街の農薬汚染にもどる

t22201#市道に劇物・DDVPプレート型殺虫剤〜横浜市が生垣に吊り下げ#10-02
 昨年12月に、横浜市内の読者から「図書館前のサザンカの生垣に、黄色いプレートが10枚吊り下がっている」という連絡があった。現場で確認したところ、樹木の害虫を駆除するための殺虫剤で、プラスチック板に浸み込ませた成分を徐々に発散させるタイプのものであることがわかった。劇物に指定され、不用意に触ると炎症などを起こす危険があるため、設置した市土木事務所に申し入れ、撤去させた。

■「劇物」の農薬が歩道に
 吊り下げられていたのは、「パナプレート」(国際衛生(株))という殺虫成分DDVP=ジクロルボス16%を含ませた塩化ビニル樹脂板(長さ:215mm、幅:65mm、厚さ:7mm、内容量: 120g)で、緑色のネットに入れられている。殺虫成分が徐々に放出し、3ヶ月間有効としているが、実はこのDDVPは「毒物及び劇物取締法」(=毒劇法)に基づく「劇物」指定され、触ったり吸ったりすると中毒を起こす(MSDS)。
 取り付けた者に撤去を求めるため、道路管理者を探した。すべての道路には、必ず「道路台帳」が備わっていて、国・県・市・私道の別が載っている。横浜市のホームページには、「よこはまのみち(道路台帳図情報)」があり、住所地番を入力すると詳細な図面が現れ、今回は市道であることがわかった。
 さっそく、市の港南土木事務所を訪れ1年間の発注状況を調べ、業者にも確認してもらったが、「設置していない」ことがわかり、プレートのあった市道前の港南図書館にも確認したが、「うちではない」という。
 何度が足を運んだ末、たまたまプレート取り付け作業を知っていた図書館職員がいて、1年半前に土木事務所が発注した業者によって設置され、そのまま有効期限を過ぎて放置されたものであることがわかった。土木事務所は、担当者の業務の引継ぎが不足していたことを認めた。

■表示がない危険なプレート型殺虫剤
ところが、このプレート本体には、商品名、有効期限、危険性、メーカー名などの表示が一切ない。よもやこれが「農薬」で危険なものとは思わず、触ってしまう恐れがある。当グループが農林水産省に照会したところ、「一般の農薬散布と同じで、本体への表示は不要」と答えた(2010年1月14日)。通常の液体では、散布後一定時間を経て農薬成分は揮発してしまうが、プレート剤では、農薬を含む樹脂ガラがいつまでも残る。今回も、子どもが触れる状態でぶら下がっていたにもかかわらず、危険な状態を国は認識しようとしない。
 実は、取締法令は別だが、同成分のプレートは、ハエ・カなど「衛生こん虫駆除用」*や「文化財用」のものも市販されていて、これらすべてが今回の「農用」と同様に本体への表示がまったくない。
     *注:08年、中国産冷凍ギョーザのメタミドホス混入事件が起きた時、
       徳島県の生協販売店で同じ有機リン剤のDDVPがキョーザ袋から検
       出されたことがあったが、原因は食品売り場の近くで使用された
       DDVPプレート剤だった。
【関連記事】記事t12910 記事t15901 記事t16002記事t16003、 記事t16304
【参考サイト】国際衛生第1類医薬品用パナプレートベーパーセクトS&with文化財用パナプレート
農業用登録番号15185失効(2012/03/09 )
■樹木等への適用が削除
 国際衛生のパナプレートは2009年6月24日に適用が変更され(プレスリリース)、それまで樹木や花き、野菜には使えていたものが、使用できなくなり、米・麦・豆・葉タバコでの、倉庫内使用に限定された。今回のようなサザンカへの使用は「適用外」なのである。
 農水省は、変更の理由を、「メーカーの都合による」としているが、栃木県や青森県は、「登録維持に必要な追加の資料整備に経費と時間を要するため」と公表している。
パナプレートは、2009年9月28日に、国際衛生(株)の親会社系列企業「イワタニアグリグリーン(株)販売が引き継がれたが、両社ホームページ(以下:HP)には変更前の適用表や効果がそのまま商品説明として掲載されていた。HPを見た者は、「いまでも、樹木や野菜に使用可能…」と誤解してしまう。
 こうした、適用外の使用法を宣伝することの可否について照会したところ、農水省は、「変更前の適用作物に使用が可能であると誤解される恐れがあることから、(イワタニグループ3社に対し)HPの掲載について事実関係を確認し修正するよう、指導いたしました。」と回答した。2010年2月19日現在、適用表は削除されたものの、イワタニアグリグリーンのHPには、「樹木・生花を害虫から守る」と表示し、適用外の使用法をいまだ宣伝し続けている。また、製造元の国際衛生(株)も、適用外のビニールハウスでの使用画像をHPに載せたままだ。
 もし、これが医薬品であって、今回のような適用外の表示をすれば、あきらかに薬事法違反で検挙される事例だ。農水省による農薬取締法の運用は非常に甘い。

■適用除外後も許される、古い使い方
 サザンカに付くチャドクガの駆除など、登録事項変更によって適用がなくなり、旧要件の古い使い方を続けた場合でも、農水省は、「(旧表示であっても)ラベル表示内容どおりに使用していれば、農薬取締法上問題はありません」と答えている。
農薬は、適用を守った使い方をしたときに限って(一定の)安全性と効果を現すのであって、今回のように適用外の使い方をして「問題ない」とするのは、「使用基準は守らなくてよい」と言っているのと同じだ。

■HP是正は不十分。業者に甘い農水省
 また、あわせて「適用変更後の商品ラベル表示が、是正されているか」農水省に点検を求めたが、回答では、「登録変更後内容を…(両社の)HPに掲載し、周知を行っているとのことでした。」となっている。しかし、2月25日現在、両社とも使用基準から外れた表示を残していて、農水省はだまされた状態が1ヶ月以上も続いている。
 登録変更前の製品は、適用表が旧表示のまま印刷されているが、農水省は、「購入者に対して、変更登録後の内容を記載したチラシを配布する等により周知が徹底されるよう指導いたしました。」と答えている。末端の販売店が、購入者にチラシを忘れず渡すのかどうか、家に持ち帰った製品が、使用時までチラシと一緒に置かれているか、はなはだ心許ない。しかも「等」が入っているため、店員による口頭説明でも許されてしまい、これでは実効ある指導とは言えない。
 そもそも、「変更前のままのラベルで販売すること」「旧ラベル内容で使用すること」について、農水省はいずれも「農薬取締法違反ではありません」と断言する。
農薬取締法自体の甘さとそのずさんな運用で、メーカーの利益ばかりが守られ国民の安全確保は二の次となっている。

■ネット販売に甘い厚生労働省
 イワタニアグリグリーンは、ネット店舗でパナプレートを販売しているが、同製品は毒劇法による「劇物」の指定を受けている。
 同法では、毒物劇物を販売してはいけない者として、「18才未満の者」、「麻薬や覚醒剤等の中毒者」および「保健衛生上の危害の防止の措置を適正に行えない者」として、省令では「精神の機能の障害」を挙げている。
 今回のネット店舗では、こうした注意書きがあっても、対面販売ではないためこれらの確認ができないので、販売の中止を求めたが、厚生労働省医薬食品局化学物質安全対策室は、「同法の規定上は禁止されるものではありません」「代理人による受け取りも一般には認められます」と答えている。
 同じDDVPを成分とする殺虫プレートは、衛生こん虫駆除用の薬事法承認薬も存在するが、こちらは「劇薬」かつ「第1類医薬品」に指定されていて、通販不可となっている。全く同じ成分の製品が、毒劇法が適用される農薬殺虫プレートだと「通販可」となるのは、保健衛生上の危害防止の観点から矛盾しているのではないか。
 殺虫プレートでは起きにくいが、劇物を動物虐待や悪意に使おうという者は、対面販売の店舗を避けて、ネット上で購入することが予想されることから、「毒劇物」「毒劇薬」は店舗販売に限るべきだ。(新巻圭)
【関連記事】記事t20003
【参考サイト】厚労省:医薬品の新販売制度の頁


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作成:2010-02-28