空中散布・松枯れにもどる

t25902#環境省 実測は経費かさむとシミュレーションのみで判断〜大気汚染より、飛散による経皮毒性が問題なのか#13-03
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【参考サイト】環境省:農薬の大気経由による影響評価事業のページ
      ・農薬吸入毒性評価部会 H24年度第二回(2月4日)議事概要配布資料
      ・農薬の大気経由による飛散リスク評価検討会 H24年度第二回資料(2月18日)、同第三回資料(3月5日)
      ・農薬の大気経由による飛散リスク評価・管理対策 中間報告書 報告書本文(H25年3月)、ほかに参考資料

 環境省は、2月はじめの「農薬吸入毒性評価部会」(以下、毒性部会という)につづき、「農薬の大気経由による飛散リスク評価検討会」(以下、飛散検討会という)を、2月19日と3月5日の2回開催しました。後者は、前者の毒性評価を踏まえ、農薬を無人ヘリコプターで空中散布する場合の安全距離を検討することを目的としているので、どのような結論がでるかを注目していましたが・・・・・

★人への有害性検討は論議されない
 本誌前号で、毒性部会が公表した、実験動物による短期間の亜急性吸入毒性試験結果から得た気中濃度評価値(7農薬)とADIに依拠した経皮毒性から得た落下量評価値(29農薬)の値を示しました。飛散検討会では、これらの評価値と、人の曝露量の比較から、無人ヘリ空中散布の安全距離を決めようというわけですが、私たちは、いままでも、経気評価に、ADIの視点が必要ではないかと問題提起してきました。
結局、環境省は、一過性の症状を人の健康への影響とみなさず、ADIを考慮せず、97年設定の「航空防除農薬に係る気中濃度評価値」の考え方を踏襲したままです。ちなみに、前号であげたように、環境省の算出した気中濃度評価値は、ADIの10%とした気中濃度推定値より、約20倍(MEPの場合)〜300倍(ジノテフランの場合)高い値となります。  そもそも、環境省の毒性評価は、無人ヘリコプターによる農薬の空中散布に伴ってどのような健康被害が発生するのか、即ちリスク評価に当たってなすべき有害性(危険性)の特定を放棄しており、正しいリスク評価とはいえません。

★実測避け、シミュレーションで
 飛散検討会では、無人ヘリコプターによる農薬の大気汚染について、@スプレードリフト(散布中・直後の短時間の粒子状物質)とAベーバードリフト(農薬粒子落下後の長時間のガス状物質)の二つに分けて、検討することになっており、農業環境技術研究所の小原裕三さん作成したシミュレーションデータが論議されています。
 その際、『実測による評価には、多大な労力と経費が必要。立地条件、気象条件や農薬の種類によって、大きく異なる結果、事例を積み重ねて一般化するには、膨大な試験規模と試験数が必要 現実的は困難。そのため、変動要因を明らかにし、それに基づく農薬の飛散動態を予測するシミュレーションモデルを利用し、リスク評価の一般化を図る』としています。
 @とAについて、それぞれのシミュレーションソフトを用い、モデルの妥当性が検討されています。たとえば、図1にMEP(スミチオン)例を示しましたが、実線の計算値と黒塗のH19/20/21年実測値との間に違いがみられます。報告では、過去のモニタリングデータをほぼ再現できたとしていますが、農水省や環境省等が実施したどのようなデータについてなのか不明なまま、散布地から離れたところでは、計算値の方が実測値より高いので、シミュレーションはワーストケースであるとの見解が示されています。 私たちの主張<無人ヘリ空中散布は、地上散布により、散布高度が高い/散布濃度が高い/散布面積が広い/単時間での散布などから、局所的予測が困難であるため、圃場での実測値に重きをおくべきだ>とは、相容れません。
また、報告では、『無人ヘリに特徴的な吹き下ろし下流(ダウンウォッシュ)や散布装置に依存する横方向への巻き上がり、オペレーターに依存するフレア(注:機体の引き起こし)や旋回による飛散と、曝露対象者(通行人、周辺住民、作業者のリエントリー(再立入り))との関連を検討して、シミュレーションモデルの導入を検討する必要がある。』 とされていますが、これらがその後、シミュレーションにどう反映されているかの説明も不十分です。

図1 MEP落下量と気中濃度と距離の関係(シミュレーションと実測値:第三回資料より)  −省略

★シミュレーション予測は十分か
 散布中・散布後に、農薬が粒子やガス体として、どの程度の濃度で、どの程度の距離まで大気・地表を汚染するかを予測するのが、理論式によるシミュレーションです。その変動要因がいくつもあります。無人ヘリの飛行速度や散布条件はもちろん、気象条件も影響を与えます。スプレードリフトの場合、気温と湿度は飛散に影響は少なく、風速や散布高度の影響は大きいとされましたが、圃場面積の影響は小さいとの判断のようです。しかし、せいぜい、1〜9haの散布のシミュレーションで、10機以上の無人ヘリによる100ha以上の散布の場合のデータ解析はありません。
ベーパードリフトについては、農薬成分の物理的特性が問題になりますが、気化しにくい成分では、大気中に浮遊する粒子も、吸入の危険があります。一旦、地上や作物に落下した農薬が、気化することは評価できても、土ぼこりともに、舞い上がって浮遊する粒子について、シミュレーションでは、どのような計算をしているのかよくわかりません。

★散布粒径分布は清水とかわらぬ?
飛散距離と大きく関係するのは、散布農薬の粒径です。報告では、生物系特定産業技術研究センターで実施された農薬散布液(殺虫剤10種、殺菌剤11種、混合剤4種)の噴霧実験データから、『農薬を噴霧した場合においても、清水を噴霧した場合と同等の平均粒子径であることを確認した。』としていますが、これは、散布ノズルから噴出された直後の液滴の粒径分布であって、圃場での状況は異なります。
散布された農薬液滴は水分が蒸発しつつ飛散するので、粒径は時間とともに小さくなり、最終的には、蒸発しやすいものは気体状に、水に溶けにくいものは原体成分の粒径分布に、製剤中に鉱物質を含むものはその粒径分布に、マイクロカプセルはその粒径分布に近づきます。液滴粒子分布実験のように、清水散布と変らないとはとてもいえません。

★散布高度の飛散への影響は大きい
小原さんは、シミュレーション結果から、『散布高度の飛散落下量分布への影響は大きい』としています。すなはち、高いところから散布するほど、より遠くへ飛散するのです。水田での散布高度は4mとして、MEPでの落下曝露量から安全とされる距離は、後述のように30m以内ですが、散布高度が15mの松枯れの場合は、上図からわかるように、さらに遠くまで、安全距離をとる必要があるのではないでしょうか。

★MEPは30m地点まで散布中立入制限
 シミュレーションを基にして、人の曝露濃度・量がどの程度になるかを予測(散布地からの距離を10m単位で100mまで算出)し、その数値が、毒性評価値と比較されました。
 結果の一部は、次頁の表のようで、平均経気曝露濃度については、経気毒性を示す気中濃度評価値と、平均曝露落下量は経皮毒性を示す落下量評価値と、比べられてください。
 経気曝露濃度は、MEPが最も高く、圃場隣接部分で0.768 ?/?、気中濃度評価値の約 7.7%だったことから、他の農薬で、新たなリスク管理措置を講じる必要は無い とされました。
 人に影響ありとみなすのは、シミュレーションで算出された平均曝露量が評価値を超える場合(表の斜め太字)に限られることになります。
第二回飛散検討会における「飛散に係るリスク管理措置(案)」では、『当該地点内に民家や人が住居する施設がある場合には、当該民家等の了解を得て、散布期間中は戸外に出ないように依頼し、戸外に民家等の住民がいないこと、窓が閉められていることを確認の上、散布を行うこととする。』とされています。
結論をまとめると以下のようになります。
 1、7つの農薬については、短期間の吸入毒性試験結果から得た気中濃度評価値と、シ
  ミュレーション結果で得た平均経気道曝露濃度を比較し、曝露濃度は、評価値より
  も低く、リスクが懸念される状況は確認されない。
 2、農薬ミストの落下による経皮毒性の評価は、29農薬で実施され、落下量評価値と、
  シミュレーションによる平均落下曝露量を比較し、MEP(スミチオン)とDEP
  (ディプテレックス)以外は、すべての地点で、平均落下ばく露量は落下量評価値を
  下回った。
 3、そのため、散布中の立入制限区域は、MEPで圃場から30mの地点まで、DEP
  で圃場から70mの地点までで、他の農薬は設ける必要がない。
   まず、「立入制限区域」という言葉に反発を覚えます。これは、無人ヘリ散布側から見た表現で、立入制限区域に住む人たちは、散布中及び散布後の一定期間は、洗濯物を干すな、窓を閉めておけ、それでもいやなら、そこから出て行けということになりかねません。受動被爆で健康被害を受ける住民の立場でいえば、散布地域からの安全距離であり、緩衝地帯の幅として、住宅から○○m以下のところは、「散布禁止区域」だと明確にしてもらわねば納得できません。
 永年、農薬被害者の声を聞いてきた私たちは、このような結論がでたことに驚きを禁じえません。その根本原因は、亜急性吸入毒性試験から得た無毒性量が、ADI評価よりも高いことと、圃場等での散布実態を重視せず、シミュレーション結果に頼ったからだと思います。
 この案は、『なお、事前に無人ヘリ散布を実施する農地の近隣に化学物質に敏感な人が居住していることが判明している場合には、散布する農薬、散布量、時間等を可能な限り早期に連絡し、必要があれば、対応について相談することとする。』と締めくくられているものの、無人ヘリコプターの空中散布をやめてほしいとする農薬弱者の声を無視しています。
 私たちは、環境省に12ページにわたる意見・質問書を提出し、二つの会議のメンバーに配布して、回答するよう求めました。
  環境省への質問・意見書
   無人ヘリコプター農薬空中散布の影響評価について」の意見・質問書
(3月4日提出)
農薬成分名   気中濃度評価値   距離別平均経気道ばく露濃度(?/m3)
                μg/m3         0-10m  10-20m  20-30m  30-40m  40-80m  80-90m  90-100m 
フサライド         520         0.348   0.33    0.309   0.291   省略   0.211   0.193
ジノテフラン      11200        0.012   0.01    0.008   0.007          0.006   0.006
エトフェンプロックス590        0.032   0.027   0.024   0.022          0.017   0.016
クロチアニジン      390        0.008   0.006   0.005   0.005          0.004   0.004
MEP               10        0.768   0.719   0.668   0.625          0.452   0.415

農薬成分名   落下量評価値    距離別平均落下ばく露量(mg /m 2/日)
              mg /m 2/日     0-10m   10-20m  20-30m  30-40m  40-80m  80-90m  90-100m 
フサライド         2.143     0.169   0.124   0.067   0.037   省略    0.011   0.01
ジノテフラン      11.786     0.169   0.124   0.067   0.037           0.011   0.01
エトフェンプロックス1.661    0.34    0.247   0.134   0.073           0.022   0.02
クロチアニジン      5.196    0.113   0.082   0.045   0.024           0.007   0.007
MEP              0.268    0.847   0.618   0.336   0.183           0.056   0.05

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作成:2013-05-30