾げざるを得ません。

★問題農薬もつぎつぎ承認〜ケルセンはすぐ取り消すべき
 しかし、さらに大きな問題は「経過措置」の要件をみたしているとして、承認された178種の農薬の使用にあります。たとえば、環境ホルモンの疑いのある農薬では、NAC/アトラジン/ケルセン/ジネブ/プロシミドン/ベノミル/ペルメトリン/マラソン/マンゼブ/マンネブ/メソミルほかが承認されています。
 そのひとつ、有機塩素系の殺ダニ剤ケルセンは、環境省の環境ホルモンリストに挙 っており、03年度の調査対象になっていますし、DDTを不純物として含む上、アメリカアポプカ湖のワニの短ペニス・繁殖低下の原因と考えられています。4月から施行される新化審法では 「第一種監視化学物質」に指定される恐れもあります。そのためか、3月半ば突然、 販売中止され、メーカーが自主回収することになっています(記事t15108参照)。ケルセンは、2製剤が14県でミニトマトなど16作物について31件承認されています。このような農薬は直ちに承認取り消ししてしかるべきです。
 神経毒性のある有機リン系農薬は、DEP/DDVP/MEP/アセフェート/ダイアジノンほか多くが承認されています。そのひとつ、土壌処理用殺虫剤ホスチアゼートは2製剤が19県でニガウリなど23作物について38件承認されていますが、使用方法を守ったのに、ダイコンで残留基準を超えて検出されて問題になっています(記事t14905a参照)。
 農薬を使用すれば、たとえ残留基準や登録保留基準以下になったとしても、農作物にある程度残留することが避けられませんし、環境への影響も確実に増大します。「経過措置」の期間というのは、農薬の適用拡大のデータを作成するための期間でなく、農薬をできる限り使用しない栽培方法を研究開発する期間とすべきです。農薬摂取量を減らす基本は、減農薬・脱農薬にあるのですから。

★農作物-農薬の組合わせは約4900−省略
   表4 農作物−農薬の組合せと承認した県数−省略

★経過措置が残留基準の設定を歪めた
 経過措置は、類似の農作物に残留基準があることが承認の要件であり、また、承認を受けて生産しても、農産物が基準を超えては、回収の憂き目をみます。そのため、多くの農作物に残留基準があって、しかもその数値が高い方が、生産者にとって都合がいいことになります。
 ところで、厚生労働省は、昨年5月、EPN/マレイン酸ヒドラジド/クロルピリホス/フェンピロキシメートの残留基準を見直し、夏にパブリックコメント(意見公募)を求めました(記事t14604参照)。10月28日の薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会で最終案がまとめられ、いままでの基準の削除・追加や数値の変更がなされることになっていました。
 その会議で、厚生労働省原案に対し、生産者から@クロルピリホスで、「ネクタリン」の改定案0.05ppmを従来通り、1ppmのままにしてほしい、A フェンピロキシメートで、「上記以外のキク科野菜」、「パセリ」、「みつば」、「上記以外のセリ科野菜」、「上記以外のなす科野菜」、「ネクタリン」及び「マンゴー」の基準は、削除することになっているが残して欲しい、とのパブコメの意見が披露されました。原案通り改定されると、これら二種の農薬を違法使用するための経過措置がとれなくなるので困るというわけです。
 この要望は、すんなり受け入れられ、結局、04年2月25日に告示された残留基準では、生産者側からの要望通り、上記項目については、見直しが実施されず、従来のままの残留基準となりました。今後、経過措置がなくなった時点で、これらは、原案通りの残留基準になることが決まっています。
 このように、食品衛生法においても、消費者のあずかり知らぬところで、農薬取締法とおなじ経過措置がとられることになったは、消費者をないがしろにするものといえます。

★適用拡大の行方
 経過措置は、あと1年です。その後、農薬メーカーが適用拡大の登録を行なわなければ、継続使用はできません。個々の農作物−農薬の組合せについて、残留性試験データを作成するには、相当の経費がかかるでしょうから、県によっては、経過措置の要綱の中に、将来拡大の見込みがあることを申請の条件にして、承認件数を抑制しているところもあるくらいです。
 JA全農は、昨夏、「JAグループマイナー作物対策本部」を設置しましたが、2月5日に「全国対策会議」を開き、上述の約4900の組合せの中から、一県だけの要望や、対象病害虫が不明などで試験ができないもの、さらにすでに登録申請中や有効な薬剤が3剤以上あるものを除いた1754件の登録試験を優先することにきめたそうです(日本農業新聞、農業協同組合新聞による)。

  【資料】試験計画一覧

 生産団体の中にある「経過措置」の延長を求める声に対して、農水省農薬対策室は、登録の適用拡大への取り組みが重要だとし、そのため、各県が連携して試験データを集めるよう指導していますが、現在11グループに分類しているマイナー作物に、新たな作物グループ(シソ科やセリ科のハーブ類)を設ける方向も検討しているそうです。
 今後、わたしたちは、消費者の立場から、「経過措置」で生産・出荷された農作物の出荷先や残留農薬データの公開を都道府県に求めることが必要です。また、食生活を豊かにするとの宣伝の下、農薬使用により大規模栽培されている山菜や外来の野菜に頼らない、真の地産地消をめざすことも大切です。
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作成:2004-8-23