農薬の空中散布・松枯れにもどる
t23603#この期におよんでまだ空散とは〜長野県の空散のあり方検討会の中間報告批判 その1 松枯れ空中散布#11-04
【関連記事】記事t23303、その2、その3、その4、その5、その6、その7、最終回
農薬空中散布情報:2009年、10年、11年
空中散布予定の7市村への要望
【参考サイト】長野県のHPにある農薬の空中散布検討連絡会議の頁
第一回連絡会議(2010/12/22)、第二回連絡会議(11/03/23)
今後の農薬の空中散布のあり方についてのパブリックコメントの実施について
松くい虫防除のための農薬の空中散布の今後のあり方検討の中間報告(案)と当グループ意見
農作物に対する無人ヘリコプターを利用した農薬空中散布の今後のあり方(案)と当グループ意見
パブコメ結果と長野県の見解
5月12日「第4回有人ヘリ松くい虫防除検討部会」開催案内
農水省:平成23年度 農林水産航空事業 実施計画 と県別散布予定面積
林野庁:平成23年度松くい虫特別防除等の適切な実施についてと県別散布予定面積・補助金額
長野県は、松枯れ対策として実施されている農薬空中散布、田畑での無人ヘリ散布に関する健康被害などの訴えに直面し、 今後の農薬の空中散布のあり方について、昨年12月に検討会議を設置し、論議してきましたが(記事t23303)、中間報告案を公表し、3月30日から4月30日まで、パブリックコメントを募集しています。
今号では、松枯れ対策としての農薬空中散布に関する中間報告批判を掲載します。
★空散以外方法はないと決めつけ
この中間報告書は、平成22年度に「農薬の空中散布検討連絡会議」の「有人ヘリ松くい虫防除検討部会」における議論の方向について、まとめたものだそうです。
報告書の検討事項は、空中散布の必要性と、健康被害を訴えた子どもや住民の安全性を再検討し、それを踏まえた今後の空中散布のあり方を検討し、わかりやすく伝えることであるとしています。最初から空散続行の基本方針の下に、若干、散布方法を変えるという検討がなされたわけです。農薬散布以外の方法は頭から拒否しています。
まず、松枯れの原因について、40年も前のマツノザイセンチュウ(以下、ザイセンチュウ)、マツノマダラカミキリ(以下、マダラカミキリ)説を繰り返すのみです。松を枯らすのはザイセンチュウであり、それを運ぶのがマダラカミキリだというわけです。
大気汚染や土壌の酸性化、気候温暖化などによって松の樹勢が弱まる原因はいくつもあるのに、「特にそういった箇所だけに松枯れの被害が集中しているといった事実は認められず、これらの仮説は立証がなされたものではない」と切って捨てています。非常に恣意的です。
★マダラカミキリの死骸を示せ
林野庁が長年言い続け、未だに長野県も踏襲している理論では、有人・無人・地上散布等の農薬散布の目的は、ザイセンチュウの運び屋とされているマダラカミキリの成虫を殺すために実施されることになっています。
ならば、空散前のマダラカミキリの生息調査結果を示していただきたい。どのくらいマダラカミキリがその松林にいれば、松が枯れるのか、その数値もだしていただきたいし、空中散布の効果としてマダラカミキリの死骸を差し出していただきたい。効果判定はこれしかないはずです。推定による松枯れ率などでは効果判定はできません。
これまでにも何度も市民団体や行政が空散後に斃死昆虫の調査をしてきましたが、大量の他の昆虫の死骸は見つかりましたが、マダラカミキリはほとんど見つかっていません。林野庁はマダラカミキリの拾いとり調査は難しいとして1979年の44頭というデータしか出してきません。
しかし、この論だと、マダラカミキリを絶滅させたとしても、松を枯らす張本人のザイセンチュウは残ります。さらに、致命的な欠陥は、マダラカミキリが松の新枝をかじるときに(これを後食といっています)、ザイセンチュウを健全な松に移すとされていますから、たとえ、前もって毒を散布していても、マダラカミキリはザイセンチュウを感染させてから死ぬわけです。農薬散布は靴の上から足をかくようなもので、効果は最初から疑わしいのです。
★30年前の写真の地域は?
中間報告の許せない点は「空中散布実施松林と非実施松林の比較」としてカラー写真を載せていることです。キャプションには、1980年の茨城県旭村の例とあります。
実施区域は青々とした松があり、非実施区域の松はみんな枯れています。こういう写真は以前、林野庁が国会議員にもってまわり「こんなに効果があります」として批判を浴びたものです。松は一般的に山裾から枯れ、徐々に山全体に広がっていきます。1980年の時点でこのような状況だったとしても、その後、全部枯れてしまっているかもしれません。
今回、林野庁にこの場所が現在どうなっているか、質問しましたが「わかりません」ということでした。このような写真まで持ち出さないと空散の必要性が証明できないのでしょうか。(その後、茨城県鉾田市玉田浜地区であり、現在、栃木県のとちぎ海浜自然の家の施設があることが判明しました〜パブコメ参照)
長野県の資料によると、有人ヘリによる松枯れ空中散布が一番多かったのが2003年の18市町村の943ヘクタールです。2004年には11市町村、507ヘクタールと激減しています。この理由は何でしょう。突如として松枯れが終息したのでしょうか。2009年に上田市と青木村が空散を中止していますが、これは、地域住民の健康被害の訴えがあり、中止の強い要望があったからです。
もうひとつ空中散布の効果のあった事例として、長崎県平戸市生月(いきつき)島での調査結果が引用され、松枯れ被害木は、散布地域で5.7%、非散布地域で88.9%とされています。しかし、長崎県の報告には『空中散布はあくまで、予防措置。感染源の除去である伐倒駆除の徹底が重要である』とあります。長野県はこのことに触れず、あたかも、空中散布で松枯れが防止できるという主張への誘導がみられます。
そもそも、いままで、空中散布のみで効果があったとする事例はありません。枯れた松や折れた枝の除去、土壌が富栄養化しないよう松林の手入が、空中散布と平行して行われているところが殆どです。
農薬空中散布を40年以上続けてきても、まだ、松枯れが続いているという事実が、マダラカミキリ説の破綻を証明しています。
【参考サイト】ミツバチたすけ隊のHPにあるCCDについてと長野県松枯れ農薬空中散布へのパブコメ意見
★より安全な空散の実施?
中間報告では、これまで有人ヘリで空散してきた、人の生活圏に近い道路等では、地上散布や無人ヘリ散布に切り替え、有人ヘリを減らすとしています。特に、守るべき松林では、樹幹注入(貴重な松)、地上散布(道路から20m以内)、無人ヘリ散布(道路から20m以遠、150m以内で地形等の条件のあう松林)、有人ヘリ散布(道路から150m以遠の松林)などさまざまな形での農薬散布を推奨しています。
家屋等人の生活圏から有人ヘリは200m以上、無人ヘリは30m以上離すとありますが、緩衝地帯幅のデータはありません。
また、使用薬剤のスミパインMCは妥当性があるとし、ネオニコチノイド系の2回散布も有効としていますから、今後、チアクロプリド剤の空散もあり得ます。
現在、福島第一原発からの放射線が人々に非常な不安を与えているときに、あえて、人の健康被害と環境への負荷を大きくする農薬空中散布を今後も続けようとしている姿勢には疑問と怒りを覚えます。農薬以外の方法は最初から考慮していません。早急に考え直すべきでしょう。
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作成:2011-05-01