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t25804#これでいいのか環境省吸入毒性部会〜無人ヘリ散布の大気中評価値の設定#13-02

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【参考サイト】環境省:農薬の大気経由による影響評価事業のページ
        農薬吸入毒性評価部会 H24年度第二回(2月4日)議事概要配布資料
        農薬の大気経由による飛散リスク評価検討会 H24年度第二回(2月18日)資料

 環境省は、無人ヘリコプター散布農薬を対象に、農薬の大気経由による人への健康影響に関するリスク評価・管理手法について2010年から12年度の3カ年で検討してきました。そのために「農薬吸入毒性評価部会」と「農薬の大気経由による飛散リスク評価検討会」を設置し、それぞれ年に2回会議を開催しています。2月4日に行われた今年度2回目の吸入毒性評価部会を傍聴しましたので、検討内容の概要を報告します。なお、委員6名中出席は4名でした。

★吸入毒性試験は途中で中止
 毒性評価対象となる農薬は、次頁の表に示した水稲無人ヘリ空中散布面積(最近3年の推移を示した)の多い殺虫剤と殺菌剤で、12年度に吸入毒性評価が実施された4農薬(表中太字#印)について、その進捗状況が、試験を請け負った(株)ボゾリサーチセンターから報告されました(毒性評価書)。

 ラットを用いたカスガマイシン、エチプロール、フルトラニル原体の吸入毒性試験の結果ですが、驚いたことに全て失敗し、試験は中止になりました。
 原因として、カスガマイシンは、吸入曝露条件を設定するために水を媒体として用いたところ、4日目に死亡する例が見られ、残りのラットも全身症状の悪化があり、対照群においても体重減少などが見られたため、水を媒体として使用したことが原因ではないかと推測され、試験は中止になりました。
 エプチロールは、無毒性量を得るための0.004mg/Lという低濃度では、気中濃度を発生できず、ホワイトカーボンを媒体にできるか検討した結果、一週間以内に複数の死亡例があったため、これも使用できず、結局、人の健康リスクへの適切な評価を行うための無毒性量を得るための吸入毒性試験を実施できなかったため試験は中止したとのことです。
 フルトラニルは、結晶性粉末でダストが発生しにくいため、ホワイトカーボンを加え試験しようとしたが、ホワイトカーボン自体の毒性が判明して不適当となりました。

 結局、3剤とも無毒性量は出せなかったわけで、こんなお粗末な試験結果は誰が責任を取るのでしょうか。
(なお、アゾキシストロビンについては、本年3月から、メーカーが本試験実施とのことです。)
 この結果に対して、委員から「カスガマイシンの試験でなぜ、媒体を水にしたのか」という質問がありましたが、ボゾリサーチセンターの回答は「環境省にそうやれと言われたから」とのことでした。試験のやり方の詳細については、OECDのガイドラインに沿って環境省が指導していたわけです。検討会は試験結果を評価するだけの役割のようでした。
 しかし、環境省の平成24年行政事業レビューシートによると、(株)ボゾリサーチセンターには4,200万円支払うことになっていますが、試験に失敗しても全額払われるのでしょうか。
 また、低濃度での毒性試験ができないような農薬がどうして登録され、長年使用されるのか疑問を感じます。
 
 表 吸入毒性評価される無人ヘリ散布農薬の水稲散布面積、気中濃度評価値等
 
農薬名      散布面積(ヘクタール)   (a)ADI  (b)気中濃度 (c)気中濃度 (d)落下量
                                               mg/kg/   推定値   評価値   評価値
【殺菌剤】        09年度    10年度    11年度  体重/日        mg/m3      mg/m3    mg/m2/日 
フサライド       266,174    283,648   258,992  0.04*       0.0069      0.52     2.143
トリシクラゾール 125,459    139,575   175,975  0.03*       0.0052                1.607
フェリムゾン     129,707    131,685   121,917  0.019       0.0033      0.82     1.018
カスガマイシン# 137,590     89,168   105,566  0.113**     0.019                 6.054
アゾキシストロビン#83,038  103,074   103,794  0.18        0.031                 9.643
バリダマイシンA#67,203     91,111    88,653  なし         ―
フルトラニル#    46,406     35,188    61,424  0.087       0.015                4.661
ペンシクロン      19,637     18,451    17,164  0.053       0.0091               2.839
ジクロシメット    20,916     13,653     1,283  0.005       0.00086              0.268
ジクロメジン       6,951     12,512     8,730  0.02***     0.0034               1.071
【殺虫剤】                     
ジノテフラン     339,189    339,770   355,947  0.22        0.038       11.2     11.786
エトフェンプロックス155,430 150,800   155,845  0.031       0.0053       0.59     1.661
エチプロール#    69,358     73,221    75,603  0.005       0.00086     
  0.268
クロチアニジン    85,658     69,838    54,100  0.097       0.017        0.39     5.196
シラフルオフェン  48,975     53,183    45,479  0.11        0.019                5.893
ブプロフェジン    54,959     35,606    54,523  0.009       0.0015               0.482
テブフェノジド    50,244     33,033    51,475  0.016       0.0028               0.857
MEP            16,865     11,007     4,124  0.005*      0.00086      0.01     0.268
チアメトキサム     −         1,880     6,222  0.018       0.0031               0.964
クロマフェノジド   1,593        933     1,206  0.27        0.046                14.464
BPMC             284      1,557       257  0.012*      0.0021                0.643
DEP               259      1,075       460  0.002****   0.00034      0.07     0.107

 (b)は、当グループがADIをもとに算出した小児用推定値=ADI×0.1×15÷8.7
  *  厚労省科学審議会答申(H15年の水道水質基準測定の際に参照した暫定値)
  ** EPA Pesticide Fact Sheet、
 ***  厚労省食品衛生調査会関係資料(H8年2月20日)
****  厚労省薬事・食品衛生分科会残留農薬調査会資料(H15年)
★気中濃度目標値はADIに依拠しない
 次に無人ヘリ散布農薬の毒性評価案が議題にあがりました。環境省の説明では、人の健康への影響を評価するときの目安となる気中濃度評価値を設定するということで、吸入毒性試験を実施した農薬について、個別に毒性評価を行うというものでした。
 気中濃度評価値は、ラットの亜急性吸入毒性試験の無毒性量を100分の1にした値を求め、(上述のカスガマイシンなど3剤はこの値が求められなかった)これを許容一日経気道曝露量とする。この値にヒトの呼吸量などを勘案して、気中濃度評価値が算出されます。
 環境省が、いままでに、気中濃度評価値を示しているのは、表の(c)にある7農薬です。有機リン系のMEP(スミチオンなど)とDEP(ディプテレックス)は、無毒性量の指標がコリンエステラーゼ活性阻害になっており、1997年に当時の環境庁が示した「航空防除農薬に係る気中濃度評価値」と同じ値です。ネオニコチノイド系のジノテフランが11.2mg/m3と突出して緩いのがわかります。
 環境省は、大気中の農薬を年中吸入するわけではないとして、気中濃度については、ADIに依拠しません。表の(b)には、各農薬のADIの10%を大気からの摂取と仮定し、体重15kgの小児の一日の呼吸量を8.7m3とした場合の摂取量を気中濃度に換算した推定値を示しましたが、環境省の評価値より、ずっと低いことがわかります。どうして、ADI方式をとらないのか不思議です。

★落下量評価はADIが根拠
 一方、無人ヘリコプター空中散布で周辺に落下する農薬ミストによる落下量評価値の算出では、環境省はADIを用いています。すなはち、ADIの10%を許容一日経皮曝露量とし、落下した農薬の皮膚への付着による毒性を、体表面積と皮膚吸収率を加味して評価しています。その数値は表の(d)に示してあります。

 これら2つの毒性評価は全て単剤についてです。無人ヘリ散布は、混合剤を散布する場合が多く、複合毒性については、何も検討されていません。
結局、多額の予算を使う吸入毒性試験事業は行い、目標値を決めても、無人ヘリ散布地周辺の住民の健康は保証されません。
 にもかかわず、検討会は気中濃度と落下量評価値の提案を了承しました。会議中、委員の意見はほとんど聞かれなかったのはどういうわけでしょう。
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作成:2013-02-26