空中散布・松枯れにもどる
t25901#無人ヘリコプター散布実施の42道府県へアンケート調査〜事故は2年間で50件超え、環境保全型農業の要件に農薬使用法はない#13-03
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【参考サイト】農水省;農林水産航空事業(病害虫防除に関する情報のページにあり)
無人ヘリコプター事故:報告依頼通知(11/01/28)と事故報告(11/12/28)
農林水産航空協会:Top Page
「産業用無人ヘリコプターによる病害虫防除実施者のための安全対策マニュアル」
環境省:農薬の大気経由による影響評価事業のページ
アンケート調査:無人ヘリコプターに関するお尋ね(10/08/09)
無人ヘリコプターによる農薬散布についてのお尋ね(13/01/08)
無人ヘリコプター散布に関する農薬取締法関連法令の改正及び新法の制定についての要望(11/01/14)
私たちは、2010年、無人ヘリコプター空中散布について、道府県にアンケート調査を実施し、多発する無人ヘリ事故実態を調べた結果を、脱農薬ミニノート3「野放し!無人ヘリコプター農薬散布」(10年11月)にまとめ、問題点を指摘するとともに、法規制についての提言を行いました。
11年12月末に、農水省は、無人ヘリ事故43件について調査結果を公表しましたが、無人ヘリによる農薬の散布面積は依然として、増大傾向にあります。
そこで、本年1月に、空散を実施していない東京/神奈川/大阪/和歌山/沖縄を除く全国42の道府県(うち、長野県と茨城県は昨年調査実施)に対し、@散布状況(8質問)とA環境保全型農業との関連について(8質問)を尋ねました。新潟県を除く41道府県から回答がありました。
1 散布状況について
無人ヘリコプター空中散布について、農薬取締法では、有人ヘリの場合とは異なり、散布計画の届出も不要で、農水省に聞いても、都道府県別・農薬別の使用量や散布面積は教えてくません。無人ヘリ空散情報を収集している農林水産航空協会は、何度問い合わせても返事をくれません。そこで、道府県に問い合わせました。
【質問1-1】無人ヘリ散布の実施主体数
12県(宮城/秋田/山梨/静岡/愛知/滋賀/京都/奈良/鳥取/岡山/福岡/熊本)が数を示さず、中には、実施主体に届出を求めていないため、把握していないと答えた県もありました。
【質問1-2】散布実績・散布計画
農薬別散布面積の詳細について、回答のあったのは、11県(茨城/埼玉/山梨/長野/岐阜/石川/滋賀/島根/広島/山口/大分)でした。
【質問1-3】無人ヘリコプターの事故
11年33件、12年18件の事故が25道府県でありました。11年分は、農水省がHPで公表しているとして、みずからが回答しなかった県もあり(農水省の公表事項に発生場所がないため、どれが該当する不明)、なかでも、ひどいのは、熊本でした。農水省のHPに公表されているとしか答えず、自県の実態も明らかにしませんでした。
なお、事故の詳細については、次号以降で報告しますが、愛媛の12年の事故では、オペレーター1名が負傷していました。
【質問1-4】散布地域と住宅地との緩衝地帯
具体的な距離を決めている道府県はなく、「産業用無人ヘリコプターによる病害虫防除実施者のための安全対策マニュアル」にあるように住宅を障害物とした場合の安全距離20m以上をあげたところが北海道/岐阜/鳥取でした。また、上記マニュアルや国が定める「無人ヘリコプター利用技術指導指針」に基づき、指導するとしているのが、青森/山形/栃木/群馬/三重/奈良/兵庫/山口/愛媛/大分/宮崎/鹿児島でした。長崎は「圃場周辺に緑肥作物を栽植する等、緩衝地帯の設置についても指導している」としています。
【質問1-5】周辺地域へ散布情報の周知
ほとんどの道府県が、前記指導指針などに基づく、指導をしているが、実施団体ごとの周知の実態については、把握していないのか、答えてくれませんでした。
【質問1-6】農薬の環境汚染調査
指導指針には、空中散布等の効果調査を、実施主体が行うものとするとなっているため、長野以外の道府県に問うたのですが、茨城で落下板による飛散調査をしているところがある程度で、実施していない/把握していない道府県がほとんど、大気汚染調査などを実施したところは皆無でした。
【質問1-7】住民の健康被害や避難
この質問も長野県以外の道府県に対して行っており、いずれの回答も健康被害の報告なし又は把握していない、でした。避難については、茨城が、JA龍ヶ崎市の無人ヘリ空散で、3名が避難したとしているだけでした。
【質問1-8】ミツバチの被害や巣箱の避難
回答のなかった香川県を除き、40道府県すべて、報告なし又は把握していないとの答えでした。
2 環境保全型農業と無人ヘリ散布
【参考サイト】農水省:生産局農産部農業環境対策課にある環境保全型農業関連情報
持続農業法関連法令等 環境保全型農業直接支援対策 エコファーマーの認定状況について
私たちは、人や生態系への影響が大きい無人ヘリコプター農薬空中散布の規制を求めていますが、地方自治体によっては、無人ヘリコプター農薬空中散布を環境保全型農業と位置づけているところもあります(たとえば、新潟市は、「環境と人にやさしい農業支援事業」で、「無人ヘリコプター運転免許取得支援 免許取得経費への支援」を行っています)。
そこで、環境保全型農業及びエコファーマー認定制度と無人ヘリコプター農薬空中散布の関係について、質問しました。
(注)環境保全型農業:「農業の持つ物質循環機能を活かし、生産性との調和などに
留意しつつ、土づくり等を通じて化学肥料、農薬の使用等による環境負荷の軽
減に配慮した持続的な農業」だということです。
エコファーマー:「持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律
(持続農業法)」(1999年施行)に基づき、農業者が、土づくりや化学肥料、
化学合成農薬の使用低減など一定の技術に取り組んでいる場合、都道府県知事
が認定する農業者のことで、愛称でエコファーマーといい、独自マークを表示
した農作物販売もされています。
【質問2-1】無人ヘリ散布を環境保全型農業と考えるか
無人ヘリコプターによる農薬散布を環境保全型農業、あるいはそれに類する技術であるとはっきり回答した道府県はありませんでした。
環境保全型農業は、農薬の使用回数を減らすもので、散布の方法ではないとのことです。環境保全型農業と無人ヘリ散布は関連がない、持続農業法には無人ヘリ散布の位置づけはないというのが大方の道府県の意見でした。
栃木県も同様ですが、「県は、この技術を実施することで環境負荷や農業が有する環境保全機能を低下させることにならないよう、配慮しながら指導しています。」と、少しは配慮しているようです。
千葉県は「本県では、化学肥料の使用量と化学合成農薬の使用回数を慣行栽培の1/2以下に減らした農産物を「ちばエコ農産物」として認証しています。「ちばエコ農産物」においては、特段、無人ヘリコプター防除が環境保全型農業の技術であるとは位置付けてはいません。」と回答しています。
「こういう視点で考えたことがない」、「検討した経緯はない」という県は、山梨、岐阜でした。
その他、京都は無人ヘリ散布を環境保全型農業とは考えていないが、「他の農薬使用量削減技術を導入し、全体として農薬使用量が減少する場合においては、環境保全型農業の推進のために「無人ヘリコプターによる農薬散布」を制限するものではありません。」とのこと、
唯一、富山は、「適正に農薬を使用しつつ農薬成分回数が一定以上低減されておれば、「持続性の高い生産方式の導入に関する法律」に基づく環境保全型農業あるいはこれに類する技術であると考えられます。」として、無人ヘリ散布によって農薬使用回数が減れば環境保全型農業と考えるとしています。
【質問2-2】下記の補助金交付について
(a)無人ヘリコプターの購入
(b)無人ヘリコプターの操縦資格取得
(c)無人ヘリコプター農薬散布の実施
いずれの補助も実施していないという回答がほとんどですが、高知県、長崎県は一部実施しているとのことです。
高知=無人ヘリ購入に対して「該当施策あり。購入実績なし」と購入時の補助金制度
はあるが、購入した実績はない。
長崎=(a)は、基本的に国庫事業で対応を検討することにしている。(b)は、県補助金
で資格取得経費の一部を助成している(予算額は、1,691千円/年
(H22〜H24))。(c)は、助成していない。
無人ヘリコプター購入に関しては、国の事業だとのことで、県ではなく国が助成しているため、以下の県の回答は微妙です。県の予算ではないが、他に支援策があるとも読めるからです。実施していないと回答した他の県も同様ではないでしょうか。
滋賀=本県では、環境保全型農業・エコファーマー関係で予算は計上していない。
富山=いずれも県費による支援はしていない。
岡山=補助金、融資制度を含め、無人ヘリコプター特定の県単施策はない。
【質問2-3】予算を付ける場合、どのような事業から支出しているか
質問2-2で実施していないという回答がほとんどでしたが、この質問に対しては、以下のような回答もありました。
秋田=農業関係の予算になるものと思うが、どのような主旨で事業を立案するか
によって違ってくるため、現時点で明確にすることは困難である。
山形=農業関係の予算になると思われる。
兵庫=(a)については、経営体育成支援事業(国庫事業)からの支出が考えられる。
鳥取=県としては、無人ヘリコプターについては農業機械の一形態であり、予算
措置を行う場合は、担い手等の省力化や共同利用など機械整備として区分
することになると考えている。
徳島=(a)→ 県単独事業で実施可能、(b)と(c)→ 該当なし
高知=「こうち農業確立総合支援事業」。本事業は県内各地域の特性を生かした
農業の確立を目的とし、市町村等が自主的かつ主体的に推進する農業生産
活動の効率化を支援する県独自の施策である。
長崎=「土地利用型作物需要開発事業」で無人ヘリコプターのオペレーターの
養成に係る経費の一部を助成している。
【質問2-4】環境保全型農業推進の予算が無人ヘリに使われているか
すべての道府県で、使用されていない、との回答でした。
【質問2-5】環境保全型農業の実施区域で無人ヘリ散布が実施されているか
これは、環境保全型農業直接支払制度に係るもので地域を限定して設定する地域特認取組に対する支援がなされているところをいい、法律で定められたものではありませんが、そのような場所で無人ヘリ散布がなされているのは、問題だと思い、質問しました。
さまざまな回答があり、この問題を道府県がどう考えているか参考になります。
「把握していない」と回答した県は、 北海道、青森、宮城、秋田、群馬、千葉、福井、岐阜、静岡、三重、京都、兵庫、奈良、鳥取、広島、山口、愛媛、福岡、佐賀、長崎 です。
以下の県は、環境保全型農業地域に関する回答です。
山形=本県では県内全域で環境保全型農業を推進しており、県内各地で無人ヘリ
コプターによる防除が実施されている。
福島=本県では、県内全域を対象として環境保全型農業を推進している。
栃木=環境保全型農業は、程度に差はあるものの県全体で取り組んでおり、無人
ヘリコプターによる農薬散布を実施するにあたり地域を区別していない。
埼玉=ごく一部地域(約1ha)で水稲の病害虫防除に「アミスタートレボンSE」が
散布されているが、当該地域は、環境保全型農業に取り組んでいるため、
化学合成農薬等の削減に努めている。
山梨=環境保全型農業は化学肥料を有機質肥料に置き換えることなどによっても
取り組んでいると考えられるので、無人ヘリコプター防除を実施している
ほ場においても環境保全型農業に取り組んでいることは考えられる。
石川=環境保全型農業は県内全域で取り組まれていることから、散布地域は
別添えの通り。
愛知=11年度の散布面積は、県内で水稲2,491ha、麦2,690ha、大豆531ha。
滋賀=本県では、環境保全型農業の実施の有無にかかわらず、無人ヘリコプター
による農薬散布が実施されている。対象作物は水稲、麦類、大豆で、面積
は滋賀県産業用無人ヘリコプター防除安全推進協議会のホームページに
データを公表している。
島根=本県で推進している環境農業については、個々の農家またはグループ等が
実践しているケースや地域的な取り組みを行っているケースがあり、それ
らのほ場でも無人ヘリコプターによる農薬散布が行われているところがある。
ただし、こうした情報については、島根県情報公開条例第7条第2号の規定
に基づき、特定の個人が識別され、もしくは識別され得るものに該当する
こと、及び同条例第7条第3号の規定により、法人その他の団体の権利、競
争上の地位、その他正当な利益を害すると認められることから、公開でき
ないが、別添え表1及び表2のとおり、いずれも適正に農薬散布が行われて
いる。(コメント:無人ヘリ散布は、実施前に周辺に周知することになって
おり、個人情報だから公開できないというのは解せません。散布状況について、
送られてきた資料も実施団体や実施区域は黒塗りでした。)
岡山=本県では、県下全域で環境保全型農業に取り組んでいる。無人ヘリコプター
による農薬散布を実施するにあたり地域を区別していない。
徳島=環境保全型農業の指定地域等はない。
香川=環境保全型農業実施地域を設定していない
高知=本県では、農薬の使用に関することだけでなく、総合病害虫管理・雑草管理
技術の導入、堆肥等の有機質肥料の利用、GAP、生産履歴など全てを含め
て、環境保全型農業をして位置づけている。したがって、ご質問の環境保全
型農業実施地域には県下全域が該当すると考えられる。
熊本=該当ない。
大分=当県では、環境保全型農業は個人や部会といった範囲でとらえており、
「環境保全型農業実施地域」というような地域指定をしていない。
宮崎=実施されており、作物としては、主に水稲で実施している。
鹿児島=当県においては,環境保全型農業実施地域という地域区分はない。
富山=「環境保全型農業実施地域」で定義される地域がわからないため、お答え
できない。
【質問2-7】エコファーマーの認定に際して、無人ヘリコプターによる農薬空散を実施しないことが条件となっているか。
今までの回答から分かるとおり、条件にしている道府県はありませんでした。
【質問2-8】エコファーマーのうち、無人ヘリ散布を行っている人はどの程度か。
「把握していない」、「不明」との回答が大部分でしたが、以下の3県はエコファーマーで無人ヘリ散布をしている人はいないということです。環境保全型農業をきちんと認識しているものと思われます。( )内はエコファーマー数(12年末現在、全国数21万6287人)
埼玉=いません(4379人)
奈良=ございません(636人)
香川=無人ヘリコプター農薬散布を行っている人はいません。(156人)
島根県(1783人)は「(略)無人ヘリコプターによる農薬空中散布の届出があった
実施主体・防除業者、実施区域の中にはエコファーマーが19名(組織代表者とし
て名前があがっている方も含む)確認できました」との回答で、不明でも調査を
始めたと思われます。
環境保全型農業が、農薬使用回数のみを減らせばいいとしているのは、大いに問題だと思います。化学肥料と化学合成農薬を減らす目的がわかっていません。
今後、農薬の使用回数ばかりでなく、使用農薬の成分や使用方法も認定条件に入れるべきです。
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作成:2013-04-03