空中散布・松枯れにもどる
t20601#出雲市松枯れ農薬空中散布健康被害原因調査委員会に出席して〜委員11人中9名が空散との関連認める#08-10
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【参考サイト】出雲市:健康被害原因調査委員会 議事録の公開について        倉塚さんのHPブログ たかやまさちこさんのHP2008年度の農薬空中散布
 9月24日、出雲市の健康被害原因調査委員会は報告書を提出しました。今号では、調査委員会のメンバーで、健康被害の原因が農薬であるとの意見を主張した植村振作さんに、委員会での主な論点を解説してもらいました。なお、10月3日、市は今後の松枯れ対策を検討する「松くい虫防除検討会議」を発足させ、今年中に答申を得る予定です。

★迅速だった出雲市の対応
 今年5月26日、出雲市の松枯れ空散(スミパインMC剤=スミチオン23.5%含有を使用)で、出雲市の児童・生徒1286人の健康被害が発生しました。成人についてのアンケート調査結果を含めると1645人に達します。
 これまで、空散による被害は、行政に訴えても門前払いをされ、調査すらなされていませんでした。今回は、新しく校医になった山本(由)医師(眼科)が異常に気付き学校側に指導・助言をしたことと、学校側が速やかに行政に報告した結果、市も対応せざるを得なくなったようでした。
 慌てた出雲市は市内の幼稚園、小中高校に被害状況を照会し、広範囲で多数の被害者が出ていることが判明したため、当日緊急に「出雲市松くい虫被害対策協議会」を開催して、空散を中止し、翌々日には「健康被害原因調査委員会」設置を決定しました。出雲市のこのような迅速な対応の背景には、地元での長い間の空散反対運動があったことが考えられます。

★どんな症状だったか
 調査委員会(11名、委員長:山本廣基島根大学副学長)は6月11日から9月18日までに計8回開催されました。
 委員会の要請に応じて、出雲市が市内の園児、小中高校生8516人を対象にした全員アンケート調査を行ないました。その結果を表にまとめました。

 1286名が何らかの異常を訴えています。6.6人に1人の被害。異常です。症状は目のかゆみの訴えが最も多く、次いで眼の充血、眼の痛み等です。委員会が無作為に抽出した被害者小中校生7名の聞き取り調査も実施されましたが、アンケート調査結果を確認するに留まりました。公募で選ばれた成人(1名)については、応募者の仕事の都合で行なわれませんでした。
 被害者の診察に当たった山本(由)及び児玉(島根大眼科)両委員が揃って"眼のかゆみを訴えている割には結膜浮腫のみられる患者がほとんどなく、アレルギー性結膜炎とは異なる印象である"旨述べています。

★調査委員会での主な議論
 当初、原因物質として黄砂、スギ・ヒノキ花粉や光化学オキシダント、SO2、NOX等も俎上に挙がりましたが、これらについては殆どの委員が否定的な見解でした。
 多くの委員は、5月26日に突如被害が発生し、以後訴えが減ったことから、空散が原因ではないかと感じていたようです。しかし、そうだと判断するには、スミチオンの眼に対する毒性、スミチオン被曝量、発症メカニズム等に関する情報が不足しており、断定しかねるといった姿勢でした。その結果、議論はスミチオンの眼毒性、被害発生頻度と被曝量との関係、発症メカニズムなどに集中しました。
【眼毒性】
 スミチオンの眼毒性に関して、メーカーの住友化学が作成した「スミパイン乳剤およびスミパインMC剤に関する技術レポート」が提出されました。農薬登録時に国に提出された資料では、スミチオンが眼に対する刺激性有りとなっていたこと知っていました。ところが、これには「ウサギを用いた試験結果では、眼や皮膚に対する刺激性はない」と記載されています。このままでは、スミチオンの眼に対する刺激性なし、と委員会で誤った評価・認識がなされることを恐れ、この虚偽記載をした住友化学を厳しく追及しました。最終的には技術レポートの記載は事実と異なることを住友化学が認めました(記事t20502)。
 農薬説にくみしない委員長は、登録時の刺激性試験はスミチオンの点眼によるもので、今回なような吸入も考えられるケースに適用するには必ずしも適切な試験でないと指摘し、農水省の農薬毒性に関する毒性試験基準にのっとったという、スミチオンの吸入曝露に関する試験結果を提出してきました。これにも眼毒性の項に「投与の関連する所見は認められなかった」と記載されていました。ところが、この試験では眼の検査に眼底カメラが用いられています。それに気付いた山本(由)委員から、結膜、角膜等の異常は眼底カメラでは検査できないはずだとの疑問が出され、児玉委員も同じことを指摘し、この刺激性試験の方法自体が疑われました。検査法自体が問題になり結果の信頼性がなくなり、眼刺激性なしとは云えなくなりました。
 この議論で大切なことが分かりました。それは、スミチオンの毒性について住友化学が嘘をついていたということだけでなく、農水省が定めていた農薬毒性試験実施基準そのものを再検討する必要があることが判明したことです。スミチオンだけでなく他の農薬についても正しい毒性評価がなされていなかった可能性があります。
【気中濃度と発生頻度】
 スミチオンの被曝量の低下と共に被害発生頻度が低下すれば、空散説がより確かなものになります。
 ところで今回は、被害発生後6時間も経った昼過ぎから試料採取が始まり、しかもかなり感度の悪い方法で分析されたために、被害発生時のスミチオンによる汚染状況(濃度)は不明でした。委員会に報告された資料から、分析用サンプルが残っていることが考えられたので、より精確に測定できる方法を指定して再分析を求めましたが、分析機関に残っていたサンプルは既に破棄されていたとの回答で、直接濃度との関係を詳しく検討することは出来ませんでした。
 一般に飛散量は遠くなるに従って低下します。そこで、濃度の代替変数として距離が使われます。被害発生率と距離との関係はデータとしてあり、その関係について、空散原因説派と原因不特定派の委員の間でかなり激しい議論が展開されました。
 奥西委員(島根大薬理)はスミパインMC剤中の小さなマイクロカプセルが、散布終了頃の西風に乗って相当遠くまで漂流し、出雲市街地の大気を汚染している可能性を指摘し、健康被害が広範囲にわたっていることと矛盾しないと主張しました。他方、委員長から疫学に詳しいと紹介された塩飽委員(島根大環境保健)は、アンケート結果についての統計分析結果から、被害発症率は散布地からの距離に依存しないと強く主張しました。

図に、私(学校ベース)の分析結果と塩飽委員(個人ベース条件:高校生、自転車通学、アレルギー既往症)の結果を示しました(私は8516人のデータが一度に処理できる統計ソフトを持ち合わせていませんでしたので学校別の被害発生率を使用)。両者とも遠くなると減少しています。塩飽委員は自らの統計分析結果を正しく解釈していないと考えざるを得ません。発症率の距離依存性の評価は、空散(農薬)を原因と見るかどうかに当たっての重要な要因ですので、私は最後まで、塩飽委員の誤りを指摘し、追及しましたが、主張を変えませんでした。
【発症メカニズム】
 臨床医の立場から中山委員(県立病院副院長)は、スミチオンの微量摂取と考えられる時の症状についての報告事例がなく、今回の被害は農薬散布によるとは感じているが、スミチオンによると断定するには躊躇するとの趣旨の考えが述べられました。又他の委員からも同様の発言がありました。北里大眼科グループの研究例が紹介されましたが、微量有機リン剤摂取時に見られる急性臨床症状についての医学的知見を有する委員がおらず、議論は深まりませんでした。

★終わりに
 結局、委員会は、まとめていえば、@空散が原因の可能性を否定できない(7人)、A空散が原因(2人)、B原因を特定できない(2人)との3意見を併記して報告書が提出しました。Bを除き11人中9人が、原因は空散、といっているのも同然です。従来の行政が設置した委員会では考えられない結論となりました。でも、原因を特定できないという立場の二人の委員は農薬学会の役員と県農業技術センターの部長で、空散を勧める立場にあります。これだけの事故が起こっても、原因は特定できないといって、責任逃れなことを言っています。徹底的な批判が必要です。  そもそも、地上散布よりも100倍以上の高濃度の有機リン剤を、風が吹けば多くの人が生活している市街地の方に飛んで行くようなところで撒くことが一番の間違いです。空散を続けていけば、又出雲と同じような健康被害が発生しかねません。更なる空散反対運動が望まれます。(植村振作)

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作成:2008-10-25