空中散布・松枯れにもどる
t23102#事故からみた、無人ヘリコプター空中散布の無法性(最終回)驚くべき事故の多さ〜もはや、農林水産航空協会にまかしておけない#10-11
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【脱農薬ミニノート】第3号:野放し!無人ヘリコプター農薬散布(10年11月発行)
【参考サイト】農水省:
農林水産航空事業に関する情報(病害虫防除に関する情報にあり)
農林水産航空事業の実施状況の推移
都道府県別の無人ヘリコプターによる散布等実施状況
無人ヘリコプター利用技術指導指針
林野庁:無人ヘリコプターによる松くい虫防除の実施に関する運用基準
農林水産航空協会
産業用無人ヘリコプターによる病害虫防除実施者のための手引き
農水省と24道府県へ2007年から10年8月までの事故の届出があった件数と内容を知らせてもらいました。調査結果で一番驚いたのが事故件数の多さとその内容です。
★4年で97件の事故〜農水省は13件しか把握せず
表1に2007〜10年8月の県別の事故件数を挙げましたが合計97件でした。ただし、農水省の回答は発生場所の記載がなかったため、07年の21件数の中には3件ほど重複計算している事例があるかも知れません。しかし、表からわかる通り、08年に、農水省が把握しているのは38件中3件、09年は29件中1件に過ぎません。県別調査の回答とは、あまりに事故件数が違いすぎます。この4年で、農水省は13件と全件数の13.4%しか把握していません。そもそも、前号で述べたように、何を事故とするか、事故報告を農水省に伝えるかどうかなど、決まっていないのだから、当然かもしれません。
たとえば、栃木県は42件と他に比べて事故が多いですが、不時着や比較的軽微な事例も報告されているからでしょう。一方、重大事故しか事故と認めない、北海道は今年の死亡事故1件のみ、鹿児島の1件の事例は、県は人や環境に影響なかったとして、事故数に入れていません。こんなことではどうやって安全対策ができるのでしょうか。
表1 県別の無人ヘリコプター事故件数 (農水省調べは全国。道府県調査は24道府県対象)
2007年 08年 09年 10年 2007年 08年 09年 10年
農水省 6 3 1 3 福井県 1 2 2
----------------------------------- 愛知県 1
北海道 1* 三重県 1
青森県 1 滋賀県 1*
岩手県 1 京都府 5 1
山形県 2* 島根県 2 8 1
福島県 2 山口県 2
栃木県 11 14 17 高知県 1 2 2
茨城県 1* 鹿児島県 1*
千葉県 1* -------------------------------------
長野県 5 2 合計 21 38 29 9
事故報告なし 広島県 徳島県 群馬県 宮城県 富山県 埼玉県
*: 農水省が把握している事例、滋賀県と千葉県はアンケート非対象
★無人ヘリ事故事例
事故事例を発生年月/発生場所/事故状況/被害状況/原因の一覧として表2にまとめました。件数は97件ですが、今回調べたのは24府県で、調べなかった県をいれると、もっと増えると思われます。なお、栃木、福島、青森県は発生月の回答なしでした。
表2 事故事例の一覧 −省略−
★事故状況:架線事故が60%
表3に事故状況を示しました。いちばん多いのは、電線や電話線、テレビ線などへの接触事故で46件ありました。これらの架線の支柱や鉄塔への接触12件を加えると、事故全体の約60%が架線事故の類でした。中には、停電事故や鉄道ダイヤに影響を及ぼした例もありました。機体が立ち木や垣根、民家や倉庫等の建築物にぶつかる事例も合わせて12件にのぼりました。また、機体が過重積載ほかで失速した事例が10件あります。
多くの事故状況は、水田の近くに、架線がクモの巣のように張り巡らされている道路や住宅が散在する日本の農村地帯で、無人ヘリコプター飛行がいかに危険かを物語るものです。また、低空飛行で散布効率がよく、小回りが効くという無人ヘリメーカーのいう宣伝が、ウラを返せば、事故多発につながっていることも明らかです。
表3 事故状況別件数 −省略−
★被害状況
表4には、被害状況を内容別にまとめました。1件の事故で、被害が複数に及ぶ事例があるため、以下の件数合計は事故件数と異なります。
表4 被害状況別の件数 −省略−
無人ヘリ自体の破損が多いのは当然ですが、燃料漏れや農薬漏れの報告が少ないのは、はたして、ほんとうか疑問です。機体行方不明が1件ありますが、これは、08年の山形県で、制御不能になったヘリが日本海へ没した事例です(本誌205号参照)。また、架線類の被害が40件と多いのは、無人ヘリが接触したり、衝突する事故の多いことの反映です。
人身事故については、散布関係者の事例が2件(09年、栃木県で、合図マンの頭にプロペラが当たった事故と本年の北海道での死亡事故−本誌229号参照)と、09年の千葉県印西市のゴルフ場でのゴルファー2人の農薬被曝事故が報告されています。
農作物の被害22件では、水稲が10件、水田に無人ヘリの墜落するケースが多いからです。農薬が散布対象外の作物にドリフトしたり、無人ヘリの風圧で作物が倒れた事例も1件づつありました。民家や倉庫ほかの建造物に接触したり、墜落した事例は8件でした。過重積載で、バランスを失い、土手に衝突した事例が長野県ありました。
★事故原因
表2の右欄には、事故原因をアルファベット記号で示しました。記号の意味とそれぞれの件数は以下のようです。
(a)オペレーター操作ミス/制御ミ/機体の状態を十分に確認しない等:19
(b)オペレーターと合図マン連携不足/合図マンのミス等:8、
(c)積載過剰や出力不足、機体故障等: 12、
(d)オペレーター転倒:2、
(e)目測ミス/確認不足/下見不足等:20、
(f)複合要因:24、(g)不明:12
(f)の複合要因24件のうち、23件は栃木県で、回答に、オペレーターの誤操作・確認不足/オペレーターと合図マンとの連携不足/天候が悪い中での作業ほかなどの複数要因が記入されていたためです。
(a)のオペレーターの制御ミス19件や(e)の障害物の確認不足が20件、(b)オペレーターと合図マンの連携不足8件など、事故の多くは、オペレーターや合図マンにあるとされています。中には、オペレーターが移動中、つまずいたり、転倒して墜落事故を起こした事例が2件ありました。
機体そのものの故障や過重積載、制御不能などによる事例が12件ありましたが、機体の整備や制御装置の点検がどの程度頻繁に行われているかも懸念されます。
無人ヘリ事故では、飛行場所での障害物の多さが、まず問題になります。その上、他所へのドリフトを防止と対象農作物に適切に農薬散布するための制御技術の難しさが加わります。
ヒトはミスをするものです。制御ミスがあっても、障害物を見落としても、事故につながらないような対応策が無人ヘリで、とられているのでしょうか。とてもそうは思えません。せいぜい制御不能の際に、墜落させるための機能があるくらいです。
たとえば、ドリフト防止対策として、無人ヘリメーカーが禁止事項として挙げているのは、次の3点です。
・平均風速3m/秒を超える時、散布中止。
・対象外作物の栽培圃場に向けて(直角方向)の散布飛行は行わない。
・薬剤を散布しながら、旋回しない。
規定風速を超えれば離陸や散布ができない/障害物を検知し衝突を防止する/旋回するときに農薬散布を止めるなどの装置開発もしないで、散布者のみに責任をおしつけるメーカーの態度は傲慢としかいえません。
★無人ヘリ農薬空散に法規制を
一連の連載記事で、明らかになったのは、そもそも、飛ばすための公的資格もない人が制御する無人ヘリが民家や道路の近くを我が物顔で飛行しているという無法性です。
事故が起こっても、報告義務がない、軽微なら報告もしないという実態をみて、私たちは、無人ヘリによる農薬散布について、いままでのように、業界団体の農林水産航空協会に任せておくわけにはいきません。
以下のような条項を含む法律の制定を一層強く、目指す必要があります。
無人ヘリ飛行禁止地帯の設定/オペレーターの研修・訓練、資格・免許制度/機体整備の厳格化/事故報告の義務化と原因調査機関の設置/事故責任の追及と罰則/農薬散布計画・実績の報告義務化/住民参加の地区協議会の設置/散布地周辺への周知徹底/住宅地通知の遵守等
なお、無人ヘリ問題については、脱農薬ミニノート3号もどうぞ。
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作成:2011-05-01