農薬空中散布・松枯れにもどる
t21101#2009年度有人ヘリ空散を計画している県、森林管理署へのアンケート調査結果 (その1) 健康被害の訴えがあった場合の対応は不十分#09-03

 昨年11月、当グループは出雲市での松枯れ農薬空散による健康被害を受けて、青森県と北海道を除く45都府県に@松枯れ対策は農薬を使用しないこと、A万一、農薬使用する場合は健康被害調査をすることの2点について問い合わせました(記事t20802参照)。地上散布も含めて農薬使用をしていない県は4県だけでした。また、健康調査については、被害があれば調査するとの回答が多く、自ら積極的に調査を実施しようと明言した県はゼロでした。
 1月に実施したアンケート調査では、2009年度に有人ヘリによる農薬散布を計画している27県と、国有林で計画している12森林管理署に対して、どのような安全対策をとっているかなど質問を出しました。質問は、空中散布予定、安全対策の具体的内容、環境測定、健康被害の対応、住友化学からスミパインMC剤に関する技術レポートの改訂版を入手したかなどです。
 27県は<東北>岩手、宮城、秋田、福島、<関東甲信越>茨城、栃木、長野、新潟、<北陸>石川、福井、<東海>静岡、愛知、<関西>兵庫、奈良、和歌山、<中国>鳥取、島根、岡山、山口、<四国>香川、愛媛、<九州>福岡、佐賀、長崎、熊本、宮崎、鹿児島です。3月16日現在、27県と12森林管理署から回答を得ました。−中略ー
 本号では、健康被害の訴えがあった場合、どう対応するか、因果関係は誰が判断するのかなどについての各県の回答をまとめました。

【質問】受診医療機関を指定しているか
 健康被害を受けたときにどこの医療機関へ行けばいいのかわからないと困ります。林野庁は毎年事務連絡を出して、あらかじめ実施日時、使用農薬に加え、「人によっては薬剤による影響の程度が異なることを配慮した的確な対応措置を連絡する」「農薬中毒の症状と治療法」の医療機関への周知を指示しています。
 健康被害を受けた時に受診する医療機関を指定しているかという質問に対する回答は、曖昧な回答が多いのでまとめにくいのですが、以下の通りです。
  病院等を指定している=岩手、宮城、福島、新潟、石川、福井、長野、愛知、
          奈良、岡山、山口、香川、愛媛、佐賀、熊本、鹿児島
  保健所等医療機関に事前に連絡・協力依頼=秋田、茨城、栃木、兵庫、鳥取、
          島根、福岡、長崎、宮崎、
  指定していない=和歌山
  回答なし=静岡
【質問】住民から健康被害の訴えがあった場合どう対応するか。また因果関係について、誰が判断するか。
 昨年の出雲市での健康被害発生時でも問題になりましたが、空中散布で健康被害を受けても、一人や二人、あるいはアンケート調査などで多数が訴えても、通常、「因果関係が明らかでない」と無視されます。今まで「健康被害の訴えがなかった」と回答した県が多いのですが、訴えても無視された場合があることを忘れてはなりません(たとえば、出雲市でみられた一過性の眼のかゆみなどは、いままで健康被害と認められてこなかった)。
 そこで、健康被害の訴えがあった場合、どう対応するか、因果関係は誰が判断するのかについて聞きました。各県の回答要旨は以下のようです。
 −以下略−
 とりあえずは、病院等で受診してもらうというのが大部分の回答です。
 「農薬中毒の症状と治療法」(農水省監修、農薬工業会発行)には、有機リンによる健康被害の軽症例として、倦怠感、違和感、頭痛、目まい、胸部圧迫感、不安感及び軽度の運動失調などの非特異的症状、吐き気、嘔吐、唾液分泌過多、多量の発汗、下痢、腹痛、軽い縮瞳などをあげています。
 このような症状を訴えた人に対して、的確に農薬中毒だと診断できるのでしょうか。 そもそも、この農薬中毒資料は、農薬散布者や服毒・誤飲者の農薬中毒への対応を示したもので、健康被害というとばったり倒れるとか、救急車で運ばれるという中等症状以上を想定しているのかもしれませんが、実際には風邪の症状に似たような症状が広範に発症するのが普通です。
 また、有機リン中毒かどうかを酵素のコリンエステラーゼの値で判断するという古典的な方法がありますが、松本サリン事件では、コリンエステラーゼの値が下がってなくても、重症の中毒者がいました。コリンエステラーゼの検査だけでは農薬中毒かどうか判断できません。
 因果関係を実施団体が判断するという県もありますが、それこそ、専門家でもない農薬散布者に判断できるはずがありません。

【質問】周辺に農薬被害の判断ができる医者がいるか
 訴えられた健康被害が農薬の影響かどうかを判断するのは非常に難しいと思われます。多くの県は事前に林野庁が配布した「農薬中毒の症状と治療法」を渡しているから大丈夫だという回答をしていますが、出雲市の例でもその場で医者が農薬の影響だと判断できませんでした。症状を訴えた人が1200人を超え、しかも学校へ行っていた子どもたちが主であったため、問題になったのです。県の認識は非常に甘いと思います。
 また、茨城のように「判断が困難な場合には学識経験者等外部有識者を交えて判断したい」とした県もありますが、外部有識者がそんなに簡単に集まれるのか疑問があります。
 事前に資料を配付しているから判断できるとした県は、岩手、宮城、新潟、石川、福井、愛知、奈良、和歌山、香川、福岡、鹿児島です。
 根拠を示さずに「診断できる医者がいる」という内容の回答をしたのは、秋田、福島、佐賀、長崎、熊本、宮崎です。
 「協力依頼をしているから診断できる」「総合病院等の医師なので診断できるはず」としたのは、福島、栃木、長野、兵庫、岡山、島根、山口、愛媛でした。
 鳥取は「個々の医師の能力を判断することはできないため、回答できない」
 島根は「指定医療機関では必要な検査体制が整えられており、診断・処置を行うことは可能」と回答してきましたが、出雲市では医師が農薬の影響だと判断できていませんでした。もし、最初に診察した段階で農薬の影響と診断されていたら、原因究明検討会の必要はなかったはずです。
 静岡は回答なしでした。
   (その2)適切な散布条件は?とバラバラな周知チラシの内容
   (最終回)協議会に反対派が入っていない/国有林のカンニング回答

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作成:2009-03-28