農薬空中散布・松枯れにもどる

t23803#この期におよんでまだ空散とは長野県の空散のあり方検討会の中間報告批判(その3)無人ヘリによる有機リン剤散布自粛が要請されたが#11-06
【関連記事】その1その2記事t23704その4その5その6その7最終回2011年の農薬空中散布情報
【参考サイト】農水省:農林水産航空事業に関する情報(病害虫防除に関する情報にあり)        平成23年度 農林水産航空事業 実施計画 県別散布予定面積        林野庁:平成23年度松くい虫特別防除等の適切な実施について県別散布予定面積・補助金額        長野県:農薬の空中散布検討連絡会議の頁            第4回松くい虫防除検討部会(11/05/12)            今後の農薬の空中散布のあり方についてのパブリックコメントの実施について            松くい虫防除のための農薬の空中散布の今後のあり方検討の中間報告(案)当グループ意見            農作物に対する無人ヘリコプターを利用した農薬空中散布の今後のあり方(案)と   当グループ意見   パブコメ結果と長野県の見解           当グループの要望と長野県の回答
 5月12日開催の長野県の有人ヘリ松くい虫防除検討部会では、空中散布で健康に影響がないとする本山直樹さん(東京農業大学総合研究所)と有機リン・ネオニコチノイド系農薬の発達神経毒性を懸念する黒田洋一郎さん(元(財)東京都医学研究機構東京都神経科学総合研究所)からの意見聴取が行われ、両者の農薬の健康への影響についての意見の相違が明確になりました(県のHPの議事録参照)。
 長野県が募集したパブリックコメントで、私たちは『まず、本年度の空中散布を中止してから、論議するのが本筋である』との意見を述べましたが、検討会議は『その間も松林の保全は不可欠であることから、今年も空中散布を行うこととなりますが、この中間報告案に記載された中で出来ることから、実施主体である市町村が自主的に本年度から取り組んでいただけるよう、働きかけてまいります。』と答えるのみでした。
 私たちの再三の空散中止要望に対して、長野県では、千曲市など7市村での有機リン剤スミパインMC(有機リン剤MEP=フェニトロチオン23.5%含有)等の空中散布が計画されたままです。なお、住民の反対運動の結果、2009年から空中散布を止めている上田市、青木村、坂城村についで、今年の予定には、昨年散布した飯島町ははいっていません。これは、MEPの健康への影響と絶滅危惧種の貴重な鳥であるブッポウソウへの影響を配慮した結果だそうです。

★千曲市での松枯れ空中散布
【参考サイト】当グループ:空中散布予定の7市村への要望千曲市への要望と回答
       千曲市:松くい虫駆除薬剤の空中散布は終了しました(2011/06/21  林業振興協議会の頁
 3地域125haにスミパインMC剤を散布するとしている千曲市は、私たちの要請に対し、散布地域・ヘリポートの位置を示す地図、注意事項、医療機関などをホームページで公表しました。
 地図をみると住宅、道路はもちろん、学校や医療施設が周辺にあります。千曲市の林業振興協議会の資料では、2010年の散布の際、市内6個所で、散布前〜散布後4日に実施された大気調査でMEP濃度はすべて0.05μg/m3未満となっていますが、県の検討会で意見聴取された本山さんは2009年の調査で、散布地隣接の道路で3.5μg/m3を検出したと報告しています。横浜国大による86年の福島市信夫山での空散調査では、約3km離れた地点で0.051μg/m3、4kmの地点で0.004μg/m3のMEPが検出されています。
 県は200m以上離れて散布するから問題ないとしていますが、地形や風向、風速、総散布量によっては、地域外への飛散は、東京電力福島第一原発事故による放射能汚染で、ホットスポットが存在することからも十分予測されます。
市が発する「散布後3日程度は散布区域内へ立ち入らない」「散布後1週間は児童生徒には散布区域内で遊ばせない」「散布中にやむなく区域内に立ち入る場合は、帽子・マスクの着用など」との注意事項が遵守されるかどうか監視が必要でしょう。
 国や県の防除基準等を守り、大気調査を実施するという千曲市に対し、万一散布する場合は、山から里へ風が吹く時は中止することと、健康調査の実施を求めました。

★無人ヘリ空中散布実施の方針
【参考サイト】長野県無人ヘリ農作物防除検討部会:無人ヘリ農薬空中散布の今後のあり方

 長野県の検討会議に設置された「無人ヘリ農作物防除検討部会」は、3回の会議開催後、「農作物に対する無人ヘリを利用した農薬空中散布の今後のあり方」案を公表、パブコメ意見募集を行い、5月26日の検討連絡会議で最終方針を公表しました。
 住宅地や公共施設等周辺をはじめとする人の生活圏で実施される無人ヘリコプターによる農薬の空中散布の危険性について、私たちは機関誌「てんとう虫情報」や資料集、ミニノートなどで、ずっと訴えてきましたが、28ページわたるパブコメ意見(総括的意見を含め25件)を作成し、それぞれに、詳細に理由をつけて提出していました。
 これに対する検討会議の見解は全37意見を以下に分類して示されました。個々の意見へ逐一回答するのでなく、たとえば、分類1の14件については、一括した見解が1つ示されただけでした。

 分類1 : 14件 (農薬の空中散布は縮小または中止すべき)
 分類2 : 5件 (因果関係が判明するまで農薬の空中散布は中止すべき)
 分類3 : 3件 (地域住民の理解が得られるよう、体制を整備すべき)
 分類4 : 1件 (空中散布は農業経営や農地保全のため不可欠である)
 分類5 : 14件 (その他 : 部会運営への意見、国への要望等)

 私たちは、県が無人ヘリ農薬散布を不可欠として、議論を展開していることを、一番に批判しましたが、検討会議はあくまで、空中散布は『高品質な農作物を、低コストで効率的に生産する上で今後も必要である』との立場から今後のあり方を提示しました。また、国が登録を認めた農薬を空中散布すること自体を規制できないとした上、人の健康への影響については『小さな子供や化学物質に特異的に反応しやすい体質を持った方々等に発生しているとの見解がある』との認識が示されました。
 県は危被害防止対策として、@使用薬剤の選択、A散布方法の改善。B散布実施主体と地域住民との関係性を挙げています。
 以下に、パブコメ意見を踏まえ、県が具体的に示した方針をみていきましょう。

★薬剤の選択〜有機リン剤使用自粛を要請
【参考サイト】農薬工業会:有機リン系農薬の群馬県による散布自粛要請に対する当会の見解(06/06/02)

『県は、実施主体に対し、無人ヘリを利用して「有機リン剤」を散布することを自粛するよう要請し、他の農薬を選択するよう誘導する。』というのが目玉方針です。
 その前段では『無人ヘリを利用して、農作物の害虫防除を目的に散布されている「有機リン剤」については、一般的に毒性が強いと言われており、農薬取締法の使用基準に基づいて適正に散布しても、散布後に蒸散した有機リン剤が微量ではあるが、長時間にわたって大気中に滞留する場合があることが分かっていることなどから、地域住民の健康への影響があるとする疑いを否定できない。また、「有機リン剤」とほぼ同等の防除効果が得られる他の農薬がある。』とあります。
 長野県が有機リン剤の無人ヘリ空散の自粛方針を明らかにしたのは、06年6月の群馬県に次ぐものです。群馬県の要請後、農薬工業会はただちに『自粛要請は、安全性が確認されて登録が認められている有機リン系農薬に対して、科学的・毒性学的事実を考慮しない極めて遺憾な措置と言わざるを得ません。』とした見解を公表し、知事に抗議しましたが、同会ホームページを見る限り、今回はこのようなアクションはなされていないようです(記事t17803参照)。
 主な農薬成分の種類別全国出荷量の2005年以降の推移を表1に示しましたが、有機リン剤がずっと減り続けているものの、09年でも、他の成分に比べて、7倍以上の出荷量があります。中でもMEP、アセフェート、ダイアジノンはそれぞれ571.0トン、492.1トン、392.8トンと出荷の多さが目立ちます。このような成分別の使用状況をみれば、有機リン剤の無人ヘリ使用自粛は当然ですが、長野県が「他の農薬を選択するよう誘導する。」といっているのは、許せませんし、無人ヘリでは有機リン自粛要請をしておきながら、松枯れ有人ヘリではお咎めなしというのは解せません。
 表1 主な農薬成分の全国出荷量の推移(単位;トン。出典;国立環境研究所データベースより)

年度 有機リン  カーバメート ネオニコチノ ピレスロ   昆虫成長
       36成分     12成分       イド7成分    イド8成分  制御剤5成分
2005   4444.4    484.5      280.2     259.2     133.6
2006   4115.7    551.0     364.3     240.6       142.0
2007   3937.1    537.4     404.2     237.2       138.4
2008   3703.4    498.1     419.9     218.8       144.5
2009   3269.2    465.6     409.0     200.8       125.0
 私たちは、無人ヘリ散布実績が多く、ミツバチ被害や人の健康への影響が懸念されるネオニコチノイド系のジノテフランやクロチアニジン、化審法第一種特定化学物質HCBを含有するフサライド、発がん性のあるエトフェンプロックスやフェリムゾン、抗生物質カスガマイシンの空中散布中止も求めましたが、県の指導方針では、無人ヘリによる人の生活圏での高濃度農薬散布が減少するという方向性はみえません。
 長野県は、この有機リン剤の無人ヘリ空散自粛ほかを含む今後のあり方の決定を、県内出先機関や市町村へ周知するため通知を出し、「長野県無人ヘリコプター利用空中散布等作業指導要領」を一部改正し、指導していく予定としています。
 群馬県では、自粛要請後、無人ヘリ空中散布面積が、表2に示すように、10分の1以下に減少しており、空散自体が減少するという効果を生み出したことがわかります。
 09年における水稲作付面積に対する空散面積の比率は、群馬県の1.3%に比べ、長野県は約15%で、10倍以上を多く、まだまだ、減らす余地はあります。

表2 無人ヘリコプターによる空中散布面積の推移(延べ面積 ha)

       2003年       2004年            2009年
群馬県  2957    2583(水稲作付面積19200ha)  235ha(同18200ha)
長野県  7402    7570(水稲作付面積40900ha) 5184ha(同34600ha)

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作成:2011-10-31