空中散布・松枯れにもどる

脱農薬ミニノート3号 野放し!無人ヘリコプター農薬 散布
電子版資料集第4号:無人ヘリコプター農薬散布∞現状と問題点

t23002#事故からみた、無人ヘリコプター空中散布の無法性(その3)無人ヘリ散布で何が事故か不明、国への報告義務もない〜県へのアンケートで判明#10-10
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【参考サイト】農水省:
      農林水産航空事業に関する情報(病害虫防除に関する情報にあり)
      農林水産航空事業の実施状況の推移
      都道府県別の無人ヘリコプターによる散布等実施状況
      無人ヘリコプター利用技術指導指針
      林野庁:無人ヘリコプターによる松くい虫防除の実施に関する運用基準
      農林水産航空協会:産業用無人ヘリコプターによる病害虫防除実施者のための手引き
      長野県:無人ヘリコプターによる空中散布等実施計画届について実施計画届事故届
      広島県:無人ヘリコプター利用技術指導要領
      山口県:無人ヘリコプター防除実施方針

 今年も無人ヘリコプター散布時に、多くの事故が発生しました。特に、北海道では散布関係者の死亡事故が起こっています。事故が起こった場合、都道府県はどのような対応をしているかなどについて、当グループは、7月に18県にアンケート調査を行いました。
 これらの県は07年に私たちの実施したアンケート調査で、県独自の無人ヘリコプター散布に関する指針等をもち、散布計画や実績を届出たり、事故報告書を求めていると回答した県です(記事t19401参照。独自指針がある27府県のうち、散布状況届出あり15府県、事故報告あり15県)。別に、今年、無人ヘリ事故を起こし、新聞などに報道された県にも質問しました。
 調査した道県は、北海道、青森、岩手、宮城、山形、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、長野、富山、福井、愛知、三重、京都、島根、広島、山口、徳島、高知、鹿児島の22です。
 なお、09年度には、全国42府県で約93万haの無人ヘリ散布が実施されており、実施していないのは東京、神奈川、和歌山、大阪、沖縄の5都府県だけです。本号に挙げなかった20県では、計画段階での届出を義務づけていないばかりか、事故の調査もしていない可能性があります。
 今回のアンケート調査は、散布計画や事故報告を届けることになっている県が対象なので、それを前提に質問しました。なお、有人ヘリ空中散布の場合は、「農薬使用基準を定める省令」で農薬使用者の氏名住所、年間散布計画等の農水大臣への届出義務と罰則がありますが、無人ヘリ散布場合には、届出義務はありません。
【質問1】無人ヘリコプター散布実施計画届けについて
  1、計画を提出すべき届出者は誰か
    出さなくてもいい=北海道、愛知、山口
    回答なし=鹿児島
    残りの18県は、実施団体、空散を行う組織、個人、県の無人ヘリ協議会
    傘下団体、市町村の協議会など、無人ヘリ散布を行う組織、個人でした。
    散布の委託者も届け出るようになっているところもありました。

  2、2007〜09年度の実施計画届の届出者別の届出件数 −省略−
    表1 県別の実施計画の届出件数 
    表2 長野県の届出者別の実施計画の届出件数 

  3、当初の散布計画の修正を求めるケースはどの程度か。−省略−

【質問2】無人ヘリコプター事故届けについて 
  1、届けを出すべき事故とはどういうものか。以下の例をあげ、
   ○印をつけてもらいました。−省略−
  
   (1)すべてに○印をつけた県は、群馬、埼玉、長野、愛知、京都の5県でした。

   (2)無人ヘリの不時着事故、無人ヘリの部品等の破損事故以外は、すべて事故と
     すると回答したのは、富山、三重、広島、高知の4県でした。富山県は、無人
     ヘリ本体が飛行中に操縦不能になった場合、無人ヘリの本体又は部品が盗難
     に遭った場合、燃料漏れにより周辺環境に悪影響が生じた場合も事故として
     あげています。盗難については、設問の例にあげてありませんでしたが、無
     人ヘリによるテロを気にする警察関係の意向によるものでしょうか。

   (3)特に定めていないが人畜などに被害がでた場合、農薬の飛散や流出は報告を
     求めるという県は、青森、岩手、宮城、山形、福島、栃木、茨城、福井、
     島根、山口の10県でした。

   (4)事故の届けを求めていないのは、北海道(人身事故は報告)、徳島でした。

  鹿児島は、松枯れの無人ヘリ散布に限定した「無人ヘリコプターによる松くい虫防
  除実施要領」によると『農業,漁業その他の事業に被害が発生し,又は周囲の自然
  環境及び生活環境に悪影響が生じた場合』を事故とするとなっていますが、木にひ
  っかかったぐらいでは、事故と認定しないようです。

  北海道は今年死亡事故を起こしています(本誌229号)。全国一の無人ヘリ散布を実
  施していながら、散布計画も、事故の報告も求めていない、いわば、無人ヘリ散布
  の無法地帯ですから、当然の結果とも言えます。警察の捜査中ということで、未だ
  に、死亡事故の詳細を回答してきません。これでは再発防止対策もとれません。
  結局、事故が起こった場合は速やかに報告すると決められていても、何が事故かは
  っきりしない県が多いと言えます。事故の報告を求めていない北海道や徳島は論外
  としても、墜落か不時着かはっきりしない場合もあるわけですから、私たちが設問
  にあげた例は、被害が軽微であっても、すべてを事故として扱い、きちんと再発防
  止策を示すべきです。

  無人ヘリ散布に関する法律はありません。唯一のガイドラインである農水省の局長
  通知「無人ヘリコプター利用技術指導指針」の2008年の改訂時に、私たちは事故に
  ついてきちんと定めるべきだと強く主張しましたが、無視されました。結局、それ
  が現在の状況をもたらしているわけです。

  3、事故調査はどのような体制で実施されているか
   何が事故かはっきりしない中ですが、届出のあった事故についてどういう調査が
  行われているか、聞いてみました。
   ほとんどの道県が、調査は実施主体が行うが、必要に応じて関係機関や団体など
  がも調査を行うとあります。
  北海道は人身事故の場合、市町村が調査し、道に報告とありました。
  重大事故の場合は、警察、電力会社、国の関係事務所等への対応に応じるというと
  ころもありました(宮城)。
  事故の程度に応じて警察や関係団体に連絡し、県、県協議会に報告(山形)。栃木
  では、実施主体から栃木県植物防疫協会あてに「農薬空中散布事故損害補償制度」
  に基づく事故申告があった場合には、事故調査員(県や全農とちぎ、NOSAI=
  農業共済とちぎ等関係機関・団体職員等)が事故を調査するとあります。補償がか
  らむと少し厳しくなるようです。
  埼玉は、県、市町村などが事故の状況を把握し、原因等を調査するとあります。
  長野は、市町村・事業実施者及び防除作業者で事故調査を行い、調査結果は、届出
  様式内の記載欄へ原因や再発防止策まで記載し、2週間以内に病害虫防除所長に報
  告することになっています。
  富山は県連絡協議会、県、市町村、農協、無人ヘリメーカーが一体となって調査す
  るとありました。
  山口でも事故調査に機体メーカーが加わるとのことです。
  三重は全農みえ関係機関が連携して実施するとありますが、農協が実施主体となっ
  ている例が多いからでしょう。
  それぞれ、きちんと調査していると回答していますが、何が事故かがはっきりしな
  い場合、事故ではないとすれば、調査も行われません。重大な人身事故がなかった
  南さつま市の墜落は、事故でないとしている鹿児島の場合がそうで、私たちの問合
  せがなかったら、うやむやにすまされたことでしょう。
  また、殆どの県で、実施主体が事故調査することになっているのは問題です。事故
  に責任のある散布関係者は調べられる対象であり、それが調査主体であっては、き
  ちんとした調査ができるわけがありません。
  さらに、機体や制御装置に不備はなかったかを調べるのに、メーカーが入ってきて
  は、正しい調査ができません。事故調査のための専門家による第三者機関をつくる
  必要があると思います。

  4、事故発生を知った場合、どこへ報告することになっているか。
   (1)アンケート回答では、農水省の地域農政局や地方農政事務所などへの報告が
     多く、北海道、青森、宮城、山形(重大事故)福島、茨城、栃木、群馬、
     埼玉、富山、愛知、三重(重大事故)、広島、徳島、高知でした。
   (2)報告義務がないため、報告していないという回答は、長野、福井、京都、
     島根、山口です。
   (3)無人ヘリコプター散布の実施状況の把握に努め、情報を提供することになっ
     ている(社)農林水産航空協会へも報告するところは、富山、鹿児島だけで
     した。
    農水省は農薬による事故や被害の統計を毎年、報告していますが、無人ヘリコプター事故の項目はありません。事故事例と同省の監督責任放棄については、次号で述べることにします。
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作成:2011-03-28