街の農薬汚染にもどる   住宅地通知:改善されない/健康被害を受けたなどの事例募集中(3月15日まで)
t24607#住宅地通知の強化をめざして〜農取法使用基準違反には、懲役3年以下、罰金100万以下の罰則もある#12-02
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      電子版資料集:No.5「住宅地等における農薬使用について」の新通知
                No.7農薬類の使用規制をめざす法律案
【参考サイト】農水省:農薬取締法農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令
           通知「住宅地等における農薬使用について」
           無登録農薬問題についての頁
 2003年に農薬取締法が改定された後、私たちの要望の結果、人畜への被害防止や生活環境の保全を図るため、まず、2003年9月に通知「住宅地等における農薬使用について」が農林水産省消費・安全局長名で、その後、07年1月には同局長と環境省水・大気環境局長の連名で、改訂版が出されました。さらに、08年5月、環境省は公園や街路樹の管理マニュアル暫定版も公表しました(10年5月確定版となる)。
 この通知やマニュアルで、学校、公園、街路樹、公共施設、近隣農地など身近な場所での農薬散布は減少すると期待されました。しかし、自治体が散布するものはある程度減少しましたが、まだ十分ではなく、今日でさえ、そうした通知があることを知らない自治体が多くあります。
 また、通知を矮小化して、農薬散布の日時を知らせさえすればいいとの解釈で、農薬を減らそうとする努力がなされない場合がほとんどです。
 通知があっても、農薬散布が減らない理由のひとつに、通知に罰則がないことがよく言われます。身近な場所での農薬散布をなくすためにどのような罰則が必要か、いろいろ考えていきたいと思います。今回は、現行農薬取締法の罰則とその不十分さについて報告します。

★2003年農薬取締法改定の経緯
 2002年夏、重大な農薬取締法違反事件が発覚しました。全国40以上の都道府県で、PCNBやダイホルタン、シヘキサチンなど無登録農薬が輸入され、使用されていたのです。果樹や野菜など消費者が日常的に食べる農作物に大量につかわれていました。リンゴや梨、ラフランスなどが大量に廃棄される映像が何度も映されました(記事t13204)。旧農薬取締法では、販売業者についての罰則はありましたが、違反業者の多くは短期間の営業停止処分を受けただけで、罰則が適用されたのはごくわずかでした。
 この事件をきっかけに、農薬取締法の改定が進められ、それまでなかった農薬使用者の規制が盛り込まれることになりました。私たちは、生活環境での農薬使用も規制するよう何度も申し入れたり、03年4月に農水省・環境省との交渉集会を開いたりしましたが(記事t14001)、残念ながら法律には盛り込まれませんでした。代わりに、同年9月にだされたのが、通知「住宅地等における農薬使用について」です。

★現行農取法における使用者への規制
 改定農薬取締法では、農薬使用に対して、第十一条(使用の禁止)で無登録農薬の使用が禁止され、第十二条(農薬の使用の規制)で、農水大臣と環境大臣は、農薬を使用する者が遵守すべき基準を定めなければならないことになりました。
 第十二条第一項は、農林水産大臣及び環境大臣は、登録を受けている農薬その他の省令で定める農薬について、その種類毎に農薬を使用する者が遵守すべき基準を決めなければならないというものです。第三項では、農薬使用者はこの基準に違反して農薬を使用してはならないとあります。
 さらに第十二条の二(水質汚濁性農薬の使用の規制)第二項では、都道府県知事の許可を受けない水質汚濁性農薬の使用が規制されていますし(現在登録のある農薬は除草剤シマジン=CATのみ)、第十二条の三(農薬の使用の指導)では、病害虫防除員又はこれらに準ずるものとして都道府県知事が指定する者の指導を受けるようとの努力規定があります。  ほかに、第十三条(報告及び検査)第一項若しくは第三項、と第十三条の二(センターによる検査) 第一項 で、農薬使用者は、国などへの報告や検査を拒んではならないとされています。
また、忘れてならないのは、旧農薬取締法第十一条で、防除業者に義務づけれられていた事後届出制度が廃止され、改定法では、届けない業者への罰則の適用がなくなったことです。

★使用者が遵守すべき基準
 これに基づいて2003年3月7日付けで、「農薬を使用する者が遵守すべき基準」が農林水産省・環境省令第五号として定められました。(以下、使用基準という)
 まず第一条に、農薬使用者の責務として、6項目があげられています。@農作物等に害を及ぼさないこと、A人畜に危険を及ぼさないようにすること、B農作物の汚染が原因となって人畜に被害を及ぼさないようにすること、C農地等の土壌汚染により汚染される農作物らの利用が原因となって人畜に被害が生じないようにすること、D水産動植物の著しい被害が発生しないようにすること、E公共用水の水質が汚濁し、その利用が原因となって人畜に被害が生じないようにすること。です。
 人畜への被害よりも農作物への被害の防止の方が優先されているような書き方ですし、環境汚染に関しては、汚染だけでは問題はなく、被害が生じないと問題ないような書き方です。責務ですから、罰則はありません。
 そもそも、農薬取締法には、農薬散布によって人が健康被害を受けても、使用者を罰する条文がありません。因果関係が明確なクロルピクリンによる被害でも、加害者に適用されるのは、刑法の業務上過失傷害罪ぐらいでしょうか。多くの場合、被害者が、被害届をだし、刑事告発しないと警察は動きませんし、警察が関与すると、農政部署は、捜査中ということで、農薬被害の経緯も発表しないというのが現状です。

★計画書提出の義務
 使用基準については、遵守事項=義務規定と、努力規定があり、以下に、愛媛県が農取法Q&A(p-5)で整理されたものを示します。
 1 義務規定(違反は罰則の対象)
  (1)農薬使用者は、食用及び飼料用の農作物等に農薬を使用するときは、適用作物・
   使用量・希釈倍数の最低限度・使用時期・総使用回数を守らなければならない。
  (2)くん蒸*、航空機(有人ヘリコプターをいい、無人ヘリは対象外)を用いて農薬を使
   用する場合又はゴルフ場において農薬を使用する場合は、毎年度、農林水産大臣に
   使用計画書を提出しなければならない。
 2 努力規定(違反しても罰則は科せられない)
  (1)最終有効年月を越えて農薬を使用しない。
  (2)航空機を利用して農薬を使用する者は、対照区域において風速及び風向を観測し、
   対象区域外への農薬の飛散を防止するための必要な措置を講ずるように努める。
  (3)住宅地及び住宅地に近接する地域において農薬を使用する者は、農薬が飛散する
   ことを防止するための必要な措置を講ずるよう努める。
  (4)止水を要する農薬を水田で使用する者は、当該農薬の流出を防止する必要な止水
   措置を講ずるよう努める(対象農薬として67農薬が挙げられている)。
  (5)被覆を要する農薬を使用する者は、農薬を使用した土壌から当該農薬が揮散する
   ことを防止するための必要な措置を講ずるよう努める(クロルピクリンと臭化メチ
   ルが対象となる)。
  (6)農薬を使用者は、以下の事項を帳簿に記載することに努める。
  (農薬を使用した年月日、場所、農作物等及び使用した農薬の種類又は名称、単位面
   積当たりの使用量又は希釈倍数)
★住宅地等の農薬使用にも罰則を
 住宅地等の農薬使用については、使用基準の第六条で上記努力規定2-(3)となっていて、遵守すべき義務がないため、この条項に基づいて定められた通知「住宅地等における農薬使用について」には、罰則がかからないことになっています。
 使用基準第一条の、農薬使用者の責務では、「人畜に被害を及ぼさないようにすること」とありますが、住宅地周辺で農薬を使用して、周辺の住民に被害を与えても、これを罰することが出来ないわけです。
 農薬使用の計画を提出しないだけでも、懲役3年以下、百万円以下の罰金という厳しい罰則があるにもかかわらず、住宅地周辺の農薬散布では、実際に住民に健康被害を与えても、農薬取締法で何の罰則もないというのは、理不尽と言えます。自治体や防除業者や個人の農薬使用者は通知「住宅地等における農薬使用について」を知らされても、「単なる通知だから」と散布をやめようとしません。罰則があれば、警察などの捜査対象になるわけですから、いっそうの抑止力を持ちます。

 注*:使用基準の第三条の「くん蒸」について
  くん蒸には、検疫くん蒸のほか、天幕くん蒸があります。天幕くん蒸は、ビニール
  シートなどで覆いをしてくん蒸剤で処理することをいい、松枯れやナラ枯れで被害木
  を伐倒後の処理も含まれます。カーバム製剤=NCSが登録されています。
  毎年、計画を提出しないと罰則が科せられますが、農家が自分の作物に自分でくん蒸
  する場合は適用されません。つまり、ハウスでクロルピクリンなどで土壌くん蒸する
  場合、農家自身が実施すれば計画を出す必要はありませんが、業者にやってもらう場
  合は計画書提出が義務付けられます。

   都道府県別伐倒木くん蒸届出者数(まつ以外の木も含む)
  農水省農薬対策室によれば、平成22年度の木材の天幕くん蒸による農薬使用計画書を
  提出した農薬使用者のうち、伐倒木のくん蒸を計画していたと思われる者(※)の、
    府県別数は以下のとおりでした。
    青森県 1  岩手県 11  宮城県 19
    秋田県 6  山形県 11  福島県 20
    群馬県  3  山梨県 13  長野県 34
    静岡県 2    新潟県 19  石川県 13
    福井県 14   岐阜県 6  滋賀県 2
    京都府 10    鳥取県 1  島根県 5
    広島県   1  山口県 1   佐賀県 1 
    鹿児島県13
  ※ カーバム剤又はカーバムナトリウム塩液剤を天幕内で使用することとしているの
    みであり、使用対象として伐倒木等が明記されていない 計画の提出者を含む。

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作成:2012-02-26