室内汚染・シロアリ防除剤にもどる
t15901#やっぱり、DDVP(有機リン系殺虫剤)は危険だ−東京都が室内濃度調査結果を発表/厚労省が使用場所を規制#04-11
吊しておくだけで、薬剤が揮発して虫を殺す有機リン系殺虫剤DDVP(ジクロルボス 商品名バポナ、パナプレートなど)について、反農薬東京グループは繰り返し問題点を指摘し、厚労省などに規制を求めてきました。
【参照記事】記事t14006 記事t14703 記事t14803 記事t15705
ようやく、11月2日、厚労省は、使用場所や使用量、使用上の注意の変更を通知しました。これは10月20日に東京都が発表したDDVP使用時の室内濃度の測定結果を受けて出されたものです。しかし、厚労省の規制内容は、製造及び販売業者に対するもので、変更内容の遵守については、使用者に任されることになります。
製造禁止ではないし、製品の回収もしません。現在使用している人に対する注意喚起や薬局・販売業者の指導は、都道府県に丸投げです。厚労省にもっと厳しい規制をするよう要望しています。
★たびたび、規制を要望
反農薬東京グループは、2000年に起こった北海道静内町の特別養護老人ホームにおけるDDVPなどの殺虫剤散布による45人に上る健康被害を契機に、DDVP剤の規制と、薬事法による承認が1960年代の古い資料で行われていることなどを問題として、厚労省にたびたび要望してきました。
2002年にはイギリスでDDVP系殺虫剤の販売中止命令が出たことを受けて、特に、バポナなどの殺虫プレートについて、その審査経過、承認日、人がいるときの使用の可否など19項目の質問を出しましたが、厚労省からの文書回答はありませんでした。
2003年には、外食産業に対して殺虫機使用の有無を問うアンケート調査を行いましたが、回答率は僅か13%でした。(記事t14703)
私たちは、2003年5月に東京都の消費生活条例8条に基づき、プレートと殺虫機を使用したときの室内濃度の測定と、外食産業などでの使用実態調査を申し出ました。この申し出は受理され、その結果の一部が、1年以上経過した10月20日の発表になったものです。東京都生活文化局消費生活部生活安全課は、DDVPの室内濃度があまりに高く、健康に悪影響を与える可能性があるとして、私たちの申し出た調査全てがまとまるのを待たずに、急遽、発表したということです(東京都プレスリリース)。
★東京都の調査
今回、東京都が調査したものは、室内で徐々に揮発する殺虫プレート(東京都は「吊り下げタイプ」と表現)と、夜中に自動的に稼動するファン付き殺虫機=殺虫ロボットの2種類です。6畳間に相当するテスト用実験室が使われ、室温25℃、換気回数0.5回/時間に設定、室内空気濃度と紙、板、ガラスへの付着量が測定されました。使用された殺虫剤は、DDVP約21g含有のプレートで、吊り下げ実験では1枚、ファン付き殺虫機実験では3枚でした。
<室内濃度はADIの22倍も>
殺虫プレートは、@子どもがハイハイする高さとして床上20cmと、A大人が呼吸する高さの120cm地点で21日間測定しました。最高濃度は7日目の床上20cmの150μg/m3で、床上120cmでは8日目の140μg/m3でした。21日目でも床上20cmで54μg/m3、120cmでも54μg/m3ありました。また、使用期限の90日目は床上20cmで40μg/m3、床上120cmで24μg/m3と予測しています。
ADI(一日摂取許容量)は3.3μg/kg/日で、子ども(体重15kg)だと一日49.5μg、大人(体重50kg)だと165μgとなります(これ以下なら一生涯摂取しても安全ということですが、この計算では食べもの、水などの空気以外の摂取量は考慮されていません)。
東京都は子どもの呼吸量を9.3m3、大人の呼吸量を15m3として摂取量の計算をしていますが、大人で660μg(ADIの4.7倍)から最高2100μg(同13倍)の摂取量であり、さらにひどいのは子どもはADIの10倍(21日目で500μg/m3)から22倍(12日目1100μg/m3)という数値です。つまり、殺虫プレート1本を室内にぶらさげておくと、毎日、安全とされる量の4.7から22倍のDDVPを吸入していることになるわけです。
ファンで夜中に自動的に殺虫剤を放散する殺虫ロボットでは、8時間の稼動中の最高が床上20cmで450μg/m3、床上120cmで420μg/m3となり、大人でADIの38倍、子どもで85倍の数値が示されています。送風停止後11日目で1.0μg/m3以下に減少していますが、殺虫ロボットは週に2回稼動することになっているのに、都の調査では一回稼動しただけの量です。停止4日目でも10μg/m3ですから、2回稼動では、許容量を超える空気汚染がづっと続くことになります。
図(グラフ)床上20cm、120cmの室内濃度の比較(吊り下げタイプ)−省略−
<布、板、ガラスなどへの付着>
室内濃度以外に都は、布、板、ガラスへのDDVP付着濃度も測定しています。布への付着が一番多く、殺虫プレートで実験開始から徐々に上昇し、10日目が90μg/m2と最高を示しました。ガラスは13日目の8.1μg/m2が最高です。都は「室内空気から布等へ移行している」と推測していますが、布などから再び空気中へ移行することも考えられます。油などが存在した場合はさらに付着率は高くなるでしょうし、食品への移行も考えられます。ですから、都の実験は、最高濃度ではなく、日常生活ではもっと高くなる可能性があることを考えておく必要があるでしょう。
★規制とはいえない厚労省の対応
この結果を持って、東京都は、厚労省に早急に用法用量など使用方法の見直しをすることを要望しました。これを受けて11月2日に「ジクロルボス(DDVP)蒸散剤の安全対策について」という厚労省医薬食品安全対策課と審査管理課の文書(以下「文書」)と両課長名による「ジクロルボス蒸散剤の安全対策及びその取り扱いについて」という都道府県、政令市、特別区の衛生主管部長宛の通知(以下「通知」)が出されました。
「ジクロルボス殺虫剤安全性検討会」の検討の結果ということですが、検討会のメンバーの名前も公表されていません。どのような手続きで検討会が開かれたのか不明です。
通知の内容は、ジクロルボスを5グラム以上含有するものについて、使用場所は、従来の「事務室、食堂」をはずしました。また「店舗、ホテル、旅館、工場、倉庫、畜舎、テント、地下室」では「人が長時間とどまらない区域」で使用することとされています。
5グラム未満のものは「倉庫、畜舎、地下室」の「人が長時間とどまらない場所」で使用してもいいというものです。
長時間とはどのくらいかは記されていませんし、「人」が乳幼児や妊婦、化学物質過敏症患者など殺虫剤に弱い人たちも入るのかどうか、不明です。
また、こうした場所で使用した場合、薬事法自体に使用法遵守義務や罰則もなく、結局、健康被害は自己責任、第三者の受動被曝も抑止できない恐れがあります。
また、いつからこの規制が行われるのかも不明で、現在、店頭に並んでいる製品についてはどうなるかも、不明です。
製造業者等については、12月1日までに承認事項の一部変更承認申請を行うことと、消費者向け説明文書を作成し、薬局・販売業者に配布することだけが求められています。
★ADIを基準とするのは適当でないと
文書によると、東京都がADIを基準としてリスク評価したのは「必ずしも適当ではない」としていますが、その理由は不明です。
代わりに「ラットにおける90日間反復吸入毒性試験を指標として評価する方が、より科学的かつ使用実態に即しており適当である」としていますが、その毒性試験の概要すら明らかになっていません。この試験によるラットの無毒性量くらい公表してしかるべきでしょう。
また、DDVP蒸散剤は「ハエ・カの発生期に一定期間使用される製品であり」などと述べていますが、これがゴキブリ駆除に使用されるということを知らないのでしょうか。
いずれにしても、厚労省の通知は実態を十分に把握もしないで行った、性急で不十分な対策でしかないと言えます。
DDVP含有製品一覧
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○アース製薬(株)
バポナ殺虫プレート/バポナハーフ殺虫プレート/バポナミニ殺虫プレート/
バポナドライプレート/バポナデコ/バポナノックエース
○国際衛生(株)
パナプレート/パナプレートハーフ/パナプレートキュー/パナプレートペット
/ベーパーセクト
○中山工業(株)
ニッサンプレート18/ニッサンプレート18B/殺虫プレート/
ワイパープレート/GNプレート
○日産化学工業(株)
ニッサン殺虫プレート/ニッサンハーフ殺虫プレート/ゴキノックプレート/
ニッサン殺虫プレートL
○(株)バイロン
日曹殺虫プレートP/日曹殺虫プレートP−H/クィックロンプレート
○(株)アールエコ
パラノン
このほか、DDVP製剤には、室内散布用殺虫剤としてフェニトロチオンなどとの混合乳剤(商品名:プレミアムスミチオンなど)や、油剤なども販売されていますし、農薬として使用されるものがあります。また、有機リン系農薬トリクロルホン(ディプテレックス)の代謝物としても存在しています。
【メーカーHPより】
★国際衛生のパナプレート
蒸散剤の適正使用指導のお願いと殺虫機の適正使用指導のお願い
★アース製薬のバポナプレート
適正使用指導のお願い
★日曹商事(製造元バイロン)の日曹殺虫プレート
販売・取扱店向けのお願い文章
★ナックの害虫駆除機ウイズ
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作成:2004-11-24