農薬空中散布・松枯れにもどる
脱農薬ミニノート3号 野放し!無人ヘリコプター農薬散布
t22801#事故からみた、無人ヘリコプター空中散布の無法性(その1)南さつま市は、木に引っ掛かったくらいでは、事故とみなさず、報告もしない#10-08
【関連記事】記事t22802、その2、その3、最終回、記事t23401
【参考サイト】
農水省:農林水産航空事業に関する情報(病害虫防除に関する情報にあり)
農林水産航空事業の実施状況の推移
都道府県別の無人ヘリコプターによる散布等実施状況
無人ヘリコプター利用技術指導指針
林野庁:無人ヘリコプターによる松くい虫防除の実施に関する運用基準
農林水産航空協会:Top Page
記事t22701で、2件の農薬空散の無人ヘリコプター事故を速報しましたが、その後、8月1日に、茨城県笠間市で墜落火災事故が発生、8月7日には、青森県五所川原市で、有人ヘリが、8月13日には、岩手県藤沢町で無人ヘリが架線事故をおこしたと報道されました。本号から、連載で、これらの事故の詳細と背景にある無人ヘリ空中散布の問題点をとりあげていきたいと思います。
【1】農水省の08年〜現在の事故把握件数は6件
【参考サイト】農水省:安全対策の徹底についてにあるH22/08/02通知
私たちは、7月20日に農水省植物防疫課へ、無人ヘリコプター事故防止のための3つの要請を行うとともに(227号参照)、南さつま市と北海道の事故の詳細や08年以降の無人ヘリコプター事故事例などを問い合わせました。
北海道の事故については「警察が機体を押収し事故原因について捜査中である」とのみの回答でした。空中散布の安全に責任を持つ農水省としてはあまりにも内容のない回答なので再質問をしました。
2008年以降の無人ヘリ事故について、農水省が把握しているのはたった6件だけだということがわかりました。一覧表として挙げるべきほどの内容はなく、いずれも、すでに、私たちが本誌で、取り上げた事故だけでした。たとえば、09年6月25日の例は発生場所E県、被害状況等 警察による捜査中としていたのは、私たちが最初に農水省へ情報提供した千葉県印西市のゴルフ場でのゴルファー被曝事故にほかなりません。林野庁が事故でないといっていた南さつま市の事例(後述)も事故にカウントされています。
「無人ヘリコプター利用技術指導指針」(08年7月最終改正)の第九項に基づき、全国の無人ヘリ散布の実施状況等を把握し、無人ヘリの安全利用についての責任を持つ農林水産航空協会から、毎年報告を受けているはずの農水省がこの程度の認識とは驚きです。
農水省の事故情報の収集がきわめて、いいかげんであったことは、後述のように、長野県だけでも、農水省の事故報告にない事例が7件あったことからもわかります。
★おざなりな通知で「適切な対応」?
事故防止対策について、私たちは、@事故報告提出の義務づけ、A公的な事故原因調査機関を作り、原因究明と公表、B事故を起こした散布主体へのペナルティ制度を要望しました。これに対する農水省の回答は「無人ヘリコプターの利用に伴って事故等が発生した場合、農林水産省では、各都道府県、市町村、関係団体等と連携して情報の収集を行うほか、再発防止のための指導を徹底するなど、適切な対応に努めています。」というだけでした。
なるほど、北海道の死亡事故後の7月20日に、農水省は地方農政局部長等宛ての通知「無人ヘリコプターによる空中散布等の実施時における安全対策の徹底について」を発出していますが、『無人ヘリコプターによる空中散布等の実施にあたっては、指導指針の趣旨及び内容に基づき安全対策が確実に実施されるよう、貴局管下の都府県に対し、改めて指導されたい』とあるだけで、具体的な指摘は何もなく、これで"適切な対応"だというのです。
【2】南さつま市の松枯れ空散無人ヘリの墜落
私たちが鹿児島県南さつま市に出した質問の回答によれば、6月2日の無人ヘリ墜落事故は、同市の松枯れ対策事業のうち、松サービス株式会社が請け負った小湊地域27haの空中散布時におこりました。この地域には約7万本の松があり、被害は300本と推定されていました。ちなみに、事故現場の加世田小湊は、01年12月、旧加世田市の万世小学校近隣のタバコ畑で使用されたクロルピクリン剤により、児童や教職員92が被害を受けた事例の近くです(記事t12306参照)。
松サービスは、無人ヘリ4機(含む予備2機)を用意し、オペレーター2人、合図マン4人、補助員4人体制で、スミパインMCの2.5倍希釈液の散布を開始したのは、5時30分ごろでした。この日の作業は約2ha、松3000本の地域での空中散布で、松の平均樹高は10mであったため、高所作業車が使われました。8時50分ごろ、散布中のヤマハRMAXのローターが、周囲より高い松に接触し、枝に引っ掛かった状態で静止しました。
燃料や農薬のタンクからの漏れはなく、散布を中止することなく、予備機を使用して空中散布は再開したそうです。
★事故と認識せず、報告・調査を怠る
市は事故調査や報告について『無人へりの墜落というより、操作中に松に接触し、木に引っ掛かった状態であり、また燃料や農薬の漏洩もなく、予備機で散布作業を継続できた点、さらに地域内の環境保全に何ら悪影響を及ぼす恐れもなかったことから、報告しておりません』との返事です。鹿児島県も、林野庁も、同じ認識で、ヘリ事故によって、目立つ被害がなければ、放っておけばいいという行政の共通した姿勢に唖然とします。
松枯れ対策の総元締めである林野庁は、私たちの問合せを契機に、28日に鹿児島県に調査を指示、それを受けた県の指示で、南さつま市が調査したのは、6月29日でした。
県が特段の対応をとらなかったのは、松の枝に引っ掛かり、薬剤漏れはないケースを「鹿児島県無人ヘリコプターによる松くい虫防除実施要領」の第6「被害発生時の対応等」に該当しないと判断したためとしています。
鹿児島県は、09年現在、機体数30、オペレーター数172(うち高所飛行技術認定者7)、防除業者8あります。散布面積は8536haで、水稲が98.8%と圧倒的に多く、松枯れ対策は1%以下の81haです。
事故原因について、市はオペレーターの操作ミスであったとしていますが、どのような調査を実施したかは不明です。また、今回の散布地域では、林野庁の「無人ヘリコプターによる松くい虫防除の実施に関する運用基準」は遵守されており、連絡協議会の設置や、地域住民へは防災無線や有線放送および各戸への回覧板などで周知されていたということです。
【3】長野県の無人ヘリ事故報告
【参考サイト】長野県:無人ヘリ利用空中散布等作業指導要領と事故届
長野県は「県無人ヘリコプター利用空中散布等作業指導要領」(93年4月制定、06年11月最終改正)を策定し、その中で無人ヘリコプターの事故について報告するよう求めています。昨年、同県の富士見町で無人ヘリが墜落したという情報を得て、長野県に詳しい状況と、事故に関するいくつかの質問をしました。
★不時着、軽微物損、ヒト被曝も事故
まず、どのような状態を事故とするのか、聞きました。
長野県の回答では、私たちがあげた例はすべて事故と認識するとのことでした。すなはち、墜落、不時着、部品らの破損、電線等にかかる架線事故、樹木等に引っかかる事故、建物やフェンスへの衝突、農薬漏洩、漏洩による河川汚染、漏洩による土壌汚染、河川水汚染による魚介類被害、ドリフトによる農作物の事故、家畜の被害、ミツバチの被害、カイコの被害、自動車や交通機関への飛散、建築物等への飛散、散布関係者の人身事故、飛散による周辺住民の健康被害は、その大小に拘わらず、すべて事故となります。
長野県の場合、鹿児島県のように「松の木にひっかかっただけだから事故ではない」と強弁できないことになります。
近隣住民への健康被害も事故とするとありますが、無人ヘリ散布の度に遠方まで避難している人がいることを知っているのでしょうか。
★事故を起こしたものが原因調査?
事故の報告については、「速やかに病害虫防除所へ報告するとともに、被害の拡大防止など処置を行い、2週間以内に所定の様式により、届出をするものと定めております」とのことで、報告が不要な場合はないとしています。
長野県の指導要領では、無人ヘリ防除の実施計画を、実施主体が、事前に散布するほ場がある市町村を経由して病害虫防除所に届出るようになっています。また、事故が発生した場合、『すみやかに病害虫防除所長へ報告するとともに、様式第4号により、事故発生から2週間以内に市町村長を経由して病害虫防除所長に報告するものとする。』となっています。
県の回答では、事故調査は、市町村・事業実施者及び防除作業者で行い、調査結果は、届出様式内の記載欄へ原因等を記載し報告する、となっていますが、事故届の中に、原因調査結果や対策まで、書き込むことには首を傾げます。事故を起こした実施主体や農薬使用者が自ら、しかも2週間以内に調査した結論では、客観性に欠け、ただしい原因究明と再発防止にはつながらないと思います。 現に、表にある富士見町では、平成20年と21年に同じような墜落事故を起こしています。
事故届を受理したあとの、原因調査は第三者機関できちんと実施すべきでしょう。
★農水省へ事故報告の義務はない
県が事故発生を知った場合、どこへ報告するかとの質問に対する回答は
『事故発生時の報告は、その義務がないため関係機関等への報告は行っておりません。ただし、事故の再発防止のため、市町村や空中散布の実施主体、作業従事者等への通知や研修会等を通じて注意喚起を行っております。』
なになに、農水省へも空散推進団体である(社)農林水産航空協会へも報告する義務はない? たしかに、そうです。これでは、農水省へ事故情報が届くわけがありません。
★長野県では3年間に7件の事故
不備ながらも事故届の提出を求めているせいか、長野県の事故調査は、農水省よりはしっかりしています。次頁の表に、2007年から2009年までに長野県で発生した無人ヘリコプターの事故一覧(−省略−)を示します(07年はゼロ。事故機の機種については報告を求めていないとのことで不明)。08年5件と09年2件の事例がでています。いずれも、農水省の事故の統計にはないものです。
7件のうち、6件が電線・引き込み線・電柱等への接触事故で、積載オーバーで土手へ墜落が1件ありました。
長野県内の無人ヘリコプターの機体は40機に足りません。2年間に、そのうち7機が事故を起こしているわけで、この比率で事故がおこれば、全国2300機のうち400機以上が事故っていても不思議ではありません。
農水省とその天下り法人農林水産航空協会は、何を事故とするかもはっきり定めていませんし、事故届けの書式も示さずに。事故が起こらないように注意しなさいというだけでは、事故はなくるどころか、今後も続くでしょう。
作成:2011-01-25