農薬空中散布・松枯れにもどる
t18405#環境省「農薬残留対策に関する総合調査結果」より(その3)空中散布による汚染調査#06-12
【参考資料】環境省:農薬残留対策に関する総合調査
【関連記事】その1:圃場での農薬のドリフト試験、その2:河川水と魚介類における農薬残留#、
最終回:土壌汚染の調査
環境省の調査から、今回は、有人ヘリコプター及び無人ヘリコプター農薬空中散布による大気汚染とドリフトの報告を紹介します。
★有人ヘリ:阿久根市での気中濃度
有人ヘリの試験は鹿児島県阿久根市の140haの水田で実施されました。03年は、水稲のウンカ対策用殺虫剤アプロードゾル(ブプロフェジン40%含有)が使用されました。散布地域内でも地域外100m、200mの地点でも、大気中に農薬は検出されず、検出限界が1.4から2.8μg/m3と高かったためではないかとされました。また、隣接河川水の調査も実施され、散布当日に、12.5ppb検出されましたが、散布区域上流でも空中散布が実施され、そのための汚染だろうということになりました。
04年も前年同様の設定で、ブプロフェジンの検出限界を0.21-0.42μg/m3と精度をあげて実施されましたが、大気中に農薬は検出されませんでした。河川水には0.62ppb検出されましたが、やはり、前年同様上流でも空中散布がなされていたため、汚染源は明確にはなっていません。
05年は、エトフェンプロックスで、試験が実施され、検出限界0.83又は0.42μg/m3で、大気中には検出されませんでした。
★無人ヘリ:千歳市での気中濃度
03年に北海道千歳市の水田で実施された無人ヘリによる試験では、フサライド・エトフェンプロックス(カスラブトレボンゾル)が使用され、フサライドが散布区域外5m地点で、散布中に最大濃度0.18μg/m3、散布後に最大濃度0.077μg/m3検出されました。エトフェンプロックスは検出されていません。
04年の同様の試験で、フサライド濃度が、散布区域内外で高かったのは、散布中の区域外5m地点で0.6μg/m3、20m地点でも0.17μg/m3でした。散布1-4日後でも、区域外5m、20m地点で、0.045-0.120μg/m3検出されました。
05年の試験で、フサライドの気中濃度が最大だったのは、散布当日の域外10m地点で0.058μg/m3でした。
★無人ヘリ:飯山市での気中濃度
03年に長野県飯山市での水田で実施された無人ヘリによる試験では、MEP・BPMC(スミバッサ乳剤)とトリシクラゾール(ビームゾル)が混合散布されました。散布区域内では、MEPが散布中に1.37μg/m3、翌日でも0.26-0.84μg/m3、区域外では、翌日でも0.14-0.53μg/m3検出されました。
04年の同様の試験では、MEP濃度は散布中区域内で最大3.36μg/m3、区域外50-200mで最大0.68μg/m3でした。05年では、MEP濃度の最大は散布区域内で0.77μg/m3、区域外で0.31μg/m3でした。散布時の気象等の条件の違いにより数値にバラツキがでるものと思われます。
★無人ヘリによるドリフト試験
03年に、飯山市の別の水田で実施された無人ヘリによるドリフト調査(ろ紙トラップ使用)では、トリシクラゾール(ビームゾル)とDEP(ディプテレックス乳剤)が混合散布されました。トリシクラゾールが地域外7.5mの地点でドリフト率23.7%(理論散布量に対する比率で、4.7mg/m2に相当)で、30m地点までドリフトがみられました。
04年には、トリシクラゾールが地域外1m地点でドリフト率最大9.1%、10m地点で最大1.8%、20m地点で最大0.36%、50m地点で最大0.14%でした。
05年には、上述の千歳市でフサライドのドリフト試験が行われ、ドリフト率は5m地点で9.3%(1.4mg/m2)、15m地点で8.0%(1.2mg/m2)、30m地点で4.5%(0.7mg/m2)でした。
長野県下高井郡の水田転作大豆畑で実施された試験では、MEP(スミチオン乳剤)とチオファネートメチル(トップジンMゾル)の混合散布が行われ、MEPのドリフト率は表のようで、70m地点でもドリフトが認められました。
表 大豆畑での無人ヘリコプターによるMEPのドリフト調査
(農林水産航空協会05年実施) −省略
★環境省は精度の高い調査を実施すべき
環境省が実施している無人ヘリのドリフト試験では、2種の製剤を現地混用して空中散布を行っている例があります。わたしたちは、空中散布は希釈濃度が高く(地上濃度より100倍近い濃度で散布する)、複数製剤を混ぜれば、さらに農薬濃度が高まり、危険度が増すとして、現地混用を中止すべきであると主張してきました(てんとう虫情報146、150、151号参照)。農水省もまた、04年2月に農薬対策室長名で事務連絡「農薬の現地混用について」をだし(07年1月31)、
・これまでに知見がない農薬の組合せで現地混用を行うことは避けること。
・特に住宅地周辺等において農薬を使用する場合は「住宅地等における農薬使用につ
いてに」基づき、農薬の飛散防止等に努めること。
を指導しています。
それなのに、ドリフト知見をうるために、現地混用で散布試験を行うというのは、おかしな話です。まず、登録農薬で、ドリフト試験を行うべきです。
農薬の大気中濃度は、ガス状のものだけでなく、水分中に含まれていたり、土壌に吸着した粒子状のものをきちんと評価する必要があるのに、環境省の報告書には測定方法が記されていません。検出限界が高く、精度の低い調査は、いくら実施しても、汚染の状況をあきらかにできません。同省は、きちんとした精度の高い試験計画をたてて、もっと調査を行いデータを蓄積すべきです。
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作成:2007-05-26