農薬空中散布・松枯れにもどる
t21302#松枯れ農薬空中散布アンケート(最終回)協議会に反対派が入っていない 国有林のカンニング回答#09-05
【関連記事】(その1)健康被害の訴えがあった場合の対応は不十分
(その2)適切な散布条件は?とバラバラな周知チラシの内容
記事t20802、09年の松枯れ対策の農薬散布予定
【参考サイト】アンケート調査(設問)
「農薬中毒の症状と治療法」
本誌211、212号で、今年度の有人ヘリによる松枯れ空散実施予定27県の健康被害への対応策や「適切な散布条件」について報告しました。今号では、空散実施県に義務づけられている「森林病害虫等防除連絡協議会」のメンバーに反対派が入っているかどうかと、国有林の12森林管理署の回答について報告します。
★協議会に反対派が入っているか
松枯れの空中散布をする場合、県、地区レベルで「森林病害虫等防除連絡協議会」(以下、協議会)を設置し、地域住民の意見を十分に聞くことになっています。1997年の森林病害虫等防除法改定時に、空散反対派を参加させるよう強く要望した結果、林野庁は「反対派という名前で通知は出せないが」として「森林病害虫の防除に関心を有する団体等の代表」と曖昧な名前で反対派を入れることにしました。同年4月7日付の林野庁長官は都道府県知事宛の通知「森林病害虫等防除に係わる連絡協議会等の設置要領例について」を出しました(記事t08702参照)。
ここで示された例はアからクまで8種類あり、中には「環境の保全に関する地域の有識者その他地域の実情に応じ必要な者」という項目があり、自然保護団体やボランティア団体はここに含まれます。それ以外にわざわざ「防除に関心を有する団体」をあげたということの意味を考えるべきです。
最初のうちは、この項は反対派を意味することが明白でした。最初に反対派が協議会に参加したのは島根県です。その後、香川県、千葉県、長野県などこちらが要望した県では、反対派が参加しています。
★10年たてば反古
しかし、10年以上たち、確約した担当者が変わると、反対派という言葉は否定され、山口県などで要望しても拒否されました。現在の林野庁の担当者も曖昧なことをつぶやき、きちんと指導しません。いかに、官僚というものが奸智にたけているか示すものです。市民運動は、騙されてはいけないとつくづく思いました。
というわけで、この質問に対する回答は、「防除に関心を有する団体が空散反対派とは理解していない」と回答してきた県がありました。岩手、茨城、兵庫、鳥取です。
結局のところ、来年度空散を予定している27県で、はっきり反対派を入れていた県は、長野、静岡、島根、香川の4県のみでした。
日本野鳥の会や婦人団体が参加しているから十分だとした県も多くありました。しかし、こういう団体は空中散布に反対しませんし、「環境の保全に関する地域の有識者」の中に入ります。
福井は、「森林病害虫等防除に関心を有する森林所有者」とまで回答しています。協議会で、地域の意見を十分聞くなどというのは絵空事であることが明白です。
国有林森林管理署の回答はみな同じ
★国有林は毎年1億円の国費で空散
国有林で、2008年度に有人ヘリコプターで松枯れ対策の農薬空中散布を行ったのは、
磐城森林管理署(以下、森林管理署略)(福島県)、棚倉(福島県)、茨城(茨城県)、下越村上支署(新潟県)、東信(長野県)、鳥取(鳥取県)、山口(山口県)、福岡(福岡県)、佐賀(佐賀県)、宮崎(宮崎県)、大隅(鹿児島県)、鹿児島(鹿児島県)の12森林管理暑でした。国有林での空散面積は約3000ha, 費用は約1億円程度です。
回答は最終的にはすべての森林管理署からもらいましたが、国有林独自の回答方式があるらしく、新しい発見がありました。いくつか気の付いた点を上げます。
★突然、質問するな?
まず、回答の前書きに「なお、今後、このような突然のFAX等による照会は、十分な説明もできないことから、後のトラブルの原因となりかねませんので、遠慮いただくようご理解願います」(福岡森林管理暑、大隅森林管理暑)という文言がありました。国有林の事業について質問するのに、ファックスやメールはだめだとか言うのでしょうか。おそらく真意は質問するなということだろうと思います。「後のトラブル」という発想自体が問題です。こういうところは、住民が問い合わせてもきちんと回答しないのではないでしょうか。質問に真摯に答えるのが税金を使って事業をしている役所の責務でしょうに。
★全く同じ表現とは
次に、全く同文の回答が続いていたことです。たとえば、風向の規制について質問したところ「風向きに注意して散布することにしていますが、風速が規定の範囲内であっても薬剤が区域外に飛散するおそれがある場合は、飛行高度を下げるなどにより、飛散防止に努めています。また、上昇気流が強い場合には、薬剤の空中への蒸散、散布区域外への飛散、飛行上の危険等が予想されるので散布は行わないこととしています。」と、一字一句違わない回答が、磐城、棚倉、茨城(空中への蒸散でなく「空中への飛散」と書いているところが違う)、下越の4管理署でした。
また、住宅地などからの緩衝地帯に関する質問への回答もなかなか興味深いものでした。「住宅地や学校、配慮すべき公衆衛生関係施設、生活道路などから十分な間隔を保持することにしており、一応の目安としては200m程度としています。また、松林と関わりの深いそこに暮らす住民や地域の希望や実情等及び協議会の検討内容を踏まえ、総合的に勘案し対応しています」というのですが、この「松林と関わりの深いそこに暮らす」という表現は他に余り見られるものではありません。この通りの回答は、磐城、棚倉、茨城、下越、鳥取、山口、福岡、佐賀、宮崎、大隅の10管理署でした。東信と鹿児島は、関わりの深い「地元」となっているくらいの違いです。
★林野庁が模範解答を示したか
つまり、森林管理署に模範解答を示したところがあるということです。林野庁以外にそんなことができるところはありませんが、その通りにコピーして回答するというのもどうかと思います。特に、風向、緩衝地帯に関しては、各森林管理署も林野庁に聞かなければ回答できないということでしょうか。安全性を求める側としては、そのあたりこそ、各実施者が肝に銘じて知っておかなければならないし、実践してもらわないと困るところだと思うのですが。
★風速超えたら散布中止というが・・
と、こういう背景があるためか、質問に対する回答は同じ内容でした。
質問1の来年度の空散予定に関しては「まだ予算が通っていない」という理由でどこも回答はありませんでした。正式な面積などの発表が行われたのは、5月になってからで、次頁と表を参照してください。
質問2の具体的な安全対策に関しては、風速は「液剤:5m/秒、微量・液剤少量:3m/秒以下」で「風速計をヘリポートか、散布区域内外に設置し測定」「規定の風速を超えた場合は散布中でも中止している」とのことでした。(風向については前述)
規定の風速を超えれば散布を中止するとの回答がすべてでしたが、本当でしょうか。今までそうした例があったかどうか聞けば良かったと思います。出雲市でも問題になりましたが、突風が吹いた場合はどうするのでしょう。散布時間は、おおむね、日の出直後から2時間程度という回答でした。
散布面積が広ければそれだけ農薬使用量も増え、危険性も増しますが面積の上限を設けたところはありませんでした。2008年度で、一ヶ所の最大散布面積は鹿児島県南さつま市の522.49haです。ここはスミパインMC剤散布ですから、実に、ここだけで7.2トンのスミチオンが散布されたことになります。
★緩衝地帯の幅はすべて200mを目処との回答
緩衝地帯の巾に関しては前述の通りで、すべてが200mを目処として、各種状況を勘案して決めるとあります。この項目は各署がコピーしたと思われますので、200mはアリバイ的に回答したとも考えられます。実際、福岡県二丈町では200m離すどころか、個人の庭に直接かかるような場所で散布していました。緩衝地帯の最小幅(最低どれだけ離しているか)への数値回答はありませんでした。自分たちが散布しているのに知らないのでしょうか。
周知に関しては、戸別配布チラシ、回覧板、看板、広報誌、防災無線、地元説明会が平均的なところです。県の回答にあまりなかった地元説明会が大部分の管理署の回答にありました。また、県や市町との共同でやる場合「民国連携」という聞き慣れない言葉が使われています。
自家用車やバス、タクシー、給油所などへの周知は国有林独自ではなく、実施市町のチラシなどで周知している、あるいは、交通規制をするため必要ないなどの回答が多くありました。給油所に依頼している署はありませんでした。
受診医療機関を指定しているかどうかの質問に対しては、「散布地区の最寄りの病院に実施日時、使用薬剤等を連絡」がほとんどの管理署の回答でした。中に「同時に散布している町と同じ医療機関を指定」などもありましたが、独自に管理署だけで指定しているところはないようでした。
★健康被害の訴えがあれば受診を促す
健康被害の訴えがあった場合どうするか、という質問に対して、「最寄りの(もしくは指定医師)医療機関での受診を促す」という回答が磐城、棚倉、下越、東信、福岡、佐賀、宮崎、大隅、鹿児島の各署。
また、因果関係を誰が判断するのかということは、出雲市の例もあり、関心の高いところですが、きちんとした回答はありませんでした。磐城、棚倉、下越は「医師専門家による判断が必要」、鳥取は「医師の診断の元に協議会を開催し、民国含めて対応を検討」山口は「共同で防除している町役場と森林管理事務所で協議し判断する」で、茨城は「回答なし」でした。
今まで健康被害の訴えがなかったという回答が大部分ですが、被害を訴えても取り上げてもらえないのが従来の対応でした。「被害がない」というのは「被害を認めない」とイコールです。誰に被害を訴えるのかも不明であり、実施主体に訴えても真摯に取り上げてもらえるか疑問があります。
今回でアンケート結果の報告は終わりますが、民有林も国有林もこれではとても「適切な散布」は望めません。健康被害が発生、効果も不明、生態系の破壊という農薬空中散布・地上散布はやめるべきです。
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作成:2009-10-26