松枯れ・空中散布
t16601#松枯れ空散−−遠州浜での実態 防除基準違反のオンパレードで強行#05-06
5月17日、浜松市の遠州浜海岸の松林で、「松枯れ農薬空中散布を考える遠州浜ネット」など市民の反対を押し切って有人ヘリコプターによる農薬空中散布が、続いて隣接区域に5月23日、6月7日の2回にわたって無人ヘリコプターによる農薬散布が実施されました。実施主体は静岡県と浜松市。
松枯れの空散は全てが補助金でなされます。静岡県への国からの補助金は有人ヘリが2000万円、無人ヘリが300万円となっています。県や市がその半分を負担しますから、結局、静岡の空中散布に4600万円以上の税金が使われたことになります。
松枯れ空散は1976年から始まり、各地で激しい反対運動にあって、林野庁は条件整備を整えて将来的に空散をなくすと約束していますが、静岡県の場合はゴルフ場の松枯れ空散を含めて今年も1722ヘクタールで予定されています。そのうち、遠州浜での有人ヘリによる空散は98ヘクタール、無人ヘリの空散は32ヘクタールでした。
この地域では2001年にも中止を求める運動がありました。この時は農薬の飛散調査を行い、問題の幼稚園や無農薬畑への空散農薬の飛散を確認しています。その結果をもって県に中止要望しても、無視されていました。
静岡県散布計画
★健康被害が出ていた
従来、林野庁は散布区域から200メートル離すよう指導していますが、この散布区域の200メートル以内には幼稚園、診療所、障害者福祉施設、住宅などがあり、特に、幼稚園は空散の日に松林でのイベントが計画されていました。
心配した母親たちを中心に中止を求める運動が展開されました。県、市、国などに精力的に申し入れをしましたが、5月17日の有人ヘリ散布は、松林での幼稚園のイベントをやめ、園児たちは園内にいるというだけの措置で強行されました。この幼稚園は散布区域から140メートル離れているだけです。
空散後、市民団体はアンケートによる健康影響調査を行いました。急なことだったので散布区域周辺に200枚ほど配布し、回収したのは110枚だったということです。
「農薬を浴びたと思いますか」という質問には37人が「思う」と回答しています。また、散布された頃から「身体に異常を感じましたか」という質問には35人が「異常を感じた」と回答しています。そのうち、医者に行ったのは14人でした。
症状は、一番多かったのが「せき・たんが出る」で、「のどの痛み、かゆみ」、「鼻水」、「はきけ・むかつき」、「頭痛」、「下痢」などが続いています。
いずれも、今までの空散後の健康被害調査に出てくる症状と同じです。林野庁が毎年配布している「農薬中毒の症状と治療法」にも軽症として同じような症状が書かれています。
このデータをもって、地元の市民団体は県に6月7日の無人ヘリ散布の中止を求めましたが、県は拒否しました。農薬空中散布反対全国ネットワーク(代表:植村振作)は林野庁に中止を申し入れました。しかし、林野庁は健康被害について、血液検査をしてないので因果関係が不明のため、中止はできないという回答でした。また、県に指導はしても強制はできないと強調していました。
★防除基準の違反
松枯れの空散は長い反対運動の成果として、農水大臣が定める「防除実施基準」が定められていますが、今回の空散にはそれに違反する事実が多くありました。
まず、住宅地等から200メートル離してないこと、何の防護措置もとっていないこと、絶滅危惧種であるアカウミガメの産卵地に飛散させたり、無農薬栽培の畑に飛散していること(2001年の散布時に飛散調査で確認)、実施のお知らせに健康被害の可能性や万一の場合の病院の連絡先がないこと、隣接している国土交通省の松林や周辺の松枯れの処理が遅れたり放置していること、などです。
また、防除基準には、被害が発生した場合には直ちに当該地区の空散を中止して、原因の究明に努めるとともに、適切な事後措置をとることと決められていますが、健康被害を訴えても何もしませんでした。
要するに、この地区の空中散布は30年前のやり方と何ら変わっていないということです。
★安全性の確認されない無人ヘリ散布
今年から林野庁は無人ヘリコプターによる農薬散布に補助金を出しています。昨年11月に「有識者との意見交換会」なるものを非公開で開き(記事t16007)、無人ヘリ導入のお墨付きを得て、いよいよ今年から本格的な散布を始めたわけです。林野庁は「専門家の意見を聴いて安全性が確保された」と言いますが、集めた専門家は空散賛成派の学者ばかりです。
林野庁はこの時の資料を、国会で追及されてしぶしぶ出してきましたが、その資料には「無人ヘリコプターの使用における環境影響」として、山形県と宮城県の大気中濃度のデータが載っています。しかし、風向きによって全く違うはずなのに、散布区域外の測定はいずれも一カ所だけです(距離は80mと75m)。
中には環境省の定めた評価値の4倍もの濃度が測定されていますが、これは「異常値」だとして切り捨てています。また、飛散調査は行われていません。
このデータをもって、無人ヘリ散布は安全だとしているわけですが、今回、遠州浜で実施された無人ヘリ散布は、幼稚園から50メートルしか離れていません。有人ヘリは140メートル、無人ヘリは50メートルしか離れておらず、結局、幼稚園は都合3回も至近距離で空中散布されたわけです。
また、無人ヘリ散布の場合、風速3メートル以下でないと実施できないという基準がありますが、5月23日の散布では、実施前に一回、平均2.5メートルと計っただけで続けられました。測候所のデータでは3メートルは遙かに超えていましたが、県や林野庁は測候所と海岸は離れているから基準値以内だと強弁しました。海岸の方が風が弱いと思っているようです。しかし、さすがにこれはまずいと思ったのか、林野庁は、次回以降は空散している時間はずっと風速を計るよう県に要請したとのことでした。
★林野庁との交渉 −省略−
★幼稚園に飛散していた
地元の市民団体は、6月7日の無人ヘリ散布に際して、農薬の飛散調査を行いました。横浜国立大学の花井先生が分析した結果では、幼稚園のプールから15μg/m2が検出されました。微量とはいえ、農薬が飛散していたわけです。
−中 略−
★国会でも追及
6月13日、参議院行政監視委員会で、民主党の岡崎トミ子議員が松枯れ空散に関する質問をしました(議事録にある岡崎議員の質疑参照)。
まず、散布区域から200メートル離れていない場所に空散するのは農水大臣が定めた防除基準違反ではないかとの質問に、林野庁長官は、200メートルは目安であって、それが守られないからと言って直ちに違反にはならないと答弁しました。間に、国土交通省の管理している松林があって、それが衝立の役割をするからいいのだというのには驚きました。有人ヘリも無人ヘリもこの松林の上から散布しているのですが。また、実際に飛散調査も大気中濃度の調査もしないで、安全だというのは科学的ではありません。
また、国土交通省の管理しているという松林は「守るべき松林」に指定されておらず、長い間放置されてきました。ここが林野庁が言う「感染源」になっている可能性は大きいのですが。まず、周辺を含めて枯れた松を伐倒し、樹種転換をするのが松枯れ対策としてやるべきことです。
遠州浜に限らず、全国で実施されている松枯れ空散が、防除基準を守って適正にやられているかどうか、早急な調査が必要です。
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作成:2005-06-24