空中散布・松枯れにもどる
t20101#農水省が無人ヘリ散布に関するパブコメ〜不十分な点に意見を述べよう(6月10日締め切り)#08-05

 農薬の空中散布を担当している農水省植物防疫課は、5月12日から、「無人ヘリコプターによる空中散布等に関する通知の一部改正案について」意見募集(パブリックコメント=パブコメ)を始めました。締め切りは6月10日です。
   当グループの意見意見・情報の募集結果について
   08/07/15改訂:無人ヘリコプター利用技術指導指針農林水産航空事業実施ガイドライン

 無人ヘリ散布に関しては、2006年1月に同様のパブコメ募集をしていましたが、2年以上何の音沙汰もなく、ようやく「無人ヘリコプター利用技術指導指針」(平成3年4月22日付け3農蚕第1974号農蚕園芸局長通知)の改定内容を公表したものです。
 私たちは、07年10月には、無人ヘリコプターに関する都道府県アンケートを実施し(記事19401)、その結果を踏まえ、野放し状態の無人ヘリ散布を禁止するか、すぐ禁止できなければ規制強化するよう求めてきました。植物防疫課は、予想以上のパブコメが集まり、その集計に手間取っていたのだと回答していました。(記事t19704参照)

★農業用:無人ヘリは有人ヘリの10倍の面積
 その間、無人ヘリ散布は増え続け、2007年度の実績は前年より66,880ヘクタールも増加しています。そのため、健康被害や他作物への飛散などの訴えが多く寄せられています。地上散布より100倍も高濃度の農薬を霧状にして短期間・広範囲で撒く技術であれば当然のことです。
 農業用の有人ヘリ散布は確かに減少しています。2008年度の予定は昨年より20,685ヘクタール減っていますが、無人ヘリ散布の増加はその3倍以上です。
 全体の面積で言うと、農業用有人ヘリ散布が85,267ヘクタールで、無人ヘリ散布が866,720ともはや10倍以上も無人ヘリが多いという状況です(有人ヘリは08年度予定で、無人ヘリは07年度実績です。08年度散布計画や都道府県別散布面積はこちら)。
 ちなみに、有人と無人ヘリ散布面積が逆転したのが2004年で、有人ヘリが50.5万ヘクタール、無人ヘリは66.3万ヘクタールでした。2006年までの無人ヘリ散布面積の推移を下図(−省略−)に示します。

【参考資料】農水省:平成20年度農林水産航空事業の実施計画について実施計画
      無人ヘリコプター空中散布実績資料:三浦農園にある産業用無人ヘリのページスカイテックグループのページ都道府県別実施状況にあります。

★松枯れでも無人ヘリ散布
農業用の空中散布に加えて、松枯れ対策としての有人・無人ヘリ散布があります。(表には松枯れ無人ヘリ散布は含まれていません。)
 林野庁は05年に「無人ヘリによる松くい虫防除に関する運用基準作成のための検討会」を設置し、当時千葉大園芸学部にいた本山教授の無人ヘリ散布に関する実態調査報告(調査した学生らの健康診断結果をもって農薬による健康被害はないとした)を巡って1年以上休眠した後(記事t17501記事t17604記事t18605記事t18705参照)、2007年3月に「無人ヘリコプターによる松くい虫防除の実施に関する運用基準」を作成し、本格的に補助金を出して無人ヘリ散布を始めました。
2007年度の民有林における無人ヘリ散布は4県519ヘクタール、国費(国の補助金)は1520万円でしたが、2008年度の計画では、面積が8県1,005ヘクタール、国の補助金は3390万円と倍増しています。
 これ以外に国有林も今年度から無人ヘリ散布を導入し、長崎県18、鹿児島県41ヘクタール計画されているということです。

★有人ヘリの補完ではないと
 今回、植物防疫課がパブコメ募集している指針改定案の内容を概要で見ると
 @各都道府県段階で設ける無人ヘリコプター協議会、市町村や実施区域単位で設ける
  地区別協議会の役割、構成員等を明確化。 
 A空中散布等を実施する際の事前周知や危被害防止対策等の留意事項の追加 
 B空中散布を実施する者が個々の農林業者である場合の安全対策について、組織である
  場合と区別せず、一律に規定。/無人ヘリに関する安全対策については、全てこの
  「指導指針」により規定することとし、有人ヘリ散布に関 する「ガイドライン」の
  無人ヘリに関する規定を削除する。
とあります。つまり、この通知が正式に発出されれば、無人ヘリに関する規定は「農林水産航空事業実施ガイドライン」から独立するわけです。

★基本的な問題点
 今回の通知の改定で、無人ヘリ散布によるさまざまな被害がなくなるでしょうか。具体的な事項に入る前に、基本的な問題点をあげます。  まず、これは通知であって法律ではない。すべて「努める」と書かれています。罰則がないために、違反したらどうなるのかということが不明確です。それは「住宅地等における農薬使用について」の通知で私たちはさんざん思い知らされてきたことです。
無人ヘリ散布は地上散布に比較して区域外へのドリフトが大きく、短時間で広範囲に散布するため、気中濃度が高くなることは、農水省の委託調査で明らかになっています(記事t19901参照)。
 高濃度の農薬を上空から散布し、有人ヘリ散布の10倍の面積で実施しているわけですから、きちんと法律で規制すべきです。
 次に、指針改定案には、危被害対策をすると書かれていますが、危被害対策で一番効果があるのが緩衝地帯の設置です。一番肝心な緩衝地帯について一切触れられていないことは問題です。

★通知案の新旧対照
 通知の具体的な内容に関しては、新旧対照表で、改定個所がわかるようになっています。  まず、趣旨が変わっています。旧通知では「航空機を用いた空中からの薬剤散布が適当でない地域等において」とあり、有人ヘリ散布の補完として位置づけられていましたが、今回は「無人ヘリコプターによる空中散布等について」とあり、完全に独立した技術として扱っています。
 実施主体も、旧では、団体とか、組織的に実施し得るものとなっていましたが、今回の案では空中散布等を実施するものすべてで、組織も個人も関係ありません。また、委託者も含まれます。
 この点は、旧通知があまりにも現実離れしていのを是正したということでしょう。

★推進派ばかりの無人ヘリ協議会
 今回の改定の目玉としてあるのが、新設された「無人ヘリコプター協議会及び地区別協議会の役割」の項です。 これには都道府県レベルで設置される「無人ヘリコプター協議会」と市町村か実施区域を単位とした「地区別協議会」があります。
 協議会の構成員は農林水産業者等の関係団体、実施主体、地区別協議会の関係者、都道府県及び市町村の農林水産関係部局、その他必要な行政機関の関係者等を含めるとあります。
 この構成員はすべて無人ヘリ散布の実施関係者です。周辺住民の意見は無視されます。たとえば、山口県では周辺住民の了解を得ることになっていますが、この通知が決まってしまえば、周辺住民はただ散布日が教えられるだけとなります。
 協議会の役割には、実施主体から空中散布等の実施計画を収集し、安全を確保した適正な空中散布等の実施の推進に努めるというのがあります。
 協議会が地域や県の計画を把握することになります。

★実施主体が守るべき内容
 全面改定されたものとして、空中散布等の実施に当たって遵守すべき事項があります。その主なものは以下のようです。
 1、実施計画を策定。その際、地理的条件、住宅地や転作田の混在等を十分勘案し、
  除外区域、使用農薬の選定などを検討し、危害防止対策が十分に行えないおそれ
  がある場合には、実施計画を見直す。
 2、計画は協議会に報告し、関係指導機関の指導を受けることになっています。
  実施区域の周辺にある学校、病院等の公共施設、居住者等に実施予定日時、区域、
  薬剤の内容等を知らせる。変更の場合も周知徹底を図るとされています。
 3、危害防止対策は、万全を期すとありますが、公衆衛生関係、畜水産関係、他作
  物関係、野生動植物関係に対しては「危被害を発生させるおそれがないように努
  める」としか書かれていません。具体的には
  @地図を作成し「必要に応じて」標識を設置する。
  A実施区域内の立ち入りを禁止する。
  B対象以外の作物にかからないよう必要な措置をとる。 などです。
 散布実施計画の提出については、有人ヘリとは異なり、届出が義務づけられておらず、報告しなくても、罰則を科せられないことも問題です。「農薬使用基準を定める省令」の第四条(航空機を用いた農薬の使用)を無人ヘリコプターにも適用すべく、省令の改定が求められます。

★農林水産航空協会の役割
指針案では、農林水産航空協会が無人ヘリコプター関連の事業を実施することになっています。同協会は、オペレーターの研修や機体等の調査、散布試験などの事業を行うとともに、無人ヘリコプター散布実績情報をあつめ、これをまとめた上で、農水省消費・安全局長に報告することになっています。
 今回の改定案で、協会からの報告を受けた消費・安全局がその内容を公表することが指針本文に組み込まれました。
 空中散布実施計画は、実施主体から無人ヘリコプター協議会や地域別協議会に提出されますが、有人ヘリのように、直接、農水省に報告されません。  また、散布実績について、農林水産航空協会が各地の協議会等から散布情報を集め、農水省消費・安全局長に報告しすることになり、この報告を農水省が公表することになっています。なぜ、こんな、まどろこしいことをするのか、有人ヘリと同様、国が散布実施計画や実績を集計すればいいのに、外郭団体に仕事を与えるためでしょうか。
 そもそも、この協会は有人ヘリ散布のために設立されたものであり、無人ヘリ関連も事業に入れようと思ったら、定款を変えるべきです。
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作成:2008-05-28、更新:2008-07-17