街の農薬汚染にもどる
t21806#東北・北海道のマイマイガ対策を巡って#09-10
【参考サイト】森林総合研究所のマイマイガ
天敵Wikiのマイマイガ
記事t21205号で、岩手県盛岡市がマイマイガ対策に農薬散布キットの貸し出しをおこなっていることを紹介しました。その後、宮古市でも4月末噴霧器の貸し出しを行うというので、問合せをだしましたが、回答をくれませんでした。
今号では、東北・北海道でのマイマイガ発生状況等をまとめてみました。
★岩手県は沈静化へ
08年の大発生に引き続いて、09年も懸念されていたせいか、岩手県、地方振興局、市町村などの行政機関は、春先から、広報やホームページで、まず、昨年産みつけられた卵塊を物理的除去する(こすり落としたり、粘着テープによる)、孵化して、群れている1齢幼虫を除去(物理的除去や農薬・殺虫剤処理)を呼びかけていました。
住宅地でも、前年に住宅の壁や軒下、窓枠などに産みつけられた卵塊(300-500個の卵がある)の除去が急務とされました。幼虫対策には、洗剤の使用や粘着テープ、掃除機による吸引もありますが、盛岡市や宮古市のほか、二戸市、葛巻町、久慈市、岩泉町でも農薬噴霧器の貸出しや自治会での薬剤配布などが行われました。bbr
マイマイガは、森林地帯で大量発生するもので、住宅地で発生するのは、光に誘われてやってきた成虫が建物に卵を産みつけ、翌年それらが孵化するからです。
今年の岩手県での発生状況は、総じて沈静化の方向にむかっているようです。それは、県が実施した被害発生林における分布調査(6月10日〜30日)でもわかります。
調査結果で、激害林はなく、
・カラマツ林で散発的に中程度の食害:岩泉町、宮古市新里、久慈市
・オニグルミ等の一部でカシワマイマイによる食害:宮古市田老、一戸町、
岩手町、滝沢村ということでした。
また、終齢幼虫密度と個体数が減る原因となるウイルス等の流行病発生状況
調査(31地区対象、6月19日〜30日)では、
@ 幼虫数が非常に少ない(0〜120 頭/ha):9 箇所〔岩手町、久慈市、九戸村、一戸町〕
A 流行病発生:20 箇所〔葛巻町、宮古市、川井村、岩泉町、田野畑村〕
B 流行病未発生:2 箇所〔宮古市田老摂待、盛岡市藪川〕
という結果が得られました。
県は『発生年が早い二戸地域や葛巻町から順次、被害は終息の過程に入っているものと推測される。』『一部地域では、通常より多くのマイマイガ、またはカシワマイマイが成虫となる可能性がある。』との発生予察をしています。
【参考サイト】岩手県:防除方法について
09年度生予察調査結果についてと結果概要
盛岡地方振興局、盛岡市、宮古保健所、
二戸市、一戸町
★北海道では衛生害虫扱い?
北海道でもマイマイガはカラマツ造林地や広葉樹林を中心に大量発生しており、北海道庁や道東、道央の支庁や市町村が注意を呼びかけています。
本別町では、8月に入って成虫が目立つようになり、建物の壁にへばりついた成虫を放水車で落とす作業や夜の消灯が実施されました。
道立林業試験場は、北海道におけるマイマイガついて以下のように述べています。
『被害は平均すると10年間隔で多発し、普通1〜2年で終息に向かいます。おもな終息要因としてはウィルス病や昆虫疫病菌の流行が観察されています。―中略―
葉を食害された落葉樹は一時的に衰弱します。カラマツではマイマイガの食害後にカラマツヤツバキクイムシの被害を受け枯れることがあります。幼虫は落葉樹を食べつくすと、近くにある常緑針葉樹、農作物、草本などを食害することがあります。』
また、『雌成虫は8月上中旬頃の夜間、照明に集まり、不快害虫として問題になることがあります。また、雌成虫は照明近くの壁や電柱などに産卵します。翌春に卵から孵化した幼虫は、毒針毛を持ち、触れると皮膚炎を起こします(従来、毒はないと言われてきましたが、1齢幼虫だけは毒針毛を持つことが最近、分かりました)。孵化幼虫は風に乗って分散するため、人に付着したり、家屋内に侵入しやすく、衛生害虫として注意が必要です。』
【参考サイト】北海道:マイマイガの発生について
十勝支庁、池田町、陸別町1と陸別町2、新十津川町
北海道立林業試験場のQ&A:Q23とQ24
★マイマイガの大発生抑止は天敵が有効
マイマイガによる樹木葉の食害を防止に適用のある登録農薬には、ディプテレックス乳剤(DEP)、トレボン乳剤(エトフェンプロックス)、スミパイン乳剤(MEP)があります。一部の地域では、衛生害虫とみなして、医薬部外品レナトップ乳剤(エトフェンプロックス)や単に家庭用殺虫剤を推奨しているところもありますが、マイマイガは薬事法の対象となる衛生害虫ではありません。1齢幼虫の毛により発疹する人がいるため、不快害虫の範疇に入ると思われますが、不快害虫用薬剤には法規制はありません。
大発生しても、主にマイマイガの天敵である糸状菌(Entomophaga maimaiga)やマイマイガ核多角体病ウイルスの作用により、終焉してしまうことを知れば、住宅地では、あえて薬剤散布をせず、卵塊や幼虫の物理的防除による対策、夜光性の成虫がよって来て、産卵しないような光源消灯対策(短波長の青い光に集まりやすい)で十分だと思われます。
★マイマイガ発生でハイリスク港指定
マイマイガは、住宅地だけでなく、日本の港からの輸出にも影響を与えています。
アメリカとカナダは、同国内での森林害虫としてマイマイガ対策(アジア型ジプシーモス=AGMと呼ばれている)を実施しています。アメリカでは、1969年以来、周期的に森林被害が発生しており、殺虫剤(IGR系ジフルベンズロン)やフェロモン利用による駆除が実施されていました。人の健康や生態系への影響を懸念した環境保護団体は薬剤散布に反対しています。
アメリカやカナダは、マイマイガの卵塊が船舶やコンテナに付着し、国内に持ち込まれないよう、輸出国に検疫検査を要求、卵塊のないことを証明した書類がなければ、自国の港への接岸を認めません。AGMの卵塊が発見された場合は船舶の入港が禁じられ、領海外で卵塊の除去を行わなければ領海外への退去が命じられることになります。
09年現在、小樽、苫小牧、函館、八戸、酒田、阪南、清水、神戸、広島、大分の10港がハイリスク港として指定され、7月15日〜10月1日の期間、両国が承認した検査機関(日本海事検定協会や新日本検定協会ほか)によるマイマイガ不在証明がなければ、これらの港からの船舶は、北米の港に入れません。
このため、農水省が本年度は、3億8300万円の予算を投じ、「AGM卵塊付着抑制技術実証事業」を行っています。たとえば、苫小牧港には、電撃殺虫器41台を設置し、その効果を知る実験をはじめています。
【参考サイト】Beyond Pesticides:Gypsy Moths、2007/01/16
農林水産政策研究所レビュー:マイマイガを巡る状況からみた植物検疫(08/07/31)
新日本検定協会:AGMの不在証明検査
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作成:2010-01-31