街の農薬汚染にもどる
t22901#環境省京都御苑管理事務所がナラ枯れ対策に、適用表にない方法でスミパインを散布#10-09
【参考サイト】林野庁;ナラ枯れ
農業情報研究所の全国ナラ枯れ情報
森林総合研究所関西支所黒田慶子さんのナラ枯れと解説:ナラ枯れの被害をどう減らすか---里山林を守るために
大森禎子さんのホームページと樹木の立ち枯れのメカニズムと炭による予防とCO2削減
全国各地で、ミズナラ、コナラなどの立ち枯れが報告されています。主に、日本海側の山で枯れが目立ちます。林野庁によると、2008年度は20府県で1,445ヘクタールが枯れたとのことです。全国各地の新聞報道によれば、今年は昨年に比べ、被害が増加しているところが多いですが、減少したところあります。
ナラ枯れの原因ははっきりとはわからないということですが、林野庁は、カシノナガキクイムシ(カシナガ)が運ぶナラ菌によって枯れるとしています。
ナラ枯れの拡大を防止する方法がいろいろと試行錯誤されていますが、環境省が管理する京都市内の御所を含む京都御苑では、カシナガ駆除を目的に、樹幹に巻いたウレタンマットにスミパイン乳剤を散布し、その上に、ストレッチフイルムを巻き付けるという方法で実施しました。
スミパイン乳剤のラベルにある適用表にはこのような使用法はなく、樹木類のキクイムシには希釈液を幹散布することになっています。ラベルに書かれた通りに使用しろと言うのは農水省が常々言っていることです。そこで、6月8日に環境省京都御苑管理事務所、環境省自然環境局総務課国民公園係、環境省水・大気環境局土壌農薬環境課農薬環境管理室の三者に質問しました。6月28日に連名の回答がきました。
★京都御苑:問題ないと一回目の回答
京都御苑内の樹木は約15,000本(胸高直径10cm以上)、そのうちブナ科の樹木は約5,000本、なかでも巨樹、名木等の重要木が多く、京都御苑の風致景観を形成する極めて重要な景観要素となっているということです。今回、防除した樹木は37本(うち被害木34、予防対策木3)で、その多くは、苑の外縁に沿った側にある木で、シイ9本、マテバシイとツクバネガシ各6本などでした(一番直径が大きいのはシイの128cm、小さいのはツクバネガシの17.8cm)。
(1)実施内容
カシナガが被害木から脱出する直前の6月中旬に、@地際から高さ1.8mまでの樹幹にウレタンマットを巻き付け被覆、Aヤシマスミパイン乳剤を散布、Bストレッチフィルムを二重以上に巻きつける、C根元部分にビニールシートを被覆し、ペットボトルの捕獲トラップを設置、D利用者の侵入防止柵、立入禁止看板の設置、また、健全木の予防対策として重要木に地際から1.8mまでの幹に樹木保護材(メイカーコート)を散布。
なお、フィルム等は11月中に外す予定となっています。
(2)使用農薬
農薬名:ヤシマスミパイン乳剤
有効成分:MEP(フェニトロチオン)80%
登録番号:15044
希釈倍率:農薬のラベルにある50倍
(3)通知「住宅地等における農薬使用について」、「公園・街路樹等病害虫・雑草管理マニュアル」(以下、マニュアル)を守っているか、という質問に対しては「当該マニュアルに従い実施し、樹幹散布を行いました」とのことです。
(4)この方法を採用した理由については「専門家の助言を得て、被害状況の把握と今後の対策について検討しました。防除法として@皮膜を形成する樹木保護材により、枯死を回避させる予防法、A被害木から多数のカシノナガキクイムシの脱出を防除できる薬剤散布ウレタンマット及びストレッチフィルムの被覆を組み合わせることにより、被害拡大の抑制を図ることとしました」とありました。
(5)今回の手法は試験的に実施したのか、今後も続けるつもりかという質問に「結果を踏まえた上で、来年度以降の対策の内容を検討したいと考えています」とのみの回答でした。どうも、実験でもなさそうです。
問題は、ウレタンマットの上からスミパイン乳剤を散布して、ストレッチフイルムを巻き付けるという方法が、ラベルにある「樹幹散布」と言えるのか、大いに疑問がありました。
★通常の方法でない撒き方とは
そこで、6月29日に、もう一度質問をしました。今回は、なかなか回答を得られず、何度も催促した結果、8月10日にようやく回答がありました。
それによると、散布を行ったのは2010年6月7日〜9日まで、8時30分から17時15分まで。樹木一本当たりの散布量は平均2.5L。農薬の総使用量は1,700ml 。処理経費(農薬代):11,050円。
もう少し詳しく散布実態を聞くと、地際から高さ1.8mまでの樹幹にウレタンマットを巻き付け、その上から、ウレタンマットが薬液に濡れる程度まで背追い式噴霧器にて散布。その後、濡れている状態で、直ちにストレッチフィルムを巻く作業を開始し、その作業には約20分を要したということです。ガンカッター、ガムテープ、シュロ縄で固定し、それらの作業が終わるまでには、一本の作業に約50分を要したそうです。ストレッチフィルムは2重以上に巻いており、更に根元部分には、その上からビニールシートを被覆。毎日点検を実施しているということでした。
★マニュアルを守っていないではないか
「ウレタンマットを巻いた上に散布するという使用法は当該農薬の登録時の使用方法と異なる不適切な方法と思いますが、いかがお考えですか。」という質問には「今回の対策で用いた方法は通常想定されているものではありませんが、薬剤の発散を防止する対策を徹底することにより、周辺環境等への影響を回避できるものと考えています。」と回答し、あたかも、ウレタンマットに農薬を散布するのは農薬の揮発を抑えるためだと言いたいようです(たぶん、カシナガへの長期効果を狙ったのではないか)
。
農薬の環境汚染防止のため、この方法をとったというなら、少なくとも樹木に直接散布した場合と、ウレタンマットに散布してフィルムを巻いて散布した場合の気中MEP濃度の経日変化を比較調査し、ウレタンマットの方が揮発が少ないとわかったとしたら、農薬登録要件を変更さすべきです。
また、周辺住民などへの事前周知の文書を見せてほしいという質問に、「事前周知はしていませんが、散布時にはカラーコーンを設置するとともに作業員が見張りを行い、利用者が立ち入らない措置を行いました。」と驚くべき回答。
マニュアルを遵守してこの方法をとったと一回目の回答にありましたが、マニュアルの基本である事前周知をしなかったとは考えられないことです。マニュアルを作成した元締めの環境省の御苑事務所がこのような対応ならば、どうやって、他の農薬散布者に「守ってほしい」と言えるのでしょうか。
立入禁止柵を設置して公園内の人が近づけないようにしているから大丈夫とのことですが、「通常の方法ではない」とわかっているのならば、農薬使用を減らそうと努力している環境省は、それなりの手続きを踏むべきです。
さらに、新聞報道では、この作業に学生が参加したということでしたので、その点も聞きました。7名の学生が根元部分へのビニールシートの設置と捕獲用トラップの設置を手伝ったとのことです。学生たちはきちんと防護して、揮散する農薬を吸わなかったでしょうね。
★農水省:想定外の使用法と
どうも納得できないので、この方法がラベル通りと認められるか農水省農薬対策室に質問してみました。8月6日に届いた回答は以下の通りです。
***** 農薬対策室からの回答 *****
スミパイン乳剤の農薬登録上の使用方法は、「樹幹散布」です。
本事例で実施された散布前のウレタンマットの巻き付けや、散布
後のフィルム被覆は通常想定している使用方法ではありませんが、
周辺への薬剤の飛散軽減のための手法としては有効と考えられる
ところであり、不適切な使用法であるとまでは考えておりません。
環境省からは、より防除効果が高く、飛散リスクも軽減する手法
であるが、薬剤をより長く保持させることとなるので、薬害の検
証を含め、試行されていると聞いています。 −以下略−
実にいいかげんな回答だとは思いませんか。飛散リスクをいうなら、通常の樹木散布の15倍以上の濃度の希釈液を使用することの是非を問うべきです。相手が環境省だから手加減したのか不明ですが、人の立ち入りする御苑で試行するなどもってのほか、これでOKなら、何をしてもいいということにならないでしょうか。
ラベル通りに使用しろといっても、そこには抜け道があるということですか。
★住友化学:検討したことのない使用法と
スミパイン乳剤メーカーの住友化学への質問と回答を示します。
【質問1】適用表にない散布方法をどう考えるか。
[回答]ウレタンマットを巻いた上から散布する方法は、ウレタン
マットを通して薬液が樹幹に到達することで、樹幹散布に準じる
ものと判断しており、不適切な使用方法とまでは考えていない。
【質問2】貴社では、マット巻き使用方法を想定されたことがあるか。
[回答]想定したことはない。
【質問3】貴社では、マット巻き使用方法をいままで、検討されたことがあるか。
[回答]検討したことはない。
【質問4】スミパイン乳剤のカシノナガキクイムシへの適用について、
貴社の技術資料があれば、お示しください。
[回答]キクイムシのスミパイン乳剤の技術資料はございません。 以上
なるほど、農水省もメーカーもラベル通りでなくても、「不適切な使用方法とまでは言えない」ということです。だけど、やっぱり問題があるというような歯切れの悪い回答です。農薬対策室は、もっときちんとした対応をとらないと自分の首を絞めることになりませんか。
【囲み記事】ナラ枯れ原因説について ナラ菌説と土壌酸化説 −省略
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作成:2010-09-25