街の農薬汚染にもどる

t25607#EUの新しい農薬規制に学ぶ〜国際市民セミナーに参加して〜環境汚染対策が充実、住宅地周辺・空中散布禁止#12-12
【参考サイト】ダイオキシン環境ホルモン対策国民会議国際市民セミナー案内
            (セミナーの報告は「ニュース・レター」Vol.78(2012/12)に掲載)
       国立国会図書館調査及び立法考査局海外立法情報調査室 植月献二さん:
        農薬の持続可能な使用に向けて─2009年EU農薬指令制定をめぐって─
       European Commission:
        持続可能な農薬使用について
       化学物質問題市民研究会ピコ通信
        EUが16年間の農薬リスク評価完了 ほとんどの有機リン農薬を不認可

 12月9日に、ダイオキシン環境ホルモン対策国民会議主催の「生態系と子どもを農薬から守るために-EUの農薬規制から学ぶ」と題するセミナーが開催されました。私も参加しましたので、資料として配付された国会図書館の海外立法情報調査室の植月献二さんの「EU農薬関係法の制定」という論文の助けを借りながら報告させていただきます。

★2009年から新規制
 EUからの発言者は、ドイツ、ベルギー、フランスのNGOのメンバー3人。それぞれ、国際的に活動しているベテランたちでした。ここでは、私たちが取り組んでいる課題とEUでの規制の違いなどを主に紹介します。
 EUで農薬規制がぐんと厳しくなったのは2009年に新しいEU指令と農薬規則が発効されてからです。それまでの長い間、PAN(農薬行動ネットワーク=国際的に農薬の情報、代替案の支援などを行うNGO)などの活動家が各国の政府やEUなどに働きかけ、会議に参加し、主張し続けてきたようです。
 報告したPANドイツのスーザン・ハフマンさんは、2009年の指令に関して、農薬の販売前に試験・承認・許可が必要、EU域内での農薬の職業的使用者の資格審査、EU加盟国による農薬取り扱いの管理、リスク管理戦略の実施などが決まったと一定の評価をしながら、不十分な点として、「EUの全体的な農業システムには変化がなく、農薬への依存は高まっている。95%以上で化学合成農薬が使用されている」と指摘しました(日本の有機農業は1%にも満たない)。また、各国が決めなければならない具体的な方法がまだ定まっていないものもあり、今後の監視が必要とのことです。
 全体の印象でいえば、EUは人間の健康被害よりも、環境汚染防止に力を入れているようでした。日本のように住宅地周辺での農薬散布が少ないせいかもしれません。日本は環境汚染よりも、深刻な人体被害を問題にせざるを得ないという事情があるのではないかと思います。

 EUで、農薬使用を減らすためにどのような施策がとられているか、指令の内容で私たちの主張と合致している項目について紹介します。
 新しい指令は「農薬の持続可能な使用を達成する欧州共同体行動の枠組みを整備する2009年10月21日の欧州議会及び理事会指令2009/128/EC」と長ったらしい題がついています。(セミナーの会場からの「持続可能な農薬使用とはどういうことか」という質問に対してEUのNGOの発言者たちは「私たちはこの名前がいいとは思っていない」と回答していました)

★農薬使用者への研修の義務づけ
  私たちは、長年、日常的に農薬を使用する農家や防除業者に免許制度を導入するよう要望してきましたが、未だに無視されています。
  EUでは、指令の第5条で、研修制度がきっちり決まっています。これは私たちがイメージする免許制度に似ています。
 「各加盟国は、すべての職業的使用者、流通業者及び助言者に、監督庁が指定する団体の実施する適切な研修を確実に受けさせなければならない。当該研修は、適切に知識を習得し、及び更新するための初期研修及び追加研修により構成されるものとする。」とあります。
  防除業者、農家などの農薬使用者以外に流通業者なども対象になっており、初期研修と更新するための研修が義務づけられています。この研修を実効あらしめるために、各国は監督官庁を指定し、証明書を発行します。この証明書は農薬に関して十分な知識を有することを証明するものです。

★空中散布は確実に禁止(例外あり)
  指令第9条に、空中散布があります。まず「各加盟国は、確実に空中散布を禁止しなければならない。」とあります。確実に禁止です。
  しかし、例外があり、実施するには6項目の条件すべてをクリアーしなければなりません。たとえば、実行可能な代替方法がないこと又は農薬の地上散布と比較して人の健康及び環境に及ぼす影響が軽減されるという明確な利点があること、散布区域の近くに住宅地がないこと、などです。
  EUの発言者に聞きましたが、無人ヘリコプターによる農薬散布については知りませんでした。そのような散布はされていないのでしょう。禁止された空中散布に無人ヘリ散布が含まれるのかどうかわかりませんが、報道によればドイツでオークの木に無人ヘリ散布が検討されているということですから、どうなるか、注目したいと思います。

★住宅地周辺での農薬使用禁止
  住宅地周辺での農薬散布を減らそうと、私たちは、通知「住宅地等における農薬使用について」をもっと厳しくしようと四苦八苦しています。しかし、EUでは、当然のことのようです。
 第12条に「各加盟国は、特別の区域において、衛生の要件及び生物多様性又は適切な危険性評価の結果を十分に考慮し、確実に農薬の使用を最小限度にとどめ又は禁止しなければならない。」とあり、具体的に以下の場所があげられています。
 「公園及び公共庭園、運動場及びリクリエーション広場、校庭及び子どもの遊び場並びに医療施設の周辺等、規則(EC) No 1107/2009第3条に規定する公衆又は社会的弱者の使用する区域」
 これらの場所では、農薬散布は禁止か、最小限度の使用にとどめなければならないわけです。
 EUの発言者は「歩道に農薬を撒くなんてだめだ」といいました。その理由は「農地ではないから」というのです。
 これを聞いて「えっ、日本と逆だ」と思いました。日本では、農地以外の場所に除草剤などを散布するのは、まったく、自由です。その理由は「農地でないから、農薬取締法は対象外」というものです。
 やはり、農薬取締法の改定が早急に必要です。
  これらは、NGO等のたゆみない働きかけがあったと聞いて、日本でも何とかしなければと思いました。(辻 万千子)

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作成:2012-12-26