空中散布・松枯れにもどる
t17202#無人ヘリ導入のための第3回林野庁検討会〜健康被害調査のひな形を作ったらどうかと委員から意見#05-12
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       10月25日:第2回の概要配布資料一覧 議事録
       12月 7日:第3回の概要配布資料一覧 議事録
        2月 3日:第4回の概要配布資料一覧
12月7日、林野庁の第3回「無人ヘリによる松くい虫防除に関する運用基準作成のための検討会」が開かれました。2回目では、私たちも参考人として意見を述べましたが、今回は、今までの論点整理ということで、主に、私たちの意見に対する反論が林野庁から資料として出されました。以下、林野庁の論点整理の問題点をみていきましょう。

★無人ヘリの利点のみ強調
 まず、無人ヘリ散布の利点として、効率の向上、環境等への負荷の軽減、労働安全衛生の改善があげられています。私たちが、主張した健康被害や環境汚染の指摘については全くの無視でした。  この点に関しては、後の討論で、千葉大の本山教授から「利点はわかったが、欠点がでていない。無人ヘリの事故の割合は有人ヘリに比べて多いのかどうか」という質問がありました。林野庁の佐古田森林保護対策室長は、5年間をリストアップして調べたが、人身事故は有人ではゼロで、無人では平成15年に右足切断という事故があった。また、物損事故では有人が5件、無人が7件だったと報告しました。

★接触で死ぬのもあると訂正
 前回問題になったマツノマダラカミキリは経口で死ぬのか、接触で死ぬのかという点についての林野庁の考え方が書かれています。
 MEP乳剤については、従来、散布された松の枝をマダラカミキリが食べることによって死ぬとされてきましたが、今回からは、接触によって経皮的に死亡することがあると付け加えられました。これの論拠として林野庁があげてきたのが「マツノマダラカミキリに対する有機リン単剤と有機リン・EDB混合剤の殺虫力の比較」という1975年の、古い論文ですが、この論文はMEPの経口毒性と接触毒性を実験的に比較しただけで、実際に散布されたMEP を経皮的に摂取して死亡するというものではありません。
 その後、後食理論が出てきて、接触毒性もガス作用も否定されているのですが、そこは林野庁は無視しています。(ちなみに、松枯れ防除に関する論文は1995年の「保全松林の総合的管理手法の開発調査」(座長)という報告書に付属資料として実に2310の論文が参考文献としてあげられています。こんな膨大な研究が行われているわけですが、唯一持ち出してきた論文もMEPの経皮的殺虫効果を謳ったものではありません。
 私たちは別にマダラカミキリが農薬を食べて死のうが、接触して死のうがどちらでもいいのですが、林野庁が食べさせて殺すと何度も主張してきたことをどう考えるかと問うているのです。今更、接触(経皮)でも死ぬなどと言い始めるのなら、今までの後食理論をどう反省するのか聞きたいものです。

★マダラカミキリはいつどこで死ぬのか
 この質問は、マダラカミキリが死んだという証拠を見せてほしいと私が質問したのですが、林野庁は、一律に示すことはできないが、薬剤の散布直後に接触又は後食を開始した場合には2〜3日以内で、散布後一週間の枝葉を食べた場合では一週間以内に死亡すると考えられると書いています。
 では、カミキリの死骸は見つかっているかということですが、これもまた、非常に古い論文で1980年の「MEP空中散布におけるマツノマダラカミキリのひろいとり調査」が紹介されています。この論文は小林氏も共著の一人です。私たちは、昔から市民団体が拾い取り調査をしてマツノマダラカミキリの死骸が見つからないという報告をたくさん受けているため、以前から林野庁にマダラカミキリが死んだという証拠を見せてほしいと何度も要望してきました。いつも出てくるのはこの論文一つです。
 しかし、その後、毎年、いくつかの県で空中散布をした後、環境調査をしていますが、マツノマダラカミキリが見つかったという報告はありません。納得できない説明です。

★気中濃度と飛散量は違うのに
 論点整理では環境等への影響として「飛散に関しては有人によるものと無人へりによるものでは違いがあるとは言えないのではないか」という意見と反論が書かれています。おそらく私の意見だろうと思いますが、私が述べたのは、気中濃度の比較です。気中濃度に関しては有人も無人も同じような濃度であると意見を言ったわけです。飛散量の比較は、無人ヘリの飛散量のデータがなくてやりたくてもできません。林野庁は「有人ヘリと比べて薬剤の飛散を大きく抑制することが可能であると考えられる」という結論です。机上の計算はいいから、データを出してください。それから、故意か誤りか知りませんが、気中濃度と飛散量を混同して、意見を「偽装」しないでほしいと思います。

  ★健康被害調査の必要性を指摘する委員
 健康被害の問題点。「保育時間中に幼稚園から45mしか離れていない松林で薬剤散布するのは問題ではないか」という意見に対する考え方として、@環境省の評価値を超える濃度は確認されていない。Aそのため、幼稚園から45mの距離で散布しても直ちに健康への悪影響があるとは考えられない。Bただし、曝露量を低くするよう周知徹底に努めることが望ましい。というものです。前回、幼稚園の子供に健康被害があったとわざわざ浜松から出てきて訴えた桑原さんの意見はなかったものとしています。
 この点について、さすがに、討論の時に委員たちから意見がだされました。
 まず、農業・生物系特定産業技術機構の井上委員が「(健康被害)アンケートはやり方もまちまちだ。どう利用するかと言うことも含めて、ひな形になるようなものをつくっておいて、何かあったときに参考にしてアンケートをやるということにすれば、その後の統計処理にいいと思うが、そういう必要性はないか」と口火を切りました。島根大学の山本教授は「アンケートの中身だけじゃなくてサンプルをどう集めるか、どういう状況で比べるかということを含めたひな形か」と聞き、それはいいのではないかという雰囲気でした。
 室長は「周辺に健康被害があったかなかったかを調べるのか」と驚き、しばらく議論が続いた後「そこまで考えていない。健康被害があるかないか調査する必要性はない。」と述べました。これに対して山本教授は「林野庁だけでやるのは難しいかもしれないが、あちこちで健康影響があるという調査が出てくる中で、ただ、指針値以下だから大丈夫だばかりではすまされない。」と述べると、室長は「現時点では健康調査のアンケートは考えていないが、絶対やらないと言う意味ではない。検討したい」と述べました。
 この議論を聞いていて、前回の浜松からの訴えはある程度、委員の中に届いていたのだなと理解しました。アンケートのひな形を作るということは、健康被害があるという前提にたっているわけで、それを否定するにしも肯定するにしても、自分たちが何のデータも持っていないということを認めたわけです。
 しかし、浜松市の市民団体の健康被害アンケート調査については、林野庁は、「県に聞いたら健康被害は確認されなかった」と、またもや書いています。県の聞き取り調査については、前回の参考人の資料で完膚無きまでに批判し尽くしているのですが、自分達の気に入らないことは、聞く耳持たぬということでしょうか。

★化学物質過敏症患者には特別の周知を
 無人ヘリ散布のお知らせがなかったという前回の指摘に対して、林野庁は「無人ヘリコプター利用技術指導指針」や「農水省の住宅地等における農薬使用について」をあげ、十分指導していると書いています。この点に関しても委員の議論がありました。
 山本教授は、「周辺の環境や住民の健康に留意すると書かれている中身だが、あらかじめ、化学物質過敏症を行政が把握して特別の周知が必要があるのではないか。そうでないと、一般的な注意ではだめだ。どこまで配慮するか中身を検討すべきではないか」と提起しました。
 室長は、感受性の高い人をどうするかは織り込み済みだが、具体的にどうするのかは個別に違うので明記は難しいと述べました。香川教授は、こういう人がいるという前提で対処する必要があると念を押しました。
 香川教授は、住民からの被害届を受ける窓口が必要だ。曝露した住民が届け出しやすいところを周知するような仕組みが必要だ。住民からの情報提供がスムーズに行われるようにすべきだと述べましたが、室長は、平成9年の林野庁の事務連絡を持ち出して、それもちゃんとやっていると述べました。
 室長は知っているでしょうか。この事務連絡を出させるために、農薬空中散布反対全国ネットワークがどんな苦労をしたか。ちゃんとやっていると自慢なさるのなら、都道府県に守らせるための努力をもっとやるべきです。
 本山教授は、予測しなかったことがあるかもしれないので、常にモニタリングが必要であるとパラチオンの例をあげて述べました。無人ヘリ散布は現状では問題ないと思うが、パラチオンのような死亡事故が多発することがないよう、十分監視していく必要があると。
 このほか、落下板で飛散量を測ることはできないとの本山教授の指摘などあります(このことはもう30年も前から私たちが指摘していたことです)が、総じて、林野庁の用意した論点整理は、ようやく松枯れ防除のための薬剤散布のおかしさに気付いてきたらしい委員たちの意見で訂正せざるを得なくなりました。室長は、今回の論点整理は案としてhpに公表するが、今日の意見を取り入れてもう一度、作り直したいと総括しました。どうなるか注目していきたいと思います。

★予算の8割は地方に移譲   −省略−


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作成:2006-05-26