農薬空中散布・松枯れにもどる
t20604#無人ヘリコプター事故の背景をさぐる〜農林水産航空協会がすべてを牛耳る無人ヘリ業界は無法地帯か#08-10
【関連記事】2008年度農薬の散布計画
【電子版資料集】第4号<無人ヘリコプター農薬散布∞現状と問題点>
【参考サイト】農林水産航空協会のHPと
無人ヘリコプター用農薬の頁
記事t20402、記事t20501で報告したように無人ヘリコプターの事故が続きました。事故機はヤンマー製のAYH-3型ですが、同社に原因等の問い合わせを行っているものの、回答がありませんし、農水省に問うても調査中との答えが返ってくるだけです。
本号では、いままでの事故例やその背景について、調べた結果を報告します。
★98年から07年の無人ヘリ事故24件
農水省資料では、1998年から07年までの無人ヘリコプターの事故例は表1に示すように24件ありました。被害状況は、1件の人身事故を除き、残り23件が機体損傷及び人身、農産物等への影響なしとなっています。
また、事故原因については、表1下段の凡例に示すようなケースがあり、オペレーターの操作ミスが20件、同機体取扱ミスが1件、電波混信が2件、合図マンの指示が十分でないが2件となっています。
しかし、新聞報道された05年7月14日、山口県阿武町で起こった事例(高圧電線を切断、付近の約770世帯停電)が、農水省の報告に載っておらず、すべての事故が報告されているかどうか疑問が残ります。
さらに、これらの事故は、ほんとうに、オペレーターのミスだったのか。仮りにそうとしても、なぜ、ミスをしたのか。その後、ミスしたオペレーターの資格や再教育はどうなるかなども不明です。
表1 無人ヘリコプターの事故例24件(98-07年)
事故原因の凡例 :(a)オペレーターの操作ミス、(b)オペレーターの機体取扱ミス、(c)電波の混信
(d)合図マンの指示不十分
年月日 事故状況 被害状況 事故原因
98/08/08 散布中に墜落 機体損傷。人身、農産物等への影響なし (a)
99/07/07 電話線に接触し、墜落 機体損傷。人身、農産物等への影響なし (a)
99/08/05 建物手前でターンしようとした 機体損傷。人身、農産物等への影響なし (a)
が、オーバーランし、建物に接触、墜落
99/08/12 機体移動中、道路下の電話線と接触、墜落 機体損傷。人身、農産物等への影響なし (a)
99/09/04 農薬積載量超過のため、墜落 機体損傷。人身、農産物等への影響なし (b)
00/07/20 電線に接触し、墜落 機体損傷。人身、農産物等への影響なし (a)
01/07/20 散布後に移動する際、コントロール不能 機体損傷。人身、農産物等への影響なし (c)
となって墜落
01/07/21 散布中にコントロール不能となって墜落 機体損傷。人身、農産物等への影響なし (c)
01/07/27 支線に接触し、墜落 機体損傷。人身、農産物等への影響なし (a)
01/07/31 電線に接触し、墜落 機体損傷。人身、農産物等への影響なし (a)(d)
01/08/10 散布後、速度を落とす際にコントロール 機体損傷。人身、農産物等への影響なし (a)
を失い、農道に墜落
01/08/14 150m前方の高圧線に衝突、墜落 機体損傷。人身、農産物等への影響なし (a)
02/08/10 移動中、機体がビニールハウスの陰となっ 機体損傷。人身、農産物等への影響なし (a)
て見失い、墜落
03/07/30 機体がオペレーターに接触 オペレーター右足切断、左足骨折 (a)
04/06/14 JR線路脇25m付近を散布中、操作不能と 機体損傷。人身、農産物等への影響なし (a)、
なり、架線に引っ掛った 左右方向舵故障
05/08/05 家屋に接触し、墜落 機体損傷。人身、農産物等への影響なし (a)
05/09/02 電線に接触し、墜落 機体損傷。人身、農産物等への影響なし (a)
06/10/02 支線に接触し、墜落 機体損傷。人身、農産物等への影響なし (a)
07/06/14 ほ場に隣接する倉庫に接触し、墜落 機体損傷。人身、農産物等への影響なし (a)
07/07/26 私鉄線路脇の鉄柱に接触し、信号ケーブル 機体損傷。人身、農産物等への影響なし (d)
を切断
07/08/06 高圧電線に接触し、墜落 機体損傷。人身、農産物等への影響なし (a)
07/08/21 貯水用タンクに接触し、墜落 機体損傷。人身、農産物等への影響なし (a)
07/08/24、散布終了後、移動中電線に接触し、墜落 機体損傷。人身、農産物等への影響なし (a)
07/09/27 圃場移動中、鉄柱に衝突、墜落 機体損傷。人身、農産物等への影響なし (a)
★すべてを取り仕切る農林水産航空協会
最近5年間の無人ヘリコプターの都道府県別機体数とオペレーター数推移を表2に示しました。この間、機体数は22%増えて2330機に、人数は31%増えて12550人となっており、今後も増える一方です。
そして、無人ヘリコプター関係のさまざまな業務を行っているのは、農林水産航空協会(以下、「協会」という)という農水省管轄の社団法人=業界団体です。
有人ヘリコプターによる航空機散布事業の発展を目的とする協会は、その補完事業として、無人ヘリコプターに関する事業を一手に引き受けており、農水省の発出した「無人ヘリコプター利用技術指導指針」により、その役割が決められています。
協会は、無人ヘリコプターによる農薬散布についての防除計画や実績調査や事故の把握を行うだけでなく、機体については 「産業用無人ヘリコプター及び散布装置性能確認基準」を、操縦要員については「産業用無人ヘリコプターオペレーター技能認定基準」や「産業用無人ヘリコプター教習施設認定基準」などを制定しています。
オペレーターの認定を受けるには、協会が認定した教習施設(本年9月現在、ヤマハが109ヶ所、ヤンマーが12ヶ所、富士重工が1ヶ所、計122ヶ所ある)で、「産業用無人ヘリコプター操作技能確認基準細則」に基づく学科や技能研修を受け、検定試験にパスする必要があります。施設管理責任者から得た認定推薦状を協会に提出すると、検定を受けた機種に限定した「産業用無人ヘリコプターオペレーター技能認定証」が与えられ、協会認定のオペレーターを名乗ることができます。
しかし、これは法的な資格ではなく、この資格がなくとも、無人ヘリコプターを飛ばすことは可能です。協会資格は、5年間有効で、その後、5年毎に更新研修を受ければ、継続できます。しかし、認定の取消しについては、更新手続きをしないこと以外、何の決まりもありません。操作ミスで事故を起こしても、自ら認定証を返上しないかぎり、自動車の免許のように、免停処分などを受けることもないのが実情です。
無人ヘリコプターを約12500人のオペレーターが操作しているにも拘わらす、事故調査をどの機関がどのようにするかのマニュアルもなく、単なるオペレーターミスとして片付けられてしまう現行体制の改善が求められます。
表2 都道府県別無人ヘリ登録台数とオペレーター数の推移(03-07年、農水省資料より)
登録台数 オペレーター数
年度 03年 04年 05年 06年 07年 03年 04年 05年 06年 07年
北海道 251 251 253 229 243 1411 1550 1599 1667 1722
青森 72 77 87 91 97 406 457 487 514 543
岩手 36 44 48 45 46 245 277 293 319 330
宮城 72 76 87 89 91 251 278 300 323 345
秋田 128 143 154 154 175 691 855 940 1000 1090
山形 107 145 153 161 165 648 783 811 884 927
福島 20 16 16 15 12 145 152 153 155 159
茨城 46 48 59 64 69 264 320 344 395 432
栃木 82 99 110 113 118 252 309 351 361 377
群馬 10 9 9 7 6 61 62 64 65 66
埼玉 28 30 26 23 20 81 82 84 86 87
千葉 32 37 40 48 52 139 171 192 233 249
東京 7 15 29 32 34 22 23 22 24 24
神奈川 0 0 0 0 0 28 29 29 29 28
山梨 3 4 6 4 4 40 41 41 42 45
長野 26 25 27 32 34 269 277 284 296 302
静岡 19 22 23 22 21 149 166 175 185 183
新潟 133 139 150 157 181 571 667 695 741 779
富山 44 40 38 46 48 209 235 243 256 274
石川 48 46 54 56 57 135 164 179 206 219
福井 35 34 37 40 43 134 148 155 167 177
岐阜 34 32 35 31 36 259 284 289 291 297
愛知 19 17 23 25 27 122 133 142 151 156
三重 36 36 38 41 42 155 169 173 184 190
滋賀 60 66 71 67 53 250 273 282 298 315
京都 3 5 6 5 5 16 28 28 30 32
大阪 0 1 4 4 25 25 27 28 28 28
兵庫 57 55 56 58 55 237 255 262 269 270
奈良 5 6 8 8 9 19 19 19 20 20
和歌山 1 1 0 0 0 18 18 18 19 16
鳥取 14 13 13 12 12 44 46 47 49 50
島根 28 25 27 28 28 99 106 108 119 122
岡山 16 14 15 17 16 73 72 79 80 83
広島 20 19 22 21 22 96 107 112 118 127
山口 45 48 50 53 59 242 242 260 273 287
徳島 5 3 3 3 4 29 31 37 37 35
香川 2 2 4 3 4 27 28 30 30 31
愛媛 19 18 18 16 14 108 111 114 114 118
高知 17 16 14 12 15 103 107 107 109 110
福岡 114 112 123 114 124 457 478 498 511 519
佐賀 51 53 63 66 70 259 271 296 322 323
長崎 27 28 36 36 36 122 149 162 184 198
熊本 37 39 42 46 46 148 168 199 208 218
大分 62 64 63 59 61 300 324 327 342 341
宮崎 15 16 22 22 21 106 109 127 143 160
鹿児島 19 16 19 19 30 107 116 118 126 137
沖縄 0 0 0 0 0 2 2 2 2 9
計 1905 2005 2181 2194 2330 9574 10719 11305 12005 12550
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作成:2009-03-28