農薬空中散布・松枯れにもどる

脱農薬ミニノート3号 野放し!無人ヘリコプター農薬散布

t23401#農水省、環境省が無人ヘリコプター農薬空中散布の要望に回答〜事故報告の提出を求める依頼通知が発出されたが#11-02
 前号で、無人ヘリコプターによる農薬空中散布について、環境省と農水省への要望を掲載しましたが、両省からの返事がきましたので、その要点を紹介します。
 回答の中で特に注目されるのは、農水省が1月28日に、無人ヘリコプターによる空中散布等に伴う事故情報の報告依頼について(以下事故報告依頼)を発出し、事故報告を本省に挙げるよう求めたことです(同時に安全対策通知発出)。
【関連記事】記事t23301
【参考サイト】
   環境省:農薬の大気経由による影響評価事業のページ
      第一回飛散リスク評価検討会:議事概要資料(06-09年はこちら
      第一回吸入毒性部会    :議事概要資料(07-09年はこちら)
   農水省:農林水産航空事業に関する情報(病害虫防除に関する情報にあり)
       農林水産航空事業の実施状況の推移
       都道府県別の無人ヘリコプターによる散布等実施状況
       無人ヘリコプター利用技術指導指針
   林野庁:無人ヘリコプターによる松くい虫防除の実施に関する運用基準
   農林水産航空協会:有機リン系農薬の散布による周辺環境影響調査 H21年度報告書

★環境省は実のない回答
【環境省への要望】農薬の大気経由による影響評価事業に関する要望(1月11日)

 環境省からは「農薬の大気経由による影響評価事業」に関する要望・質問に対して、内容のない回答がありましたが、その中で、特に、問題と感じたのは、以下の事項です。
 クロチアニジンの吸入毒性試験が同じネオニコ系のジノテフランで代替可としていることについては『ジノテフランの散布後の挙動や毒性が同一であるとは考えていません。本事業では、できる限り多くの農薬について28日間亜急性吸入毒性試験を実施し、無毒性量を設定したいと考えています。』としながら、一方で、『ジノテフランの吸入毒性試験成績は、農薬開発企業から提供いただいたものであり、当該試験成績を本事業で公開する予定はありません。』としていることです。
 さらに、私たちの要望書及び2件の添付資料を、飛散リスク評価と吸入毒性の2つの委員会のメンバーに配布してほしいという要望には、14部を印刷してくれれば渡すというのです。全部でA4で47頁あるのに、メール添付で送ってくれるよう求めましたが、『当室から各種検討会等の委員に資料を送付する場合、委員の先生方の利便性を最優先に考慮して、緊急の場合を除き、郵送で資料送付を行っております。』ですって。

★農水省からの回答〜現行路線を継続
【農水省への要望】無人ヘリコプターによる農薬空中散布に関する農薬取締法関連法令の改定と新法制定の要望(1月14日)

 私たちの農水省への要望では、無人ヘリ飛行禁止地帯を設置する/ 国によるオペレーターの研修・訓練を実施し、国が資格免許を与える/オペレーターや防除業者の氏名・住所の届出登録を義務づけるなどの事項が入っていました。しかし、回答内容は「無人ヘリコプター利用技術指導指針」や「住宅地等における農薬使用について」で指導している現行路線を継続すること、無人ヘリ業務の殆どを請け負っている農林水産航空協会(以下協会)に任せていることで、十分だとの主張に終始しました。
 昨年11月には、「平成23 年以降に向けた無人ヘリコプターによる空中散布等の安全対策の徹底について」という指導通知を発出し、協会にも、協力をお願いするとしましたが、果たして、今年は大丈夫でしょうか。

★無人ヘリ事故報告の公表は慎重にと
 無人ヘリ事故については、植物防疫課長名で、地方農政局(北海道、沖縄は関係部署)宛に管下の都道府県に「事故報告依頼」通知(22消安第7704号)が出されました。また、私たちの要望への回答には、平成23 年度シーズンから、事故を起こしたオペレーターに対しては、
   ○速やかに再発防止のための実技及び学科研修を受講させる
   ○更に、翌シーズン開始前にも再度研修を受講させる
   ○研修を受講しない場合等は、当該オペレーターの認定を取り消し、認定証の返    還を求める
などの方針が示されました。いままで、何回も要望してきたことが、やっと実現したわけですが、通知にある、事故の報告要領や報告様式をみると、必ずしも、万全とはいえません。
 報告の範囲という項には、
   1 人身事故〔散布作業関係者(操作要員、補助員等)に係る軽微なものを除く〕
   2 物損事故〔軽微な機体損傷のみのものを除く〕
   3 農薬事故〔ドリフトや農薬流出による事故等〕
   4 社会的影響等を勘案し報告が必要と考えられる事故
   ※ その他、安全対策の強化に役立つと思われる情報を入手した場合も
     情報提供願いたい
となっており、軽微なものは、恣意的な判断で事故でないとされてしまうことは、眼にみえています。軽微損傷やヒヤリハット事例の報告も取り上げないようでは、事故防止につながりません。
 さらに、情報の取り扱いの項では、『個人情報や特定の地域の情報等については、関係法令に基づき慎重を期して取り扱うものとし、提出された個票をそのまま公表することはしないこととする。』となっています。これでは、私たちが、府県別アンケート調査したような内容−発生年月日/発生場所(市町村)/事故状況(機体、実施団体、農薬使用)−が明らかにされるかどうか疑問です。
 同省が事故事例について、公表するのは、例えば、前述の昨年11月通知にある以下のような内容です。
   1 事故の概況(通知22消安第6589号より)
    ・発生時間:午前5時25分頃
    ・発生場所:水田ほ場
    ・作業内容:農薬散布
    ・事故内容:散布飛行中に操作要員が機体を旋回させた際、
          機体が電線に接触し墜落した。電線は切断され、
          周辺の約250戸が約1時間10分の間停電した。
   2 推測される事故原因:
    ○操作要員の目測誤り
     ○電線に向かっていく方向に飛行していたこと
発生年月日も不明、どこで、どのような実施団体がどのような農薬でどのような無人ヘリを使い、どのような散布をしていたかなどの詳細を知ることはできません。私たちは、いままで、事故を新聞報道などでキャッチし、実施団体に問い合わせて、情報を得てきました。しかし、それが、一旦、警察の手にわたると、捜査中ということで、全く情報が手にはいらず、従って、事故原因も、再発防止策もとれなくなるのです。この状況は、事故報告が行われても、本質的には、変わらないばかりか、今まで都道府県からの回答で明らかになっていた内容も、得られなくなる恐れがあります。
 なお、無人ヘリに関する法令の制定を求めたことに対しては、回答の最後に『現時点では、指導指針等の無人ヘリコプターによる空中散布等の安全対策について、法制化する予定はありませんが、法制化に当たっては、慎重な検討が必要と考えています。』とあっただけでした。


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作成:2011-02-25