街の農薬汚染にもどる
t22001#農薬の大気汚染で、環境省毒性部会と飛散検討会が開催される〜09年度吸入毒性試験はイソキサチオン、飛散調査は島津テクノが受注#09-12
【参考サイト】環境省:農薬吸入毒性評価手法確立調査部会 H21年度の第1回と第2回
農薬飛散リスク評価手法等確立調査検討会 H21年度の第1回と第2回
島津テクノリサーチ:Top Page
日本バイオアッセイ研究センター:Top Page
農薬の大気汚染に関する環境省の2つの会合〜農薬吸入毒性評価手法確立調査部会(以下、毒性部会という)と農薬飛散リスク評価手法等確立調査検討会(以下飛散検討会という)が、11月に相次いで開催されました。その概要を以下に紹介します。
★毒性部会 09年度吸入毒性試験はイソキサチオン
毒性部会は、飛散リスクの管理目安となる気中濃度指針値を設定することを目的に、07年度に設置されました。当初、3年計画で実施される予定の28日間の吸入毒性試験には、市街地でよく使用されるフェニトロチオン(MEP、商品名スミチオン)、トリクロルホン(DEP、商品名ディプテレックス)、エトフェンプロックス(商品名トレボン)、イソキサチオン(商品名カルホス)、グリホサート(商品名ラウンドアップ)が挙がっていましたが、予算や実験的な制約もあり、環境省が新たに実施することになったのは、DEPとイソキサチオンの2つです。この吸入毒性試験からは、無毒性量が決められます。
【フェニトロチオンの評価】
有機リン系のMEP(商品名スミチオン)はメーカーの住友化学が実施した亜急性吸入毒性とアレルギー性等に関する資料が評価されました。雌雄ラット各20匹を4群(0,2,4,8mg/m3のミスト被曝)に分けて試験が実施されています。暴露開始時は6週齢でした。赤血球のアセチルコリンエステラーゼ活性阻害から無毒性量が4mg/m3=気中濃度平均3.8mg/m3とされました。
【トルクロルホンの評価】
08年度は、日本バイオアッセイ研究センター(神奈川県秦野市)でトリクロルホン(DEP)の試験が実施されました。
ラット雌雄各80匹を0,10,30,100mg/m3の4濃度のミスト被曝群に分け、8週齢から暴露試験が行われました。その結果、赤血球のアセチルコリンエステラーゼ活性阻害から無毒性量が30mg/m3とされました。
【イソキサチオンの評価】
計画では、09年10月1日から日本バイオアッセイ研究センターで行われ、ラット雌雄各20匹を0,3,10,30mg/m3の4濃度のミスト被曝群に分け、8週齢から暴露試験が行われ、間もなく、中間報告がまとまると思われます。(中間報告)
★コリンエステラーゼ活性阻害では評価できない毒性
化学物質を大気から吸入する場合、肺から血液に入って体内臓器組織へ移動して、作用することが考えられますが、眼や鼻の粘膜からの取り込みもあり、その刺激によって、さまざまな症状が出ます。地上散布の100倍を超える濃度の空中散布などで、微細なミストやガスを局所被曝した場合に見られる頭が痛い、眼がかゆいといった一過性の中毒症状について、動物実験からどのように評価するのか明確でありません。
いままでに実施された有機リン剤の28日間の吸入毒性試験では、ラットの体重、餌摂取状況、血液検査、赤血球や血漿中のアセチルコリンエステラーゼ活性の測定、剖検後の臓器や組織の検査が実施されていますが、結局、赤血球のアセチルコリンエステラーゼ活性阻害で、無毒性量が決められています。上述のようなヒトにみられる症状では、コリンエステラーゼ活性に影響がみられない場合もありますので、この無毒性量の決め方は疑問です。
★指針値の決め方にも疑問
11月9日に開催され今年度第一回毒性部会では、吸入毒性試験で得られた無毒性量を基に、気中濃度指針値をどのように算出するかの案が提示されています。
TDI(耐容一日摂取量:mg/kg/日)=無毒性量(mg/m3)×ラット一日呼吸量÷安全係数(=通常100が採用される)
気中濃度指針値(mg/m3)=TDI÷ヒトの一日呼吸量 となります。
この算出法では、子どもと大人の影響の違いについては、単に体重あたりの呼吸量の違いでしか評価されません。すなはち、成人(1 日8 時間の軽作業を実施)および小児の平均呼吸量をそれぞれ0.213(L/min/kg)および0.403(L/min/kg)とし、子どもの指針値を大人の約半分にするだけです。
毒性部会の論議では、農薬の毒性に係る最近の知見を踏まえ、幼齢ラットを用いた発達毒性や発達神経毒性を評価できる試験を別途実施する必要性について検討すること、との意見がでていましたが、いままでの6から12週齢の若齢獣を用いた一連の毒性試験内容には反映されていません。
★飛散検討会 09年度のモニタリング調査は島津テクノリサーチが受注
飛散検討会は06年度に設置され(事務局は残留農薬研究所)、07年からの3年計画で街路樹や公園等の市街地において使用される農薬の飛散リスク評価・管理手法の確立をめざした事業が行われています。08年には『公園・街路樹等病害虫・雑草管理暫定マニュアル』が出されています(記事t20204参照)。
最終年にあたる09年度の第一回検討会は、11月16日に開催され、散布後の立入り制限区域を設定し、先の暫定マニュアルを改定するための今年度事業の進め方が確定しました。
モニタリング調査としては、飛散調査及び大気と土壌濃度調査が実施されることになっています。調査を請け負ったのは、前年までの農林水産航空協会ではなく、鞄津テクノリサーチです。
飛散調査 通常の散布器具により樹木等に農薬散布を行い、感水紙やろ紙で周辺への到達落下範囲を調べることになります。島津製作所秦野工場内で、トレボン乳剤(エトフェンプロックス)を用いて、9月9日から実施し、樹木の高さ、散布方向、風の影響による飛散範囲の違い(散布個所から25m以内の範囲)を調査検討することになっています。11月末に中間報告を作成するとのことですから、もう、調査は終わっているものと思われます。
大気と土壌濃度調査 同じく秦野工場内の雑草地100m2に、除草剤ラウンドアップハイロード(グリホサートアンモニウム塩41%液剤)を散布し、環境分析が実施されます。9月24日からはじまり、散布個所から10m以内の範囲で散布3日後までの気中濃度と30日後までの土壌濃度が分析されることになっています。
同様な試験は、昨年度も実施され、その内容や問題点については、記事t21301を参考にしてください。
★環境省の立入制限についての考え方
市街地公園や街路樹での農薬が散布された場合、通行人や入園者はもちろん、隣接居住者は、大気経由で、継続的に受動被曝する恐れがあります。
飛散検討会は、このような被曝は、『年間2-3回おきる可能性があるが,有意のレベルでの暴露期間は短く,慢性的ではなく,一過性または短期的と思われる。』とし、立入制限範囲及び立入制限期間については、『公園,街路樹の周辺環境が様々であることから一律の適用は非現実的となることも少なくないと考えられる。人健康へのリスクを減らすために講じうる措置,有毒衛生害虫の発生など害虫の種類と発生程度による人への危害を考慮して,関係住民の理解と協力を得て防除措置及び立入制限範囲,立入制限期間を適用することが望ましい。』としました。
さらに、『本事業のモニタリング調査で結果が得られた市街地で使用頻度が高い5農薬(フェニトロチオン、トリクロルホン(代謝物であるジクロルボスを含む)、エトフェンプロックス、イソキサチオン、グリホサート)について具体的に評価を行い、総合評価としてまとめることとする。』とした上、以下のような提起をしています。
【立入制限範囲】
基本的考え方
農薬ミストが現に落下している範囲には,適切な防護具を装着した作業関係者を除いて,原則,立入るべきでない。また,農薬使用者の使用によって発生した農薬ミストが居住空間に落下すべきでない。
基本方針
これまでのモニタリング調査及び本年度のモニタリング調査を基に設定する。
【立入制限期間】
基本方針
1.平成20 年度のモニタリング調査(大気中濃度)の結果を基本にする。
2.気中濃度を農薬吸入毒性評価手法確立調査部会で設定予定の気中濃度評価値*と比較して評価し,原則として,評価値を超えることがない散布後経過時間を以って立入制限期間を設定する。
* 気中濃度評価値は3農薬(フェニトロチオン、トリクロルホン、イソキサチオン)について設定予定。
3.ただし,土壌及び葉表面との接触による経皮暴露並びに小児における接触後の皮膚を舐めることによる経口暴露も想定しうることから,これら経路を通じた暴露量について別途試算する。両経路からの暴露量の和が,許容一日摂取量(ADI)の10%を超えないことを確認する。−以下略−
★アメリカでは飛散リスクのラベル表示強化へ
期せずして、アメリカでも、11月4日に、EPA(環境保護庁)が農薬の飛散についての2つのパブコメ募集を行いました(EPA11月4日ニュースリリース参照)。
ひとつは、農薬の飛散リスクを減らすことを目的に、ラベル表示内容を変更する提案です。
たとえば、現在、農場労働者の保護基準規則の対象農薬は『この製品を労働者やその他の人が直接またはドリフトによって接触するような使用をしてはならない。』とラベル表示されていますが、【またはドリフト】を強調表示した上、『さらに、この製品を噴霧(又は粉塵)ドリフトにより、ヒトや他の非標的生物や場所に悪影響を与えるような方法で使用してはならない。』との表示を追加する、などの改定があります。
また、このような表示は、従来のように農地に散布する農薬だけでなく,公道,ゴルフコース,運動場,住宅地の芝生,景観,公園,グランド,その他類似の土地に散布する農薬にも適用され、『この製品をラベルに従わずに使用するのは連邦法違反である』との表示もなされます。
もうひとつは、環境団体や農場労働者団体からだされた請願で、農場近くに住む子どもを有害な農薬のドリフトから守るため基準の設定に関するもので、住宅や学校、公園、託児所の近くでの、農薬を使用しない緩衝地帯の設置も検討対象にされています。
さらに、12月には、農業地帯の農場労働者やその子どもたち、及び非食品用農薬の危険評価方法の改定に向けての意見募集も開始しています。ここでは、子どもへの安全係数、多種のルートからの総合被曝や同じ毒性作用機構を有する複数農薬の累積的影響なども検討されることになります(EPA12月08日ニュースリリース参照)。
日本では、「農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令」で罰則を伴うものは、食用農作物に使用する場合のみで、非食用作物に違反使用しても、人や環境に被害を与えても、農薬取締法による罰則はありません。「住宅地通知」(旧通知)が出てから6年も経っているのに、未だに、その存在すら知らない防除業者や委託者がいる現実
をみると、罰則強化しかないようです。
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作成:2009-11-27