街の農薬汚染にもどる

t25101#西宮市の中学で農薬散布後、生徒16人が病院へ搬送〜数ある通知無視は明らかだが、反省の色なし#12-07
【関連記事】記事t20404記事t25001
      文部科学省「学校環境衛生基準」の 改訂案を提示した際、当グループのパブリックコメント意見新基準
      文部科学省:学校環境衛生管理マニュアル(09年4月1日施行の新基準に基づくマニュアル)
【参考サイト】農水省、環境省、厚労省;2012年度農薬危害防止運動について実施要綱
       文部科学省:「平成24年度農薬危害防止運動の実施について(依頼)」
       西宮市:Top Page環境衛生課樹木に発生する毛虫対策塩瀬中学校のHP

 農薬危害防止運動が実施されている最中の6月13日午後、兵庫県西宮市の塩瀬中学校で、異臭事件が起こり、生徒16人が病院に搬送され、うち9人が入院したとの報道がありました。
 同校では、午前中に校内樹木に農薬散布が行われており、それが原因ではないかということで、市教育委員会はその後に予定されていた他校での散布を中止したと報道されました。
 授業中に農薬散布したとはあまりに非常識です。まして、16人も病院に搬送されたということは、尋常ではありません。事故の原因、農薬散布状況等について、西宮市、西宮市教育委員会、塩瀬中学校に問い合わせました(問い合わせ内容)。教育委員会と中学校から回答がきましたが、西宮市からはまだです。教育委員会、中学校からの回答は通知「住宅地等における農薬使用について」や今年の「農薬危害防止運動の実施について」は読んでないのではないかと思われる内容でした。

★事故の概要
 西宮市教委によれば、事故の概要は次の通りです。
  6月13日午後2時半過ぎに同じクラスの生徒数名が体調不良を訴え、
 うち1名の生徒が手足の硬直の様子が見られたため、校長が救急車を要請。
 保健室にいた12名の生徒が病院に搬送され、その後、別のクラスの生徒4
 名も体調不良を訴えたため、救急搬送された。
  病院に搬送された16名のうち、7名は当日に、残り9名は念のため検査
 入院したが、翌日には全員退院している。特に、中毒症状は認められない。
 なお、当日の午前10時頃から約1時間、学校内及び周辺の樹木に薬剤散布
 をしており、普段と異なる行事として、指摘を受けたもので、当日のガス
 クロマトフィーによる毒物同定検査でも毒物等は検出されていない
 ということです。
 16名もの生徒が救急車で運ばれたわけですから、その原因を究明するのは当然です。日常と違うことが何かあったのではないかとの指摘で、学校と教委が思いついたのが、当日の午前中に実施された農薬散布です。いったい、どのような状況で、どんな農薬が散布されたのでしょうか。
 西宮市では防除業者に委託するのではなく、市の職員が直接散布しています。散布したのはトレボン乳剤(成分名:エトフェンプロックス)で、れっきとした登録農薬ですが、教委は「農薬」といわず「薬剤」と言っています。

★散布状況
 市教委の当グループへの回答によると散布状況は以下の通りでした。
   @薬剤散布者:西宮市環境衛生課
   A薬剤散布委託者:委託業務ではない。
   B使用薬剤:農業用殺虫剤 トレボン乳剤 登録番号第16758号
   CグラミンS(展着剤)  現地調合
   D薬剤使用量、希釈率:トレボン500ml 1本 ・グラミン500ml  1本
    1000リットルタンクに投入後、約1トンの水道水で希釈。2000倍希釈
   E薬剤使用目的:毛虫対策
   F散布方法:上記1トンタンク車の薬剤を動力式噴霧器で散布
   G散布時間:午前10時頃から約1時間
   H散布場所と校舎との距離:山間部の中学校であり、学校内及び学校周辺部全体。    校舎との距離は最短部分で1m程度
   I散布時の気象条件:観測地神戸の気象庁発表データ
     午前10時 気温22.8度 降雨なし 風速1.9m 風向東南東
 つまり、授業中に校舎との最短距離1mの地点で農薬散布をしたわけです。窓を閉めるように注意したとのことですが、こんな至近距離で散布されたら、直接農薬がかかる可能性もあります。
 散布農薬のトレボン乳剤は、通常、4000倍で散布されますが、オビカレハだけは2000倍となっています。当然、教委と学校側はオビカレハがいたと主張するでしょう。しかし、オビカレハには毒はなく、生徒の健康を冒してまで、駆除する必要があったでしょうか。
★年2回定期散布をしている
 生息調査をしているかという質問に対して、市教委は、「毛虫等発見の際には、過去10年以上にわたり、毛虫対策のトレボン乳剤の散布を継続しております。散布の際には、環境衛生課の職員が、再度生息調査を実施した上で、毛虫の被害が確認できる樹木に散布しております。これは、西宮市の小・中学校、高等学校、幼稚園、特別支援学校、合計84学校園でも同様です。塩瀬中学校においても、散布樹木に毛虫生息を事前に確認しております。」と回答し、具体的な害虫名は明らかにしていません。
 過去10年以上に渡って、トレボン乳剤を散布してきたとのことです。しかも、西宮市の84学校等すべて同じというわけです。
 農薬散布を生徒や周辺に知らせたかと言う質問には「周知文書は別添の通りです。薬剤散布中は窓を開けないように指導しております。」との回答でしたが、周知文書には農薬名の記載もありませんでした。
 さらに、「定期的な散布は年2回実施しております」と驚くべき回答が付け加えられていました。通知「住宅地等における農薬使用について」には、第一番目に「定期的に農薬を散布するのではなく」と書かれています。西宮市がこの通知を読んでないことは確かです。

★事故はなかった? 塩瀬中からの回答
 塩瀬中学からの回答には、「原因となる物質がないことから、薬剤散布が原因でないと結論づけるのに時間がかかり回答が大変遅くなり申し訳ありません。」から始まっています。トレボン乳剤の成分が検出されなかったので、それが原因ではないということです。
 しかし、トレボン乳剤の有効成分のエトフェンプロックスは、使用された一般VOC用の簡易分析機器では検出できるとは思えませんし、警察が実施したという現場の毒物調査結果も教えてくれません。
 さらに、「今回の件につきまして、生徒が何かによる被害を受けたというものではありません。(個人情報ということもありますので、心配事からの過換気症候群とご理解いただければと思います)予後については、現在元気に登校しています。」とあり、16人もの生徒が病院に搬送された事実すらないような言い方です。
 過換気症候群とは、誰の診断でしょうか。16人もの生徒が一斉に「心配事から」過換気症候群になるとは信じられません。いったい、生徒の健康をどう考えているのでしょうか。

★窓を閉めるという注意をした
 また、生徒や保護者、周辺への周知方法ですが、「学校管理課より4月散布日程表により」、職員会議で職員へ、保護者や付近住民へも文書で連絡をするとのことです。つまり、4月段階で日程は決定されているわけで、用務員が目視で害虫を確認したというのは、どうも眉唾物です。ここでも、年間2回、定期散布をしていると回答しています。
 注意事項としては、「散布時間には、窓を閉め作業場所及び、散布後樹木には近づかない、付近住民へは、洗濯物や布団を出さないように要請した。」とのことでした。窓を閉めていれば1m先で農薬散布をしてもいいとのことで、何も反省していません。

★通知等、詳しくは知らない
 文科省の「学校環境衛生管理マニュアル」には、薬剤使用に関して休日や長期期間中に行うなどの注意が必要、とありますが、この点について学校側は「西宮市教委学校管理課により散布が実施されていますので注意事項を厳守」しているとのことですが、どのような注意事項があったのか不明です。授業中の農薬散布に関する回答はありません。
除草については、基本的には草刈機を使用、一部困難な場所は小範囲で除草剤も使用とのことです。

★行政の動き
 学校の事故のため、文科省にどう対応したのか聞いてみました。担当の学校健康教育課は、兵庫県教委に厳しく指導したとのことですが、市の教委は「文部科学省からの連絡は受けておりません」と言っています。文科省も落ちたものです。
 農水省農薬対策室は、私たちの質問に対して「近畿農政局を通じ、兵庫県農業改良課から、農薬の適切な取扱いについて西宮市の関係部局に周知するよう指導しました。
 今後、西宮市環境衛生課及び教育委員会は、学校からの報告のみに基づき防除を実施するのではなく、健康被害を及ぼす可能性のある害虫が発生しているのか、樹木の被害が甚大となる可能性があるのか等を確認の上、必要な場合に限り農薬の散布を行うなど、学校における病害虫防除の方針を、住宅地通知の趣旨を踏まえて見直すこととしていると聞いております」と回答してきました。
 環境省農薬環境管理室は、同省の公園・街路樹マニュアルの内容を周知徹底を指導すると共に、兵庫県で説明会を実施する場合には、環境省から講師を派遣するつもりだとのことでした。


購読希望の方は、〒番号/住所/氏名/電話番号/○月発行○号からと購読希望とかいて、 注文メールをください。
年間購読会費3000円は、最初のてんとう虫情報に同封された振替用紙でお支払いください。
作成:2012-07-26