空中散布・松枯れにもどる
t17101#林野庁、無人ヘリ導入のための検討会〜運び屋のマダラカミキリの死因不明? いまさら何をおっしゃるか#05-11

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 【参考資料】無人ヘリによる松くい虫防除に関する運用基準作成のための検討会
       10月 4日:第1回の概要配布資料一覧 議事録
       10月25日:第2回の概要配布資料一覧

 前号記事で、林野庁が、松枯れ対策の農薬散布に無人ヘリコプターを導入するために、「無人ヘリによる松くい虫防除運用基準作成のための検討会」を立ち上げたことを報告しました。
 1回目の検討会は10月4日に開かれ、主に、林野庁のこれまでの松枯れ対策についての説明と、千葉大の本山直樹教授から、今年静岡県新居町で実施した無人ヘリ農薬散布の薬剤気中濃度や飛散量、健康被害調査などの概略が発表されました。

★散布による農薬汚染や健康調査結果は
 本山教授の調査の概略は「静岡県新居町における無人ヘリコプターによるスミパイン乳剤散布に伴う薬剤飛散状況ならびに健康影響調査結果(概略)」と題され、A4で2頁半くらいにまとめられていました。
 1回目散布では、気中濃度については、フェニトロチオンが0.13〜8.97μg/m3で、平均は2.10μg/m3であり、フェニトロオキソンは検出限界以下、2回目散布ではフェニトロチオンは0.12〜3.16μg/m3だったということです。しかし、散布区域からの距離が書かれていません。
 落下量はは散布地直下で最高3252μg/m2、散布区域周辺で1.2〜55.2μg/m2という数字が出ています。気中濃度の測定場所と同じところに濾紙をおき、1時間ごとに回収したそうです。飛散調査の場合、通常、散布開始前に濾紙を置き、散布終了1時間程後に回収するという方法がとられますが、データはトータル何時間の数値か不明です。
 イエバエ試験では、散布区域内で100%死亡しましたが、域外周辺部に設置したものには、顕著な死亡率の増大はなかったということです。。
 調査参加者8人(内女性1人)と無人ヘリのオペレーターとナビゲーター各1人合計10人の健康調査をしたところ、散布の前後に有意な変化は見られなかったということです。特に血漿コリンエステラーゼ活性は通常の変動の範囲内であった、瞳孔調査も散布前後に変化は見られなかったと報告されました。しかし、農薬散布現場にいて何ともない健康な大人で調査しても、農薬弱者の健康影響はわかりません。これをもって、周辺住民に被害があるはずがないとは言えません。薬剤の影響は人によって異なるというのが、林野庁がようやく認めた事実であり、そのために、林野庁は事務連絡で何度も通知しているわけです。

★第2回検討会は参考人の意見聴取
 2回目の10月25日の検討会は、5人の参考人が意見を述べました。 参考人の中で農薬散布に反対したのは、反農薬東京グループの辻と浜松市の遠州浜海岸での農薬空中散布で健康被害を訴えていた桑原さんだけです。

健康被害アンケート調査を発表−桑原さん
 桑原さんは、今年の5月と6月に実施された有人ヘリと無人ヘリによる農薬散布が、まず、十分な周知なしに行われたことを問題にしました。
 その日は散布区域周辺の幼稚園で松林でのイベントが予定されていたのを、桑原さんが申し入れて、別の日に変えてもらったとのことです。散布の日は子どもは休ませて、翌日、普通に登園させましたが、帰って来るなり、頭が痛いと訴え、下の子どもも咳が出るようになり、風邪なのか化学物質の影響なのかわからず、とても不安に思ったと述べました。
 幼稚園の他のお母さん方からも同じような症状を聞き、アンケート調査をしました(記事t16601参照)。頭痛、のどの痛み、咳、嘔吐、アトピーの悪化、湿疹などいろいろな症状を訴える子供たちを見て、空中散布の日と重なって出ているため、その関連性に強く疑いを持たざるを得ないのですが、実際に因果関係が断定されるまでにいたっていません。
 しかし、「苦しがる我が子を前に絶対の安全が保障されない空中散布は絶対に許すことができないと強く思いました」と桑原さんは述べています。その後、健康被害アンケート結果について説明し、アンケートに寄せられた意見からいくつか生の声を紹介しました。

★アンケート調査は信用できない?
 桑原さんの意見に対して、検討会委員から健康被害のアンケート調査に対する質問が多く出されました。
 たとえば、「アンケートの、どういう人を対象にするかというのは非常に無作為の抽出には気を使うわけですね。特定の偏見を持った人だけにアンケートできない。この調査の時には、どういう範囲でやったのですか。」「アンケートの異常を感じた人で医者に行った人が14人と。この方たちは医者は農薬の影響ですとは言わなかったのですか。」「曝露との関係がない。一番のポイントはどのくらいの曝露があったから症状がどうだとか、曝露がわからないとだめだ。私たちの調査はそういう意味で、曝露の指標となるような気中濃度や落下量も測っています。そして実際に血中濃度も測っています。」などと、市民団体が専門の学者のような調査をしなかったから信用できないといわんばかりでした。
 しかし、県に何度も気中濃度や飛散量、健康被害調査をするよう申し入れたのに、全部断られ、しかたなしに、市民団体が何の援助もなしに、とにかく健康被害を受けた人がいるかいないかの調査をしたわけです。これは問題提起であり、きちんとした調査を行政がやるべきことです。それにケチをつけるのは、筋違いでしょう。

★無人ヘリ運用基準は慎重に−反農薬東京グループ
 辻は、無人ヘリ農薬散布の問題点として、6点をあげました。

             −以下略−

★マダラカミキリはいつ死ぬのか
 以上の意見に対して、検討委員から質問が出ました。特に問題だと思う質疑を抜粋します。
座長 :(前略)お聞きしたい点は、空中散布はマツノマダラカミキリが松の枝を
   食べることによって死亡するとされているとあるんですが、これはどこに書い
   てありましたか。
辻  :えっ、林野庁なんかがいっぱい出している松枯れの仕組みというようなも
   のがありますが。死なないんですか?
座長 :こういう経口毒というのは、それはないわけじゃないですよ。だけれども、
   普通、、昆虫というのは接触毒でほとんどやられるわけでしてね。
辻  :でも、違いますよ。松の枝を食べることによって死ぬんだというのが、林
   野庁の理論じゃないですか。
座長 :そうなっているんですか?
林野庁:あのう、そこは正確には、林野庁の見解ということでは言っておりません。
   ただ、食べることを後食と言っていますけれども、後食の際に薬剤の影響で死
   ぬということは、一般的に言っておりますけれども、食べるか、接触かという
   ところの正式な見解というのは、特段私どもの方から発表しているわけではな
   い。ただ、一般の方に説明するときに、食べることによって死ぬという話は、
   それは一般的によくする話で、そこは少し、科学的に不正確な説明をしている
   場合もあるかもしれません。

             −以下略−
★殺虫メカニズムも勉強していない検討会座長
 松枯れ農薬空中を開始時から積極的に推し進めてきた小林座長(現(社)大日本山林会会長)が、マダラカミキリを殺すための農薬散布が接触毒(体にかかるなど直接曝露した場合に死ぬなどの毒性が出ること)で死ぬと思っていたとは驚きです。なにしろ、林野庁は後食(マダラカミキリが松の木から羽化脱出した後で新しい松の枝を食べること)の時に、農薬散布した枝を食べさせて殺すと言い続けてきたのですから。
 たとえば、日本応用昆虫学会誌第32巻第4号(1988年)に掲載されている「マツノマダラカミキリの後食防止に関するフェニトロチオンの作用(森林総合研究所 松浦邦昭)という論文には、はっきり、マダラカミキリに対してフェニトロチオンのガス作用も、接触毒作用もなかったとして、「この薬剤の致死作用は後食により経口的に取り込まれた薬剤によって発現しているものと思われた」と書かれています。
 1992年に出された「マツ材線虫病」(真宮靖治他 日本線虫研究会」には、それまでの膨大な研究がレビューされていますが、そのなかではっきり「マツに対してあらかじめ殺虫剤を散布し、薬剤の付着した枝を後食するカミキリを防除する」と書かれています。他にも多くの同様の記述があります。
 この理論に従って、農薬空中散布が「予防散布」として実施されるようになったのです。そして、このような防除方法を画期的として自慢してきたのです。本当に小林座長は後食理論を知らなかったのでしょうか。唖然とせざるを得ません。
★林野庁まで知らないとは・・・
 さらに、農薬空中散布の元締の林野庁が、マダラカミキリが薬剤に接触して死ぬのか、食べて死ぬのかわからないなどと言出しました。後食理論を否定するような基本的なことがわからなくなってきているのなら、即刻、空中散布にしろ地上散布にしろ薬剤散布は止めるべきです。無人ヘリ導入も当然やめるべきです。

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作成:2005-11-26