街の農薬汚染にもどる
t19701#名古屋市が薬剤使用に関する基本指針を策定−発生予防と生息調査重視、薬剤を極力使用しない、散布の場合は周知徹底#08-01

 名古屋市が、名古屋市の施設等における農薬・殺虫剤等薬剤の適正使用に係る基本指針を策定、1月7日に記者発表後、市のHPに公表しました。(本編解説編
 経緯や内容についてお伝えしたいと思います。

■薬剤散布基本指針について議会質問
市は、「平成17年度市有施設における薬剤散布状況調査」を実施し、その結果を、昨年6月に市のHPに公表しました(「てんとう虫情報」記事19108記事19208)。
 その後、民主党の岡本やすひろ議員が、9月議会で「市独自の農薬・薬剤散布基本指針について」質問し、平成17年度の薬剤散布実態調査の結果について各局の問題点を追及、通知を出すだけではなく、全庁的な連絡対策会議の開催、指針の策定の他、マニュアルの作成などの具体的な対策を求め、さらに、子どもなど薬剤弱者が長時間過ごす施設については、指針の中で特別な配慮をすべきであることなどを指摘しました。
 また議員は、前文で、流通している5万種を越える化学物質の中には健康への影響や環境汚染の原因として危惧されるものも数多くあり、行政の業務で日常使用される薬剤にも含まれていること、子どもは大人と異なり、化学物質の影響を受けやすく、増加しているアレルギー疾患の原因として化学物質の関与も疑われることなどから、子どもを守るための予防的な取り組みが必要であることにも触れています。
市長は、市施設の管理は細心の注意を払う必要がある、早急に指針を策定し、子どもへの特別な配慮についても指針に盛り込むと答弁、環境局長は、連絡対策会議については開催の準備を進めており、研修などの必要な対策、指針の制定と、誰にでもわかりやすいマニュアルの作成に取り組むと回答しました。

■庁内化学物質対策連絡会議を開催
 その後、環境局公害対策課、緑政土木局農業技術課、健康福祉局環境薬務課の3課で検討を重ね、基本指針の下案を作成、11月には、全庁的な「名古屋市化学物質対策連絡会議」を設け、その中の専門部会として、もともとあった「シックハウス対策部会」や「石綿・VOC対策部会」と並べて「農薬・殺虫剤対策部会」を設置し、連絡会議を開催、昨年末までに最終案を作成し、関係する各局各課の了承を得て、漸く、基本指針策定となりました。
 残念ながら、市民が日常的に利用する施設や近隣の散布の影響を受けるリスクがあることに変わりはないのに、「市有施設」に関する指針であるとの理由で、市民の委員参加やパブコメ実施などは叶いませんでしたが、指針の要望案を議員に託し、議員が担当課と交渉されて、要望もかなり盛り込まれました。
 屋内と屋外両方の薬剤散布に関する指針を策定している自治体は限られ、埼玉県が同様の取り組みをしていますが、市独自の取り組みもあり、マニュアルも作成予定です。

■基本指針の内容
基本指針(本編)の趣旨で、薬剤の人の健康や生態系に影響を及ぼす可能性に触れ、適正使用の推進により、環境への負荷の低減を図り、人の健康と安全を確保するとしました。
 指針の内容ですが、まず「病害虫等の生息状況に関らず、一律に薬剤を使用することは、原則として行わないこととする」と明記され、(1)発生予防に努めること、(2)生息状況の確認をすることが基本で、(3)病害虫の発生が確認され、防除が必要な場合も、まず薬剤を使用しない防除を検討・実施し、(4)やむを得ず薬剤を使用する場合は、誘殺、塗布等散布以外の方法を検討して、必要最小限の使用に留めること、(5)やむを得ず散布する場合は、利用者、周辺住民等に周知徹底することの他、子どもへの配慮として、学校、通学路等での散布では、保護者等への通知、実施時期の配慮、子どもが近づかない措置を行うことなどが盛り込まれています。
 さらに解説編では、趣旨の解説で、化学物質過敏症の発症者や子どもなどでは、化学物質による影響が大きく出る可能性があるとし、適正使用の徹底も、一律の使用禁止ではないとしつつも、人の健康へのリスクを避けるための配慮を求めるものとしています。また、病害虫等が発生しにくい環境づくりや薬剤を使用しない防除方法などの具体例をあげ、飛散防止では、食品、食器、遊具等の搬出や養生などより細かな配慮も求めています。
 また、衛生害虫だけでなく、しろあり防除について指針を適用している点も、生息の確認の除外など一部除外に疑問は残るものの、評価できると思います。

0 ■消毒剤についても指針を準用
 その他、市では、興行場のホール等の他、バス、地下鉄の車輌内、公園のトイレなどで消毒剤噴霧が行われていたことを受けて、消毒剤について、噴霧・散布以外の方法の検討や、最小限の使用、散布する場合の周知徹底や安全対策等、指針を準用するとしています。
 環境消毒については、平成17年厚労省通知で「消毒薬の噴霧、散布、薫(くん)蒸や紫外線照射などは効果が不確実であるだけでなく、作業者への危険性もある」とし、「一律に広範囲の環境消毒を行わないこと。」とあるものの、病院以外の施設や車輌内の消毒剤噴霧について、関連省庁からの通知等は一切出ておらず、市独自の判断で、指針を準用するとしたもので、大変評価できると思います。

■問題点
 ただ、表現を改めてほしい箇所もあります。
 特に、解説編で、「原則として」という言葉についての解説で、「食品を取り扱う区域、排水槽など害虫、ねずみが発生しやすい箇所、シロアリによる被害の恐れがある箇所では、例外として必要に応じて発生を防止するため薬剤を使用できる」としたことは問題です。
 衛生害虫の発生しやすい箇所については、法令で、調査の回数を増やして必要な措置をとることになっていますが、これでは、該当の区域では、発生がなくても、「『一律に』薬剤を使用してもよい」と受け取れてしまいます。
 「使用」であって、「散布」ではないため、ゴキブリ対策なら、毒餌剤の使用をまず検討すべきと要望できますが、排水槽等での飛翔昆虫対策では、発生してもいないのに一律の散布を認めてよいというのでしょうか。厚労省が近く発出予定のマニュアルでも、蚊の成虫対策として、「発生のある又は発生が予想される水槽内・飛翔区域にULV処理等空間噴霧する」(案p.57)と記述がありましたが、IPMに反するとのパブコメ意見をもとに、「発生が予想される」は削除されました。
 市は、厨房等でのゴキブリ対策のベイト剤施工や、公設市場のごみ置き場等の飛翔昆虫対策、その他木造建築の文化施設等のシロアリ対策など、発生してからでは対策として遅い場合を想定している、薬剤使用は必要に応じてで、他の予防対策も実施すべきことに変わりはないとのことですが、説明不足です。
また、「必要最小限の使用」を求めていますが、趣旨の本文で、市が率先して、薬剤の「適正使用」だけではなく、「使用削減」も図ることを記述していただきたかったです。早期発見や物理的防除の取り組みなどをせずに、法的に問題のない薬剤を「適正使用」しており、散布に問題はないと回答する施設も多くあります。適正使用は当たり前のことです。人の健康と安全を確保するとともに、人や環境への(長期的な)影響も考えて、薬剤の使用削減にも努めるとすべきではないでしょうか。

■今後の課題
指針の内容で、要望が叶わなかったこと、特に病院、学校等の施設での薬剤散布の原則禁止、より安全性の高い薬剤の選択の2点が盛り込まれなかったことは今後の課題です。なお、市立の5病院では、病院管理課独自の判断で、患者へのリスクを考え、患者の入室するところは原則として散布を禁止する旨、仕様書に記載されました。教育委員会や子ども青少年局にも独自の取り組みを求めます。
 また、今回の指針は市の施設が対象ですが、私立の幼稚園、学校、病院、オフィスビル等、民間でも、敷地内での農薬や除草剤散布、建物内での殺虫剤散布を行っており、そのために苦しんでいる患者さんもたくさんみえます。それと知らぬまま、胎児や子どもたちが影響を受けている可能性もあります。
 今後は、指針の内容について、市施設での定着を図るとともに、民間への啓発を進めることが必要です。他の自治体でも同様の取り組みが拡がっていくことを願ってやみません。(子どもの未来と環境を守る会名古屋)


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作成:2008-01-27