農薬空中散布・松枯れにもどる
t24001#この期におよんでまだ空散とは〜長野県の空散のあり方検討会の中間報告批判
(その5) 長野県の農薬空中散布検討連絡会議は、松枯れ空散最終方針提示できず#11-07
【関連記事】その1、その2、その3、その4、その6、その7、最終回。記事t23901、記事t23904、2011年の農薬空中散布情報
当グループの要望と長野県の回答
7/07 長野県松枯れ農薬空中散布についての意見・質問書
7/26 長野県松枯れ農薬空中散布についての意見その2
【参考サイト】長野県:農薬の空中散布検討連絡会議の頁
第4回農薬の空中散布検討連絡会議(8/11)とあり方案
第4回有人ヘリ松くい虫防除検討部会、第5回、第6回部会
第5回農薬の空中散布検討連絡会議(11/25)
松くい虫防除のための農薬の空中散布の今後のあり方(11/28):概要と本文
長野県は、8月11日に、第4回農薬の空中散布検討連絡会議を開催しました。7月に2度の有人ヘリ松くい虫防除検討部会で、松枯れ空中散布のあり方を検討し、その結果を踏まえて、県の部課長をメンバーとする連絡会議で、最終的な松枯れ空中散布の方針を提示し、記者発表をするというのが当初の目論みでした。しかし、この日の会議で、結論がでませんでした。
議論の過程で、県林務部が主導してきた松枯れ対策案に対して、健康福祉部や水田等での無人ヘリによる有機リン剤散布自粛を打ち出した農政部の委員らから、市町村の取り組みや、空中散布実施の判断等について、より具体的な内容の記載を求める意見がでて、県の最終方針決定は先送りになりました。今後のスケジュール及び、あり方(案)の内容を検討調整中だそうです。
★地元での陳情活動
【参考サイト】こどもの未来と健康を考える会(現こどもの未来と健康を守る会):
記事t22005、記事23302、2011/05/04イベント
ヤマンバの会
6月24日には、上田市の「こどもの未来と健康を考える会」と環境市民団体「ヤマンバの会」とが連名で、知事と検討部会宛てに公開質問状を出しました。さらに「こどもの未来と健康を守る会」(考える会を名称変更)が長野県知事宛てに「農薬の空中散布中止を求める陳情」(今後の農薬空中散布は,有機リン系だけではなく,代替とされるネオニコチノイド系,ピレスロイド系も全面的に中止してください。など4項目)と長野県議会議長宛てに「農薬空中散布のあり方の見直しを求める陳情」(検討部会の資料には疑問点があるため,8月11日の検討連絡会議において予定されている最終結論を延期するよう指導してください。など4項目)を提出しました。県議会でのロビー活動を含めた、地元でのこのようなアクションの結果、7月8日の松枯れ部会では、農薬空中散布による健康被害者4名からの意見聴取がなされました。
当グループも検討部会での論議を踏まえ、7月7日と7月26日に、意見・質問書を長野県の事務局に送り、検討部会と連絡会議のメンバーに配布するよう求め、地元の空中散布反対運動をサポートしました。
中間報告に対するパブリックコメントとそれを踏まえての2回の検討部会を経て、8月11日開催の連絡会議で提示された「松枯れ農薬空中散布のあり方(案)」(以下最終報告案という)を見てみましょう。
★農薬空散の効果の位置づけはそのまま
松枯れの原因と農薬空中散布の位置づけについて、マツノザイセンチュウ-マツノマダラカミキリ説にこだわりつづける長野県は、被害松のマツノザイセンチュウや空中散布前後のマツノマダラカミキリ生息状況のデータの裏づけのないまま、『松枯れは、大気汚染や土壌の酸性化等による影響が原因であるといった説もあるが、それらは、松くい虫による被害を助長させることはありうるものの、集団的かつ継続的に発生している松枯れの主原因とは考えられない』と断じ、さらに、農薬使用については 『一般的には空中散布が唯一行いうる有効な方法となっている 』とした上で、『空中散布と併せて、こうした被害木を伐倒駆除等により適切に処理することが、防除効果を高めるための一般的な方法となっている 』と 結論しました。
また、被害地域からのマツノマダラカミキリの飛び込みを2kmとして、農薬空散のほか樹幹注入、地上散布、伐倒駆除など農薬に頼る松枯れ防止対策の方針は変わらず、樹種変換以外の他の手段(伐倒焼却、トラップによる捕捉、炭などによる土壌改良、天敵利用、抵抗性松の活用等)は、コスト的にも、技術的にも不適としました。
私たちは意見書で『農薬空中散布のみで松枯れ防止ができないことは、県も認めており、いままで、効果ありとするところも、ほとんどは、伐倒処理が併用されている。松の生育には、土壌富栄養化は禁物で、松林の手入れ( 地面に落ちた枝葉や下草の除去など) が必須である。農薬空中散布を実施する理由のひとつとして、手入れや伐倒ができないから、というのがあるが、この二つは相容れない。高温少雨、豪雪等は松の生育にとって、有害であるが、人的には制御できない。人が立ち入れない箇所の松は、枯れた場合は、放置せざるをえず、そもそも、松林を守れないのであり、そういう場所に農薬空中散布しても、松枯れは防止できない。
2010年度に、県は、松枯れ対策に補助金を約6 億円出しているが、内容をみると地上散布、被害木の駆除(総額の39%)、衛生伐(同34%)、樹種転換(同22%)、樹幹注入など松林へはいっての対策経費に約97%が使われており、空中散布補助は残りの1300万円である。
県は、長野市において松枯れ被害が沈静化したのは、伐倒駆除を徹底した効果だとしているが、こうした状況を考えると、空中散布を継続する必要はないのではないか。』としました。
★写真のみで農薬空散効果を示せない
松枯れ空中散布の有効性を示す例として、中間報告で長野県が挙げたのは、茨城県旭村と長崎県の事例でしたが、私たちは、これら事例の問題点を示し、削除を要求しました。その結果、最終方針案では、この2事例が除かれ、新たに長野県千曲市の事例が追加されました。私たちは意見書で、『「千曲市・坂城町の岩井堂山の松くい虫被害状況について」 が示されたが、写真のみで効果ありとするのは、先の茨城県の事例と同じく、非科学的である。被害状況、林地の手入れ状況、伐倒処理、空中散布後の状況などのデータをきちんと示した上で、効果の有無を判断すべきである。
また、岩井堂山の写真事例は、山の稜線の南と北にわけたものであり、日照や風などの気象条件が異なる尾根を挟んだ両側での比較で、空中散布効果の有無を判定するのには、不適切である。』と批判しました。
★なんのために松枯れ防止をするのか
松枯れを防止する目的に関連して、パブコメ意見への県の見解では、『松くい虫の被害量は松林全体の材積に比べたら小さく、マツタケ生産やアカマツ材生産には大きく影響していません。』、また、松の枯損による谷上部の崩壊等で下流に被害が出た事例について、『現時点で松枯れが原因となって崩壊被害が発生した松林はありません。』とし、そのような恐れのある場所を具体的に示してほしいという質問には答えがありませんでした。
しかし、県は、最終方針案でも、松枯れ防止の必要性を強調しています。松枯れ防止の目的に、土砂崩壊防止、マツタケの生産、水源かん養機能、アカマツ材の供給と景観保全を、松枯れによる経済的・防災的損失を具体的に示さないで、あげているのは、納得できません。松保全の目的が、地域ごとに違うため、地元の状況に則した対応が必要なことは、いうまでもなく、それぞれの地区での松保全の必要性を明示されて然るべきです。
★健康への影響評価は否定できず
5月に開催された検討部会での専門家による意見聴取で、本山直樹さんが空中散布による一般への健康への影響はなく、化学物質過敏症については心因説を主張、黒田洋一郎さんは有機リンやネオニコチノイドの脳神経系への影響の危険性を訴え、予防原則で対処すべきだとしました。フェニトロチオン気中濃度について、私たちは、ADI評価に基づき、子供への安全係数を大人より厳しくすべきだと再三主張しましたが、県は、環境省の10μg/m3の評価値を変えることはなく、国会答弁を盾に、有人ヘリ空散地域から200mを超えていれば、一般の人は影響を受けないとしました。
しかし、一方で、県は、佐久総合病院が実施した上田市での健康影響調査や化学物質過敏症患者の声を否定することはできず、本山さんの化学物質過敏症心因説は採用されませんでした。また、脳神経系への影響については、環境省のエコチル調査が実施中であることを理由に判断を避けました。
県の最終方針案では、健康への影響に関する現状認識の項で、一般人と化学物質過敏症など感受性の高いひとにわけ、前者については、『一定の安全性が確保されて実施されていると考えられる。』との表記がみられましたが、出雲市での空散健康被害からもわかるように、200m以上離れておれば、一般人の安全性が確保されているとは思えません。そもそも、環境省の健康影響評価では、一過性の眼の異常などは、被害とみなされません。また、健康異常を訴える人がすべて、化学物質過敏症との前提にたった議論はあまりに非科学的です。
★安全確保のための周知内容は追加されたが
散布農薬に毒性があること、健康への影響が否定できない以上、県の主張は適正に散布すればよいということに絞られ、そのための対策として、重点が置かれたのは、農薬空散時の安全確保の対策です。いままでのような、地域住民への散布周知だけでは、十分でなかったいうことで、リスクコミュニケーションの強化を謳い、周知内容も具体的に挙げられています。
周知すべき注意事項として、以下の8項目が挙げられました。
@ ヘリポートには近づかない。
A 散布当日は、散布区域内に近づいたり立ち入ったりしない。また、散布後1週間
程度は、散布区域に立ち入らないようにする。散布時間中に通学等をする場合には、
帽子、マスク等を着用する。
B 散布後1週間程度は、散布区域内及びその周辺で山菜等を採取しない。
C 散布地域内及びその周辺で、すぐに食用にする野菜、井戸等は覆いをかけるとと
もに、農薬が付着する可能性のある農作物や牧草等は、散布後1週間は使用しない。
D 散布区域周辺では、散布時間内は、洗濯物等は取り込み、家屋等の窓を閉め、
家畜等は屋内にいれるか覆いをする。また、極力屋内から出ないようにする。
E 屋外の自動車等は覆いをし、農薬が付着した場合には、水洗いする。
F ミツバチ等は、1週間程度は疎開させる。
G 万が一、頭痛、めまい、吐き気など、体調に異常があった場合は、予め指定され
た医療機関を速やかに受診する。
しかし、Aにある『散布時間中に通学等をする場合には、帽子、マスク等を着用する。』との記述に対して、私たちは、通学時間帯の散布は禁止すべきであるとの意見を述べましたが、文案は変更されませんでした。
これらが、県の防除実施基準の改訂に、どのようにとりこまれるか、単なる努力規定で終わるのか、散布条件として義務規定になるのかは、今後の問題です。
もうひとつ見逃せないのは、空散に使用されている有機リン剤の毒性や環境汚染についてはある程度判明し、長野県では、水田等での同剤の無人ヘリ空散自粛が指導されることになりましたが、その代替として、ネオニコチノイド系やピレスロイド系殺虫剤の使用が拡大される恐れがあります。松枯れ空中散布も例外でなく、全国的には、有機リン系のスミパインMCにかわって、チアクロプリド系のエコワン3フロアブルの散布面積が増大しています。フィールドでの松枯れ防止効果も環境汚染状況も気中濃度の毒性評価も不明なこの剤の使用拡大に対して歯止めが必要です。
★リスクコミュニケーション強化は提起されたが
最終方針案で、県は、以下の6項目の基本的考え方を示しました。
@実施主体である市町村が、地域住民等と情報や意見を双方向で交換することにより、
リスクコミュニケーションの強化・充実を図る。
A 実施主体である市町村は、地域の状況を十分に把握して、住民等の健康への影響
の可能性等について把握し、空中散布の実施の可否について、的確な判断を行う。
Bこの場合、化学物質への感受性が高い体質の人などの健康への影響の可能性に、特
に配慮が必要な場合で、かつ予防措置をとることが困難な場合には、空中散布を実
施しない判断も必要である。
C空中散布を実施する判断をした場合にあっても、より安全性の高い防除方法等を
選択するなど、住民等の健康への影響の可能性をできる限り低減する。
Dなお、空中散布の実施にあたっては、実施主体である市町村は、住民等への対応
体制等を構築し、きめ細かな対応を実施する。
E県は、実施主体である市町村において、これら必要な事項が実施されるよう、長野
県防除実施基準を改定するとともに、補助金交付等に際しての指導等を強化する。
有人ヘリ空散では200m以上、無人ヘリ空散では30m以上離れておれば、一般人の健康に影響はないというわけですから、この範囲に住宅地等がなければ、風速3m/秒(地上1.5m高で、ヘリの高度ではない)を超えない場合は、空中散布ができるというのが、県の主張です。私たちは、厳しい風向規制を求めましたが、最終方針案では、『集落方向等への風向きが卓越している場合には、特に飛散防止に配慮するとともに、−中略−必要な場合は、空中散布を実施しないこととする』との一項が追加されただけでした。
風速1m/秒でも5分で300m飛散することの危険性を住民が問うても、あなたは化学物質過敏症ですか、そうでなければ、安全で、健康被害がでることはありません。それより、空中散布をしなければ、松枯れが進行してしまいます。どうか、空中散布にご協力してください。ということで、実施主体の市町村が住民を説得するのが県のいうリスクコミュニケーションの充実・強化です。
化学物質過敏症患者に対して、Bにある『予防措置をとることが困難な場合には、空中散布を実施しない判断も必要である。』とは、どういうことでしょう。散布中・散布日は外気が入らないよう窓を密閉し、外にでないようにしてくださいということでしょうか。それとも、感受性の高いひとが居住している場合、市町村が予防措置として避難場所をさがし、そこへの移動・滞在経費を払わなければ、空散を実施してはならないということでしょうか。それにしても、『実施しないこととする』でなく、『実施しない判断も必要である』とは、なんという、官僚臭い言い草でしょう。
空中散布実施の判断は全て、実施主体に市町村に託されるわけで、担当部署はどのようにするか、戸惑うことは必定です。
県が、補助金交付等に際しての指導等を強化し、散布実施の責任は、市町村がとるという最終方針案が、メンバーから批判され、結論延期となったのでしょう。
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作成:2011-12-27