空中散布・松枯れにもどる
t20201#出雲市での松枯れ空中散布、スミチオン被曝で1000人を超える被害#08-06

 昨年、出雲大社での松枯れ空中散布で、高校生が被曝したにもかかわらず(記事t19007記事t19107)、島根県では、5月26日から、松江市、雲南市、出雲市、隠岐の島町で、スミパインMC剤(MEP23.5%含有、希釈倍率2.5〜5)の空中散布が計画されていました(散布計画。出雲大社は本年は中止)。

★出雲市は2地区で空中散布
 このうち、県内で最も広い面積約1700haの空中散布を実施することになっていた出雲市では、その初日5月26日、2機のヘリコプターで 多伎地区と湖陵大山・高松・長浜地区あわせて351ヘクタールの散布が実施されました。予定時間は、5時から9時頃となっていましたが、実際に終了したのは多岐地区8時22分、大山・高松・長浜地区は7時46分であったとのことでした。
 「通学等時間帯までには学校や通学路等に近い散布区域は散布を終了する」となっていましたが、登校した児童・生徒が、頭痛、眼痛、眼のかゆみやかすみなどの症状を訴え、保健室にかけこみはじめたのは、8時半頃からです。この日は、2地区15の小・中・高校から473人が異常を訴え154人が病院で手当てを受け、視野狭窄がみられた1名が入院することになりました。次表に、6月9日現在の被害状況を散布地域からの距離とともに示しました。有訴者は1079人(うち児童生徒1057人)、医療機関受診者は延べ222人となっています。

 表 空中散布後、眼の異常等を訴えた学校別の人数(出雲市発表:6月9日現在)−省略−
【参考サイト】
       島根県:平成20年度松くい虫特別防除(空中散布)の実施について東部地区散布計画隠岐地区散布計画
               出雲市(お知らせ(5/27)お知らせ(6/05)
                  雲南市 隠岐の島町(延期のお知らせ) 松江市
★市は原因不明というが〜農薬の影響否定出来ず
 出雲市は、26日夕方、空中散布の関係団体や地域住民の代表らからなる「出雲市松くい虫被害対策地区連絡協議会」を開催しました。
 出雲市の言い分は、以下のようで、とりあえず、27日以後に予定していた散布は取りやめることになりました。
@散布の区域内と区域外の74箇所に、薬剤の落下を確認するための調査紙を設置したところ、いずれも適切に散布されていることを確認した。
A当日は風も穏やかで、順調に散布作業がすすんだ。その時点では、被害の報告はない。
B原因を究明中だが、現段階で判明していない。薬剤空中散布が原因であるかどうかの調査を進めている。

★住民団体の要望
 5月27日、島根くらしといのちのネットワークと子どもの人権オンブズパーソンは、出雲市と島根県に対し以下の申し入れをしました。−要望は参考サイト参照−
【参考サイト】倉塚さんのHPブログ
       たかやまさちこさんのHP2008年度の農薬空中散布

★出雲市は中止を決める
 28日開催された第二回の連絡協議会では、次のことが明らかになりました。
「松くい虫防除薬剤空中散布の日に発生した健康被害に係る関連調査」では
  1、花粉について・・・花粉の観測値は、ほとんどゼロ
  2、黄砂について・・・確認されていない
  3、大気汚染について・・・26日の測定では、9時から19時までオキシダント濃
    度が環境基準値である0.06ppmを若干、上まっているが注意報発令基準値を大きく
    下回っている。
  4、そのほか 5月25日以降大規模な事故、火災等は発生していない。
 また、「医療機関における受診状況および医師所見」では、4つの診療所とふたつの病院の状況が報告され、スミチオンと特定はできないが、可能性も否定はできないという、共通した見解が得られました。

 出雲消防本部調べでは風速が、6時には、1.8m/秒(風向き西北西)7時には3.0m/秒 8時には5.7m/秒。 突風は6時 5.2m/秒、7時 5.4m/秒、8時 9.2m/秒、9時12.7m/秒と観測されており、散布開始前の4時は、アメダスだと風速ゼロ、消防本部の調べだと1.4m/秒でした。『散布は,地上1.5mにおける風速が5 m/秒以下(微量散布、液剤少量散布は3 m/秒以下)の場合に実施するものとする』という次官通知を守られたとしても、より上空での風速がどうであったか、その後、5m/秒を超えても散布を止めずに継続したのではないか。また、風が児童・生徒の通学路に向けて吹いていたのではないかなど、多くの人が受動被曝した要因があったように思えます。
 この日の協議会で、出雲市から以下の方針が示されました。
(1)今年度の空中散布は中止する。
(2)医学、化学、薬学、気象学、学校保健などの専門家で構成する「健康被害原因調査委員会」を立ち上げ、夏ごろを目処に報告を受ける。
(3)平成21年度以降の対策などについて検討するため、上記委員会とは別に検討組織(審議会)を立ち上げ、年内に答申を受ける。
さらに、出雲市は「病院等を受診された方の医療費の取扱いについて(お知らせ)」で、『今回の松くい虫防除薬剤空中散布が原因ではないかとする目のかゆみや痛みなどをなどを訴える被害について、市では松くい虫防除のための薬剤空中散布との関係を否定できないとして、今年度の空中散布を中止するとともに、原因調査のための委員会を設置し、原因究明に全力を挙げてまいります。
 また、医療機関を受診された方の医療費につきましては、出雲市が全額負担することとしました。』としました。
 このような受動被曝被害を踏まえ、島根県では、松江市、雲南市、隠岐の島町での空中散布も中止になりました。

★原因調査委員会の結論は7月末に
6月11日に、専門家をメンバーとした健康被害原因調査委員会の初会合が開催されました。
委員長には、林野庁の無人ヘリによる松枯れ防除に関する運用基準作成のための検討会に入っていた山本廣基島根大学副学長がなり、地元の眼科医師、島根大学医学部関係者、気象台や農業技術センター関係者のほか、農薬空中散布反対ネットワーク代表の植村振作さんもメンバーとなっています(委員名簿)。
この日は、市がいままでの経緯を示す資料を提示説明しました。今後、3回ほど委員会を開催し、結論は7月末に出るそうです。
空中散布の実施に問題はなかったか。
散布後、環境中のMEP=スミチオンの挙動はどうだったか。
被害については、特に、有機リン剤の影響を受けやすい子どもたちが、どのような状況下で、MEPを被曝したかが、原因究明のポイントになります。
植村さんが、今回の事故は、出雲だけの問題ではなく、農薬空中散布が行われている各地でおこっていて、特別のことではない、出雲市が被害調査をしたから、表に出てきたことだ、と指摘したことも、重要です。

★松枯れ空中散布の中止しかない
松枯れは、農薬の空中散布だけでは、止められないことは明確になっています。
 にもかかわらず、島根県以外では、松枯れ農薬空散は何事もなかったように続けられています。
林野庁にすべての空散を中止するよう申し入れましたが、「原因が判明していない」という理由で、基準を守って空散するようにという事務連絡を出しただけです。原因がわからないからこそ、予防原則に則って、原因が判明するまで空散を中止するのが行政のやるべきことです。
地元での長年の空中散布反対運動には応えず、子どもたちを中心とする多くの農薬受動被曝による被害がでてはじめて、行政が動くという構図は、いままでの公害の図式のなんら変わりがありません。
 高濃度の有機リン剤を頭上から散布することは、今回のような危険を伴うことだという認識を常識とし、群馬県のように、有機リン剤の無人ヘリコプターによる散布(もちろん有人ヘリも)を止めるという指導を、もっと広めるべきです。
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作成:2008-06-28