空中散布・松枯れにもどる
t16801#有人ヘリに替わって急増する無人ヘリ散布せめて、飛散・気中濃度を公表し安全性を図れ#05-08

【関連HP】無人ヘリ用農薬ヤマハスカイテックヤンマーヘリサービス

【関連記事】記事t04201記事t09701

1,無人ヘリによる農薬空散は有人ヘリの面積を超えた

★毎年10〜20%の増加
 無人ヘリコプターによる農薬散布が急増しています。1991年に農水省が「無人ヘリコプター利用技術指針」を制定して以来、年々無人ヘリによる農薬散布は増え続け、2004年には散布面積(林業関係、ミバエ関係を除く)は有人ヘリが約50.5万ヘクタール、無人ヘリが66.3万ヘクタールと逆転しました。
農林水産航空協会(以下「協会」)の関口会長の講演録によれば、2005年3月末現在、6機種2005機が東京、神奈川、和歌山、沖縄の4都県を除く43道府県に導入され、オペレーターは全国で1万719名。利用面積、オペレーター数とも毎年10〜20%前後の伸びを示しているとのことです。
 無人ヘリ機体は総重量100キロ未満のものを「T種無人ヘリ」、100キロ以上のものを「U種無人ヘリ」と呼び、協会が性能を確認し、機体を販売した場合は協会に届出て、協会はこれを登録するとされています。機体はヤマハ発動機(株)が圧倒的に多く、2004年度で74%を占めています。

★増える適用作物と農薬
 実施面積の増加に伴って、無人ヘリで散布できる作物数も増え、現在では、水稲を初め、麦類、大豆、だいこん、れんこん、たまねぎ、くり、かんきつ、さとうきび、キャベツ、しょうが、あずき、アスパラガス、松、やまのいも、ばれいしょ、かんしょ、てんさい、日本芝、とうもろこし、かぼちゃ、にんじんなどに無人ヘリでの散布が認められています。  無人ヘリ用登録農薬数は、現在、殺菌剤43種、殺虫剤32種、殺虫殺菌剤13種、除草剤33種、植物成長調整剤6種、計127種で、今後も増え続けるものと思われます。
 無人ヘリによる散布では、小さな機体に1回にT種の場合は10又は24kg、U種の場合は60kgしか積み込めません。少量をできるだけ広い範囲に効率的にまくには、農薬濃度を高く、滴径を小さくして散布する必要があり、そのため、少量散布技術が主流になっています。通常、T種無人ヘリでは、3〜4mの高度から、5又は7.5mの間隔、時速10〜20kmで、U種では、高度5m、間隔10m、時速30kmで散布されます。
 たとえば、有機リン系殺虫剤のMEP(スミチオン)50%乳剤を水稲ニカメイチュウに適用する場合、散布条件は、無人ヘリの場合、8倍希釈で、0.8g/10aの散布することになっています。これが有人ヘリだと30倍希釈で3〜4g/10a、地上散布だと800〜2000倍希釈を200g/10aです。少量散布することが特徴の無人ヘリで、約32m四方に800_gをむらなく撒けるのか疑問ですし、地上散布の100倍もの高濃度の農薬ミストが散布域外に飛散する恐れもあります。

2,不十分な安全対策−最低有人ヘリ並みにすべき

★通知による規制はあるが
 無人ヘリ散布についての規制は不十分です。そもそも有人ヘリによる空中散布も法的根拠はなく、2001年に改定された農林水産事務次官依命通知があるだけです。有人ヘリによる散布に関しては私たちも何回も申し入れ、ある程度の安全対策ができています。しかし、無人ヘリは航空機ではないとして、農水省は無人ヘリ散布を「空中散布等」と呼んでいます。これを曲解して、無人ヘリは地上散布だなどと主張する県の担当者もいます。今のところ、農水省は、無人ヘリ散布は空中散布と地上散布の中間に位置づけています。それによって有人ヘリの規制が無人ヘリに及ばないようにしているわけです。
 従って、現在、無人ヘリの規制は、上記次官通知と農薬取締法の「農薬を使用する者が遵守すべき基準」、農水省消費・安全局長通知の「農林水産航空事業実施ガイドライン」(以下「ガイドライン」)、それに1991年に出された「無人ヘリコプター利用技術指導指針」(以下「指針」)があります。さらに、「住宅地等における農薬使用について」の通知も当然守られなければなりません。
 では、具体的にこれら通知等の中身をみてゆきましょう。

★有人ヘリのガイドラインに無人ヘリの規定
 「遵守すべき基準」では、有人ヘリ防除業者は届出が義務づけられていますが、無人ヘリ散布業者は、一般の農薬使用者と同じにしか扱われていません。
 「ガイドライン」には「農業用無人ヘリコプターの利用」の項目があります。安全対策としては、散布区域外への農薬の飛散防止を図るため、風速3メートルを超えた場合は散布を中止する、3メートルを超えなくても風向きを考慮した散布を行う、有機農産物に飛散して認証が受けられなくなるなどの防除対象以外の農作物への損害が生じないために必要な措置の徹底に努めること、学校や通学路の周辺等で実施する場合は、散布区域の周辺に十分に注意し、散布区域内に児童等が立ち入らないための措置の徹底に努めること、など書かれていますが、充分とはいえません。

★無人ヘリでも事前連絡が必要
 「指針」では、実施主体が組織である場合、空中散布等の記録を残しておくことや、関係機関の指導及び助言を受けることなど5項目が書かれています。
 その3番目に、「実施区域に係わる学校、病院等の公共施設及び居住者等に対しては、あらかじめ空中散布等の実施予定日時、区域、薬剤の内容等について連絡するとともに、実施に際しての協力を得るように努めること」「天候等の理由により空中散布等の実施に変更が生じる場合には、変更に係わる事項について周知徹底を図ること」とあります。しかし、このような事項が、守られていないところが多いのです。
 農家個人が実施主体になる場合は記録を作ることしか遵守要件になく、周辺への連絡は求められていません。最近のように個々の農家が散布請負業者に委託するケースが増えてくると、組織が実施主体となるのと同様の規制が必要と思われます。

★請負業者の義務 −略−
  兵庫県の防除業者届出制度(無人ヘリについては、オペレータ氏名も届出対象)

★実施者のための手引き
 協会と全国産業用無人ヘリコプター推進協議会が毎年発行している「産業用無人ヘリコプターによる病害虫防除実施者のための手引き」というパンフレットがあります。
 ようやく、ここへきて具体的な留意事項がわかるというわけです。上記で紹介した以外で私たちに役に立ちそうな項目をあげると、
 気象条件は@気流の安定した時間帯に実施し、地上1.5メートルの風速が3m/秒を超えるときは中止する。A散布場所以外に農薬が飛散しないように努め、場合によっては飛行コースや飛行高度、飛行速度を変更する。B降雨時、霧の発生時等には散布を行わない。 などがあります。
 散布区域の確認のために標識を立てることになっています。ピンク色の旗が境界、オレンジ色の旗は障害物を示します。しかし、無人ヘリ散布時にそのような旗など見たことがないという人も多く、守られているか不明です。
 散布飛行で注意する場所として、交通頻繁な道路、住宅、学校、病院等公共施設周辺で散布する場合は、絶対に施設に向かって飛行させないなど13項目があげられています。これらの場所では安全性が十分確かめられない場合は、散布区域から除外するようにと書かれています。
 農薬に関しては、ラベル等に「無人ヘリコプターによる散布」とあるものを使用する。液剤少量散布では、農薬を低倍率で希釈・混用するので物理化学的変化、散布装置に対する適合性、薬害の有無について確かめたものを使用。「なお3種混合は行わないでください」とあります。2種までなら混合してもいいということでしょうか。混合剤の登録を受けていない農薬の勝手な現地混用は、散布液の農薬濃度を高め危険です。

3,問題山積みの無人ヘリ散布

★全国各地から相談が次々と
 今年6月以降、無人ヘリ問題で当グループにいくつか相談がありました。山口県の有機農業者は隣接する田に無人ヘリ散布をされそうなので何とかしたいという相談でした(この件については植村さんの「天草だより」参照)。山口県の担当者は何も知らず、植村さんが農水省に直接掛け合って、ようやく、散布は中止になりました。
 千葉県からは有人ヘリ散布は減ってきているものの、その分、無人ヘリ散布が増え、幼稚園などに飛散している。また、県の担当者は「無人ヘリは地上散布なので県は関知しない」と回答したそうです。
 長野県からは、事前周知もなしに突然無人ヘリ散布が始まり、頭からかぶりそうになったという相談がありました。長野県にどういう指導をしているか問い合わせると、担当者は、すぐそこに連絡して事前に周知するよう注意すると約束しました。
 北海道からは、無人ヘリになって、有人ヘリより農薬の飛散や大気汚染がひどくなって、化学物質過敏症の人が苦しんでいるという報告がありました。
また、岡山県からの報告は、6頁をご覧ください。
 安全対策が十分になされないまま、これだけ無人ヘリ散布が増えれば被害がでるのも当然です。協会はオペレーターにどういう教育をしているのでしょう。

★健康被害の疫学調査例
 2001年の「臨床環境医学」に藤岡一俊さんたちによる、無人ヘリの健康被害の疫学調査が載っています。それによると散布区17地点で測定したMEP(スミチオン)の平均飛散量は420μg/uであり、対照区の平均飛散量は0.042μg/uでした。
 健康被害の発症は、散布区では32名中11名が、頭痛、眼の異常、呼吸器症状などを訴え、対照区では、78名中頭痛が1名だけで、両区の健康被害発症率に著しい差が認められたということです。MEPの気中濃度は、直接測定されていませんが、飛散量からの推定で、環境省の気中濃度評価値10μg/立方メートルを超えた地点もあり、著者らは、地上散布よりも、100倍以上高濃度で実施される空中散布に警告を発しています。(藤岡一俊ほか:臨床環境医学,10巻2号)

★農水省に無人ヘリの飛散、大気調査はない
 上記の被害例からみると、無人ヘリ散布の実施主体やオペレーターが不十分な指針すら守っていないことがわかります。しかし、一番大きな問題は飛散距離や大気汚染の濃度のデータすら出ていないということです。
 農水省の担当部署の植物防疫課航空班は「公表された資料はありません」としか言いません。「では、どうやって飛散を防止するのか。どのくらい離せば飛散しないのか」と聞いても「条件が違うので一律に言えない」の一点張りです。
 「協会は調査してないのか」と聞くと、「調査はしているが、公開されたデータはない」「農水省の担当者が知らないですむのか。来年からポジティブリスト制が導入されるが、無人ヘリ散布での飛散距離がわからないと他作物に「一律基準」0.01ppm以上のドリフトによる残留が出たらどうするのか」と聞くと、「まあ、いずれ集めるがポジティブリスト制になっても問題ないと考えている」とのことでした。
 私たちは無人ヘリ散布時の農薬飛散調査をするようにと2000年1月の農水省交渉から要望しています。協会がデータを公表しないのも、不思議です。よほど、具合の悪いデータがあるのかと勘ぐりたくなります。
★無人ヘリ事故
 無人ヘリによる人身事故は96年8月に福岡県でオペレータ即死、03年7月に佐賀県で右足切断事故もおこっています。
 物損事故では、04年6月には宮城県亘理町で、JR架線事故が発生、この夏にも、新聞報道されたものがすでに、2件あります。
 7月14日に、山口県阿武町で、水田で農薬散布中の無人ヘリコプターが、高さ10mの高圧電線を切断、付近の約770世帯が停電しました。同町などが出資する第三セクターの農作業請負会社「ドリームファーム阿武」が散布していたそうです。
 8月5日には、山形県川西町で、やはり、水田で農薬散布中の無人ヘリコプターが墜落、民家の外壁や窓ガラス等を破損しました。「犬川無人ヘリ管理組合」が散布を請け負っていたということです。
 いずれの事故もリモコン操作ミスが原因とされていますが、報道されるものは、大きな人身・物損事故に限られており、散布中の無人ヘリのトラブルや単なる墜落は、もっとあるのではないかと危惧します。なにしろ「手引き」には、緊急対応として「安全地帯に機体を落としてください」とあるのですから。

 いずれにしても、無人ヘリ散布は問題が多すぎます。早急に安全対策強化を要望する必要があるでしょう。


購読希望の方は、〒番号/住所/氏名/電話番号/○月発行○号からと購読希望とかいて、 注文メールをください。
年間購読会費3000円は、最初のてんとう虫情報に同封された振替用紙でお支払いください。

作成:2005-08-25