農薬空中散布・松枯れにもどる

t24402#この期におよんでまだ空散とは〜長野県の空散のあり方検討会の中間報告批判(最終回)松枯れ対策、空散をしないこともありうるとの結論#11-12

【関連記事】その1その2その3その4その5その6その72011年の農薬空中散布情報
【参考サイト】長野県:農薬の空中散布検討連絡会議の頁
            第四回(8月11日)と第五回(11月25日)
            今後のあり方:概要本文(2011年11月公表)

11月25日、長野県は「農薬の空中散布検討連絡会議」を開催し、「「松くい虫防除のための農薬の空中散布の今後のあり方」を決定しました。当初、8月に方針を公表する予定でしたが、地元住民団体の結論延期の要望と会議メンバーからのクレームで実現せず、9月に、県内12市町村への意見聴取が実施されました。その結果を踏まえ、『健康被害を防止できないところでは、空散中止もありうる』との方針が出され、実施の判断は、市町村に任されました。
 この間、私たちは、10月に 長野県および12市町村にいくつかの質問をしていますので、その結果を紹介しながら、県の方針の問題点を示し、この連載をひとまず、終わりたいと思います。

    長野県への問い合わせ(10月3日)、長野県および12市町村への問い合わせ(10月14日)

★空散は代替できない有効予防策と
 松枯れ原因をマツノザイセンチュウ-マツノマダラカミキリ説に固執した長野県は、農薬空散について、出雲市再検討会議の吉田副会長(元森林総合研究所九州支所長)の<空散のみで防止した個所はひとつもない>(本誌242号)という見解を『個々の研究者等の見解に対しまして、県として評価をさせていただくことは困難です。』と一顧だにせず、長期的被害予測が必要にも拘らず、『市町村の地区ごとの被害率については、算定又は把握等を行っておりません。』と臆面もなく答えた上、空散地区の枯損放置松や下層松の状況や自然マツの再生について、県は把握していないとしました。これで、空散は『他の方法に代替えすることができない有効な予防策である。』とよく言えるものです。

★過敏な人の健康被害は否定できないと
 有機リン剤が健康に影響することは認めているものの、大気汚染は、環境省の定めたMEPの評価値(10μg/m3)を大きく下回る濃度で、一般の住民への健康への影響が生じないように実施されているとの県の見解は変わりませんが、 化学物質過敏症等感受性の高い人の健康への『影響の可能性を否定することはできない』との文言が方針に追加されました。これは、出雲市での眼の痛みなどの事例の原因調査委員会と同じ言い回しですが、同市の場合、必ずしも、過敏症のひとだけが、被害を受けたわけではないことを忘れてもらっては困ります。

★実施の可否は市町村にお任せ
 健康被害防止のためには、地域住民へのリスクコミュニケーションが重要とし、
  ア 影響を受けうる人が確認された場合には、これまでの実施状況等を踏まえ、空中
   散布がそれらの者に対して影響を及ぼす可能性や、以下の(5)を踏まえた影響しう
   る曝露の低減や回避の対応策などの実施の可能性とその有効性などを総合的に評価
   することとする。 
  イ その結果、影響しうる曝露を低減又は回避する必要があると認められるものの、
   影響しうる曝露の低減や回避のための対応方策の実施が極めて困難であり、医療機
   関受診や入院などが必要となるような明確な健康への影響の発生が想定されるなど
   の場合には、地区防除対策協議会に諮った上で、農薬の空中散布を実施しないこと
   とする。 
  ウ 重要な松林を守るため、他に代替えできる予防方策がなく、必要最小限の空中散
   布の実施が必要不可欠と判断される場合であって、上記以外で、散布区域周辺に影
   響を受けうる人がいないとき、影響を受ける人がいるものの、影響しうる曝露がな
   いと認められるとき、あるいは影響しうる曝露の低減又は回避が必要と認められ、
   それを行うことで影響を受けうる人への影響の発生を予防できると判断されるとき
   は、地区防除対策協議会に諮った上で、できる限り安全性に配慮した方法により、
   空中散布を実施できるものとする。 
 との方針が示されました。実施の可否判断を任された市町村はこの文書をどう読み解くのでしょうか。

★市町村は、県の指示待ち
 私たちは、県が意見を聴取した12市町村にも、先の吉田見解を示し、その考えを尋ねてみました。豊丘村からは回答できないとの返事があり、安曇野市は回答がありません。以下に駒ヶ根市、筑北村、生坂村、大町市、麻績村、千曲市、飯田市、松本市、坂城町、上田市の回答からその要点をまとめます。
【被害状況と被害率】松枯れ被害率は、空散を実施しても、今後、どの程度の年月にわたり抑止できるかを推定するのに、重要なデータ情報ですが、飯田市と上田市を除く、市町村は地区ごとの被害率を把握していなかったり、示せませんでした。いままで、いかにいい加減に空散が実施されてきたかの証拠です。
【守るべき松林について】駒ヶ根市以外は、守るべき松林を設定しており、守る目的につ
  いては、以下のように答えています。
 (a)水源涵養のため:坂城/上田  (b)土壌流出や土砂災害防止のため:生坂/ 松本/筑北/麻績/坂城/上田/大町  (c)景観保全のため:生坂/筑北/麻績/坂城/飯田  (d)マツタケ採取のため :生坂/ 松本/筑北/麻績  (e)松材利用のため:なし 【松枯れ防止対策】「守るべき松林」での対策(駒ヶ根市は指定のない地区での対策)をま   とめると次のようです。  有人ヘリ空中散布はスミパインMCで、  飯田市は天竜川沿いの枯れ松をスポット的にノズル散布しています。無人ヘリおよび地  上散布は、マツグリーン(アセタミプリド)です。  くん蒸剤を用いる伐倒駆除は、全ての市町村で実施されていますが、樹幹注入は3市の  みです。  農薬を使用しないアカゲラ、木炭、抵抗性松による対策は、空中散布をやめた上田市な  どで見られます。  (a)有人ヘリコプター農薬空中散布:生坂/筑北/麻績/駒ヶ根/千曲/大町/飯田(スポット   散布)  (b)無人ヘリコプター農薬空中散布: 駒ヶ根  (c)地上農薬散布:松本/筑北/上田/千曲/飯田  (d)伐倒除去又は伐倒焼却:駒ヶ根/飯田  (e)伐倒薬剤駆除:生坂/松本/筑北/麻績/坂城/駒ヶ根/上田/千曲/大町/飯田  (f)樹幹注入:駒ヶ根/上田/飯田  (g)樹種変換:松本/駒ヶ根/上田/飯田  (h)トラップ剤の使用:なし  (i)天敵の利用(アカゲラ巣箱):生坂/上田  (j)木炭による土壌改良処理:上田(試験的)  (k)抵抗性松の利用:上田 【立ち枯れ放置松について】枯れた松を放置しておくことは、松枯れの拡大につながる恐   れがありますが、多くの市町村が松林から撤去できない枯れ松の存在を認めています。  松本市:氷害・雪害被害木は駆除対象としない。   麻績村:地形が急峻等の理由により、やむなくそのままになっている箇所が一部にある。  坂城町:予算的な制限もあり全てを駆除するのは困難。駆除しきれず結果的に立ち枯れ      となってしまうものもある。  上田市:被害木の全てを伐倒駆除することは難しい状況 結果的に立ち枯れとなる。 【松林がなくなったら】農薬空散しかできない場所では、松林の延命はできても、回復は   不可能といわれています。松林がなくなったあとの水源涵養・災害防止対策を聞きま   した。  生坂村:延命処置すれば新しい木も生えて、天然更新されていく可能性があるので回復     できないわけではないと考える。  松本市:天然更新により、水源涵養機能や災害防止は図れる  筑北村:その後のことは検討していない。  麻績村:現状の対策で必要充分と現時点では考える。  坂城町:樹種転換も含め森林の機能保全のため適切な対策を講じるとともに、県とも      協議し治山事業の実施。  上田市:松林の消滅は深刻な事態を招く。被害拡大防止、樹種転換など。  大町市:次世代アカマツや広葉樹等への自然な転換を期待している。  千曲市: 仮定のお話であり回答できない。
 いずれにせよ、空中散布実施について 市町村は、地元の意見を聞き、県の提示した方針に従うとしていますので、今後、改訂予定の県防除実施基準がどのような指示が書き込まれるか注目されます。

★坂城町は住民集会で空中散布実施要望
ところで、坂城町上平地域マツクイ虫被害対策協議会は、11月27日に決起集会を開き、被害が急拡大しており住民の生活に重大な危機が迫るとして、空散復活を求める町長宛の要望を決議しました。町長は、12月の町議会で、空散を含めた総合対策を講ずるとしています。
これは、長野県が「今後のあり方」の中で、坂城町と千曲市の境にある岩井堂山の写真を示し、空散効果があるとの事例に挙げたことに呼応した動きと思われます。
09年以後、上田市では、健康被害発生に伴う住民からの要望により、空散が中止されたことにならい、隣接する坂城町も空散を止めていたのに、再開を求める声がでてきたのは、出雲市と同じ状況です。

★地元の運動が空散中止につながる
 松枯れの原因のひとつであるマツノザイセンチュウを媒介するマツノマダラカミキリを殺すために、見境なく虫を殺し、生態系や人の健康に悪影響を及ぼす農薬を空中散布しても、カミキリを根絶できないという実態をみれば、農薬空散が『松の金喰い無視』につながることと思うのですが。
 坂城町では、現在、伐倒駆除(被害松を伐倒し薬剤でくん蒸)しているものの、『松林が急傾斜地のため伐倒駆除が実施できない状況もあります。放置されている場所は各所に点在している』とのことです。このような地区で空中散布しても、松枯れが根絶できないことは、自明です。
 上田市や千曲市を中心とした住民団体(子ども達の明るい未来を守る会、子どもの未来と健康を守る会、ヤマンバの会)は、「有人ヘリ松枯れ農薬空中散布効果問題」を現場にて学ぶとして、12月11日に岩井堂山の現地調査と検討会を実施しました。県内で一番散布面積の広い千曲市の松林は、人の生活圏にも近く、散布中止につながればいいと思います。
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作成:2012-03-26