街の農薬汚染にもどる

t22301#環境省、公園・街路樹管理マニュアル改訂作業進む〜散布後の立入制限期間-農薬が乾くまでとは納得できない#10-03

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【参考サイト】環境省:農薬吸入毒性評価手法確立調査部会 H21年度の第1回第2回第3回
             農薬飛散リスク評価手法等確立調査検討会(H19、H20、H21年度の報告書あり)。
               H21年度の第1回第2回第3回第4回

 住宅地周辺での農薬散布をできるかぎり減らすために、農水省・環境省の二局長連名通知(以下、「住宅地通知」)が出されたことは何度もお知らせしていますが、これに基づいて環境省が2008年5月に「公園・街路樹等病害虫・雑草管理暫定マニュアル 」(以下「マニュアル」)を公表しました。
 環境省はこのマニュアルの改訂版をつくり、「暫定」をとって正式なマニュアルにするために、2006年に「農薬飛散リスク評価手法等確立調査検討会」(以下「飛散リスク検討会」)、2007年に「農薬吸入毒性評価手法確立調査部会」(以下「毒性評価部会」)を設置しました。その後、飛散モニタリング調査や吸入毒性試験が、委託業者により実施され(記事t22001参照)、第3回毒性評価部会と飛散リスク検討会が3月1日にもたれました(第4回は3月19日開催)。

(1)改訂版マニュアルへの要望
 反農薬東京グループは、マニュアル改訂に関して、前もって環境省に、全文1万2千字の要望を送付し、検討会委員にも配布するよう依頼しました。一応、委員には配布されましたが、ちゃんと検討する時間があったのか不明です。(要望全文)。
  *** 環境省への要望概要 (2010年2月22日提出) ***
   健康被害は、農薬使用者の中毒ではなく、散布による第三者の受動被曝による
   被害で、一過性の健康被害や化学物質過敏症患者の健康被害の防止をめざす。
  1,「住宅地通知の」の内容遵守、脱農薬の姿勢を強く打ち出すこと(生活環境
   での農薬散布がなくなれば健康被害者もいなくなる。)
  2,環境省が推進しているグリーン購入法の役務の「植栽管理」の遵守
  3,農薬散布規制地域を作り、そこでは農薬散布はしない。(受動喫煙規制を見
   習う)
  4,万一、農薬を使用する場合でも散布はしない。特に有機リン系農薬の使用を
   禁止する。
  5,マニュアルの対象を自治体関係者のみに限定しないで、団地、マンション、
   個人の庭などでも守るよう明記する。
(2)毒性評価部会での論議
 部会は3月1日午後1時から始まりました。まず、09年度の「イソキサチオンのラットを用いた吸入による28日間毒性試験」の結果が実施事業者の中央労働災害防止協会日本バイオアッセイ研究センター(神奈川県秦野市)から報告がありました(第三回部会毒性試験の結果まとめ)。
 それによると、使用動物はラットで、対照群、1mg/m3、3mg/m3、10mg/m3の4群で、各群雄雌10匹づつ、全部で80匹のラットを用いてなされました。28日間の吸入毒性試験で、体重、摂餌量、血液学的検査、血液生化学的検査、アセチルコリンエステラーゼ活性、解剖所見、病理学的検査、血漿中のイソキサチオン、代謝物濃度などが検査されたということです。これらの中で、統計的な有意差が出たのが、アセチルコリンエステラーゼ活性だけであったとの報告でした。
 コリンエステラーゼ活性阻害は、WHOに準拠して、対照群の20%以下を有意差とするということで議論が進められました。試験実施者はまとめとして「イソキサチオンのラットに対する4週間吸入曝露による無毒性量(NOAEL)は、赤血球のアセチルコリンエステラーゼ活性への影響を評価指標として3mg/m3である」と報告し、これに対して委員の議論がありました。3mg/m3群で、ラットの雌の血漿のコリンエステラーゼ活性は76%に下がっておりますが、これをどう見るのか意見がわかれました。阻害率は20%以下ではないか、ということは、既に3mg/m3で毒性が出ているから、無毒性量は1mg/m3とすべきだという意見もありました。結局、結論は出ずに、あとはメールのやりとりで決めるということになりました。

★「吸入と経口の毒性に差はない」は否定
 事務局の残留農薬研究所のまとめでは経口と吸入の毒性の比較をしていました。その結論は、一般に吸入の方が毒性が強く発現しやすいとの認識があるが、必ずしもそのような結論は得られなかったとなっていました。しかし、この部分については、28日間の吸入と経口毒性試験の比較ではなく、経口は3ヶ月や2年間の試験との比較であり、このような結論は導かれないということになりました。また、「繁殖毒性試験におけるNOAELと吸入毒性のNOAECとが同等であったことから、子供の感受性が吸入経路による曝露において特に高まるという懸念はないと思われた」という部分は、繁殖毒性で小児の影響は得られないなどの意見が続出し、書き直されることになりました。

★動物実験でわからないもの
 それにしても、たったこれだけの動物実験の結果で、毒性が明らかになったとは思えません。発達神経毒性はどうなのか、また、一過性の毒性として無視されていますが、ラットは頭が痛かったかもしれないし、吐き気がしていたのかも、また、眼が痒かったのかもしれないじゃないですか。こういう毒性は無視されるか、あるいは、動物のデータを人間に外挿するための手はずとして、安全係数があるから安全だという意見もありました。
 つまり、ラットと人間の種差が10、人間の個人差が10で動物実験で得られた無毒性量の100分の1を、人間が生涯とり続けても悪影響のでない量、すなわちADI(一日摂取許容量)とするわけです。今回、安全係数を100とするか、あるいは1000とするか、もっと他の数字にするか決まりませんでした。
 私たちは子どもに限ってでも、安全係数は1000分の1以上にすべきと要望していますが、検討会の結論がどうなるかわかりません。

(3)飛散リスク検討会での議論
09年度は、前年度(本誌213号参照)に続き、ピレスロイド系殺虫剤のエトフェンプロックスと除草剤グリホサートのモニタリング調査が実施されました。 エトフェンプロックスは、散布地域外5m地点で100μg/m2を超える飛散がしばしばみられ、高木吹上げ散布で最高15000μg/m2でした。20m離れた地点でも、35μg/m2の飛散がみられました。
★除草剤グリホサートの飛散は前年より酷かった
 グリホサートについては、09年度は鞄津テクノリサーチが秦野工場内の雑草地約100m2に、除草剤ラウンドアップハイロード(グリホサートアンモニウム塩41%液剤)を散布し、環境調査が実施されました(第二回検討会の資料1)。
【感水紙による飛散調査】境界から1m、5m、10mの位置に感水紙がおかれ、被覆面積率(水滴が落下した個所が青く変色することにより飛散が判明する。画像解析により変色部の比率を測定し被覆面積率とする)が調べられましたが、前年の試験で、区域外では、風下側の1m、5m地点に各々被覆面積率0.051、0.010%だったのに対し、今回の試験では、被覆率はもっと高く、最大で1m地点で14.4%、5m地点で0.5%、10m地点で0.2%でした。
【気中濃度調査】散布後の大気中濃度の調査で、最高濃度0.34μg/m3が検出されたのは。散布直後の区域外5mの地点で、散布区域内では、1日後で最高0.17、3日後で、最高0.07μg/m3検出されています。
【土壌中濃度調査】区域内の土壌は、散布1日後0.40、3日後0.39、7日後1.9、14日後0.86、32日後0.40各μg/gという推移を示しました。7日後に最高値を示したのは、採取前日に雨が降ったため、葉に付着していたものが流れ落ちたからと考察されました。
 なお、散布前の土壌中に0.081μg/gのグリホサートが検出されていたことについて、疑問が呈されていましたが、その原因は、3ヶ月前、10m以上先で散布されたものがドリフトしたためとされました。(モニタリング調査(補足))
総じて、昨年より飛散状況は酷かったことが明らかになりましたが、これは、昨年と異なり、飛散低減ノズルを使用せず、ノズル付近にカバーを装着しなかったというのがその理由です。

★立入制限は落下ミストの経皮毒性評価で充分と
(財)残留農薬研究所がとりまとめた「市街地公園及び街路樹への農薬散布に係わる立入制限範囲及び期間について」では、 立入制限範囲と制限期間は、@落下ミストによる経皮曝露量がADIの10%を超えない、A気中濃度は評価値を超えない、の2条件を満たすとなっています。
 @は、散布や飛散により農薬が付着した葉茎等に触れたり、農薬が滲みこんだ土にふれることによる経皮的な摂取についての規制です。Aの気中濃度の毒性評価値は、3種の有機リン剤で、表1のようになっていますが、今回、イソキサチオンの評価値は決っていませんし、評価値そのものに疑問があるのですから、納得できる結論がでるはずはありません。
 飛散調査の結果を踏まえ、Aの条件は満たされているとして、@の条件が重視されることになり、立入制限期間は「農薬が乾くまで」となりました。まさに、「農薬は乾けば安全」という農薬推進派の意見そのままです。これに対する委員からの質問はありませんでした。案をまとめた残留農薬研究所は農薬推進派であり、委員にも農薬散布によってどんなに苦しんでいる人がいるか、ご存じない人が多いようでした。

  表1 有機リン系3農薬の10%ADIと気中濃度評価値 −省略−

(4)マニュアル案の改訂個所
 第3回検討会の改訂マニュアル案では、前文のところに、私たちの要望の意を汲んでくれたのか「ひろく関係者の方々にも参考として活用されることが期待される」と、遠慮がちに書かれていました。また、グリーン購入法についても記述され、この点ではありがたいと思いました。

★農薬散布における立入制限等の措置
 このマニュアルの最大の改訂点は、7.2.6節の「農薬散布における立入制限等の措置」のところです。環境省が実施した「自治体における街路樹、公園緑地等での防除実施調査」の結果、街路樹、公園等の市街地における使用実態の多い、フェニトロチオン(MEP)、トリクロルホン(DEP)、イソキサチオン、エトフェンプロックス及びグリホサートの5農薬について、『散布開始から散布終了後農薬が乾くまでの期間、散布区域から下表に示す距離を設けることが適当と考えられた。さらにトリクロルホン及びイソキサチオンについては、当該立入制限終了後も引き続き散布後1日間は、散布区域から葉から垂れる液剤が当たらない程度の距離において、立入制限を設けることが適当と考えられた。』として立入制限範囲が提案がされました。

★公園の芝にグリホサート散布は適用違反なのに
 当該距離は毒性評価及び曝露実態を考慮して、充分な安全性を見込んだ上で設定したものであると、されていますが、とても納得のいくものではありません。
グリホサートを公園の芝で散布するのは適用違反なのに、改訂案に記載されていることに委員から指摘はありません(当グループの指摘により、第4回検討会に提出の改訂案では、"芝"は"雑草"と訂正された)。さらに、散布7日後の降雨で、葉茎に付着したものが新たに溶け出るという調査結果をみても、乾けばいいなどとはいえません。
 ほかにも、散布当日の立入り規制をすべき農薬はたくさんあります。
マニュアルには『最低限、散布された農薬が人にかからないよう充分配慮すべきである。』とか『隣接する住宅がある場合は、窓を閉めること、洗濯物を屋外に干さないことなどについて、あらかじめ要請すべきである。』と付記されていますが、こんな当たり前のことですら書かざるを得ないのかと唖然とします。

★改訂案に、更なる意見をぶつけよう!
 3月19日の第三回検討会を前に、環境大臣と委員あてに、農林水産消費安全技術センターの農薬安全使用検討会が、「公園等で散布当日の立入りを規制する」ことを使用上の注意とするのが適切だとした農薬のリストとともに、再要望書を送りました。
その中には、立入制限期間は最低1日にする/立入り規制ができない場所は農薬散布を禁止する/道路や空き地等での非植栽用除草剤の使用に際しても、このマニュアルを準用する/マニュアルは普通の健康状態の人を対象としており、化学物質過敏症患者などの農薬弱者は考慮されていないことを明記するなどを折り込みました。
 飛散リスク検討会で、正式に決まった最終案については、パブリックコメント募集が行われると思われますので、皆さんの意見を出してください。

マニュアル改訂案のパブコメ募集期間は4/12-5/11で

5月31日、環境省発表:「公園・街路樹等病害虫・雑草管理マニュアル〜農薬飛散によるリスク軽減に向けて〜」について(お知らせ) マニュアル
当グループのパブリックコメント意見環境省見解

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作成:2010-03-28、更新:2010-04-12