空中散布・松枯れにもどる
t24304#津波被災県の農地に無人ヘリコプターによる除草剤空中散布が・・・#11-11
【関連記事】東日本大震災情報の頁 記事t24605
【参考サイト】Meiji Seika ファルマ:ザクサ液剤と東日本大震災により津波被害を受けた農地専用製剤
三井化学アグロ:草枯らしMICと東日本大震災により津波被害を受けた農地専用製剤
日産化学:ラウンドアップマックスロードと東日本大震災により津波被害を受けた農地専用製剤
2012/03/21登録 シンジェンタ ジャパン株式会社:タッチダウンiQと
東日本大震災により津波被害を受けた農地専用タッチダウンiQ(グリホサートカリウム塩液剤)
東日本大震災による被災地においては、放射線汚染はもちろん、化学物質汚染による二次災害が懸念されたため、私たちは、ダイオキシン等の発生につながる震災廃材の野焼き、衛生害虫駆除のための安易な殺虫剤散布の中止を求めてきましたが、今度は、除草剤の無人ヘリコプター空中散布問題が浮上しました。
★グリホサート&グルホシネート系除草剤に無人ヘリ散布の登録を認める
10月11日の農薬登録情報をみたところ、以下の3種の除草剤が登録されていました。
商品名には、いずれも、頭に『東日本大震災により津波被害を受けた農地専用』(下表中*の部分)がついています。
登録 農薬の種類 活性成分 商品名 登録申請社名
番号 濃度%
22973 グルホシネートPナトリウム塩液剤 11.5 *ザクサ液剤 凱eiji Seika ファルマ
22974 グリホサートイソプロピルアミン塩液剤41 *草枯らしMIC 且O井化学アグロ
22975 グリホサートカリウム塩液剤 48 *ラウンドアップマックスロード 鞄産化学
これら3製剤は、水田畦畔・休耕田や小麦・豆類・野菜などの畑の定植前や畦間、果樹・樹木、造林地地ごしらえ、公園や住宅、道路などに地上散布用の非選択性除草剤として、すでに登録されている農薬「ザクサ液剤」(H23.3.15登録)、「草枯らしMIC」 (H21.9.2登録)、「ラウンドアップマックスロード」(H18.9.6登録)と活性成分およびその含有量は同じで、東日本大震災被災地の水田作物や畑作物(休耕田)に適用され、使用方法は、それまでになかった無人ヘリコプター空中散布に限定したものです。
農林水産消費安全技術センターの農薬登録情報提供システムで調べると 『適用場所:青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、千葉県内の東日本大震災により津波被害を受けた農地及びその農地に隣接する道路、のり面、堤とう等 /適用雑草名:一年生及び多年生雑草/使用時期:雑草生育期/使用方法:無人ヘリコプターによる雑草茎葉散布』となっています。
しかし、自然に放置しておいても、間もなく草が枯れる時期に、あえて新規登録して、どんなメリットがあるのかという疑問を感ぜざるを得ません。
★空散適用で新たに、どんな試験成績が提出されたか
新たに無人ヘリ空散用に登録するに際して、どのような試験がなされたのでしょうか。通常ならば、農薬の使用方法の有効性を示す試験や作物残留試験などが必要と思いますが、植物を枯らすのが目的の除草剤に要求される試験が何かよくわかりません。そこで、農水省とメーカーに登録について聞いたところ、次のことが分かりました。
・被災地域から瓦礫処理のため、草の除去が必要で、人が入ると危険なので、空散で除草剤を使えるようにしてほしいとの要望があった。
・農水省から無人ヘリ散布にするなら新規登録申請するよう指導を受けた。
・農薬製剤は、活性成分も補助成分もいままでの地上散布用製剤と同じである(ただし、補助成分がなにかは秘密だそうです)。
従って、毒性試験などは新たに提出する必要はなく、無人ヘリコプターを用いた薬効試験を2例提出しただけで、申請後、短期間で登録されたようですが、どのような条件で散布試験が行われたかは不明です。
★農水省から通知もでているが
水田での無人ヘリコプター散布に適用のある除草剤は30製剤を超えますが、本田に雑草を生育させないためのもので、複合フロアブルの原液滴下か、複合粒剤の散布がほとんどです。非選択性除草剤は畦には適用されますが、イネが枯れては困る本田への散布は地上散布用でもみられません。まして、非対象作物への飛散を無視できない無人ヘリ空散は例外的使用だということになります。
同日付けで、農水省消費安全局農産安全管理課長と植物防疫課長名で発出された東北農政局および関東農政局消費・安全部長宛ての通知「東日本大震災により津波被害を受けた農地における無人ヘリコプターによる除草剤散布の指導について」(23消安第3609号)では以下のようになっています。
東日本大震災により津波被害を受けた地域では、瓦礫等により管理できない農地に多様
な雑草が繁茂しているため、農地の管理がさらに困難となっている。
農地の復旧のためには、まずは除草が必要であるが、瓦礫等が点在していること等で除
草剤の地上散布ができず、空中散布に頼らざるを得ない農地もあるため、非選択性除草
剤の無人ヘリコプターによる散布が必要とされている。
このような状況に対応するため、下記の1の農薬(以下「本剤」という。)について、
@使用可能な場所を、青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県及び千葉県内で東日本
大震災により津波被害を受けた農地及びその農地に隣接する道路、のり面、堤とう等
に限ること、A使用方法を、無人ヘリコプターによる雑草茎葉散布に限ることを条件
として、本日付けで農林水産大臣による登録がされたところである。
ついては、以上の経緯を十分踏まえ、本剤は、地上散布による除草ができず、空中散
布に頼らざるを得ない農地においてのみ使用するよう徹底するとともに、その使用の際
には、飛散による周辺農作物等への影響を防ぐため、下記の2に掲げる事項に十分に留
意した上で、「無人ヘリコプター利用技術指導指針」等に基づく安全対策を遵守し、安
全かつ適正に実施されるよう、青森県、岩手県、宮城県及び福島県、茨城県及び千葉県
に対し指導をお願いする。また、青森県、岩手県、宮城県及び福島県、茨城県及び千葉
県以外の貴局管内都県に対しても、情報提供をお願いする。
このあとに、前記3剤が挙げられ、さらに、実施主体への留意事項として、以下の6項が記載されています。
(1)本剤ラベルの記載事項を遵守して使用すること。特に本剤の散布には専用ノズル
を使用し、また、無人ヘリコプターの散布装置は、本剤専用とし、他薬剤散布には
使用しないこと。
(2)市町村等と連携し、本剤散布の必要性、飛散防止対策等について、地権者及び周
辺住民に事前に 説明し、可能な限り同意を得た後に散布の実施計画を策定するこ
と。さらに、散布の実施に際し、事前周知を図った上で実施すること。
(3)飛散防止対策を強化すること。技術的対策については、専門機関の助言を受ける
こと。
(4)無人ヘリコプターの操作要員は、十分な操作技術を有し、本剤の散布に関する技
術を修得している者とすること。
(5)無人ヘリコプターの操作要員及び作業を補助する者は、本剤の特性を十分理解し
ている者とすること。
(6)次表の基準により散布すること−表省略−
要するに、3製剤以外、おなじ組成であっても、地上散布用に登録された製剤を空中散布には使えないわけです。
でも、津波被災が農地でない非植栽地の場合は、殺草薬剤使用については、いまでも、法規制がなく(農薬取締法は、農地で使用される農薬のみを対象としている)、市販されているどんな除草剤を地上散布しようが、無人ヘリ空散しようが、おかまいなしという現状を忘れてなりません。
散布に使用する無人ヘリの機種は農薬積載量25kg以下の小型で、飛行速度10〜20km/hrで希釈液を散布することになりますが、この時、専用散布装置、専用ノズルを使い、しかも他に転用してはいけないというのは、万一、除草剤が残っていて、他の農作物に薬害を与える危険があることを想定してのことでしょう。
瓦礫が取り残されたままの津波被災農地で、草が生え放題となり、地上での機械による除草もできない個所がどの程度あるのかわかりませんが、そこに、無人ヘリコプターで茎葉散布しても、立ち枯れ草が残るだけで、見かけ上緑が茶色になるにすぎません。多年草の場合、葉から入って根を殺すことになって、来春から、海水をかぶった田畑で、作付けができるのでしょうか。
★地上散布の25-50倍濃度での空散
グルホシネート系も、グリホサート系も無人ヘリコプター空中散布による単位面積当たりの成分散布量は地上散布と同じ範囲にありますが、空散では、地上散布より散布高度が高い地上3〜4m、時間当たりの散布面積も広いので、希釈濃度=散布液の成分濃度は大きくなります。
地上散布用のラウンドアップマックスロードの場合、希釈倍率は、一般には100倍、しつこい多年草には50倍となっています。無人ヘリ空散では、2倍希釈ですから、散布液は、地上散布の25〜50倍の高濃度であることがわかります。
環境省の農薬飛散リスク評価手法等確立調査検討会が実施したグリホサート系ラウンドアップハイロードのモニタリング調査では、散布区域外5mにも飛散がみられ、大気中では、散布当日の区域内でグリホサートが検出、 土壌中や葉中では30日後もみいだされています(記事t21301)。
地上散布の場合、環境省の「公園・街路樹等病害虫・雑草管理マニュアル」では、立入制限範囲は散布区域からの距離1mで、農薬が乾くまでとなっていますが、グリホサート系の2種の無人へり空散用除草剤では、注意事項として『道路、のり面、堤とう等で使用する場合は、散布中及び散布後(少なくとも散布当日)に小児や散布に関係のない者が散布区域に立ち入らないよう立て札を立てるなど配慮し、人畜等に被害を及ぼさないよう注意を払うこと 』とされています。
★グリホサート飛散による農作物の被害
水系汚染では、2003年の環境省調査で、河川水25検体中16に最大2、平均0.21各μg/L検出されたとの報告があります。
また、いずれも、地上散布の場合ですが、04年には、福島県内のJR東日本磐越東線や水群線での鉄道除草剤散布(グリホサート系ほか)で、周辺の農作物に被害がでましたし(記事t15604参照)、07年には、青森県つがる市での道路除草剤散布(ラウンドアップマックスロードなど)で、道路沿いの農作物が枯れました(道路から50m以内の被害が約88%、110mのところでも被害あり。記事t19204参照)
。
★両除草剤のさまざまな毒性
グルホシネートは、ラットの毒性試験で皮下注射された親から生まれた仔が易興奮性を示したとの報告がなされており、この剤は神経伝達物質のひとつグルタミン酸に関連することから、脳・神経系への影響が懸念されています。
カナダでは、グルホシネート耐性遺伝子組換え作物(リバティーリンクとして知られる種子)の摂取によると思われるグルホシネートやその代謝物が女性の血液中に検出されています。
グリホサートは、メーカーは否定していますが、アレルギーや発がん性の懸念があり、ドイツでは、先天異常が問題となっています。また、製剤に添加されている界面活性剤の急性毒性がグリホサートよりも高いことやグリホサートが人に有害なカビ毒をつくる真菌フサリウムを増殖するとの報告も注視する必要があります。
南米コロンビアでは、麻薬原料となるコカを枯らすため、アメリカが実施したグリホサート空中散布による住民の健康や生態系への影響が問題となり、アルゼンチンなどでも、大規模な遺伝子組換え作物の栽培とグリホサート使用に反対する運動が起こっています。
★遺伝子組換え除草剤耐性作物栽培の布石にするな
グリホサートを開発したアメリカのモンサント社は、遺伝子組換え作物として、グリホサート耐性をもつランドアップレディー大豆、綿花、とうもろこしなどを販売し、除草剤とセットで、世界中に進出しています。グリホサート系除草剤を使い続けた結果、同剤で枯れない草類も出現しています。
日本では遺伝子組換え作物の商用作付けはできませんが、04年に北海道で試験栽培された事例があります(記事t15805参照)。
もし、除草剤耐性遺伝子組換え種子の栽培が認められると、大豆畑などでは、無人ヘリコプター空中散布が実施されることは、必定です。今回の登録をその布石としてはなりません。
本剤のような無人ヘリコプター散布は、私たちが要望しているように、無人ヘリコプターの使用計画届けを出していれば、どこに、どれだけ、実施要求があるか、散布が不可欠なものかどうかもわかります。
ともあれ、津波被災農地の瓦礫処理を早急に行うことが第一で、それが終了すれば、災害地に限定した農薬は不要になりますから、登録農薬を早期に失効させることが大事です。
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作成:2012-03-26