空中散布・松枯れにもどる
電子版「脱農薬てんとう資料集」No.4<無人ヘリコプター農薬散布現状と問題点>

t19401#無人ヘリの規制に関して47都道府県にアンケート調査−県独自の指針等は27あるが散布除外区域の具体性がない#07-10

 無人ヘリコプターによる農薬空中散布面積は、06年度799,840ヘクタールで、前年から10%以上増えています。
 反農薬東京グループには、事前に知らせないで散布したなど無人ヘリ散布に対していくつか相談が寄せられています。そこで当グループは、10月に都道府県に対して県独自の無人ヘリ防除の指針などがあるかアンケート調査をしました。  質問は47都道府県に出しましたが、回答してきたのは44都道府県で回収率は93.6%。回答がなかったのは兵庫、長崎、熊本の3県でした。回答した都道府県のうち、県独自の指針等を作成しているのは27府県で61.4%、作成してないのは17都道府県で38.6%でした。
表1に06年度の無人ヘリによる農薬散布面積とともに指針等の有無を示しました。
 このアンケート結果を含めて、06年1月から2月にかけて、無人ヘリに関するパブリックコメントを募集しただけで、未だに結果も方針も出せない農水省植物防疫課に要望を突きつける必要がありそうです。

★無人ヘリ防除をしない県など
無人ヘリ防除をしていない4都県(東京、神奈川、和歌山、沖縄)のうち、神奈川県は、「平成3年に農業団体等と十分に検討した結果、住宅地と農地が混在している地域、および周辺環境への配慮などの理由から、無人ヘリコプターによる農薬散布は当分の間実施しないこととしております。」と回答しています。91年に、農業団体等と十分に検討して、無人ヘリ散布はしないと決めていたということで、先見の明があったと思います。
 群馬県は、06年6月に、有機リン系農薬の無人ヘリ散布の自粛要請を打ち出しました。06、07年度は有機リン系農薬散布はゼロで、他の農薬の無人ヘリ散布面積も07年は自粛前05年の約5分の1である510haに減少しているとのことです。同県は有機リン剤の散布について「今後も自粛要請を継続する考え」と回答しています。
 長野県は、今年から面積の1割を占める地域でJAが無人ヘリ防除の中止を決めています。県は「現時点では、農薬の適正な使用や飛散しない散布を前提に、引き続き実施する方針です。なお、今後、農薬散布における高い安全性を求めて、散布のあり方を慎重に検討してまいります。」と含みを持たせています。
 山梨県も、「近年では不必要な飛散を防止するため、粒剤への切り替えや、無人ヘリコプター以外の防除技術の普及を推進している。」としています。

 表1 都道府県別の06年度散布面積と指針等の有無 −省略−
 指針等を有する27府県名
  青森/宮城/秋田/山形/福島/茨城/栃木/群馬/埼玉/長野/富山/石川/福井/岐阜/
  愛知/三重/滋賀/京都/和歌山/広島/山口/島根/徳島/高知/佐賀/宮崎/鹿児島

■県指針等は国の指針の焼き直しが多い
独自の指針等を作っている県は27ありますが、「実施要領」「指導方針」「実施基準」「安全対策指針」「技術指針」「防除の手引き」などさまざまな名称になっています。これらがどの程度強制力を持つのか不明です。その内容は、農水省の「無人ヘリコプター利用技術指導指針」(91年の指針で、その後何度か改定されている。以下「国の指針」という)の焼き直し的な条項が多く、また、独自指針等のない道府県でも、同指針に基づいて指導しているとの回答がみられました。
 無人ヘリ防除を5万ヘクタール以上しているのは北海道、宮城、秋田、山形、新潟の5道県ですが、北海道、新潟は独自の指針を持っていません。国の指針で十分とのことのようです。また、事故や危被害防止、ドリフト防止が図られていれば無人ヘリ防除は問題ないとする県も多くあります。
 国の指針では定義の項目で、無人ヘリ防除を「空中散布等」として、有人ヘリ散布と地上散布の中間として位置づけています。しかし、県の指針では、はっきり「空中散布」と位置づけているところもあり、統一されていません。鹿児島県は有人ヘリコプターと無人ヘリコプターをひとつの指針にまとめた「鹿児島県農業航空事業実施方針」を送ってきました。

■散布計画の届出義務はどうか
 国の指針では、空中散布等の実施主体は、散布実施計画(実績)の記録を整備して置くとなっており、記載様式が例示されています。また、組織散布と個人散布にわけ、前者では、市町村、病害虫防除所などの関係指導機関の助言を受けて計画を作成するとなっています。さらに、関係機関から求めがあった場合には記録を提出するとあります。国の指針よりも厳しく、県が事前に計画を届出させるのは表2に示した15県です。
表に○印で示したのは、届出る場所や報告を受ける部署です。いずれの府県でも、実施団体が組織か個人かに係わらずに提出する必要があります。宮城県、広島県では防除業者が提出するケースもあり、徳島県と高知県では、実施主体と業者が確約書を提出することになっています。また、青森県は、県産業用無人ヘリコプター協議会が、県内全域に係わる空中散布等一覧表を作成し、全ての実施主体および県に送付するとあります。
 表記載以外の独自指針をもつ12県と指針のない県では、行政が問い合わせない限り、いつ、どこで無人ヘリ防除がなされるか把握されないことになります。予め計画を届出たり、許可を受けたりする必要がないという国の指針自体が問題です。有人ヘリ散布の場合と同じように、事前届出を義務化すべきです。
表2 空中散布実施計画を届出る15府県と届出先 −省略−
 届出が必要な15府県名
  青森/宮城/山形/福島/茨城/群馬/埼玉/
  長野/福井/三重/京都/島根/広島/徳島/高知

■学校や地域住民への周知について
国の指針には「実施区域に係る学校、病院等の公共施設及び居住者等に対しては、あらかじめ空中散布等の実施予定日時、区域、薬剤の内容等について連絡するとともに、実施に際しての協力を得るよう努めること。」とあります。
 県の指針等にこの周知条項がないのは、青森、山形、石川ですが、山形県では「公共衛生施設等周辺で実施する場合は、事前に協議し了解を得る」とあり、石川県では後述のような除外区域が例示されていますので、これでよしとしたのでしょうか。
 周知条項のある16県では、その内容は千差万別です。宮城県の場合は、実施主体が組織である場合に限り、地域に周知を図ることになっています。
 三重県では、散布地区に隣接して農薬の飛散による被害が発生するおそれのある対象物がある場合は、その所有者等と協議し、十分な安全対策が講じられない場合には、付近一帯を散布地区から除外するとなっています。また、三重県と徳島県は、散布区域内に児童等が立ち入らないための措置の徹底をあげています。
   長野県や福井県、佐賀県のように、地域住民に対し、チラシや広報車、有線放送、立て看板等の手段により周知を図る、と書かれているところもあります。
 国の指針にない周知先として、群馬県と広島県は「警察、電力会社等の保安関係機関」があるのは、テロや事故を想定してのことでしょう。
 山口県は、「周辺住民等への周知等」と項目を作り、「一般住民、農家、漁家、学校、病院、事業所等に周知し、その了解を得るとともに、次のことについて協力を得るものとする」として、散布ほ場の周辺に自動車を置かない/洗濯物を取り入れる/ペットを放し飼いにしないことなど、7項目をあげています。単なる周知ではなく、周辺住民等の了解と協力を得るというところが、国や他県の指針等とは違うところです。どのようにして、住民が了解し、協力しているかを確認するのでしょうか。

■事故報告の届出は15県
   国の指針では無人ヘリコプターの事故報告についての指示はありませんが、県の指針等のうち、以下の15県は担当部署に報告するようにとの条項があります。
 青森/宮城/山形/茨城/栃木/群馬/長野/富山/福井/愛知/三重/京都/広島/島根/山口
 残りの12県では、報告についての条文はありません。

■石川県では緩衝幅30mで自主規制
 国の指針には、「空中散布等の場所等」として、空中散布等を行うときは、危被害防止に万全を期さなければならないものとするとして、『特に、次に掲げる事項については、特段の配慮を要するものとする。
(1)公衆衛生関係(家屋、学校、水道・水源等)、畜蚕水産関係(家畜、家きん、みつばち、蚕、魚介類等水産動植物等)、他作物関係(散布対象以外の農作物等)及び野生動植物関係(天然記念物等の貴重な野生動植物)に対し危被害を発生させるおそれがないと認められること。』とあります。しかし、「特段の配慮」とはどのようなものかが示されておらず、これでは何をしたらいいのかわかりません。県の指針の殆どは国に準じた条項で、具体的に書かれているものはありません。一番大事なところなのに、抽象的な言葉だけです。
 県の指針とは違いますが、石川県農業用無人ヘリコプター運営協議会が出している「石川県農業用無人ヘリコプター協議会の定める自主規制について」という文書はもう少し具体的に書かれています。
 散布除外区域として、(1)交通頻繁な道路学校、病院等公共施設の周辺、(2)市街化の進んだ地域、あるいはそれと同等な市街隣接地ほかがあげられ、自主規制事項として『隣接する農作物の収穫物が、ドリフトにより残留基準を超える懸念がある場合は、隣接する農作物圃場から30m以内は除外区域として防除を行わない』との記載もあります。
 また、有人ヘリコプターの空中散布で問題となった有機圃場への飛散防止について、県の指針等で特別に注意を促しているのは、秋田県、福島県、富山県、岐阜県、京都府、徳島県、佐賀県、宮崎県の8府県です。

■無人ヘリコプター散布業者の届出
 散布計画等を届出る必要のある前述の15県においては、実施主体や防除業者名がわかりますが、はっきり、無人ヘリ防除業者の届けを求めているのは宮城県と山形県だけです(回答が来なかった兵庫県では「防除業者に関する指導要綱」にもとづき、無人ヘリコプターを含め防除業者はすべて知事に届出ることになっています)。
 また、茨城県では、無人ヘリコプターのオペレーター=操作要員の住所氏名などを記した登録願いを県植物防疫協会に出すことになっています。群馬県でも、操作要員氏名住所、教習経験など協議会会長に報告するとあります。農林水産航空協会の研修を受け、認定をうけたオペレーター数は全国で1万人を超えています。彼らには、操縦技術だけでなく、農薬についての知識の有無も問う国家試験による免許制度の適用が必要です。

購読希望の方は、〒番号/住所/氏名/電話番号/○月発行○号からと購読希望とかいて、 注文メールをください。
年間購読会費3000円は、最初のてんとう虫情報に同封された振替用紙でお支払いください。
作成:2007-10-27、更新:2007-11-02