街の農薬汚染にもどる

t26301#皇居外苑の松にネオニコチノイドを予防散布〜「一本でも枯れたら大変なこと」人の健康より松が大事か#13-07
 反農薬東京グループが交渉した結果、皇居外苑松枯れ対策で、2014年度の地上散布は止めになりました。(環境省への要望と回答)

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【参考サイト】環境省:国民公園の頁皇居外苑京都御苑
       国民公園協会:Top Page 皇居外苑京都御苑
  井筒屋化学産業:Top Page会社情報
               松くい虫防除の頁にあるエコワン3フロアブル皇居前での地上散布

 皇居外苑の周遊コースを走っている市民ランナーから、外苑の松に農薬散布されているとの情報がはいりました。2010年に、京都御苑で、ナラ枯れ対策にスミパイン散布を実施したことを問題視したことがありましたが(本誌229号)、 東京都の23区内で、松枯れが進行しているとの話は、最近、聞いたことがなかったので、早速、管理者である環境省皇居外苑管理事務所に尋ねてみました。以下に、管理事務所からの回答の要旨をまとめます。

★02年以降はエコワン=チアクロプリド散布
 皇居外苑の芝地や堤など約13haにクロマツが約2000本、アカマツ7本が植わっており、次頁の図に示した皇居前広場に集中しています。これらの松の植栽管理は国民公園協会に委託されており、農薬散布は、井筒屋化学産業鰍ェ請負っていました。
 松枯れの原因とされるマツノザイセンチュウを媒介するマツノマダラカミキリの成虫を駆除するために、長年、農薬が地上散布されていました。1980年以後の散布薬剤は、以下のようです。
 1980-84年:T7.5バイエタン乳剤(誘引剤テレピン油を含むMPP・EDB乳剤)
 1985-2001年:ソビーT7.5乳剤(ピリダフェンチオン・プロチオホス乳剤)
 2002年:エコワンフロアブル(チアクロプリド40%剤)
 2003年〜:エコワン3フロアブル(同上3%)
 EDBと有機リン剤の時期を経て、2002年からはネオニコチノイド系のチアクロプリドが散布され、最近は空中散布にも適用のあるエコワン3フロアブルの100倍希釈液が、年1回、地上散布されていました。
 これらの薬剤はいずれも、農薬製剤メーカー井筒屋化学産業が登録したもので、同社が1974年2月に 皇居外苑の松くい虫防除の功績により紺綬褒賞を授与されたことからもわかる通り、40年以上も、外苑松の防除業者として自社の農薬を散布し続けているわけです。

★散布告知表示には、農薬名もない
 今年は、散布対象の松は約1800本で、エコワン3フロアブルの100倍希釈液が2回にわけ、5月25日には、図のグレイ部分、6月1日には、黒塗りの部分に散布されました。実施時間は午前4時〜8時で、散布液数量をブロックごとにリットル単位で記載してあります。総散布液量は2万7千リットルで、外苑13haに使用されたエコワン3の総量は270Lです。長野県坂城町での空中散布の場合の25haに100L散布より多いことがわかります。
 散布状況は、次頁写真のように小型トラックに積んだ散布液タンクから、ホースを引き回しての、ノズルによる動力散布でした。散布業者ティ・ケー・エスは「樹木害虫駆除作業中 しばらくの間ご協力ください」の看板を掲げて、散布中に人が立入らないように誘導員を配置しているだけで、散布後に縄を張っての立入規制もしていません。一般への散布告知は、写真の右下のようで、使用農薬名も記載されておらず、5月15日から6月3日まで、苑内外灯支柱に掲示したとのことです。
 エコワン3散布後の環境汚染について、井筒屋化学産業は『土壌表面に落下した散布液の有効成分は2ケ月以内、遅くとも6ケ月目には検出限界以下となりました』としています。また、秋田県健康環境センターの調査でも、土壌被覆物中のチアクロプリド濃度は、散布1週間後がピークとなり4ヶ月後も残存が確認されていますから、散布中のみ立入らなければよいという認識は甘すぎます。

*** 図 2013年の皇居外苑の松枯れ農薬散布地域図 ***


写真 散布状況と散布告知(管理事務所提供)

★松くい虫の発生も被害もないのに
 ところで、皇居外苑の松枯れの被害状況はどうなのでしょう。マツノザイセンチュウの生息状況、マツノマダラカミキリの産卵痕や脱出痕がどの程度みられるか聞いてみましたが、管理事務所の回答は、『当該地域では、薬剤による防除等により近年の被害木は確認されていません。なお、記録では、昭和55 年に被害木が発生しましたが、薬剤の地上散布と伐倒駆除処理により被害が蔓延しませんでした。』 また、マツノマダラカミキリの飛翔距離2km以内の松枯れについては、『近年被害木の発生は確認していませんが、今後とも情報の収集に努めます。』
 要するに、今、松くい虫被害がないにもかかわらず、農薬散布を続け、効果があった思い込んでいるだけのことです。管理事務所は言います。『皇居前広場のマツの重要性、松食い虫被害が一度生じた場合の被害の大きさ、駆除の困難さに鑑みて防除を実施しています。』『我が国を象徴する景観とも言えるものであることから被害木が発生にならようこれを保全するために防除として、地上散布を行っています。』
 農薬散布以外の管理については『剪定等マツ管理を行い、過去には、単木、大径木を対象に樹幹注入を行っているところもあります。また、過去、試験的に耐抗性マツを1 本植栽した記録もあります。−中略−樹径が小さく樹幹注入による防除をとることができないマツが多いことから、必要最小限の薬剤散布を実施しています。今後、樹幹注入による防除が可能な樹木について防除方法の変更の検討、マツの浸食の際に耐抗性樹種の検討(本広場のマツは、樹形、枝ぶりなどの条件があり、耐抗性樹種で条件が合うものがあれば可能です)などを進めていく予定です。なお、周辺地域の松食い虫の動向について情報を収集していく予定です。』と述べていますが、樹木にも生命があることを認識し、農薬散布など人工的な管理に頼ることはやめるべきでしょう。

★除草剤は年三回散布
 管理事務所は、松の植栽管理以外に、芝地等の除草を一般入札方式で、業者を選定し、除草剤散布を年3回実施しています。今年度は、7月中旬、11月下旬、2月下旬に予定されています。散布農薬は、シバゲンDF(フラザスルフロン水和剤)、ダブルアップDG(シクロスルファムロン水和剤)、アージラン液剤(アシュラム液剤)、ブラスコンM液剤(MCPAイソプロピルアミン塩液剤)などです。皇居外苑の内堀通りより皇居側の芝地は、立入制限されていますが、丸の内・東京駅側の芝地には、入れます。そんな場所に、除草剤をまいて、芝管理をするのは問題です。環境省が自ら、無農薬管理の優良事例を実践してもらいたいものです。

★迎賓館でも、ネオニコ散布はつづく
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 23区内でネオニコや除草剤が散布されているのは、皇居外苑だけではありません。私たちが、2005年に問題にした迎賓館では、今年も7月6日に、松315本に対して、マツノマダラカミキリ駆除用のマツグリーン液剤2(ネオニコチノイドのアセタミプリド含有)が、芝生地には、除草剤モニュメント顆粒水和剤(トリフロキシスルフロンナトリウム塩)が散布されています。迎賓館は、HPで、散布日時や対象病害虫、使用農薬とその数量などを告知しましたが、皇居外苑の場合は、上述のように、対象害虫や薬剤名も記載されていません。
 4月26日に農水省・環境省が発出した通知「住宅地等における農薬使用について」を、管理事務所が知ったのは、書面ではなく、後日、HP等の内容で確認したとのことでした。通知にある入札条件の強化などは考慮されなかったのでしょう。
 管理事務所は『薬剤散布に関する利用者等への情報提供はこれまでも実施してきたところですが、周知期間を長く確保し、皇居外苑ホームページでの周知をはかること、薬剤に関する情報提供を行うなどに努めていきたいと思います。』としていますが、松を一本でも枯らしてはならないとするお役所が、マツノザイセンチュウやマツノマダラカミキリの生育調査もせず、ネオニコチノイド散布を続けているわけです。いずれの場所も、単に景観の問題ですから、そんなに、松を維持したかったら、枯れた松を伐採し、植え替えれば済むと思うのですが。


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作成:2013-07-28、更新:2014-01-21