室内汚染・シロアリ駆除剤にもどる
t18001#ねずみ・こん虫駆除に関するIPM施工の研究報告でる−厚労省科学研究の補助金事業〜絵に描いた餅にならなければいいが#06-08
 2003年に建築物における衛生的環境の確保に関する法律(建築物衛生法、ビル管理法)が改定され、それまで6ヶ月ごとに定期的にネズミ・昆虫の駆除をしなければならないとなっていたのが、6ヶ月以内ごとに1回(食品関係は2ヶ月ごとに1回)、生息調査をした上で、適切な措置をとることになりました。
 害虫がいなくても殺虫剤散布が実施されていたのに比べると、まず、生息調査を行うというのは一歩前進でしたが、では、調査してどのくらい虫がいたらどう対処するのかという肝心の点は不明のままでした。実際には調査をしてゴキブリなどがいなかったとして、殺虫剤散布が中止になった事例も結構ありますが、厚労省は、2003年度から2005年度にかけて、厚生労働科学研究費補助金健康科学総合研究事業として「建築物におけるねずみ・害虫等の対策に関する研究」に補助金をだし、研究が行われました。主任研究者は日本環境衛生センターの田中生男さんで、法改定に先立って設置された「建築物衛生管理検討会」の委員もやっていました。このほど、3年に及ぶ研究の報告書が発表されました。(厚生労働科学研究成果データベースより、”田中生男”で検索すると報告書がヒットします。)

★IPMの防除体系確立をめざす
 研究報告のまとめでは、従来の殺虫剤中心の防除体系では、@健康被害の訴えが増えた。Aネズミ、ゴキブリ、蚊などに薬剤抵抗性が発達してきたなどの理由で、殺虫剤中心の防除体系を見直す必要が出てきたとしています。
 目的として、@建築物内におけるネズミ・害虫の発生実態調査、A関係者の被害観や問題点の洗い出し、B調査方法とそれに基づく効果判定法の検討、C薬剤の効力や評価に関する基礎的な検討、DIPMによる防除体系を確立し、特定建築物の快適な生活環境を維持することを目指した、とあります。
 報告では問題の多い種として、チカイエカ、チャバネゴキブリ、クロゴキブリ、コバエ類(チョウバエやノミバエなど)、イエダニ、ドブネズミ、クマネズミをあげています。新しい問題として、屋上緑化のビルでは昆虫類が下部に分布を広げた例があるので、今後、考慮に入れるべきとしていますから、懸念材料が増えることになります。

以下に、その要点を紹介します。

★IPM施工の手順
 1)全体を統括する責任者をIPMコーディネーターとして任命し、担当者との役割
   分担を決定する。
 2)該当建築物・該当場所の維持管理基準を設定する。
 3)調査を実施し、どの基準値(快適・警戒・措置基準)に該当するか明らかにする。
 4)必要な措置を実施する。措置の内容は維持管理基準に示された内容とする。措置
   基準を超えた区域については、発生源対策や侵入対策を行うほか、薬剤やトラッ
   プを使用して防除作業を実施する。薬剤を使用する場合は散布する範囲をできる
   だけ限定し、リスクの少ない製剤や方法を優先させる。
 5)薬剤を使用する場合は、事前に当該区域の管理者や利用者の了解を得て実施し、
   処理前後3日間はその旨の掲示を行う。
 6)効果判定を行い、基準をクリアーしたかどうかを確認する。
 7)すべて記録をとり保存する。
 〔コメント〕IPM施工の手順は以上のような内容ですが、まず、実施のための組織作りをして、責任者としてIPMコーディネーターを任命するとありますが、建物の管理責任者かPCO関係者が不明であるうえに、IPMに詳しい人がどれだけいるのか、疑問です。まず、IPMコーディネーターの養成から始めなければならないでしょう。
 また、薬剤を使用する場合は、処理前後3日間、その旨の掲示を行うとありますが、薬剤使用時の室内殺虫剤濃度の測定がなされていません。データなしに決めたのでしょうか。
 さらに、調査に時間をかけているのは当然と思われますが、その間、誰が費用を持つのか、これも不明です。大変立派な内容と思われますが、実際にこれで防除業者がやれるのか、モデルを実際にやってみたのか、疑問です。これでは絵に描いた餅になるのではないでしょうか。

★ゴキブリのIPM施工実施モデル
 IPM施工ガイドラインに基づく実施モデルの代表的な例としてネズミ、ゴキブリ、蚊が載っています。そのうち、ゴキブリについて紹介します。
   1,生息調査(詳細略)
    1-1 目視調査
    1-2 トラップによる調査
    1-3 聞き取り調査

   2,環境調査
    2-1 環境整備状況調査
     @清掃状況(詳細略)
     A整理・整頓状況
     B食品管理状況
     C厨芥類の処理状況
    2-2 施設・設備の状況調査

   3,維持管理基準
    以下の基準を確認する。
    ○快適基準:以下のすべてに該当すること。
     @トラップによる捕獲指数が0.5未満
     A一個のトラップに捕獲される数は一日あたり1匹以下
     B生きたゴキブリが目撃されない。
    ○警戒基準:以下のすべてに該当すること
     @トラップによる捕獲指数が0.5以上1未満
     A1個のトラップに捕獲される数は1日当たり1匹以下
     B生きたゴキブリが時に目撃されるが、トラップに捕獲されない。
    ○措置基準:以下の状況のいずれか1つ以上該当すること
     @トラップによる捕獲指数が1以上
     A1個のトラップに捕獲される数が一日当たり2匹以上
     Bトラップには捕獲されないが生きたゴキブリがかなり目撃される。
     注:捕獲指数は、配置したトラップ10個までは上位3つまで(0を含む場合
       もある)、それ以上配置した場合については、上位30%のトラップを用
       いて、一日当たり1トラップに捕獲される数に換算した値で示す。

   4,事前調査記録書の作成(詳細略)

   5,防除作業
    5-1 環境的対策
    (1)食物管理
     @野菜等を冷蔵庫や密閉されたキャビネットに収納する。
     A厨芥類は始末し、使った食器などは、洗浄後、戸棚に格納する。
    (2)清掃管理
     @厨房の床は就業時間後に清掃し、厨房器具の上部、下部や裏側に食物残渣を
      残さないよう片付ける。床の水分も拭き取る。
     A排水溝やグリストラップを清掃し、厨芥類は処分する。
     Bゴミ箱は集合時間後に洗浄し、内部に厨芥類を残さない。
    以上の環境的対策は、原則として建築物衛生管理権限者の責任の下で行わなけれ
    ばならない。
    5-2 防除作業
    (1)吸引掃除機によるゴキブリの吸引
     @生息場所が比較的わかりやすく、掃除機のノズルの先が届くところでは、
      生息ポイントをはずさないように掃除機でゴキブリを吸引する。
     A観察して、まだ残っているようであれば、吸引を繰り返す。
    (2)殺虫剤による防除
     ・事前通知
       薬剤を処理する場合は、少なくとも3日前までに使用薬剤名、実施場所、
       においの程度、実施3日後まで当該場所入り口に掲示しておく。
     ・ベイト(毒餌)の配置
     @食品類など餌になるものを整理した後、発生予防的効果を期待する場所も
      含めて、少量ずつ各所に毒餌を配置する。
     A毒餌の残量を数日ごとにチェックし、なくなるようであれば追加配置する。
      ジェルベイトでも同様に実施する。
     ・環境整備、掃除機の吸引や毒餌配置で十分な効果が出ないときは、水性乳剤
      や懸濁液(MC剤)などのリスクの少ない剤型を選択し、安全に十分配慮し
      つつ、隙間などを重点に散布処理を行う。
     ・環境対策が併せて行われたかどうかをチェックし、必要な事項をアドバイス
      する。

   6,効果判定と事後処理
    @事前調査と対照しながら効果判定を行い、有効性の検証や事後の防除の参考と
     する。
    A判定の結果、基準を満たしていない場合は、調査の上、再処理を行う。
    B薬剤の効果が不十分と思われるときには、ゴキブリを採集して、毒餌の喫食性
     や抵抗性獲得の有無を調査する。

   7,記録と結果の報告
    一連の結果を記録し、問題点があれば明らかにして関係者に報告する。
★10月に勉強会をします
 室内のネズミやこん虫駆除に関するIPM施工の具体的な方法の提示は今回が初めてと思われます。その意味ではようやくIPMが俎上に上ってきたと言えるでしょう。
 報告書全体に言えることですが、できるだけ、殺虫剤散布を避ける努力をする方法が提案されています。しかし、果たして今の防除業者の水準で、これが実行できるでしょうか。昔と変わらず闇雲に殺虫剤を散布している防除業者が圧倒的に多いからです。
 たとえば、今号にも載っていますが、座間市の例では、ありとあらゆる市の施設で室内殺虫剤散布が行われています。老人施設だろうと、小中学校であろうと、市民健康センターであろうとお構いなしです。おそらく生息調査もやってないと思われます。業者任せにしているのでしょう。
 そうは言っても、せっかく3年もかけて多数の研究をして、アメリカ視察までやってできた報告書です。厚労省は未だにこの報告書をどうするか決めていません。室内殺虫剤散布をなくそうとしている私たちにとって、いい検討材料だと思います。
 6月に出された法案「害虫等防除業者の業務の適正化に関する法律案」とからめながら、実情を踏まえ、この報告書を含めて昨年行った勉強会の続きとして10月頃に第2回目の勉強会を開催したいと思います。詳しい内容は次号で。


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作成:2006-08-26