松枯れ・空中散布にもどる
t19901#農水省がMEP散布で飛散と大気濃度調査〜分析結果の評価なしに終わり?#08-03

【関連サイト】有機リン系農薬の評価及び試験方法の開発調査事業・事業推進検討委員会
  H19年度第一回検討会:議事概要議事次第
  H19年度第二回検討会: 議事次第資料1資料2参考資料(PDF:209KB)議事概要
  H19年度第三回検討会:議事次第、資料(モデル調査中規模調査大規模調査参考資料議事概要

 農水省の「有機リン系農薬の評価及び試験方法の開発調査事業・事業推進検討委員会」の第二回検討会が2月8日に、第三回が3月4日に開催されました(昨年11月の第一回検討委員会の報告は記事19601参照)。ここでは、検討委員会で論議された07年度実施の農薬の大気環境中動態調査(農林水産航空協会実施)の結果を紹介します。

★圃場での大規模調査
 大規模調査と称される圃場調査は、茨城県の大豆畑で、07年8月29日から9月13日まで、地上散布と無人ヘリコプター散布について実施されました。使用した農薬はスミチオン乳剤(MEP50%含有)です。散布圃場から5、20、50mの地点で、高さ0.2、1.5、7mで、落下試験では散布前から150分後まで、大気調査では散布前から14日後まで、試料が採取されました。地上散布圃場と無人ヘリ散布圃場は約120m離れていたそうです。ロ紙を用いた落下調査と気中濃度調査での散布条件は以下の表のようでした。
 散布形態   希釈倍率  散布量  成分投下量   散布面積 散布高度

 地上散布   1000倍  1000L/ha   50mg/m2    0.5ha    
 無人ヘリ散布    8倍     8L/ha    50mg/m2    4.5ha   3〜4m
★地上散布〜散布区域の落下量が0.06%とは
 地上散布の分析データをみて、一番にアレっとおもったのは、散布中の散布区域内0.2m高の落下量が0.03mg/m2となっていたことです(散布30分後にはさらに減って0.01mg/m2)。これは、上の表の投下量の0.06%です。散布区域外5m地点の90分後の0.24mg/m2よりも低いことも信じられません。しかし、次のコメントで納得しました。『散布の際、散布液が調査地点の測定機材へかかることを避けた散布が行われたことによると思われる。』  要するに故意にバラツキのある散布をしたということですね。実施したのが農林水産航空協会で、地上散布には慣れていなかったかと勘ぐりましたが、説明によると、地上散布をしたのは大豆畑の所有者の農家が、採取装置にかけないよう気をきかしたということでした。
 一方、気中濃度調査では、散布区域内で、散布中にMEPが0.13-1.77μg/m3検出されましたが、散布2日後から14日後までは、検出限界(0.02μg/m3)以下になりました。散布区域外では、散布中南20m、1.5m高の地点で、最高0.41μg/m3のMEPが検出されました(ここでは、散布1日後まで、0.01μg/m3検出)。

★無人ヘリ散布では50m先に飛散も
 無人ヘリ散布は、地上散布の125倍の希釈濃度で、MEP投下量が地上と同じ50mg/m2になるように行われました。
 散布区域内の落下量は、0.2m高で、30分後31.5mg/m2で、3時間後には98%が落下したと推定されました。散布区域外では、南5m、0.2m高で1.16mg/m2が検出されたのが最高で、西50mの地点でも、0.01-0.02mg/m2の飛散が見られました。
 気中濃度は、図のように散布区域で、散布日の午後に最高の3.35μg/m3が検出され、以後濃度は減少し13日後には0.02μg/m3となりました。区域外では、一旦濃度が0.02μg/m3以下に減少した後、北20mでは4日後に0.03、東50mでは4日後に0.04、南20mと西20mでは2日後に0.07μg/m3見出されました。

★大気汚染は無人ヘリの方が地上散布より大
 報告のまとめには『地上防除区に比べ、無人ヘリ防除区の散布区域外における落下量及び気中濃度が相対的に高かった。』と記載がみられます。これは、無人ヘリの散布濃度が高い上、散布面積が広く、散布の絶対量が地上散布より大であったためと考えられますが、無人ヘリによる周辺汚染が少ないとは言えないことを意味します。
 そして、『散布7日後にあたる期間に台風や大雨による圃場冠水がみられたが、散布後ほぼ1週間経過しており、気中濃度の減少に影響したとは思われない。』で報告は締めくくられていました。

★10μg/m3以下でめでたしめでたし?
 ここでは紹介しませんでしたが、圃場調査のほか、ヘリの格納庫内にハウスを設置して行ったMEPとダイアジノンの各マイクロカプセル剤と乳剤を用いた中規模調査が行われました(長野県小諸市の農林航空技術センターで、07年12月〜08年2月に実施。気温7.5〜28.5℃、風速0.03〜1m/秒。MEPの場合は張り芝に8と1000倍希釈、投下量50mg/m2で散布)。その結果、@気中濃度は、乳剤では散布直後は1000倍希釈の方が8倍希釈よりも高く、その後逆転。Aマイクロカプセル剤は、乳剤よりも気中濃度が低いが散布2日後から濃度の上昇が見られた。ことが判明したものの、圃場調査との関連性は明確ではありませんでした。
 結局、調査の総まとめの最後に記された内容は、MEP気中濃度は、すべての調査ポイントで、環境省の気中濃度評価値10μg/m3以下であったということです。
 どの程度のお金を使っての実験かはっきりしませんが、無駄使いではなかったのかとの疑念を払拭できません。

★これでお終い?
 検討委員会は、これで終了とのことでした。せっかく、大金を使ってモデル(9種の有機リン製剤の25℃でのシャーレを使った揮発・残存試験)、中規模(格納庫内ハウスでの試験)、大規模(圃場試験)の農薬散布調査をしたのに、これをどう評価するかが十分論議されないままに、また、どうこの結果を政策に反映するかも論議されないで終わってしまうわけです。傍聴した私たちは、一瞬、キョトンとしました。
 もっともこの検討会は「平成19年度」と頭につけていますから、来年度は「平成20年度」とすれば、また、継続できるという仕組みになっているのかもしれません。ならば 1年でどこまでやるのかという目標がきちんと決められているべきです。
 農薬対策室に来年度の予定はどうなっているのか聞くと、「まだ決まっていない。予算も決まっていない」との答え。「でも、予算要求はしているのでしょ」「それはしているけど」というわけで、一切明らかにしませんでした。
 この検討委員会は、議事録も出さず、実に簡単な議事要旨がでるだけです。06年度の検討結果も公開されていませんし、分析結果の報告と同時に配布された「有機リン系農薬の評価手法及び試験方法の開発調査結果」という報告も、報告されただけで検討はされていません。委託者の農薬対策室はこの報告について「内容を検証した上で、がらっと変わる可能性もある」と述べていましたが、そういうことこそ、検討委員会で検討すべき内容ではないでしょうか。

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作成:2008-03-24