街の農薬汚染にもどる

t24702#「住宅地通知」による農薬使用規制強化をめざす行政交渉への提言〜使用違反の罰則強化/農薬不使用表彰制度/農薬フリーゾーン宣言#12-03

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【参考サイト】農水省:農薬取締法農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令
           通知「住宅地等における農薬使用について」

通知「住宅地等における農薬しようについて」(以下「住宅地通知」という)の強化をめざして、記事t24607では、農薬取締法における罰則について解説しましたが、対象となるのは、食用作物の栽培に関するものであって、街路樹、芝や花卉など非食用の植栽管理については適用がありません。また、住宅地近隣農地からの農薬受動被曝による健康被害も相変わらずです。そこで、発出足掛け10年を迎えるにあたり、「住宅地通知」を更に深化させるために、どうすればよいか、いくつか提案したいと思います。
【1】農薬使用者の罰則強化について
 私たちは、以前から、農薬による人の健康や環境被害を防止するには、農薬使用者の免許・資格制度の導入が必要だと主張しています。現行のように罰則で懲役や罰金を科する以外に、研修を義務付けたり、免許停止や取消し処分を行えるよう、法を改めれば、農薬使用者の意識は随分かわると思います。このような制度の導入は、現行法を大きく変更する必要があるので、その前段階として、可能な罰則強化を考えてみましょう。

★農薬取締法条文では
 農薬取締法、第十一条(使用の禁止)、第十二条(農薬の使用の規制)、さらに第十二条の二(水質汚濁性農薬の使用の規制)、第十三条(報告及び検査)で、違反した使用者に対する罰則の条項が不十分ながらも適用されるようになっています。
 しかし、第十二条の三(農薬の使用の指導)は、病害虫防除員又はこれらに準ずるものとして都道府県知事が指定する者の指導を受けるようとの努力規定の条文にすぎません。これを、受けねばならないとし、違反する使用者に罰則を科せられるようにしたらどうでしょうか。
 また、第十四条 (監督処分)では、第4項に、『都道府県知事は、この法律の規定(第九条第一項及び第二項並びに第十条の二第一項の規定を除く。)に違反したときは、当該販売者に対し、農薬の販売を制限し、又は禁止することができる。』という条文があります。この条文は、いわゆる行政処分の範疇にはいるものですが、無登録農薬を販売した業者に、販売停止を命ずることのできる根拠になっています。
 これと同じ行政処分を販売者だけでなく、使用者にも適用することは可能ではないでしょうか。
 たとえば、農薬使用者(委託者や防除業者を含む)が、農薬取締法に違反する不適正な使用をした場合や不法投棄、目的外使用した場合、さらには、散布により、人や物に被害を与えたり、環境・生態系を汚染したり、住宅地通知を守らなかったり、農作物に危被害(有機圃場にドリフトさせたり、残留基準違反の作物の出荷を含む)を与えた場合、当該者の農薬使用を制限し、又は禁止することができる。とすれば、期限をきって農薬の使用を禁止したり、研修を義務付けたりする行政指導を行うことができるのではないでしょうか。
 住宅地通知の遵守を求めて行政に要望しても、行政は「罰則がないし、法律にも書かれていないからお願いしかできない」と言います。指導を受け入れなければ罰則や行政処分を行えるとなれば、強く指導できるはずです。

★防除業者登録制度の条文を
旧農薬取締法第十一条で、防除業者には。事後届出が義務づけれられており、たとえば、シルバー人材センターが無届出のまま、散布業をしている場合も違法とされました。しかし、この制度が廃止された現行法では、一般の人も、農業従事者も防除業者も農薬使用者として、ひとまとめで、監督指導されることになりました。旧法下の1999年の届出業者数は2万2763あり、都道府県がリストアップしていましたが、法改定でこれがなくなり、農薬の研修会などへの参加の呼びかけがやりにくくなったとの地方自治体からの声もあります。唯一、兵庫県だけが、現在も県の防除業者に関する指導要綱で事前の届出を求めています。
 防除業者の中には、無人ヘリコプターでの散布業者もいますし(認定オペレーター数は約1万4千人)、造園業者も入ります。多種多様の農薬を取り扱っているこれら業者(衛生害虫駆除業を兼ねる場合もあるので、薬事法の殺虫剤散布を行うケースもある)は、農薬使用についての責任も大きいことはいうまでもありません。

 私たちの要望で民主党は、06年6月に、国会に「害虫等防除業の業務の適正化に関する法律案」として、防除業を営む会社や団体の登録の義務化や、実際に散布する人の講習義務付けなどをあげ、違反には罰則も科すという法案を提出しましたが、十分に審議されることなく廃案になった経緯があります(記事t17801)。この法案は、農薬だけでなく、殺虫剤・シロアリ防除剤の業者なども対象となっていましたが、農薬取締法で、防除業者の届出を事前に求める制度として復活させる必要があります。

  ★使用基準遵守省令では
 「農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令(以下 「安全使用遵守基準」という)」における、使用者への罰則適用を下記のように強化する必要もあります。
  @ 現在、努力規定でしかない事項を義務規定とすべきです。
  A樹木や花卉ほかの非食用農作物に使用する場合にも、使用基準の遵守を義務付けた
   上、最終有効年月を過ぎた農薬を使用しないことを義務付ける。
  B航空機には、有人ヘリだけでなく、無人ヘリコプターもいれて、年間計画届の提出
   を義務付ける。
  C水田における農薬の使用、被覆を要する農薬の使用、帳簿の記載の条項にある努力
   規定を義務規定とする。
  D隣接農地からのドリフトや前作物で使用された農薬が後作物への移行による農作物
   汚染の防止対策が強化できるよう、条文を追加する。
  E防除業者、造園業者、地方自治体等の使用者、スーパースパウターなどの大型送風
   散布機などの使用者、地域で農薬の一斉散布を実施する実施主体などには、年間計
   画や使用実績の報告を義務付ける。
【2】表彰制度と農薬フリーゾーンマークの導入
 罰則強化とともに、身の回りでの農薬不使用をもっと浸透させることが必要です。
食用作物栽培については、国や地方自治体により、環境保全型農業の推進、エコファーマー制度、さらには、個別補助金給付などで、農薬使用を減らすため、さまざまな施策をとられていますが、街中の芝生や街路樹、花卉等については、せいぜい行政指導が行われるだけで、農薬不使用であっても、そのことが、人の健康や環境保全に役立っている事例として紹介されることは殆どありません。
 そこで、行政には、人の生活圏の農薬汚染を減らしたり、自然の生態系を守るため、農薬不使用を広げる、もっと積極的な手法をとってもらいたと思い、以下の2つの提案を行います。

★表彰制度について
 みなさんのお住まいの自治体では、自治会の花壇や学校の花壇や芝生、公園の美化について、表彰しているところはありませんか。その際、植栽管理に農薬は使用されていないでしょうか。
 見た目がきれいだけでは、いけません。表彰する場合は、ぜひ、農薬不使用を条件にしてください。
 農薬取締法の「安全使用遵守基準」「住宅地通知」、環境省の「公園・街路樹等病害虫・雑草管理マニュアル」、グリーン購入法の特定調達品目にある役務「植栽管理」(記事t20301)らに基づき、農薬を使用しないで植栽管理を行っているところを表彰し、農薬不使用の場所を積極的に宣伝し、広げていくことを、行政に求めたいと思います。

★農薬フリーゾーン(農薬不使用地帯)マークについて
   アメリカでは、反農薬団体のbeyond pesticidesなどが、てんとう虫をデザインした農薬フリーゾーンマークを作って、販売しています(右図参照。脱農薬キャンペーン運動基金となる)。
家庭の芝生などでも、賛同者はこのマークをつけることができます。また、最近では、ミツバチなどの花粉媒介昆虫を農薬から守るため、農薬不使用の地を「ミツバチの安息地」と宣言すべく、ミツバチデザインのマークも作っています。
 ちなみに、日本では、遺伝子組み換え作物に反対する市民運動として、遺伝子組み換え作物拒否地域に GMOフリーゾーンマークを表示する運動があります。
 国や地方自治体は、有機や特別栽培農産物をはじめ、さまざまな環境保全運動において、マークを作成し、該当するものに表示がなされていますが、住宅近隣農地や雑木林、家庭、公園、駅、街路樹、公共施設、医療施設、学校・保育園・幼稚園、高齢者施設、市民農園などで、農薬不使用宣言をした場所に、農薬フリーゾーンマークを表示するよう、行政に、マークの作成とマーク表示基準の策定を求めてはどうでしょうか。

【3】「住宅地通知」の強化について
 「住宅地通知」は、最初、被害住民の声をもとに、03年9月16日に、農水省局長名で発出されましたが、07年1月31日に環境省局長も加わった二局長連名の改定版となりました。その理由は、同省が05 年に、地方自治体を対象に散布実態のアンケート調査を行った結果、通知内容を守らない不適正な農薬使用が明らかになったからです。
  しかし、改定の結果、旧通知が、農地での使用者と非農地での使用者にわけての指導となっていたのに対し、新通知では、この点があいまいになり、近隣の庭や空き地などに散布する個人の責任が不明確になっています。
 また、「定期的に農薬を散布することを廃し、被害が発生した場合に被害を受けた部分のせん定や捕殺等により病害虫防除を行うよう最大限努めることとする」が「定期的に農薬を散布するのではなく、病害虫の状況に応じた適切な防除を行うこと」と変わっています。その他の個所でも、最初の通知より表現があいまいになっています。
 08年2月には、グリーン購入法(「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律」)における特定調達品目の見直しで、役務として「植栽管理」がはいり、IPM(総合防除)の実施が推奨されることになりましたが、このことは「住宅地通知」に触れられていません。  また、環境省が10年5月に『公園・街路樹等病害虫・雑草管理マニュアル』を策定しましたが、通知には暫定版のことしか書かれていません。  そこで、通知の改正すべき内容をいくつか提案します。
  @通知は法律に基づいているとはいえ、通知でしかない。強制力のあるように遵守義務
   化し、省令とする。
  A農薬不使用の対応として捕殺、剪定、物理的・耕種的防除を第一に行うことをもっと
   強調すべきである。
   現実には病害虫の発生状況の調査もなしに漫然と散布している自治体がまだ存在する。
   農薬不使用や散布以外の方法を実践しなかったり。生息調査を実施しないで、いきな
   り、農薬散布をしてはならないことを明記する。
  B地方自治体のには、住宅地近隣の農地や森林では環境保全型農業を積極的に推進する
   ことを義務づける。
  C万一、住宅地周辺で農薬を使用する場合、周辺住民に通知する時期、周知する範囲
  (距離)と方法、立ち入り規制の方法や期間などを、通知に具体的に記載した事例をい
   れる。
  D地方自治体が、農薬散布を防除業者に委託する場合、散布の周知や立ち入り規制措置
   を業者に任せず、行政の責任で行う。
  E国や地方自治体が管理する公園、学校、その他の公共施設、街路樹等で農薬を使用し
   た場合、その年間実績を住民に公表する。
  F農薬による健康被害を受ける住民からの相談については、農林部局、環境部局は互い
   に連携し、必要に応じて対応窓口を設置する等により、適切に対応すること、とある。
   しかし、現実にこのような窓口がある自治体は少なく、健康被害を訴える場所すらわ
   からないことが多いので、誰にでも分かるような窓口を設置し、広報することを義務
  付ける。

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作成:2012-03-26