室内汚染・シロアリ防除剤にもどる
t19501#薬事法の「殺虫剤指針」は根本的に見直すべきだ〜衛生害虫用殺虫剤のパブコメ案は説明不足#07-11

 厚労省医薬食品局審査管理課は、10月22日に、「殺虫剤指針を改訂する件に関する意見募集について」(締めきり11月20日)を、続いて10月29日に、 「殺虫剤効力試験法を改訂する件に関する意見募集について」(締めきり11月27日)を出し、同時に二つのパブコメをしています。ここでは前者の殺虫剤指針の改訂について論じることにします。
 厚労省の説明によると、殺虫剤指針とは「医薬品及び医薬部外品の殺虫剤の性状及び品質の適正を図るため、昭和35年(1960年)に作られた殺虫剤有効成分及び繁用の殺虫剤製剤の規格を定めたものである」とされています。医薬品・医薬部外品の殺虫剤に関して規定があるのはこれだけです。
 ゴキブリ駆除など室内で殺虫剤が大量に使用されており、健康被害の訴えが絶えません。そこで使用される薬剤は建築物衛生法によって、薬事法で承認された医薬品か医薬部外品でなければならないとされていますが、肝心の薬剤に関する規制はないといっていいでしょう。  私たちは2000年に起こった北海道静内町の特別養護老人ホームでの室内殺虫剤散布による健康被害事件を契機に、室内で使用される殺虫剤について問題にしてきました。当時、民主党の金田誠一衆議院議員が質問主意書で質問しましたが、政府のどこもこの問題に関して管轄するところがないという答弁でした(記事t11202記事t11403記事t12302参照)。
 これではあんまりだということでしょうか、2001年に厚労省生活衛生課が「建築物におけるねずみ・こん虫等の防除における安全管理について」という通知を出し、ねずみ・こん虫の防除は薬剤の使用を必須の前提としたものではないこと、使用する薬剤は薬事法で承認された医薬品か医薬部外品にすることなどを示しました(記事t11901参照)。
 その後、建築物衛生法の全面的な改定作業が進められ、2003年にねずみ・こん虫等の防除を含む改訂がなされました(記事t13804参照)。ここではまず、生息調査を行うことが強調されましたが、具体的な方法に関しては、07年11月現在まだ通知が出されていません(記事t19201参照)。

★薬事法の殺虫剤の規制はなきに等しい
 一方、建築物衛生法で義務づけられた医薬品・医薬部外品殺虫剤の使用ですが、薬事法で承認されたから安全だとは言えません。そもそも、薬事法は人が飲んだり、つけたりする薬に関する法律であって、直接人が摂取するものではない殺虫剤を承認すること自体が無理な話です。
 そのため、厚労省は「殺虫剤指針」という薬剤規格及び試験方法を作って管理していると言います。この指針は1960年に作成され、1990年に改訂されています。今回の改訂はそれ以来、実に17年ぶりになります。
 1990年の指針には、簡単な剤型(水和剤 、乳剤など)の説明と、医薬品各条としてあげられている薬剤(アレスリンなど67種類)の性状、確認試験、純度試験、異性体比、定量法が書かれているだけです。どういう毒性があるか、室内で使用したときの濃度、使用方法などは一切書かれていませんし、なぜ、医薬品として承認されたのかもわかりません。
 しかも、一度承認されると同じ成分なら無審査で承認されます。ですから、30年前に承認されたものが、新しい剤型や濃度を変えたものであっても、直ちに承認される仕組みになっています。毒性が新たに判明したからといって再審査されることはありません。  さらに、薬事法で承認された医薬品・医薬部外品の商品名リストは厚労省は持っていないと言います。06年に民主党の谷博之参議院議員が質問したときに、厚労省は 今後、医薬品医療機器総合機構のホームページで明らかにすると答弁しましたが、実際には一般用公衆衛生薬・殺虫剤は10件しかヒットしません(データベース:一般用医薬品の添付文書情報)。
 未だに、公共施設や大きな建物では頻繁に殺虫剤が散布されていますが、そこで使用された殺虫剤が薬事法で承認されたものかどうかの確認さえ、一般人にはできないのです。

★殺虫剤指針検討会ができたが
 こんなものが指針とは言えないと、何度も申し入れや話し合いをした結果、厚労省は2002年に「殺虫剤指針等の改訂に関する検討委員会」(以下「検討会」)を立ち上げ、根本的に殺虫剤指針を見直すとしました。
 この検討会は最初のうちこそ熱心に開かれていましたが、そのうちに一切、動きがなくなりました。今回、パブコメを契機に厚労省に聞いたところ、5年間で本委員会が2回、作業部会1(物性・規格に関する作業部会)が14回、作業部会U(効力に関する作業部会)が9回、作業部会V(安全性に関する作業部会)が9回開催されただけということでした。安全性に関する作業部会は、2003年に「一般用医薬品及び医薬部外品としての殺虫剤の室内空気中濃度測定方法ガイドライン」を作り通知されましたが、これだけです。しかも、この通知が生かされるのは新しく承認されるものだけです。

★殺虫剤指針の根本的な見直しがない
 今回の二つのパブコメは、検討会のTとUの作業部会の結論だけだということです。根本的な殺虫剤指針の見直しはされていませんし、Vの安全性の部会の検討結果もありません。殺虫剤指針に新しく加える薬剤のリストと古くなった薬剤の削除しかわかりません。
 しかも、このパブコメでは検討会の一部の結果という説明もなく、何故、削除したり、追加したりするかの説明もなく、ウエストナイル熱を媒介する蚊の幼虫に有効なBT系の生物農薬もみあたりません。
 ちなみに、今回指針から12種類薬剤が削除、22種類の薬剤が追加され最終的に76種類の薬剤が新指針に掲載されることになります(パブコメ概要)。
 こんなリストだけではなく、医薬品や医薬部外品に承認するための基準とか、毒性試験とか、使用方法などをきっちり決めることが必要です。これでは医薬品も医薬部外品も殺虫剤は安全性が担保されていないと言えます。
 そこで、今回のパブコメでは、殺虫剤指針みたいな規格ではなく、まずは室内で使用して安全であるという規格を決めるべきではないでしょうか。医薬品や部外品として承認するための、毒性、気中濃度、使用方法などをきっちり決めるべきと思います。
 それから、第3部会の安全性作業部会が何をしているか不明ですが、ここも一応、結論を出してパブコメをすると言っています。しかし、いつのことかわかりません。
 いずれにしても、屋外で使用する農薬よりも、身近な室内で使用する殺虫剤の安全性はより厳しく審査されるべきで、薬事法が殺虫剤を扱うのならば、殺虫剤指針をその名の通り、指針として作り直すべきです。

 殺虫剤指針についての当グループのパブコメ

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作成:2007-11-26