農薬空中散布・松枯れにもどる

脱農薬ミニノート3号 野放し!無人ヘリコプター農薬散布
t23301#環境省、今度は無人ヘリ散布農薬の飛散・吸入リスク評価検討会〜安全散布を目指すと言うが、例によって健康被害者は蚊帳の外#11-01
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【参考サイト】
   環境省:農薬の大気経由による影響評価事業のページ
      第一回飛散リスク評価検討会:議事概要資料(06-09年はこちら
      第一回吸入毒性部会    :議事概要資料(07-09年はこちら)
   農水省:農林水産航空事業に関する情報(病害虫防除に関する情報にあり)
       農林水産航空事業の実施状況の推移
       都道府県別の無人ヘリコプターによる散布等実施状況
       無人ヘリコプター利用技術指導指針
   林野庁:無人ヘリコプターによる松くい虫防除の実施に関する運用基準
   農林水産航空協会:有機リン系農薬の散布による周辺環境影響調査 H21年度報告書

 環境省は、昨年10月にH22年度第一回農薬の大気経由による飛散リスク評価検討会(以下飛散リスク検討会という)を、11月に同農薬吸入毒性評価部会(以下吸入毒性部会という)を開催し、今年度以降の方針を決めました。
その目的は、前年までの公園・街路樹を対象とした農薬大気汚染防止対策に一区切りをつけ、『無人ヘリコプターにより散布される農薬の大気経由による人への健康影響に関する適切なリスク評価・管理手法を確立するため、農薬吸入毒性試験、農薬飛散実態調査の結果を踏まえ、農薬の大気経由による飛散リスクを評価するとともに、リスク低減を図るリスク管理方法について検討を行う。』となっています。
事業は3年計画で、事務局は前回に引き続き農薬推進団体の「財団法人残留農薬研究所」に置かれています。それぞれの会での、議事内容を見てみましょう。

★飛散リスク検討会〜実態調査とシミュレーションは来年度から
 この検討会で、調査・検討事項として挙げられているのは次の項目です。
(1)無人ヘリにより散布される農薬の飛散実態調査の計画及び結果の検討
(2)無人ヘリによる農薬飛散動態把握のためのシミュレーションの構築
(3)無人ヘリ散布による農薬の飛散リスクの評価手法の検討
(4)無人ヘリ散布による農薬の飛散リスクを低減するためのリスク管理手法の検討
(5)その他上記の検討に必要な事項

検討会のメンバーは、環境リスク評価、農薬の無人ヘリコプター散布及び病害虫防除に知見を有する関係者等で構成するとされ、全国農業協同組合連合会と日本植物防疫協会、茨城県病害虫防除所、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構、愛媛大学農学部。独立行政法人農業環境技術研究所から人選されているほか、消費者サイドから主婦連の有田 芳子さんが入っています。
 検討会は、まず、2010年度は無人ヘリコプター用農薬の物理的性質や粒径分布などの基礎的な測定を行い、2011年度からは散布地域での飛散実態調査が実施されるほか、シミュレーションの構築を目指すとしています。
第一回会議の議事録は公表されていませんが、配布された資料には、小原裕三さん(農業環境技術研究所)の「無人ヘリコプター散布での農薬飛散リスク評価 −シミュレーションモデルを使用して−」がありました。
小原さんは資料の中で、飛散リスクの評価における以下の問題点を挙げています。
  ・実測による評価には、多大な労力と経費が必要
  ・立地条件、気象条件や農薬の種類によって、大きく異なる結果
  ・事例を積み重ねて一般化するには、膨大な試験規模と試験数が必要 現実的は困難
そのため、変動要因を明らかにし、それに基づく農薬の飛散動態を予測するシミュレーションモデルを利用し、リスク評価の一般化を図るとしています。
それには、農薬散布中・直後の短時間の粒子状物質(スプレードリフト)と、農薬粒子落下後の長時間のガス状物質(ベーパードリフト)の2種の評価の必要だと述べていますが、水や乳化剤に溶け込んだミスト状農薬の影響、土埃などに吸着した農薬粒子の影響なども考慮する必要があるはずです。

 シミュレーションはさまざまな散布要因を仮定した理論式から、実測値を予測することを目的としますが、先に、農水省の委託により農林水産航空協会が実施した「平成21年度有機リン系農薬の散布による周辺環境影響調査事業」の結果をみても、予測と実測の乖離が明らかです(記事t22403記事t22904)。農薬の種類、散布条件、地形や気象条件、飛行条件などさまざまな変動要因があり、どこに、どれだけの農薬が飛散するか、一般的な予測はできても、短時間の局所的な予測は困難だと思われます。
本来、これらの要因の検討は、無人ヘリコプター導入以前に実施されていなければならないわけで、いまさら、このような基本的な検討を行うのは、いかに、非科学的でいいかげんな空中散布が行われているかを自ら示しているものです。

2010年度については、物理的化学的性状測定が、水稲で使用実績が多いネオニコチノイド系殺虫剤ジノテフランと、蒸気圧が比較的高い有機リン系フェニトロチオンが対象となりました。また、粒径分布測定は、使用実績が多い下表の農薬(*を除く)が対象となりました。
  表 平成20年度無人ヘリ防除(水稲)における殺虫剤と殺菌剤の使用実績
                                         (環境省配布資料より)

   殺 虫 剤  (単位:1000ha)      殺 菌 剤 (単位:1000ha)
    成分名        使用実績       成分名      使用実績
  ジノテフラン       123       フサライド      161
  エトフェンプロックス  73       フェリムゾン*        65
  クロチアニジン      65       カスガマイシン        61
  シラフルオフェン    22       トリシクラゾール   35
  ブプロフェジン      20       アゾキシストロビン  24
  テブフェノジド      19       バリダマイシン      22
  エチプロール        13       ジクロメジン       20
  MEP               7       フルトラニル       19
  クロマフェノジド     3       ペンシクロン       12
  BPMC          0.03       ジクロシメット      12
                      プロペナゾール*       2
                            フェノキサニル        2
                             チオファネートメチル   1
                             ピロキロン*        0.4
                             メプロニル         0.4
                             イソプロチオラン      0.07
★吸入毒性部会〜フサライド、フェリムゾンの順で亜急性試験実施
この部会での、調査・検討事項は、
(1)農薬の吸入毒性等に係る情報の収集・分析
(2)農薬の吸入毒性試験に係る試験計画の策定及び試験結果の検証・評価
(3)その他(1)及び(2)の検討に必要な事項  です。
部会の構成は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構、日本植物防疫協会、国立医薬品食品衛生研究所国立医薬品食品衛生研究所、東京薬科大学、東海大学、大阪市立大学所属の専門家で。化学物質過敏症に詳しいのは坂部貢さんひとりです。

 毒性試験は、『(1)農薬のばく露は、散布直後に農薬を直接吸入するものだけではなく、農薬が農作物や地面等に落下した後に揮発し、一定期間散布区域に滞留するものも考慮する必要がある。
(2)このため、吸入毒性は、急性ではなく亜急性吸入毒性により評価することとし、具体的には、OECDテストガイドライン412に基づき、28日間亜急性吸入毒性試験を実施し、試験対象農薬の無毒性量を算定することとする。
(3)評価対象農薬としては、無人ヘリコプター散布で使用実績の多い農薬から順に選定することとする。』となっています。
しかし、表にあるジノテフランは、農薬開発企業から28日間亜急性吸入毒性試験成績の提供を受けたのでそれを使い、エトフェンプロックスについては、農薬評価書に掲載されている90日間亜急性吸入毒性試験で無毒性量を活用することになり、新たなものとして、フサライド、フェリムゾンの順で吸入毒性試験が実施される計画です。
フサライドは、有機塩素系の殺菌剤で、化審法第一種特定化学物質指定のHCB(ヘキサクロロベンゼン)が不純物として混入しているため、環境汚染が心配されます。また、フェリムゾンと散布面積が同じ6.5万Haであるクロチアニジンが、同じネオニコ系ジノテフランの試験データがあるという理由で、試験対象から除外されましたが、両者は、物性も、種々の毒性試験による影響の表れ方も異なるため、同一視することは疑問です。

第二回部会(11年3月22日)で、クロチアニジンの毒性試験実施することになった。
 また、ジノテフランの亜急性吸入毒性試験評価資料(案)が提出された。


★またしても、農林水産航空協会が顔をだす
二つの会には、空散推進母体である(社)日本農林水産航空協会が「無人ヘリコプターによる病害虫防除における安全性確保のための取組み」「産業用無人ヘリコプターによる病害虫防除実施者のための手引き〔平成22年版〕」を資料として提出しているだけでなく、研究対象とする農薬には、同協会がまとめたと思われる、無人ヘリコプター用農薬の散布面積別リストが提示され、その大きいものから順に評価していくことになっています。
無人ヘリコプターによる農薬散布は、同協会が、自らの定款目的に反して、すべてを牛耳っていることは、本誌記事(記事t20604記事t22403)や脱農薬てんとう資料集4号「無人ヘリコプター農薬散布∞現状と問題点」脱農薬ミニノート3号「野放し!無人ヘリコプター農薬散布」で明らかにしてきました。
また、昨年私たちが実施した無人ヘリコプター事故に関する道府県アンケート調査で、4年間に97件の事故が発生していることが判明しましたが(記事t23102)、同協会への質問に回答もなく、再発防止対策も示せない有様です。そんな協会が、二つの配布資料で、あたかも、自らの指導で安全性が保たれているかのような説明をしていることは許せません。
農林水産航空協会の主張が、両会議のメンバーに刷り込まれては、中立的、科学的論議が出来るわけはないので、私たちは、以下のうように、環境省へ影響評価事業に関する要望を送付するとともに、農水省へは関連法令の制定を求める要望を行いました。

【環境省への要望】農薬の大気経由による影響評価事業に関する要望(1月11日)
【農水省への要望】無人ヘリコプターによる農薬空中散布に関する農薬取締法関連法令の改定と新法制定の要望(1月14日)
農水省は、無人ヘリコプターによる空中散布等に伴う事故情報の報告依頼についてを、1月28日に発出しました。

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作成:2011-01-25