残留農薬にもどる
t18101#飛散防止の農水省3局長通知は末端では無視〜農水省、飛散のトラブルは当事者で話し合えと無責任回答#06-09

 山口県で無農薬無化学肥料栽培をしているAさんから、自分の田んぼで草取りをしていたら隣の田んぼで農薬散布をされて、稲はもとより本人も頭から農薬をかけられたという相談がありました。幸い、直ちに農薬を洗い流したため健康被害はなかったようですが、こんなことをされたら、米は無農薬として売れません。
 今年の5月から残留農薬のポジティブリスト制が導入され、農水省の消費・安全局長、生産局長、経営局長が連名で、飛散防止をするよう何度も通知を出しているのに、末端では何も知らないようです(記事t17702>、記事t17802参照)。
 最初に出された三局長通知(2005年12月20日付け)には、都道府県の指導体制のもとに病害虫防除所、普及指導センター、市町村等が連携して飛散防止対策に取り組むこととあります。また、個々の農業者が行う飛散影響防止の対策として、周辺の栽培者に事前に周知する、最小限の農薬散布に留める、風向き等に注意するなど具体的に書かれています。この通知を守ったら、上記のような理不尽なことは起こらないはずです。
この通知をAさんに送って、関係機関にきちんと指導するよう申し入れたらどうですかと伝えました。
 翌日、Aさんから電話があって、個々の農家が行うべき対策の最後に、農薬散布者はいろいろやったうえで、やむを得ないと判断される場合には、周辺農作物の栽培者に対して収穫日の変更、圃場の被覆等による飛散防止対策を要請する、とあるが、これは周辺の農家が飛散防止対策をしなければならないのだろうかと質問がありました。
 農薬空中散布に関しては、日本有機農業研究会と反農薬東京グループなどが2000年から2年にわたって農水省と交渉し、飛散など危害防止は空散実施者の責任であることをはっきりさせました(記事t11801記事t12703記事t12704参照)。地上散布でも当然です。
 たしかに、この通知の文章はおかしいので、8月18日付けで有機農業研究会と反農薬東京グループは連名で農水大臣に質問と要旨以下のような質問と要望を出しました。回答は8月29日にきました。質問と回答をそれに対するコメントを載せます。
                 質問と要望

<質問1>周辺の被害を受けるかもしれない栽培者に対して、収穫日を変更させるよう要
 請するとありますが、収穫日の変更による損害は誰が補償するのですか。

【回答】
 昨年12月20日付けの「農薬の飛散による周辺作物への飛散防止対策について」の別
 紙2の(2)のDは、病害虫防除については、(1)総合的病害虫・雑草管理(IPM)
 の取組に努め、(2)の@〜Cの対策により散布者が出来得る限りの方策を試みた上で、
 それでも飛散の危険があるという場合、自ら散布日の変更を行い、次のステップとして、
 実際に飛散を被る可能性のある周辺作物の栽培者に対し、「ある特定の日に農薬を散布
 せざるを得ないが、飛散する可能性がある。ついては、残留の危険がないよう収穫日を
 ずらしていただけないか。」というように協力を求めるという意味です。決して安易に
 予定日前の収穫等を求めるということではありません。
  栽培地が隣接している以上、農薬を散布した場合の飛散という問題は絶対避け得ると
 いうものではありません。散布をする側はもちろんのこと、飛散を受ける可能性のある
 栽培者も自分の作物を飛散影響から守る努力をして頂きたいと考えます。まず、農薬散
 布者が特に注意して散布し、その上で前述のようなことを提案し、後は双方での話し合
 っていただくことを想定しています。散布される側の収穫日が変更することで損害が生
 じることを想定して規定しているものではありませんが、できる限り双方が納得のいく
 方法を取って頂くようお願いしています。

<コメント>
 別紙2(2)のには@「周辺農作物の栽培者に対して、事前に、農薬使用者の目的、散
 布日時、使用農薬の種類等について連絡する。A当該病害虫の発生状況を踏まえ、最小
 限の区域における農薬散布に留める。B農薬散布は、無風又は風が弱いときに行うなど、
 近隣に影響が少ない天候の日や時間帯を選ぶとともに、風向き、散布器具のノズルの向
 き等に注意する。C特に、周辺農作物の収穫時期が近いため農薬の飛散による影響が予
 想される場合には、状況に応じて使用農薬の種類を変更し、飛散が少ない形状の農薬を
 選択し、又は農薬の散布方法や散布に用いる散布器具を飛散の少ないものに変更する」
 とあります。
 回答では、安易に予定日前の収穫を求めていることではないと言っておりますが、なぜ、
 農薬を撒かれる側が相手の都合に合わせないといけないのでしょうか。農薬散布して飛
 散させるのは使用者の責任であり、被害を受ける側に対策をとれというのは納得できま
 せん。
 これでは、最初から当事者同士の話し合いでやってもらい、行政は高見の見物という構
 図ができあがります。
 また、回答では、隣り合った農地では飛散は避け得ないとしています。つまり、上記@
 からCを厳密に守ったとしても、隣接農地へ飛散すると言っているわけです。どのくら
 い飛散するかきちんとしたデータをとって農薬使用者が緩衝地帯を設けるべきです。か
 ならず飛散するから、飛散される側も自分の農産物を守るために手をうてというのは、
 あまりにも無責任です。
 隣接する圃場が農薬使用するのなら、お互いということもあり得ましょうが、無農薬で
 栽培している者にとって、飛散しあうなどと言うことは一切ありません。空中散布同様、
 農薬使用者が最後まで責任をとることを明記すべきです。

<質問2>被覆等するよう要請するとありますが、その場合の費用は誰が持つのですか。

【回答】
 基本的には散布者がまず考慮すべき問題ですが、自らの作物を守る観点からの自主的な
 対策を行うという側面もあると思います。最終的には双方の話し合いになるものと考え
 ます。

<コメント>
 冗談じゃありません。明らかに農薬使用者が被覆等の作業や費用は持つべきです。双方
 の話し合いとなれば、大多数の農薬使用者が優位に立っている現状から、有機農業や無
 農薬栽培者は不利になります。そもそも、農薬使用者が被害を与えるのですから、被害
 が出ないよう対処するのは当然のことです。

<質問3>適用外作物への農薬飛散防止対策の責務は、農薬使用者にあることが明確にな
 るよう Dの文章を修正してください。

【回答】 農薬取締法では、「農薬使用者の責務として農薬の使用によって農産物等の汚
 染によって人畜に影響を与えることがないよう努めること」とされており、飛散の低減
 にも努力することとなっています。通知Dの文章においても前述のとおり、まず散布者
 が飛散防止のための努力をし、その上でやむを得ない場合にのみ周辺作物栽培者への協
 力を要請することを想定しています。

<コメント>
 だから、最後まで農薬使用者の責任を明記してくれと言っているのですが、どうしても
 被害者の協力を要請するとしています。これでは、「農薬使用者の責務」が泣きます。

<質問4>貴省が農薬ドリフト防止対策を指導するパンフレットには、「まわりの作物に
 も登録のある農薬を使用する」とか「出来るだけ隣接する作物に共通して基準のある農
 薬を使用しましょう。」 との文言がみられますが、これは、ドリフト防止対策ではな
 く、ドリフトしても、基準超えにはなりにくく、流通には差し支えないという、いわば、
 食品衛生法対策のごまかしとしかいえません。消費者は、たとえ残留基準や一律基準以
 下であっても、ドリフトによって残留した農薬をよけいに摂取することになります。行
 政が、消費者を無視して、このようなごまかしを推奨することは許せませんし、なによ
 りも、貴省のドリフト防止対策をきちんと守ろうとする農業者の足をひっぱることにも
 なりかねません。
 上記のようなドリフト対策を撤回し、農業者に対しては、緩衝帯の距離をどの程度にす
 ればよいか、防護柵はどのようなものがよいかなど、ドリフト防止の具対策をきちんと
 示してください。

【回答】 ポジティブリスト制度が施行されたことによって農業者に農薬飛散に対する不
 安感が広がっていますが、農業者が必要以上に不安感を抱かないように、周辺作物にも
 広く適用のある農薬を使用するように指導しているところです。
 また、設定されている基準値については、食品安全委員会による評価を受けているので
 基準値を超えなければ安全上の問題は生じません。これは、あくまで種々の対策を行っ
 たとしても飛散が生じたときのためのものであり、もちろん過剰な農薬使用を推奨する
 ものではありません。
 なお、具体的な飛散低減対策については、
 社団法人日本植物防疫協会作成の「地上防除ドリフト対策マニュアル」等を参考に
 地域の実状に応じた対応を指導しているところです。

<コメント>
 基準値はすべて食品安全委員会で評価されているわけではありません。農水省は農薬を
 できるだけ使用しないようにと言っていますが、その理由は、人々の健康被害や、環境
 汚染を防止するというのではないようです。要するに、ポジティブリスト制に違反しな
 ければいいのであって、基準値内なら農薬が飛散してもかまわないというわけで、現に
 あちこちで何度も繰り返しています。このような認識では困ります。
 植物防疫協会の「地上防除ドリフト対策マニュアル」には、葉菜類の場合、風下20m
 (スピードスプレーヤーの場合は50m)程度までドリフトのリスクがあると言ってい
 ます。その低減対策として、風のない時に散布する、ドリフト低減ノズルを使うなどい
 ろいろあげています。そして、補完的な対策として、数メートル程度の緩衝地帯の設置
 もあげられています。「スピードスプレーヤーの場合、果樹園の周囲5mの区域は最低
 限の緩衝地帯と考え」とあります。
 しかしこのマニュアルは指導者向けのものであって、実際に農薬使用をする人に届いて
 いるか不明です。いくら、立派なことが書かれていても、守られなければ意味がありま
 せん。また、このマニュアルには、環境省の委託研究として実施された飛散量の調査結
 果などが出されていますが、環境省は原報告を未だに公開していません。このような
 データがあるのなら、ただちに公開して対策をとるための資料にすべきではないでしょ
 うか。
 
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作成:2006-09-26