農薬の毒性・健康被害にもどる
t18602#環境省、自治体の農薬散布に関するアンケート結果を発表〜依然として通知が守られていない実態が判明#07-02
【参考資料】環境省:自治体における街路樹、公園緑地等での防除実態調査結果
農薬飛散リスク評価手法等確立調査検討会のぺージ
06年第1回の議事概要と資料
第2回の議事概要と資料
第3回の議事概要と資料
07年第1回の議事次第・資料
大気中の農薬汚染問題は、化学物質過敏症など健康被害を受ける人が増加しているにもかかわらず、長年、担当部署もなく放置されたままでした。農水省は農産物に使用する農薬が担当で、厚労省は室内の空気汚染が担当というわけです。であるならば、戸外の農薬汚染は環境省の担当ではないか、早急に規制すべきであると私たちは環境省に要望してきました(記事t15701)。
2004年8月、環境省は2005年から5年計画で「農薬飛散リスク評価等確立調査」の事業を行うとして、初年度2700万円の予算を計上しました。これは結局2000万ほどで決定されましたが、計画では、@飛散農薬気中濃度調査手法開発、A飛散農薬モニタリング調査、B検討会の設置などが記されていました。
2005年度は街路樹、公園等での防除の実態を把握するためとして、地方自治体などにアンケート調査をしました。その結果が、2007年1月31日に、環境省のホームページで公表されました。このアンケートに基づいて「住宅地等における農薬使用について」の新通知が出されたことは記事t18601で触れた通りです。以下、アンケート結果についていくつか紹介します。
★定期散布が17〜36%もあった
アンケートは、10万人以上の市と特別区268自治体を対象として、自治体名を公表しないことを前提に協力依頼し、226の自治体と421の部署から回答を得たということです。回収率は84.3%でした。環境省のまとめでは、自治体と部署別にわけて集計していますが、どの数字が自治体なのか部署なのかわかりません。どちらかに統一してほしいと思います。
病害虫・雑草の防除に農薬を使用しているのが、回答数226自治体のうち214自治体で95%、そのうち農薬のみは66で29%、農薬を使用していないのは、わずか12自治体で5%という結果でした。以後の回答は214自治体と、360部署についてまとめられています。
このうち、通知で戒めている定期散布をしているところは街路樹が37、公園緑地が46、その他が36となっています。この点について環境省のまとめでは「定期的に散布しているとの回答は17%から36%と低く」とありますが、2003年から止めるようにと指導されているにもかかわらず、これだけあるというのは決して低いものではありません。これだけで通知がいかに守られていないかを示しています。
「発生状況に合わせてその都度判断している」との回答は60〜77%とまとめられていますが、どういう発生状況の時に、散布するのかという質問が抜けているため、にわかには信じられません。私たちの経験からすると、1匹でも虫がいるとすぐ散布というところもありました。
これと関連していますが、散布範囲を尋ねた質問について「いずれの散布対象においても、病害虫の発生部位のみに散布するとの回答は8〜10%と低く、病害虫が発生した樹や花壇ごと等に散布するとの回答が40〜54%と多くを占めた」とあります。やはり、過剰散布している例が多かったわけです。
散布時間は早朝が一番多く、次が昼間になっていますが、「特に決めていない」も14〜18%ありました。この中には夜中に散布しているところもあるかと思います。環境省はまさか、夜中に農薬散布するところがあるなどと思わず、「夜中」の質問項目が抜けていたのでしょう。夜中の散布は危険なので、私たちは中止するよう常に求めていますが、まだなくなっていません。どのくらい夜中の散布があるのか、尋ねてほしかったと思います。
★やはり、ラベル通りに散布してなかった
環境省のまとめには「使用頻度および量の多い薬剤についての対象病害虫」という表があります(「薬剤」でなく「農薬」と言うべき)。この表によると、1位がフェニトロチオン(MEP、スミチオン)、2位がトリクロルホン(ディプテレックス)、3位がエトフェンプロックス(トレボン)、4位がイソキサチオン(カルホス)、5位が除草剤でグリホサート(ラウンドアップ)でした。
一番多く使用されているフェニトロチオン(スミチオン)の対象害虫はアブラムシ(延べ回答件数:84)、アメリカシロヒトリ(66)、チャドクガ(39)となっています。農薬は対象作物、対象害虫ごとに適用が決まり、希釈倍率、散布回数など細かくラベルに書かれています。農薬はラベル通りに使用しなければなりません。新通知にもそのように書かれています。
ところが、私たちが調べてみると、フェニトロチオンにはチャドクガの適用はありませんでした。ということは、39の自治体がラベル通りに散布していなかったわけです。また、エトフェンプロックスをイラガ類を対象に13自治体が使用していますが、イラガも適用がありません。そもそもイラガに適用のある殺虫剤はありません。ですから、本来ならイラガ退治の農薬散布はできないはずです。
問題なのは、このことに環境省が気が付いておらず、不適切な散布の例としてあげてないことです。環境省はこの点について、今後、検討会で作成するマニュアルに書くと言ってますが、それまで、こういう農薬の使い方が続かないよう、通知を出すなり、何とか方法を考えて広く知らせるべきです。また、マニュアル作成に際しては、農薬受動被曝による被害者の生の声を聞く機会を持つよう。環境省に申し入れる必要がありそうです。
★21%の73部署で農薬の現場混用〜劇物同士の混用も
私たちは、農薬の現場混用は、単独よりも高濃度の散布になるため、住宅地周辺でやめるよう、また、無人及び有人ヘリによる散布では、現場混用を禁止することを求めていました(記事t14602。記事t15001)。「混用事例集」にある二つの注意事項『有機リン剤どうしの混用は急性毒性が増加する場合があるので注意が必要である。』『単剤で皮膚かぶれを起こしやすい農薬と乳剤の混用は皮膚かぶれをさらに助長することがあるので注意する』を理由に、毒劇指定のある農薬、有機リン系とカーバメート系農薬のそれぞれと相互、乳化剤を含む農薬等の現場混用禁止も求めてきました()。
環境省の調査では、77%の275部署が混用はしていないと回答したものの、頻繁に混用しているとした部署が35 、たまに混用しているとの部署が37ありました。
中には、フェニトロチオンとトリクロルホン(劇物)、トリクロルホン(劇物)とアセフェート、フェニトロチオンとジクロルボス(劇物)、フェニトロチオンとメチダチオン(劇物)、トリクロルホン(劇物)とマラチオン(劇物)、トリクロルホン(劇物)とイソキサチオン(劇物)など有機リン同士の混用が24部署でみられたほか、3農薬を混用した例もありました。さすがに、これは危険だと思ったのか、新通知では、現場混用に関する事項がが入りました。
★安全対策を講じたのは12%
散布地周辺への安全対策についてですが、
@「散布に当たって要領・ガイドラインを定め安全策を講じている」が45部署で12%
A要領・ガイドライン等を定めず、「口頭等で注意喚起している」が196部署で53%
B「特に何もしていない」が61部署で18%
と記されています。
旧通知では、散布する前に周辺住民に周知することになっていましたが、18%が何もしていないというのは、どういうことでしょう。また、口頭等というのは、回覧等による文書、チラシ、広報車、看板等によるものとのことですが、住民に周知徹底されているかどうかは、どのようにして確認されたのでしょう。8割弱の部署が防除業者に委託しているとありますから、業者任せというのが多いのではないでしょうか。
★苦情の受けたのは48%の178部署
過去に農薬散布に関して苦情を受けたことがあるかと言う質問に、「ある」と回答したのが178部署で48%となっています。「ない」は190部署でした。苦情の内容は複数回答で
@異臭 28
A健康被害(医者の治療を受けた等) 18
B健康不安に関する訴え 107
C農薬による洗濯物・車の汚染等 118
Dペット等の被害 19
Eその他 30
となっています。AとBの区別をどのようにしているのか不明ですが、相当数の健康被害の訴えがあるものと思われます。
これにどう対応したのかですが、これも複数回答で「謝罪・補償」が95部署、「農薬散布時期の調整」が79部署などで、農薬散布の中止は36部署でした。「何もしなかった」という選択肢もあるべきでした。個人の1回や2回の苦情で何か対策してくれる自治体があったら教えてほしいと思います。
以上のように、私たちにとっては、不十分なアンケート調査だとは思いますが、それでも、問題点が浮上してきています。そのために、環境省と農水省が連名で局長通知をだしたわけですが、相変わらず罰則のない一片の通知でしかありません。これでは解決しないことは私たちも経験上、十二分に承知しています。まして、農薬にうとい都道府県や市町村の環境部門がどれだけのことができるのか、懸念せざるを得ませんが、地道に中止を求めていくしかないようですね。
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作成:2007-06-26