街の農薬汚染にもどる
t17703#薬事法の殺虫剤規制は問題だらけ
まず、情報公開を−参議院厚生労働委員会で質疑#06-05
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【参考資料】谷参議院議員の厚労委員会での質疑
★衛生害虫駆除剤は規制が甘い
殺虫剤のうち、衛生害虫(カ、ハエ、ゴキブリなど感染症を媒介するなど人に危害を与える昆虫)駆除のための防疫用殺虫剤や、家庭用の殺虫剤は、薬事法で規制されることになっています。ところが、薬事法は人の病気を治すために使われる薬が主な対象であり、殺虫剤などは規制の枠が違います。そのため問題が山積しており、てんとう虫情報でも何度か取り上げました。
衛生害虫駆除の殺虫剤は、薬事法で承認されたものでなければなりません。医薬品と医薬部外品があります。以下、これらを「医薬品殺虫剤」と呼びます。これらは農薬とほとんど同じ成分であり、農薬より身近な生活環境で使用するものですが、承認時の毒性評価は非常にいい加減なものです。また、農薬なら劇物と指定されていても、医薬品殺虫剤では劇薬でないなど、農薬に比べて規制が甘いといえます。
こうした薬事法の問題点について、4月13日に、参議院厚生労働委員会で民主党の谷博之議員が質問しました。その内容に沿って薬事法の問題点と厚労省の回答を紹介します。
★毒劇法と薬事法で異なる判定基準
まず、同じ成分であっても、薬事法と毒物劇物取締法(毒劇法)では、規制が違います。毒劇法で毒物や劇物に指定されると購入するときに住所氏名印鑑が必要になるなど、さまざまな規制があります。しかし、毒劇法で指定された同じ成分が薬事法では濃度が高く設定されていたり、指定されていないなど総じて薬事法の方が規制が甘いといえます。例をあげます。
薬剤名 薬事法 劇毒法
MPP 5%超えるものは劇薬 2%超えるものは劇物
プロポクスル 1%超えるものは劇薬 1%超えるもの劇物
DEP 20%超えるものは劇薬 10%超えるもの劇物
DDVP 5%超えるものは劇薬 劇物(すべて)
クレゾール石けん液 劇薬指定なし 濃度5%超えるものは劇物
★住居内で使うから規制は緩くていいと厚労省
何故、同じ薬剤がこのように違うのでしょうか。中央薬事審議会常任部会(平成10年3月12日)の毒薬劇薬の判定基準は、急性毒性(概略の致死量=半数致死量を推定したもの)によって決められていますが、経口投与の場合、毒薬が30mg/kg以下、劇薬が300r/s 以下のものとなっています。
ところが、毒劇法では動物実験の結果、LD50(半数致死量)がひとつでも毒物相当であれば毒物に、劇物なら劇物に指定するとあります。経口毒性に関する判定基準は、毒物がLD50が50mg/kg以下のもの、劇物がLD50が50mg/kgを越え300mg/kg以下のものとなっています。数字が少ない方が毒性が強いわけですから、薬事法の方が判定基準が緩いと言えます。
なぜ、このような違いがあるのか谷議員の質問に対して、福井和夫厚生労働省医薬食品局長は驚くべき答弁をしてます。
「薬事法におきましては、これは主に住居内で使用される殺虫剤、これを薬事法では対象としているということでございますが、毒物及び劇物取締法におきましては田畑等に広く散布され使用される農薬たる殺虫剤を対象としておるということでございまして、その使用形態が異なっているということでございます。」
住居内で使用されるものの方が、田畑で散布されるものよりも規制が甘くていいということです。普通、人は反対のことを考えますが、厚労省の常識では、信じられないことがまかり通っているわけです。
谷議員は、人体に対する有害性を考えた場合に、医薬品にしても、農薬にしても同じものであれば統一的に基準を作るべきじゃないかというふうに思うがどうかと続けましたが、福井局長は統一する必要はないと答えています。
★殺虫剤の再審査はなかった
さらに、農薬は3年ごとの再登録があるが、医薬品の殺虫剤に、再審査はあるのかとただしました。福井局長は「これまで、毒性試験等によって新たな知見等が得られた例がなかったということもございまして、殺虫剤の劇薬の指定を変更するといったようなことはございませんでした。」と答弁しています。知見がない? 冗談じゃありません。つい最近でもDDVPやディートの使用基準を変えたばかりじゃありませんか。大臣は、知見があれば専門家の意見を聞きながら適切に見直していくと答弁しています。そうなると、知見とは何かが問題になるのでしょうか。
★タンチョウ死亡原因のMPP
谷議員は、タンチョウの死亡原因として特定されたMPP(フェンチオン)の例をあげて(記事t17605参照)、農薬だと厳しい使用基準があるが、医薬品殺虫剤にはないのではないかと質問しています。これに対して川崎厚労大臣は、「家庭用殺虫剤について使用者の適正使用に資するため、その用法用量、使用上の注意等、直接の容器や添付文書に記載することなどを義務付けてはおります。しかし、もう少ししっかりせいということでございますので、どういう形で再度徹底するか考えさしていただきたいと思っております。」と、薬事法の用法用量の遵守のしかたを考えると答弁しました。用法用量を守らないで、室内に殺虫剤を散布し、健康被害を受けた被害者が多数いることを考えれば、早急に罰則付の規制をしてほしいものです。
★薬局などに指導すると約束
谷議員はさらに、タンチョウが死亡した地域の薬局なりに、厚労省として指導すべきではないかと質問しました。これに対して、福井局長は、タンチョウの死亡原因が医薬品殺虫剤であるとは断定できないとした上で、大臣の答弁もあるので、当該地域で殺虫剤を販売している薬局、あるいはこの殺虫剤を業務として使用する防疫業者を対象に必要な対応を取るということになるのではないかと、答弁をしています。
4月28日に、環境省釧路自然環境事務所は道東地区のJAや市町村長に、堆肥場の害虫駆除のためにフェンチオンを使用しないよう要請文を出しましたが、厚労省は5月12日現在、まだ何もしていません。
★承認殺虫剤のリストも非公開だった
驚くべきことに、医薬品殺虫剤のリストは厚労省にはないのです。何が承認されているのかすら一般人にはわかりません。わずかに、じほう社が2年に1回「一般薬日本医薬品集」を発行していますが、これとて、最新版が2005年です(2006-09-10に2007年版は出版、別にCD-ROM版あり)。谷議員は「1990年の殺虫剤指針で公開されている殺虫剤リストには、商品名と成分名、メーカー名、用途、用法用量、承認年月日がすべて明記されていないと聞いておりますが、この辺の事実はどうですか」と質問しています。これに対して福井局長は「殺虫剤指針につきましては、個別の製品についての情報開示を目的とするものではないということで、商品名あるいはメーカー等についてはリスト化した形での開示は行っていないものでございます。」と認めました。
谷議員の公開されていない部分について明らかにすべきではないかとの質問に、川崎厚労省大臣は、医薬品医療機器総合機構のホームページで医療用の医療品を対象にその公開を進めているとして、「殺虫剤を含む一般用医薬品についても、今年度中に同様の情報提供を行う準備を現在進めてきております。殺虫剤を含む一般用医薬品についての情報提供について努力をしてまいりたいと考えております。」と情報公開について前向きの答弁をしました。それにしても、今まで、リストすら公表してこなかった厚労省の責任は重いと思います。
★休眠状態の殺虫剤指針検討会
殺虫剤指針というのは、医薬品殺虫剤が人間の薬とは違うため、特別に作られた指針です。これに沿って殺虫剤等の製造(輸入)承認申請がなされます。最初に1978年に作成され、1990年に改定されています。ところが、90年指針は用法用量、使用上の注意などが削除され、試験方法と各薬剤の性状、定量法などしか書かれていません。
これでは一般の市民には何の役にも立ちません。また、医薬品の殺虫剤は最初に承認された時点で評価されたままで、同じ成分ならそのまま承認されることになっています。たとえば、スミチオンの毒性資料は30年前のものが通用しているわけです。しかも、5年以上経てば毒性資料は廃棄されますから、承認当時の資料は厚労省にはありません。
あまりのずさんさに用法用量や使用上の注意などをきちんと書いて、散布時の規制につなげるべきとして、要望した結果、厚労省は2002年に殺虫剤指針検討会を設置しました。ここで、指針の改正すべき事項や安全性などを検討することになっていました。ところが、この検討会は2003年に「殺虫剤の室内空気中の濃度測定方法ガイドライン」(薬食審査発第0728001号)を出しただけで、休眠状態になりました。
★これからまじめにやると厚労省
この点について、谷議員はこの検討会は「例えば、第一作業部会は昨年度開催ゼロ、それから第二作業部会は一回、第三作業部会も一回、このようにしか開催されておりません。・・昨年度は特にほとんど開催されていません。」と指摘し、どうするつもりかただしました。福井局長は「今後ということになりますれば、この検討委員会、今後更に積極的に開催いたしまして、指針の改訂等の検討を進めていきたいという具合に考えておるところでございます。」とお座なりな答弁をしています。
さらに、追究されると、「やはり化学物質の安全性に対する社会的な関心の高まりというものがあるわけでございまして、私どもはこの検討状況でいいという具合には思っておりません。そこで、先ほど委員御指摘の話も踏まえまして、今後はもろもろその課題を設定をいたしまして、これを積極的に開催をしていくということでもって対応させていただきたいという具合に考えております。」とようやく、検討会を積極的に開催すると答弁しました。
★薬事法で殺虫剤の規制は無理
しかし、薬事法の中に殺虫剤があること自体に違和感がある。対象も規制の方法も全く違うのですから、薬事法から殺虫剤や殺菌剤を切り離し、新しい法律で総合的に規制すべきではないかと考えます。以下は、現行の殺虫剤指針から削除された殺虫薬の使用上の注意です。
【殺虫薬使用上の注意】日本医薬品集一般薬(日本医薬品情報センター編、じほう社発行参照)−省略−
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作成:2006-10-26